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677 リリアの誘い
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「ラクエルさん、大丈夫でしたか?その、ちょっと険悪な感じに見えたので・・・」
シャノン達との休戦の話しをつけたラクエルが戻ると、フランクが心配そうに様子を伺って来た。
「ん、あ~、大丈夫だよ。ちょっとピリったけどね。無事に帰るまで協力って事で話しつけたから」
「それならいいんですが・・・すみません。なんだかラクエルさんに頼りきりで」
ペコリと頭を下げるフランクに、ラクエルは顔の前で手を振って笑いかけた。
「あー、やめてやめて。そんなん気にしないでいいって。やれる人がやればよくない?ほら、アタシが戦ったの見て、他のみんなはアッチの人達怖がってるし、フランクはボート出しの指示で忙しいじゃん?そうなるとアタシしかいないよねって感じ」
この船の船員だったフランクは、ボートの扱い方にも慣れており、他の乗客達への指示を出す事で手が離せなかったため、ラクエルが交渉に行く事になったのだ。
「お姉ちゃん!大丈夫?いじめられなかった?」
小走りでラクエルの元に来たエマは、ラクエルの着ているカーディガンの裾を掴むと、心配そうに眉を下げてじっと見つめて来る。
「エマ、そんな泣きそうな顔しないでよ。お話ししてきただけだって。ほら!」
「わー!高ーい!」
エマの両脇に手を差し込んで持ち上げると、エマは満面の笑みで喜びを見せる。
子供の純粋な笑顔に気持ちが癒され、ラクエルも自然と表情がほころんでいく。
「うふふ、エマは本当にお姉ちゃんが大好きなのね?」
ラクエルに抱っこされて喜ぶ娘を見て、エマの母リリアが微笑みながら声をかけてきた。
「うん!エマね、お姉ちゃん大好きなの!」
「あはは、アタシもエマが大好きだよ」
エマを抱きしめて頭を撫でるラクエルに、リリアは目を細めた。
自分も娘も、ラクエルには本当に助けられた。そしてこんなにも娘が懐いている。
感謝してもしきれないと思っている。
しかし、ラクエルの戦闘力の高さ、そして貴族であるマイクに対しての容赦無い仕打ち。
リリアはラクエルが魔道剣士四人衆という事は知らないが、表で生きてきた人間ではないだろうと感じていた。
だからこそ、聞いておきたい事があった。
「ラクエルさんは、帰ったらどうするんですか?」
「え?・・・帰ったらどうするって?」
不意の問いかけに、ラクエルはすぐに返事ができなかった。
ハッキリ言えば考えていなかった。
まさか自分達が負けるとは思っていなかったというのが、正直なところだ。
シャノンの仲間の体の大きな男が、カーンを背負っているのを見た時は本当に驚いた。
まさか、ラミール・カーンが敗れるとは、夢にも思わなかった。
それに、魔道剣士四人衆の筆頭、アロル・ヘイモンの姿も見えない。
それはつまり、ここまで辿りつけなかった。戦いに人生を捧げたあの老人も負けたという事だろう。
帝国の大臣もいない。
自分達は負けたという現実を、受け入れなければならない。
魔道剣士は解散するしかないだろう。
「・・・あー、どうしようかなぁ、何も考えてなかったよ。とりあえずロンズデールから出るかもしれない。まぁ、生きてりゃなんとかなるんじゃね?みたいな?」
アハハ、と軽い調子で笑うラクエルの手を、リリアがそっと握った。
「もしよければ、私とエマと一緒に来ませんか?私達もこのクルーズが終わったら、ロンズデールを出る予定だったんです。どこか新しい土地に行って、新しい生活を始めようと・・・」
「ママさん・・・」
リリアの瞳には少しの悲しみ、そしてある種の決意のような強い意思が見えた。
「え!ママ、それじゃあこれからもお姉ちゃんと一緒にいられるの!?」
リリアの話しを聞いたエマが、目いっぱいの期待に満ちた顔で声を上げた。
エマの質問にリリアは黙って微笑んだ。
ここで何か言う事はずるいと思ったのだろう。子供の気持ちを利用して誘うのは本意ではないのだ。
あくまで、ラクエルの気持ちで決める事だと。
「・・・うーん、まぁアタシ行くとこもないし、エマとママさんの事は好きだしねぇ・・・じゃあ、しばらくご一緒してみる?」
少しだけ悩んだが、ラクエルはリリアとエマと一緒にいる事を選んだ。
「本当!やったー!」
大喜びのエマがラクエルの首にしがみつくと、リリアも安心したようにほっと息をついた。
良かったと、心から安堵した。
ラクエルの危うさを感じていたからこそ、自分達と一緒にいる事で、表の道に戻してあげたいと思ったのだ。
「良かったですね、リリアさん」
「フランクさん・・・はい。本当に」
ラクエルとエマの笑顔を見て、二人も笑い合った。
シャノン達との休戦の話しをつけたラクエルが戻ると、フランクが心配そうに様子を伺って来た。
「ん、あ~、大丈夫だよ。ちょっとピリったけどね。無事に帰るまで協力って事で話しつけたから」
「それならいいんですが・・・すみません。なんだかラクエルさんに頼りきりで」
ペコリと頭を下げるフランクに、ラクエルは顔の前で手を振って笑いかけた。
「あー、やめてやめて。そんなん気にしないでいいって。やれる人がやればよくない?ほら、アタシが戦ったの見て、他のみんなはアッチの人達怖がってるし、フランクはボート出しの指示で忙しいじゃん?そうなるとアタシしかいないよねって感じ」
この船の船員だったフランクは、ボートの扱い方にも慣れており、他の乗客達への指示を出す事で手が離せなかったため、ラクエルが交渉に行く事になったのだ。
「お姉ちゃん!大丈夫?いじめられなかった?」
小走りでラクエルの元に来たエマは、ラクエルの着ているカーディガンの裾を掴むと、心配そうに眉を下げてじっと見つめて来る。
「エマ、そんな泣きそうな顔しないでよ。お話ししてきただけだって。ほら!」
「わー!高ーい!」
エマの両脇に手を差し込んで持ち上げると、エマは満面の笑みで喜びを見せる。
子供の純粋な笑顔に気持ちが癒され、ラクエルも自然と表情がほころんでいく。
「うふふ、エマは本当にお姉ちゃんが大好きなのね?」
ラクエルに抱っこされて喜ぶ娘を見て、エマの母リリアが微笑みながら声をかけてきた。
「うん!エマね、お姉ちゃん大好きなの!」
「あはは、アタシもエマが大好きだよ」
エマを抱きしめて頭を撫でるラクエルに、リリアは目を細めた。
自分も娘も、ラクエルには本当に助けられた。そしてこんなにも娘が懐いている。
感謝してもしきれないと思っている。
しかし、ラクエルの戦闘力の高さ、そして貴族であるマイクに対しての容赦無い仕打ち。
リリアはラクエルが魔道剣士四人衆という事は知らないが、表で生きてきた人間ではないだろうと感じていた。
だからこそ、聞いておきたい事があった。
「ラクエルさんは、帰ったらどうするんですか?」
「え?・・・帰ったらどうするって?」
不意の問いかけに、ラクエルはすぐに返事ができなかった。
ハッキリ言えば考えていなかった。
まさか自分達が負けるとは思っていなかったというのが、正直なところだ。
シャノンの仲間の体の大きな男が、カーンを背負っているのを見た時は本当に驚いた。
まさか、ラミール・カーンが敗れるとは、夢にも思わなかった。
それに、魔道剣士四人衆の筆頭、アロル・ヘイモンの姿も見えない。
それはつまり、ここまで辿りつけなかった。戦いに人生を捧げたあの老人も負けたという事だろう。
帝国の大臣もいない。
自分達は負けたという現実を、受け入れなければならない。
魔道剣士は解散するしかないだろう。
「・・・あー、どうしようかなぁ、何も考えてなかったよ。とりあえずロンズデールから出るかもしれない。まぁ、生きてりゃなんとかなるんじゃね?みたいな?」
アハハ、と軽い調子で笑うラクエルの手を、リリアがそっと握った。
「もしよければ、私とエマと一緒に来ませんか?私達もこのクルーズが終わったら、ロンズデールを出る予定だったんです。どこか新しい土地に行って、新しい生活を始めようと・・・」
「ママさん・・・」
リリアの瞳には少しの悲しみ、そしてある種の決意のような強い意思が見えた。
「え!ママ、それじゃあこれからもお姉ちゃんと一緒にいられるの!?」
リリアの話しを聞いたエマが、目いっぱいの期待に満ちた顔で声を上げた。
エマの質問にリリアは黙って微笑んだ。
ここで何か言う事はずるいと思ったのだろう。子供の気持ちを利用して誘うのは本意ではないのだ。
あくまで、ラクエルの気持ちで決める事だと。
「・・・うーん、まぁアタシ行くとこもないし、エマとママさんの事は好きだしねぇ・・・じゃあ、しばらくご一緒してみる?」
少しだけ悩んだが、ラクエルはリリアとエマと一緒にいる事を選んだ。
「本当!やったー!」
大喜びのエマがラクエルの首にしがみつくと、リリアも安心したようにほっと息をついた。
良かったと、心から安堵した。
ラクエルの危うさを感じていたからこそ、自分達と一緒にいる事で、表の道に戻してあげたいと思ったのだ。
「良かったですね、リリアさん」
「フランクさん・・・はい。本当に」
ラクエルとエマの笑顔を見て、二人も笑い合った。
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