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675 協力体勢

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「・・・国王様・・・目が覚めたんですね」

ボート部屋に戻ったシャノンは、自分が部屋を出るまでは横になっていた国王が、起きてファビアナと話している姿を見て、目を瞬かせた。

表情がまるで違う。
険の抜けた穏やかな顔、娘との会話を楽しんでいる柔らかな空気、それは特等船室で見たあの姿とはまるで別人だった。

「・・・其方は、特等船室で会ったな、アラルコン商会の跡取り娘、シャノン・アラルコン嬢。此度の件ではずいぶん苦労をかけた」

「・・・いえ・・・ご無事で何よりです」

変わった・・・いや、最初のアレは明らかにおかしかったが、今のこの姿もいつもと違う。
アタシの知ってる国王はこんな言葉は口にしない。

「あ、シャノンさん、顔色が悪いですよ。口元に血が滲んでるし、怪我してるんじゃないですか?」

アタシが戸惑いながらも言葉を返していると、ファビアナがアタシの顔を見て、上から下まで調べる様に目を動かした。
ウラジミールと一戦交えて、腹にキツイのを一発もらったのと、左肩を砕かれている。

「あぁ、ファビアナ、悪いけどヒール頼めないかな?実は、左肩をやられちゃってさ・・・」

「汗がすごいですよ、無理しないで座ってください。すみません。シャツ、破りますね」

床に膝を着くと、ファビアナがアタシの左肩からシャツを破る。
行動に迷いが無い。そう言えば、話し方もしっかりしているし、顔付きも違う。
人の顔色ばかり見ていた弱さが消えて、今は自分というものをちゃんと持っているように見える。


「・・・やっぱり折れてますね。ヒールをかけますので、じっとしててください」

「あぁ、ありがとう。ファビアナ、なんか変わったね?こんな短いでさ」

暖かい魔力が流れ込んできて、折れた肩の痛みが和らいでいく。
アタシがそう話しかけると、ファビアナは目を細めてニッコリと微笑んだ。

「そうですね、自分でも分かります。なんだか、心のモヤモヤが綺麗に無くなった感じなんです。父と、ちゃんとお話しできたからだと思います」

「ふーん、そっか・・・うん、ファビアナの問題が解決したんなら良かったじゃん」

はい、と言って、もう一度笑顔を見せてくれるファビアナに、アタシも心が温かくなった。





「ねぇ、あんた達はどこからボートを出すの?」

ファビアナのヒールで肩が治った頃、少し離れてボートを準備していたラクエルが話しかけて来た。
魔道剣士四人衆の一人で、カーン側だったこの女は、なぜか生き残った乗客達と一緒に行動していて、しかも信頼を得ている

なにがあったのか分からないけど、敵対するつもりはないようだし、今は無事に脱出する事を第一に考えるべきだ。それならば、こちらもあえて敵意を向けるべきではない。

「船がひっくり返ってるからね・・・目の前の壁を壊すしかないかなって考えてるよ。他に無いでしょ?」

シャノンの返事に、ラクエルも腕を組んで頷いた。
口を結んで壁に目を向けている様子を見ると、ラクエルもそれしかないと思っているようだ。

「だよねぇー、アタシもそれしかないと思ってたよ。てかさ、相談なんだけど、陸に戻るまで協力しない?」

肩まであるウェーブがかった金色の髪を指先でクルクル巻き、ラクエルはシャノンをじっと見つめる。
予想もしていなかった提案に驚かされたが、シャノンは表情には出さずに、ラクエルの目を見つめ返した。

あえて敵対するつもりは無いが、信用できるかどうかと言えばできない。
なぜならやはりラクエルは魔道剣士、カーン側の人間であり、敵には違いないのだ。
言葉や態度からは読み取れないが、何を企んでいるか分からない。

「・・・それは、どうしてかな?そっちのグループにも、黒魔法使いの一人や二人いるでしょ?壁に穴を空けるくらいできるんじゃない?」

「あー、なんか裏ばっか読もうとしてない?アタシがなんか企んでるって思ってるよね?そんなんじゃないから。ただ、こっちは何十人もいるでしょ?その割に戦闘経験ある人少ないのさ。だから、ボートで脱出した後、なにかあったらちょっと手を貸して欲しいんだよね。鮫がいるじゃん?」

ラクエルの言い分は、都合がいいと言えなくもなかった。
だが、シャノン達にとってラクエルを助ける義理はないが、一般の乗客達は別である。
アラルコン商会にとっては等しくお客様であり、王家の血を引くファビアナにとっては護るべき国民である。
国民を助けるために力を貸して欲しいというラクエルの申し出は、至極全うであり拒否などできるはずがなかった。

「・・・分かったわ。こちらとしても、乗客を無事に帰したい気持ちは同じだし、陸に戻るまでは協力しましょうか」

「話せるじゃん、じゃあよろしくね」

右手を差し出すラクエルに、シャノンはその手を取るべきか少しだけ迷いを見せた。
だが、ラクエルのくったくのない笑顔を目にして、疑い過ぎる自分が少しだけ恥ずかしくなった。

「こちらこそよろしく頼むね」

シャノンは少しクセのある黒髪を耳にかけると、その手をしっかりと握り笑いかける。

アラタ達がボート部屋に入って来たのは、シャノンとラクエルが手を取り合ったすぐ後だった。
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