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674 分かり合えた親子
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「お父様、落ち着きましたか?」
しばらくして、涙が止まった父に優しく話しかけると、父は目をこすりながら私から体を離した。
「あぁ・・・突然で、驚かせてしまったな」
「私は大丈夫ですが・・・その、いったいどうされたのですか?先程はまるで別人のようでした」
体から魔力を発してもいないし、今は落ち着いて見える。
けれどさっきのアレは、やはり普通じゃない。父になにがあったのか聞いておかなければいけない。
父の顔をじっと見つめると、父は少し迷ったように顔を下に向けた。
痩せたな・・・・・私はこの性格だから、謁見の時もなかなか父の顔を正面から見れなかったけど、最後に見た時は、もう少しふっくらした印象だった。こんなに頬がこけてはいなかった。
きっと、今回のクルーズ船が原因だろう。
帝国の大臣も招待して、ロンズデールの今後を決定づける大きな会談になるはずだったのだから、その重圧は私には想像できない程だったと思う。
父は優柔不断で気が弱くて、カーンの言いなりだったけれど、それでもロンズデールを想う気持ちはちゃんと持っていたんだ。
だから、こんなになるまで心をすり減らしていたんだろう。
しばらく父を見つめていると、やがて意を決したように顔を上げて話しだした。
「・・・そうだな。話さねばならん事だ・・・ファビアナ、私の中にはもう一人の私がいるのだ。そやつは私の悪しき心を体現したような者だ」
「お父様の悪しき心、ですか?・・・なぜ、そのような事に?」
先程のあの姿を見ていなければ、とても信じられなかっただろう。
でも、逆にあの姿を見てしまったから、父の中にもう一人の自分がいるという言葉が、抵抗なく腑(ふ)に落ちてしまった。
「・・・ラルス・ネイリーだ。私が体調を崩した時、あの男が薬と言って差し出した物を口にしてから、少しづつおかしくなっていったように思う。確かにネイリーの薬を飲んだ後は、倦怠感も無くなり、気持ちはとても晴れやかになった。だが薬を使用する回数が増えて来ると、私が私じゃなくなるような・・・何者かに体を乗っ取られるような・・・そんな得体の知れない恐怖が、心に巣くうようになったんだ」
怯えたように話す父の表情を見て、父が今までどれだけ追い詰められていたかを感じた。
大臣はずっと国王である父との対話を望んでいた。
けれどそれができないくらい、父の心は壊れそうになっていたんだと思う。
「さっきはこれまでで、一番強い力で意識を奪われたんだ。だから私はもう駄目だ、戻れないと覚悟した。けどなファビアナ・・・ファビアナが私を戻してくれたのだ。ありがとう・・・」
「お父様・・・」
話しを聞くと、父はラルス・ネイリーに騙されたという事が分かる。
ネイリーが、魔力や身体能力を強化する薬を作っていた事は知っている。
父もその薬を飲まされたんだ。
ネイリーは一国の王でさえも、実験体として見ていたんだ。
そして父はその薬の副作用なのか、そもそもの効果なのかは分からないけれど、自分の内にある負の感情が人格として芽生えて、あのようなもう一人の自分が産まれ、そしてそれは主人格さえ奪おうとしていたんだ。
ラルス・ネイリー・・・・・
ディリアンは公爵家の使用人達もほとんど実験体にされたと言っていたし、本当に最低な男だ。
「お父様、もう大丈夫なのですか?」
「うぅむ・・・いや、まだ私の中にいるな。だが、さっきファビアナが私に力をくれたから、しばらくは大丈夫だと思うぞ。ここを出て城へ帰れたら、治療法を探してみるとしよう。ファビアナ・・・手伝ってくれるか?」
私を真っすぐに見てくれる父に、私は心に刺さっていた棘が抜けていく事を感じていた。
父は私に関心がないと思っていた。
妾の子でも、一応自分の子供だから、しかたなく会いに来てくれるだけなのかと思っていた。
でも、今の父は自分を見てくれている。
それが感じられて、とても胸が温かくなった。
「ファビアナ・・・帰ったら、王宮で一緒に暮らそう。母さんも呼んで・・・もう一度、親子としてやりなおそう・・・」
「・・・お、お父様・・・はい・・・私も、お父様とお母様と、三人一緒に仲良く暮らしたいです・・・・・」
胸に感じる温かさに、涙が溢れてきた。
お母様には痛い思いや、悲しい言葉も沢山言われたけれど、今なら・・・今ならきっと分かり合える。
そう思えた。
もう一度父に抱きしめられる。
私は初めて父と、本当の親子になれた気がした。
しばらくして、涙が止まった父に優しく話しかけると、父は目をこすりながら私から体を離した。
「あぁ・・・突然で、驚かせてしまったな」
「私は大丈夫ですが・・・その、いったいどうされたのですか?先程はまるで別人のようでした」
体から魔力を発してもいないし、今は落ち着いて見える。
けれどさっきのアレは、やはり普通じゃない。父になにがあったのか聞いておかなければいけない。
父の顔をじっと見つめると、父は少し迷ったように顔を下に向けた。
痩せたな・・・・・私はこの性格だから、謁見の時もなかなか父の顔を正面から見れなかったけど、最後に見た時は、もう少しふっくらした印象だった。こんなに頬がこけてはいなかった。
きっと、今回のクルーズ船が原因だろう。
帝国の大臣も招待して、ロンズデールの今後を決定づける大きな会談になるはずだったのだから、その重圧は私には想像できない程だったと思う。
父は優柔不断で気が弱くて、カーンの言いなりだったけれど、それでもロンズデールを想う気持ちはちゃんと持っていたんだ。
だから、こんなになるまで心をすり減らしていたんだろう。
しばらく父を見つめていると、やがて意を決したように顔を上げて話しだした。
「・・・そうだな。話さねばならん事だ・・・ファビアナ、私の中にはもう一人の私がいるのだ。そやつは私の悪しき心を体現したような者だ」
「お父様の悪しき心、ですか?・・・なぜ、そのような事に?」
先程のあの姿を見ていなければ、とても信じられなかっただろう。
でも、逆にあの姿を見てしまったから、父の中にもう一人の自分がいるという言葉が、抵抗なく腑(ふ)に落ちてしまった。
「・・・ラルス・ネイリーだ。私が体調を崩した時、あの男が薬と言って差し出した物を口にしてから、少しづつおかしくなっていったように思う。確かにネイリーの薬を飲んだ後は、倦怠感も無くなり、気持ちはとても晴れやかになった。だが薬を使用する回数が増えて来ると、私が私じゃなくなるような・・・何者かに体を乗っ取られるような・・・そんな得体の知れない恐怖が、心に巣くうようになったんだ」
怯えたように話す父の表情を見て、父が今までどれだけ追い詰められていたかを感じた。
大臣はずっと国王である父との対話を望んでいた。
けれどそれができないくらい、父の心は壊れそうになっていたんだと思う。
「さっきはこれまでで、一番強い力で意識を奪われたんだ。だから私はもう駄目だ、戻れないと覚悟した。けどなファビアナ・・・ファビアナが私を戻してくれたのだ。ありがとう・・・」
「お父様・・・」
話しを聞くと、父はラルス・ネイリーに騙されたという事が分かる。
ネイリーが、魔力や身体能力を強化する薬を作っていた事は知っている。
父もその薬を飲まされたんだ。
ネイリーは一国の王でさえも、実験体として見ていたんだ。
そして父はその薬の副作用なのか、そもそもの効果なのかは分からないけれど、自分の内にある負の感情が人格として芽生えて、あのようなもう一人の自分が産まれ、そしてそれは主人格さえ奪おうとしていたんだ。
ラルス・ネイリー・・・・・
ディリアンは公爵家の使用人達もほとんど実験体にされたと言っていたし、本当に最低な男だ。
「お父様、もう大丈夫なのですか?」
「うぅむ・・・いや、まだ私の中にいるな。だが、さっきファビアナが私に力をくれたから、しばらくは大丈夫だと思うぞ。ここを出て城へ帰れたら、治療法を探してみるとしよう。ファビアナ・・・手伝ってくれるか?」
私を真っすぐに見てくれる父に、私は心に刺さっていた棘が抜けていく事を感じていた。
父は私に関心がないと思っていた。
妾の子でも、一応自分の子供だから、しかたなく会いに来てくれるだけなのかと思っていた。
でも、今の父は自分を見てくれている。
それが感じられて、とても胸が温かくなった。
「ファビアナ・・・帰ったら、王宮で一緒に暮らそう。母さんも呼んで・・・もう一度、親子としてやりなおそう・・・」
「・・・お、お父様・・・はい・・・私も、お父様とお母様と、三人一緒に仲良く暮らしたいです・・・・・」
胸に感じる温かさに、涙が溢れてきた。
お母様には痛い思いや、悲しい言葉も沢山言われたけれど、今なら・・・今ならきっと分かり合える。
そう思えた。
もう一度父に抱きしめられる。
私は初めて父と、本当の親子になれた気がした。
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