674 / 1,253
673 思い出の味
しおりを挟む
「さぁ、答えるんだ。野菜か?薄切りの人参やキュウリに、マヨネーズをディップして食べるのか?それとも甘いものがいいか?シンプルにチョコもいいが、チョコならビターに限るぞ?カカオ率は55%がおすすめだ。77%以上は苦みが強くておすすめしない。クラッカーの塩気との相性を考えるんだ。さぁ、ファビアナ・・・お前はなにでクラッカーを食べる?」
これはなに?
いったい父になにがあったの?
人が変わったとした思えない父の豹変ぶりに、ファビアナは言葉を失った。
私が私でいるうちに・・・さっき父はそう言葉を口にした。
そしてその直後にここまで変わってしまった事を考えると、本当に別人になってしまったのかもしれない。
この状況はまだ飲み込めないが、それでもなんとか会話をしようと、父親の目を見て向き合って見る。
「ファビアナ~、どうした?なぜ父さんの質問に答えない?お前は私の娘だろう?ならば答えられるはずだ。さぁ言ってみろ。お前の好きなクラッカーはなんだ?」
「ク、クラッカー・・・ですか?わ、私の好きな、クラッカーは・・・・・」
ボートから身を乗り出して来た父の、その異様な雰囲気に気圧されて、尻もちをつきそうになる。
なんでクラッカーなの?単純に疑問に思った。
豹変した理由も謎だが、なぜクラッカーにこだわるのだろう?
「どうした?ファビアナ~、お前まさか・・・・・答えられないのか?」
父の体からドス黒い魔力が滲み出て、ファビアナに敵意を向けてきた。
白魔法使いで、戦闘用の魔道具を持たないファビアナには、父の魔力に対抗するすべが無い。
ここでこの魔力に押し潰されるとしても、逃げる事もできないのだ。
ふと視線を感じて顔を向けると、少し離れて、自分達とは別にボートの用意をしていた一般の乗客達。そこで一緒に作業をしていた魔道剣士四人衆の一人、ラクエル・エンリケスが、こちらに目を向けて様子を伺っていた。
国王の体から滲み出る、ドス黒い魔力に気が付いたのだろう。
睨むように厳しい目を向けている。
もしこのまま国王が攻撃の魔力を放てば、せっかく用意したボートが駄目になってしまうかもしれない。
そうなれば、ここにいる全ての人達が死ぬ事になってしまうかもしれない。
ラクエルはそれを許さないだろう。
国王がこれ以上の魔力を発するならば、ラクエルは国王を殺すはずだ。
ラクエルの金色の瞳は、これから先なにが起きようとも、一瞬たりとも見逃さない。
そう告げうように、刃のように鋭く国王を見据えていた。
・・・・・・答えを間違える事はできない。
精神の圧迫・・・緊張からくる焦りと動揺が、ファビアナの鼓動を早める。
額から流れる冷たい汗が目に入り、身に纏うローブが張り付く程の汗を背に掻いた。
もし、ここで父の質問に対する答えを間違えれば、おそらく・・・いえ、きっと父は怒り狂い魔力を放出する。
そうなればラクエルは父を殺す。
自分の答えに父の命までかかっていると理解し、ファビアナは心臓が跳ね上がる程のプレッシャーを感じた。
クラッカー・・・・・ファビアナ・・・はい、美味しいわよ・・・・・・
・・・・・これは
極限の緊張の中、ふいにファビアナの遠い記憶が呼び起こされる。
まだファビアナの物心がつくかどうかという、幼かったある日。
父と母との三人で、庭でお茶をした事があった。
あの日の母はとても機嫌が良かった。
母の好物を、父が用意して訪ねて来てくれたからだろう。
父と母が美味しいと言って食べていたソレを、私もちょうだいと言ってねだったのだ。
「ファビアナ!お前の好きなクラッカーをさっさと答えるんだ!」
・・・思い出した・・・あの日、母が笑顔で作ってくれたあの食べ物は・・・・・
「・・・生ハムと、チーズと・・・アボガドで食べます」
「・・・・・お・・・・・おぉ・・・・・」
私の答えに、父は目を大きく見開いて唇を震わせた。
「お父様・・・私はあの日、お母様が作ってくれた、生ハムとチーズとアボガドのクラッカーが、大好きです。三人で食べたあのクラッカーが・・・・・大好きです」
父の体から滲み出ていたドス黒い魔力は消えて、狂気に満ちていた両の眼にも光が宿った。
「・・・ファ、ファビアナ・・・お、お前・・・覚えて・・・覚えていたのか?」
「・・・はい、お父様、あの日は私の人生で一番大切な思い出です。家族三人で笑い合った、かけがえの無い日です」
「う・・・うぅ・・・ファ、ファビアナ・・・・うぅ・・・・ぅ・・・・・」
溢れ出る涙に顔をくしゃくしゃにしながら、父は私を強く抱きしめてくれた。
これはなに?
いったい父になにがあったの?
人が変わったとした思えない父の豹変ぶりに、ファビアナは言葉を失った。
私が私でいるうちに・・・さっき父はそう言葉を口にした。
そしてその直後にここまで変わってしまった事を考えると、本当に別人になってしまったのかもしれない。
この状況はまだ飲み込めないが、それでもなんとか会話をしようと、父親の目を見て向き合って見る。
「ファビアナ~、どうした?なぜ父さんの質問に答えない?お前は私の娘だろう?ならば答えられるはずだ。さぁ言ってみろ。お前の好きなクラッカーはなんだ?」
「ク、クラッカー・・・ですか?わ、私の好きな、クラッカーは・・・・・」
ボートから身を乗り出して来た父の、その異様な雰囲気に気圧されて、尻もちをつきそうになる。
なんでクラッカーなの?単純に疑問に思った。
豹変した理由も謎だが、なぜクラッカーにこだわるのだろう?
「どうした?ファビアナ~、お前まさか・・・・・答えられないのか?」
父の体からドス黒い魔力が滲み出て、ファビアナに敵意を向けてきた。
白魔法使いで、戦闘用の魔道具を持たないファビアナには、父の魔力に対抗するすべが無い。
ここでこの魔力に押し潰されるとしても、逃げる事もできないのだ。
ふと視線を感じて顔を向けると、少し離れて、自分達とは別にボートの用意をしていた一般の乗客達。そこで一緒に作業をしていた魔道剣士四人衆の一人、ラクエル・エンリケスが、こちらに目を向けて様子を伺っていた。
国王の体から滲み出る、ドス黒い魔力に気が付いたのだろう。
睨むように厳しい目を向けている。
もしこのまま国王が攻撃の魔力を放てば、せっかく用意したボートが駄目になってしまうかもしれない。
そうなれば、ここにいる全ての人達が死ぬ事になってしまうかもしれない。
ラクエルはそれを許さないだろう。
国王がこれ以上の魔力を発するならば、ラクエルは国王を殺すはずだ。
ラクエルの金色の瞳は、これから先なにが起きようとも、一瞬たりとも見逃さない。
そう告げうように、刃のように鋭く国王を見据えていた。
・・・・・・答えを間違える事はできない。
精神の圧迫・・・緊張からくる焦りと動揺が、ファビアナの鼓動を早める。
額から流れる冷たい汗が目に入り、身に纏うローブが張り付く程の汗を背に掻いた。
もし、ここで父の質問に対する答えを間違えれば、おそらく・・・いえ、きっと父は怒り狂い魔力を放出する。
そうなればラクエルは父を殺す。
自分の答えに父の命までかかっていると理解し、ファビアナは心臓が跳ね上がる程のプレッシャーを感じた。
クラッカー・・・・・ファビアナ・・・はい、美味しいわよ・・・・・・
・・・・・これは
極限の緊張の中、ふいにファビアナの遠い記憶が呼び起こされる。
まだファビアナの物心がつくかどうかという、幼かったある日。
父と母との三人で、庭でお茶をした事があった。
あの日の母はとても機嫌が良かった。
母の好物を、父が用意して訪ねて来てくれたからだろう。
父と母が美味しいと言って食べていたソレを、私もちょうだいと言ってねだったのだ。
「ファビアナ!お前の好きなクラッカーをさっさと答えるんだ!」
・・・思い出した・・・あの日、母が笑顔で作ってくれたあの食べ物は・・・・・
「・・・生ハムと、チーズと・・・アボガドで食べます」
「・・・・・お・・・・・おぉ・・・・・」
私の答えに、父は目を大きく見開いて唇を震わせた。
「お父様・・・私はあの日、お母様が作ってくれた、生ハムとチーズとアボガドのクラッカーが、大好きです。三人で食べたあのクラッカーが・・・・・大好きです」
父の体から滲み出ていたドス黒い魔力は消えて、狂気に満ちていた両の眼にも光が宿った。
「・・・ファ、ファビアナ・・・お、お前・・・覚えて・・・覚えていたのか?」
「・・・はい、お父様、あの日は私の人生で一番大切な思い出です。家族三人で笑い合った、かけがえの無い日です」
「う・・・うぅ・・・ファ、ファビアナ・・・・うぅ・・・・ぅ・・・・・」
溢れ出る涙に顔をくしゃくしゃにしながら、父は私を強く抱きしめてくれた。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる