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669 サリーの実力
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倒れているレイチェルとリンジーを目にした時、この場で唯一の白魔法使いサリーは瞬間的に判断した。どちらにも一刻も早い回復が必要だと。
なにがあったの?
レイチェルは右半身が酷い。右腕はまるで潰されたみたいに砕けているし、肩も胸の骨もへし折れてる。呼吸はしてるけど酷く弱い。死んでてもおかしくないわ。
ん、ビンが転がっている。回復薬・・・意識を失う前に飲んだのね。
ここまで負傷すればほとんど効果はないけど、それでも飲まないよりマシね。ほんの少しでも力にはなるわ。
リンジーは耳から流れている血ね。どんな攻撃を受けたの?
詳しく見る時間はないけど、一見では頭部にそれらしい外傷は無さそうね、
それでは内部から?体の中から破壊する攻撃を受けた?
いずれにしろ頭をやられている可能性が高い。
隣に倒れているのは、ラミール・カーン。
この男・・・まだ息がある。けれどこの男は敵ね。
助ける義理も義務もないし、ただ気を失っているだけのようだから構う必要もないわね。
「レイチェル、リンジーさん、こ、これは・・・サリーさん、二人は大丈夫ですか!?」
倒れている二人を目にし、アラタもガラハド達も息を飲んだ。
大丈夫かと聞かれたが、率直に返せば大丈夫ではない。これ程の重体者が二人もいるのだ。
「・・・やるしかないわね」
サリーはレイチェルとリンジーの胸に手を置くと、手の平に魔力を集めた。
今、この場で瀕死の二人を助ける事ができるのは自分だけだ。
船が沈むのも時間の問題であり、いつこの階層に水が流れ込んで来てもおかしくない。
この状況で悠長に一人づつ治療している時間はない。
ではどうするか?
「・・・すげぇ」
サリーの出した答えは、二人同時のヒール。
両手から回復の魔力を発するサリーを見て、思わず言葉をもらしたのはディリアンだった。
ディリアンは青魔法使いであり、サリーと魔法の系統は違う。
だが同じ魔法使いであるディリアンには、今サリーが施している治療が、どれだけ難しい事かは理解できた。
ヒールは回復させる場所に意識を集中し魔力を送り込む。
つまりサリーは今、二人の重体者に意識を分けながら治療しているのだ。
「・・・くっ、わ、悪い、もう無理だ」
サリーが二人の治療を始めると、アラタの右手の光が小さくなり、ロウソクの火が消えるかのようにフッと消えた。時間切れだった。
無理をすればまだ光を絞り出す事ができないわけではない。
だが、そうなれば力を使い切った後、自分はまた一歩も動けなくなるだろう。
この状況でそれだけは避けなければならない。
光が消えて再び暗闇に包まれても、サリーは集中を乱す事なく治療を続けた。
暗闇と言っても、正確にはサリーの両手から発せられる、ヒールによる少しの光がある。
そこから微かに見えるレイチェルとリンジーの顔に、少しづつだが生気が戻っていく事が分かる。
「・・・危険な状態は脱したようだな。しかし・・・二人同時に治療できるヤツなんてそうはいねぇぞ。本当にただの侍女かよ?」
目の前の白魔法使いの離れ業に、ディリアンは感嘆の声をもらした。
バルデスに稽古を付けてもらったディリアンだが、サリーは白魔法使いであり、ケガ人がいなければ魔法を使う機会はない。
そのためディリアンが、サリーの魔法を目にする事は今回が初めてだった。
系統の違いがあり一概に比べる事はできないが、サリーの魔力の強さ、そして魔力操作のセンスは、ディリアンのはるか上をいっていた。
ただの侍女か?ディリアンの疑問は最もだったが、サリーは四勇士バルデスにただ一人、専属で付き従っている。一対一で訓練をする時間はいくらでもあった。
「顔色も良くなってきたな・・・これなら大丈夫だろう・・・ん?」
蒼白だったレイチェルとリンジーの顔に、赤みが戻ってきた事を見て、ガラハドも安堵したその時、背後で何かが爆発したかのような大きな音が響いた。
最初にソレに気付いたのは、一番後ろに立っていたディリアンだった。
耳をつんざくような轟音の直後、地震かと思う程に足元が大きな揺れ、そしてソレは津波の如き大量の水とともに襲い掛かって来た。
「さ、鮫だァァァーーーッ!」
頬の黒い鮫が大口を開けて、ディリアンに飛び掛かった!
なにがあったの?
レイチェルは右半身が酷い。右腕はまるで潰されたみたいに砕けているし、肩も胸の骨もへし折れてる。呼吸はしてるけど酷く弱い。死んでてもおかしくないわ。
ん、ビンが転がっている。回復薬・・・意識を失う前に飲んだのね。
ここまで負傷すればほとんど効果はないけど、それでも飲まないよりマシね。ほんの少しでも力にはなるわ。
リンジーは耳から流れている血ね。どんな攻撃を受けたの?
詳しく見る時間はないけど、一見では頭部にそれらしい外傷は無さそうね、
それでは内部から?体の中から破壊する攻撃を受けた?
いずれにしろ頭をやられている可能性が高い。
隣に倒れているのは、ラミール・カーン。
この男・・・まだ息がある。けれどこの男は敵ね。
助ける義理も義務もないし、ただ気を失っているだけのようだから構う必要もないわね。
「レイチェル、リンジーさん、こ、これは・・・サリーさん、二人は大丈夫ですか!?」
倒れている二人を目にし、アラタもガラハド達も息を飲んだ。
大丈夫かと聞かれたが、率直に返せば大丈夫ではない。これ程の重体者が二人もいるのだ。
「・・・やるしかないわね」
サリーはレイチェルとリンジーの胸に手を置くと、手の平に魔力を集めた。
今、この場で瀕死の二人を助ける事ができるのは自分だけだ。
船が沈むのも時間の問題であり、いつこの階層に水が流れ込んで来てもおかしくない。
この状況で悠長に一人づつ治療している時間はない。
ではどうするか?
「・・・すげぇ」
サリーの出した答えは、二人同時のヒール。
両手から回復の魔力を発するサリーを見て、思わず言葉をもらしたのはディリアンだった。
ディリアンは青魔法使いであり、サリーと魔法の系統は違う。
だが同じ魔法使いであるディリアンには、今サリーが施している治療が、どれだけ難しい事かは理解できた。
ヒールは回復させる場所に意識を集中し魔力を送り込む。
つまりサリーは今、二人の重体者に意識を分けながら治療しているのだ。
「・・・くっ、わ、悪い、もう無理だ」
サリーが二人の治療を始めると、アラタの右手の光が小さくなり、ロウソクの火が消えるかのようにフッと消えた。時間切れだった。
無理をすればまだ光を絞り出す事ができないわけではない。
だが、そうなれば力を使い切った後、自分はまた一歩も動けなくなるだろう。
この状況でそれだけは避けなければならない。
光が消えて再び暗闇に包まれても、サリーは集中を乱す事なく治療を続けた。
暗闇と言っても、正確にはサリーの両手から発せられる、ヒールによる少しの光がある。
そこから微かに見えるレイチェルとリンジーの顔に、少しづつだが生気が戻っていく事が分かる。
「・・・危険な状態は脱したようだな。しかし・・・二人同時に治療できるヤツなんてそうはいねぇぞ。本当にただの侍女かよ?」
目の前の白魔法使いの離れ業に、ディリアンは感嘆の声をもらした。
バルデスに稽古を付けてもらったディリアンだが、サリーは白魔法使いであり、ケガ人がいなければ魔法を使う機会はない。
そのためディリアンが、サリーの魔法を目にする事は今回が初めてだった。
系統の違いがあり一概に比べる事はできないが、サリーの魔力の強さ、そして魔力操作のセンスは、ディリアンのはるか上をいっていた。
ただの侍女か?ディリアンの疑問は最もだったが、サリーは四勇士バルデスにただ一人、専属で付き従っている。一対一で訓練をする時間はいくらでもあった。
「顔色も良くなってきたな・・・これなら大丈夫だろう・・・ん?」
蒼白だったレイチェルとリンジーの顔に、赤みが戻ってきた事を見て、ガラハドも安堵したその時、背後で何かが爆発したかのような大きな音が響いた。
最初にソレに気付いたのは、一番後ろに立っていたディリアンだった。
耳をつんざくような轟音の直後、地震かと思う程に足元が大きな揺れ、そしてソレは津波の如き大量の水とともに襲い掛かって来た。
「さ、鮫だァァァーーーッ!」
頬の黒い鮫が大口を開けて、ディリアンに飛び掛かった!
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