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664 ダリルの本性

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「ダリル様、これが肉体を強化する魔道具です」

その青魔法使い、ラルス・ネイリーは、私の顔色を伺うように、遠慮がちに手に乗せた腕時計を差し出してきた。
だが、私は知っている。この男はこうして媚を売るような態度は表向きで、裏では自分以外の人間は全て、実験体としてしか見ていない事を。

まぁ、今はそれでいい。利用価値のあるうちは好きにさせてやろう。


「そうか・・・うむ、良く出来ているな。硬度も十分あるようだ。使用方法は?」

左腕に時計を巻いて見ると、金属製でシンプルながらスーツによく合うデザインだった。

「はい、ダリル様は体力型ですので魔力はありません。ですので、やはり薬を体内に入れる必要があります。しかし飲み薬を常に持ち歩くのは面倒ですし、注射器はかさばります。だから時計に針を付けました。その手前のツマミを回すと針が出て刺さる仕組みです」

「これか、分かった。今は手首に巻いてしまったから回さない方がいいな」

ツマミの位置を確認すると、ネイリーは言葉を続けた。

「はい、そうですねぇ、今は回さないでください。針が刺さると薬が流されます。効果はすぐに表れます。制限時間には個人差がありますが、ダリル様なら30分くらいでしょうかねぇ」

「30分か・・・短く感じるが、そんなものなのか?」

「はい、30分でも十分に長いのですよ。並みの兵士でしたらその半分がせいぜいですからねぇ。ダリル様の体力があってこその30分ですねぇ。あぁ、一度使用すると、次の使用までに12時間間隔を取ってください。体への負担が大きいので」

個人戦ならば30分で十分だろう。
だが、集団戦になった場合はどうだ?30分では足りないだろう。
まして12時間間隔を空けろという事は、実質1日1回という事だ。これは使いどころの判断が難しい道具だ。

「分かった。だが、現状では使い勝手があまり良いとは言えんな。改良を急げ」

「承知しました。お任せください」


そしてネイリーは魔道具を改良するため、またも人体実験を行った。
目立たないように注意はしているようだが、監視につけた兵からの報告では、国民を物色し、貧しい者を言葉巧みに連れ込み実験体にしているという事だった。

いなくなっても影響の無い者を選んでいるのだろうが、これは大きな間違いだ。
200年前の皇帝から、国は全国民に対して、最低限飢える事は無いだけの支援を行っている。
貧富の差はどうしても出るが、それでも日々の食事に困る事はない程度の支援は等しく行っている。

これは200年前の皇帝、ローランド・ライアンが突然始めた事だが、今も変わらず続いている。
その結果、国民の皇帝に対する支持、そして愛国心は強いものとなった。

何が言いたいかというと、ネイリーが国民を騙し実験体にする事は、皇帝への裏切りという事だ。

私は機を見てネイリーを始末する事を決断した。




「ふ・・・ははは・・・なるほど、光の力か。知っているぞ、本当にデュークと同じじゃないか。凄まじい力だな。私がこれほどダメージを受けるとは・・・マウリシオが敗れるわけだ」

ダリル・パープルズは、まだダメージの残る腹部を右手で押さえたまま、アラタの光る拳を左手で指差した。

「マルシリオだって?そいつは、クインズベリーの国王に化けてたヤツだな?」

「そうだ。すでに報告は受けている。マウリシオの本性、闇を倒す手段はたった一つしかない。それが光だ。これはデューク・サリバンで検証済みだ。光の力以外では決して闇を倒す事はできない。だから、マウリシオを倒したのは、お前しかいない事になる」

ダリルの指摘にアラタは鼻で笑って流した。

「フン、俺以外にもこの力を持つ者が、いるとは考えないのか?」

「可能性は低いな。帝国ではデュークしかいない。それがロンズデールやクインズベリーにそう何人もいるとは思えない。いてもせいぜいあと一人か二人だろう。なによりこうして直接受けて分かった。今の私にここまでのダメージを与えたのだ。やはりお前しか考えられん」

「・・・そりゃ、どうも。さぁ、これ以上はお互い時間が惜しいだろ?ケリをつけようぜ」

左拳は軽く握り前へ、右拳は顔の横へ、右足を少し後ろに引いて構えると、軽く膝を曲げてステップを刻み始める。

「ふっ・・・デュークも同じ構えをとっていたな。貴様、デュークとどういう関係だ?赤の他人とは思えんな」

ダリルが口にする、デューク・サリバンの名は、以前マルコス・ゴンサレスから聞いて知っていた。
村戸修一のこの世界での名だと。そしてその名前こそ、デューク・サリバンが村戸修一と同一人物だと、裏付ける証拠になった。
なぜなら、デューク・サリバンとは、ボクシングがまだベアナックル(素手)だった時代に、最初の王者として君臨した男の名前だったからだ。
アラタにボクシングを教えた、村戸修一ならではの名だった。

「デューク、デュークって、さっきから・・・そんなヤツ知らねぇよ・・・俺が知ってるのは、村戸修一さんだ!」

声を上げて踏み込んだアラタは、左ジャブでダリルの顔を狙った。
だが、それに反応したダリルは右腕を顔の前に出し盾として使う。

なにっ!?

ダリルの目が開かれる。
ダリルの腕で防がれる寸前で左ジャブを止めたアラタは、そのまま腰を左に捻り、右ストレートをダリルの胸に叩き込んだ!

「ガッ!ハァッッッ・・・!」

肉体の強化などなんの役にもたたない。光の拳は体の内部にまでダメージを通し、ダリルはそのあまりの破壊力に、うめき声をもらした。

コ、コイツ・・・・・

光の拳はダリルの胸に、拳を跡をクッキリと残す程にめり込ませた。
瞬間的にダリルの呼吸が止まり、ダリルは前のめりに倒れそうになった。


素手の戦いじゃ・・・私より、はるかに上だ!

「うぐぁッ!」

左ボディ!腰の入った左に拳が、ダリルの右脇腹に突き刺さる

こ・・・のまま、では・・・や、やられ・・・・・

左アッパー!ボディブローで突き刺した左を戻し、そのままもう一度腰を回し肩を入れ、ダリルの顎を突き上げた!

ガチン!と上と下の歯が噛み合う音が響く。
顎を撥ね上げられたダリルは、そのまま背中から倒れこんだ。両手両足を広げながら動く気配がない。


「はぁ・・・はぁ・・・」

ダリルが倒れた姿を見て、アラタは両手の光を消した。
少しでも消耗を避けるため、温存できる時には、僅かな時間でも光を押さえるようにしていた。

魔道剣士アロル・ヘイモンの悪霊と戦った時にも光の力を使い、今もこうして力を使う事になる。
結局最後は光の力に頼る事になる事が、アラタは嫌だった。

だが、しかたのない事だ。
それも自分の力なのだから、みんなを護るためには、自分のためにも・・・使える力は使うべきだ。
アラタはそう考えていた。


「・・・くっくっく・・・ハハハハハハハ・・・・・」

倒れたまま突然笑い出したダリルに、アラタは本能的に構え、警戒体勢を整えた。


「・・・なにが、おかしい?」

「・・・なぁに、まさかここでお見せする事になるとは思わなくてね・・・貴様もよく知っているだろう?この力を・・・・・」

床の上で体を広げ倒れているダリルの体から、黒い瘴気が立ち昇り始めた。

「な!・・・まさか・・・ダリル・パープルズ!お前!」


一度で目にしたら決して忘れる事はない。

それはまさしく・・・闇だった。

「さぁ、ここからが本当の戦いだ」

闇の瘴気を体から発し、ダリル・パープルズは立ち上がった。
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