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気を失っているカーンを見下ろし、間違いなく意識を失っている事を確認すると、リンジーはその場に座り込んだ。
「ハァ・・・ハァ・・・」
勝てた・・・あのラミール・カーンに、勝てた・・・
ぎりぎりだった。
鼓膜まで潰して、確証の無い策も練り、綱渡りのような選択をしたがなんとか功を奏した。
緊張の糸が切れ、激しい息切れと動悸に襲われる。
何度も受けた音の攻撃によって、今だに頭痛が治まらない。
震える手をゆっくり動かして、まだ血が止まらない耳の穴に指を差し込み、詰めた物をほじくりだした。
「は、はは・・・上手くいって、良かった・・・」
それは血で真っ赤になった綿くずだった。
鼓膜を潰した事は、音が聞こえなくなるようにするためだが、リンジーも当然カーンの言葉を理解していた。
反響の剣の攻撃は、音を圧縮して耳に送り、それを解放して衝撃を与えると。
音が聞こえなくなってもそれは意味をなさない。
ではなぜ鼓膜を潰したのか?
第一に、カーンの言葉が嘘だった場合。
音が聞こえては、やはりダメなのではないだろうかという疑い。
第二に、耳の中に血で膜を作るためだった。
音の侵入を防ぐため耳の中を傷つけて、流れる血で耳を防ぐ壁をつくる。
しかし、これだけでは不十分だと考えたリンジーは、ポケットから綿ごみを摘まみ取り、指を突っ込んだ時に、耳穴の中に綿ごみを置いてきた。
血を吸った綿ごみがより耳を厚く塞ぎ、音の侵入を阻止する。
できる事は全てやった。万事を尽くしたがこれで防げるかは賭けだった。
だがリンジーは見事に賭けに勝った。
みんな、私はなんとか勝ったよ・・・あとは任せたからね。
「ぐぁっ!」
「浅い、か・・・」
ギルバート・メンドーサは、突然自分の首が斬れた事に驚きを隠せなかった。
なんだ!?一体、何をされた!?
この女が俺にハサミを向けたら突然・・・ハサミ?そうか、このハサミは魔道具か!
「き、貴様・・・そ、そのハサミ、だ、な・・・ゴホッ、やって、ぐれだ、な」
裂けた喉から鮮血が流れ出す。ギルバートは苦しそうに喉を押さえながら、正面に立つメイド服の女、サリーを睨み付けた。
若干浅かったため致命傷には至っていないが、それでも横一線に裂けた傷口から流れる出る血は、ギルバートの胸を赤く染め、出血の多さを物語っていた。
「咄嗟に一歩下がったのか・・・勘の良い男ね、そう、これが私の魔道具、イマジン・シザー。お察しの通り離れていても切る事ができるわ」
ハサミの先をギルバートに突きつけながら、サリーはその切れ長の目で睨みつけた。
「・・・ゲホッ、甘く、見過ぎて、いた、な・・・ゴホッ、俺も本気で、やってやる」
喉を押さえていた手を離すと、ギルバートは上着の内ポケットに手を入れ、煙管を取り出した。
「・・・煙管?」
ナイフでも取り出すのかと警戒したサリーだったが、予想外の物が出て眉根を寄せた。
見たところ、大きさも色も形も、どこにでもある極普通の煙管だった。
「ク、ハハハ・・・これで、終わり、だ」
だがギルバートは、その一見特徴のない煙管を、火もつけずに咥えると、そのまま吸い込み始めた。
なんだ?なにをする気だ?
今のところ攻撃をしかけてくる様子はない、けれど私の直感が警告している。
今すぐ止めろと!
本能でギルバートの危険を察知したサリーが、イマジン・シザーを向けてその喉元を切り裂こうとしたその時、突然見えない何かに引っ張られるように、サリーの体が前のめりに倒れそうになった。
「えっ!?」
咄嗟に右足を前に出し、躓きそうになったところで左足を更に前に出して、なんとか踏みとどまったが、それでも全身が何かに引かれているように、前に前にと引きずられていく。
「ひ、引きずられる!?」
足で踏ん張り、懸命にこらえようとするが、身体を引っ張られる力の方がはるかに強く、サリーの体はどんどん引きずられていく。
いったいどういう事だ!?まるでなにかに吸い込まれるようだ!
この引きずられる力に、まったく抵抗できない!
「く、はははは・・・驚いて、もらえたようだな?はぁ・・・はぁ・・・これが、俺の、魔道具・・・吸収の煙管だ。この煙管で俺が吸い込むと、お前は俺に引き寄せられるんだ!もう・・・逃げられんぞ!」
喉を斬られたダメージは決して小さくない。
だが、ギルバートの表情は、出血によるダメージを隠し、かすれる声でもサリーへの威嚇をやめる事はなかった。
「・・・そうね・・・確かに逃げる事はよくないわね。いいわ、かかってきなさい」
サリーの目に確固たる決意の炎が宿った。
「ハァ・・・ハァ・・・」
勝てた・・・あのラミール・カーンに、勝てた・・・
ぎりぎりだった。
鼓膜まで潰して、確証の無い策も練り、綱渡りのような選択をしたがなんとか功を奏した。
緊張の糸が切れ、激しい息切れと動悸に襲われる。
何度も受けた音の攻撃によって、今だに頭痛が治まらない。
震える手をゆっくり動かして、まだ血が止まらない耳の穴に指を差し込み、詰めた物をほじくりだした。
「は、はは・・・上手くいって、良かった・・・」
それは血で真っ赤になった綿くずだった。
鼓膜を潰した事は、音が聞こえなくなるようにするためだが、リンジーも当然カーンの言葉を理解していた。
反響の剣の攻撃は、音を圧縮して耳に送り、それを解放して衝撃を与えると。
音が聞こえなくなってもそれは意味をなさない。
ではなぜ鼓膜を潰したのか?
第一に、カーンの言葉が嘘だった場合。
音が聞こえては、やはりダメなのではないだろうかという疑い。
第二に、耳の中に血で膜を作るためだった。
音の侵入を防ぐため耳の中を傷つけて、流れる血で耳を防ぐ壁をつくる。
しかし、これだけでは不十分だと考えたリンジーは、ポケットから綿ごみを摘まみ取り、指を突っ込んだ時に、耳穴の中に綿ごみを置いてきた。
血を吸った綿ごみがより耳を厚く塞ぎ、音の侵入を阻止する。
できる事は全てやった。万事を尽くしたがこれで防げるかは賭けだった。
だがリンジーは見事に賭けに勝った。
みんな、私はなんとか勝ったよ・・・あとは任せたからね。
「ぐぁっ!」
「浅い、か・・・」
ギルバート・メンドーサは、突然自分の首が斬れた事に驚きを隠せなかった。
なんだ!?一体、何をされた!?
この女が俺にハサミを向けたら突然・・・ハサミ?そうか、このハサミは魔道具か!
「き、貴様・・・そ、そのハサミ、だ、な・・・ゴホッ、やって、ぐれだ、な」
裂けた喉から鮮血が流れ出す。ギルバートは苦しそうに喉を押さえながら、正面に立つメイド服の女、サリーを睨み付けた。
若干浅かったため致命傷には至っていないが、それでも横一線に裂けた傷口から流れる出る血は、ギルバートの胸を赤く染め、出血の多さを物語っていた。
「咄嗟に一歩下がったのか・・・勘の良い男ね、そう、これが私の魔道具、イマジン・シザー。お察しの通り離れていても切る事ができるわ」
ハサミの先をギルバートに突きつけながら、サリーはその切れ長の目で睨みつけた。
「・・・ゲホッ、甘く、見過ぎて、いた、な・・・ゴホッ、俺も本気で、やってやる」
喉を押さえていた手を離すと、ギルバートは上着の内ポケットに手を入れ、煙管を取り出した。
「・・・煙管?」
ナイフでも取り出すのかと警戒したサリーだったが、予想外の物が出て眉根を寄せた。
見たところ、大きさも色も形も、どこにでもある極普通の煙管だった。
「ク、ハハハ・・・これで、終わり、だ」
だがギルバートは、その一見特徴のない煙管を、火もつけずに咥えると、そのまま吸い込み始めた。
なんだ?なにをする気だ?
今のところ攻撃をしかけてくる様子はない、けれど私の直感が警告している。
今すぐ止めろと!
本能でギルバートの危険を察知したサリーが、イマジン・シザーを向けてその喉元を切り裂こうとしたその時、突然見えない何かに引っ張られるように、サリーの体が前のめりに倒れそうになった。
「えっ!?」
咄嗟に右足を前に出し、躓きそうになったところで左足を更に前に出して、なんとか踏みとどまったが、それでも全身が何かに引かれているように、前に前にと引きずられていく。
「ひ、引きずられる!?」
足で踏ん張り、懸命にこらえようとするが、身体を引っ張られる力の方がはるかに強く、サリーの体はどんどん引きずられていく。
いったいどういう事だ!?まるでなにかに吸い込まれるようだ!
この引きずられる力に、まったく抵抗できない!
「く、はははは・・・驚いて、もらえたようだな?はぁ・・・はぁ・・・これが、俺の、魔道具・・・吸収の煙管だ。この煙管で俺が吸い込むと、お前は俺に引き寄せられるんだ!もう・・・逃げられんぞ!」
喉を斬られたダメージは決して小さくない。
だが、ギルバートの表情は、出血によるダメージを隠し、かすれる声でもサリーへの威嚇をやめる事はなかった。
「・・・そうね・・・確かに逃げる事はよくないわね。いいわ、かかってきなさい」
サリーの目に確固たる決意の炎が宿った。
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