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659 リンジーの覚悟
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「あぐッ!?」
踏み込んだその左足に、突然体を内側から切り裂くような強い痛みが走り、リンジーはその場に倒れこんだ。
な、なに!?急に足が・・・し、痺れて!?
強い痛みと痺れに驚き足に目を向けるが、外傷らしいものは見当たらない。
ならばこの痛みはいったいなんだ!?
リンジーの疑問に答えたのは、頭の上からかけられた男の声だった。
「魔道具、潜水雷(せんすいらい)だ。この水は硬い床でも一瞬で染み込み、そこを踏むと体の内部に、まるで雷に撃たれたかのような強い痛みを与え、更に痺れさせる効果がある」
「くっ、い、いつの間に!?」
カーンを見上げ睨みつけるリンジーだが、右足は痺れ立ち上がる事ができずにいた。
「卑怯者と言わないあたりは流石だな。これまでこの魔道具の餌食になった者は、決まって卑怯者と罵ってきたものだ。リンジー、お前は命のやり取りをよく分かっているようだ」
カーンは大剣を両手で握り直し高々と掲げると、自分を見上げているリンジーを、冷たく見下ろした。
二人の視線が交差したのはほんの僅かな時間だったが、カーンの目に力が入った事を感じ取った瞬間、リンジーは右足と両手で強く床を弾いて、後ろに飛び退いた。
その直後、一瞬前までリンジーがいた場所に、カーンの大剣が振り下ろされ、打ちつけられた床と剣が、強く大きな音を立てた。
カーンの持つ大剣は、刃が潰してあり斬る事を目的としておらず、叩き潰す事が主要になっている。
それはなぜか?
「うっ・・・!」
上段から振り下ろされた一撃はかわした。
それ以外には何も攻撃を受けていない。
そうにも関わらず、カーンの剣を躱したリンジーは、頭を押さえてその場に屈みこんだ。
「・・・まるで頭が割れそうなくらい痛いだろ?」
「ぐっ・・・うぅ・・・カ、カーン!な、なにを、した!?」
苦痛に顔を歪めるリンジーに向けて、カーンはその存在を強調するように、大剣で床を二度三度軽く打ち付けた。
「リンジー、目に見える物ならば避けようがある。だが、見えなければどうやって身を護る?」
髪と同じ黒に近いグレーの瞳で、試すかのようにリンジーを見る。
「なんの・・・はな、し・・アッ・イッ・・・アァァァァァーーーッ!」
カーンはリンジーに話しかけながらも、一定の間隔で大剣を床に打ち付けている。
そして鉄が床を打つ音が響く度に、リンジーの頭には強い痛みが差し込み、目も開けていられない程の苦痛に頭を抱えて悲鳴を上げた。
「ウ、グ、アァ・・・アァァァァァーーーーーッ!」
「これが俺の反響(はんきょう)の剣だ。この剣をぶつける事によって発生した音を何倍にも何十倍にも圧縮して狙った相手にぶつける事ができる。音は相手の耳に侵入したところで圧縮した力を解放する。それはもはや音ではなく衝撃、振動という名の凶器だ。頭の中を掻きまわされるような苦痛だろう?」
リンジーがもはや立つ事さえできない程、もだえ苦しんでいる姿を見て、カーンは床を打つ剣を止めた。
「・・・リンジー、これが最後だ。抵抗をやめろ。お前の仲間にも降伏するように話せ。そうすればお前もお前の中も帝国へ取りなしてやる。いい加減に現実を見るんだ」
まだ頭の痛みが治まらず、リンジーは両手で頭を押さえながら、ゆっくりを顔を上げた。
想像を絶する程の苦痛だった。額からびっしょりと汗をかき、顔は血の気が引いて青ざめていた。
体も震えている。だが、それでもそのグレーの瞳にはまだ力があった。
「はぁ・・・はぁ・・・カーン・・・あんたこそ、帝国に利用されているだけだとなぜ分からないの?国を裏切ったあんた達を・・・帝国が信用するわけないでしょう?」
カーンを見上げて睨み付けるが、言葉にはその身を案じる優しさがあった。
「我らが優秀だと分からせればいいだけの事だ。帝国は実力主義、使える手駒だと認めさせればいい。少なくとも、このままロンズデールにいても未来はない」
「・・・はぁ・・・ふぅ・・・・・やっぱり分からず屋ね。このまま話しても平行線という事は分かったわ」
呼吸を整えると、リンジーはゆっくりと立ち上がり、カーンの目を正面から見据えた。
向かい合うと180センチのカーンの方が、リンジーより2~3センチは高そうに見えるが、それほど大きな差ではない。
「ふん・・・これだけ言っても分からないのなら、しかたないな。リンジー・・・残念だよ」
大剣を両手で握り直し高々と掲げると、カーンの体から突き刺すような殺気が放たれた。
それは、次の一撃がリンジーの命を奪う最後の一撃であると告げるものだった。
剣で叩き潰してもよし、躱されても反響の剣の力で脳を破壊するという二段構えである。
剣は躱せても、音から身を護る方法はない。
手で耳を塞ぐ程度で対抗できる程、軽い攻撃だとは到底思えない。
「・・・ふぅ・・・・・しかたないわね。私も勝つためにできる事をするわ」
リンジーは深く息を吸って吐くと、両手の人差し指を立て、肘を曲げて耳の高さで合わせた。
「・・・リンジー、貴様・・・何を、する気だ?」
何かを察したカーンが、身を乗り出したその時・・・・・!
リンジーは立てた左右の指を、自分の耳の穴に向けて突き刺した。
両手の人差し指が信じられない程に深く刺さり、確認するまでもなく鼓膜を貫いている事が分かる。
「し、信じられん・・・こ、ここまでするのか?」
口を動かしているのは見て分かるが、もはやカーンの問いに答えるすべをリンジーは持っていなかった。
強く突き刺さした両手の指を、今度は強く引き抜いた。
粘着性のある血液が指を赤く染め、さらに耳から流れ出たその血も、リンジーの首を流れてその体を赤々と染めていく。
「・・・聞こえ、ない、けど・・・これが、覚悟って、もの・・・よ」
右足を少し後ろに引くと、左手を胸の高さに、右手は腰の位置に構えた。
さぁ・・・かかってきなさい!カーン!
腰まであるリンジーの長い髪の先に付けられた、二つの玉、念操玉が浮かび上がる。
左右の耳から血を流し、耐えがたい激痛に襲われながらも、リンジーの気力は高まっていった。
今こそ決着をつける時よ!私の全身全霊を受けてみなさい!カーン!
踏み込んだその左足に、突然体を内側から切り裂くような強い痛みが走り、リンジーはその場に倒れこんだ。
な、なに!?急に足が・・・し、痺れて!?
強い痛みと痺れに驚き足に目を向けるが、外傷らしいものは見当たらない。
ならばこの痛みはいったいなんだ!?
リンジーの疑問に答えたのは、頭の上からかけられた男の声だった。
「魔道具、潜水雷(せんすいらい)だ。この水は硬い床でも一瞬で染み込み、そこを踏むと体の内部に、まるで雷に撃たれたかのような強い痛みを与え、更に痺れさせる効果がある」
「くっ、い、いつの間に!?」
カーンを見上げ睨みつけるリンジーだが、右足は痺れ立ち上がる事ができずにいた。
「卑怯者と言わないあたりは流石だな。これまでこの魔道具の餌食になった者は、決まって卑怯者と罵ってきたものだ。リンジー、お前は命のやり取りをよく分かっているようだ」
カーンは大剣を両手で握り直し高々と掲げると、自分を見上げているリンジーを、冷たく見下ろした。
二人の視線が交差したのはほんの僅かな時間だったが、カーンの目に力が入った事を感じ取った瞬間、リンジーは右足と両手で強く床を弾いて、後ろに飛び退いた。
その直後、一瞬前までリンジーがいた場所に、カーンの大剣が振り下ろされ、打ちつけられた床と剣が、強く大きな音を立てた。
カーンの持つ大剣は、刃が潰してあり斬る事を目的としておらず、叩き潰す事が主要になっている。
それはなぜか?
「うっ・・・!」
上段から振り下ろされた一撃はかわした。
それ以外には何も攻撃を受けていない。
そうにも関わらず、カーンの剣を躱したリンジーは、頭を押さえてその場に屈みこんだ。
「・・・まるで頭が割れそうなくらい痛いだろ?」
「ぐっ・・・うぅ・・・カ、カーン!な、なにを、した!?」
苦痛に顔を歪めるリンジーに向けて、カーンはその存在を強調するように、大剣で床を二度三度軽く打ち付けた。
「リンジー、目に見える物ならば避けようがある。だが、見えなければどうやって身を護る?」
髪と同じ黒に近いグレーの瞳で、試すかのようにリンジーを見る。
「なんの・・・はな、し・・アッ・イッ・・・アァァァァァーーーッ!」
カーンはリンジーに話しかけながらも、一定の間隔で大剣を床に打ち付けている。
そして鉄が床を打つ音が響く度に、リンジーの頭には強い痛みが差し込み、目も開けていられない程の苦痛に頭を抱えて悲鳴を上げた。
「ウ、グ、アァ・・・アァァァァァーーーーーッ!」
「これが俺の反響(はんきょう)の剣だ。この剣をぶつける事によって発生した音を何倍にも何十倍にも圧縮して狙った相手にぶつける事ができる。音は相手の耳に侵入したところで圧縮した力を解放する。それはもはや音ではなく衝撃、振動という名の凶器だ。頭の中を掻きまわされるような苦痛だろう?」
リンジーがもはや立つ事さえできない程、もだえ苦しんでいる姿を見て、カーンは床を打つ剣を止めた。
「・・・リンジー、これが最後だ。抵抗をやめろ。お前の仲間にも降伏するように話せ。そうすればお前もお前の中も帝国へ取りなしてやる。いい加減に現実を見るんだ」
まだ頭の痛みが治まらず、リンジーは両手で頭を押さえながら、ゆっくりを顔を上げた。
想像を絶する程の苦痛だった。額からびっしょりと汗をかき、顔は血の気が引いて青ざめていた。
体も震えている。だが、それでもそのグレーの瞳にはまだ力があった。
「はぁ・・・はぁ・・・カーン・・・あんたこそ、帝国に利用されているだけだとなぜ分からないの?国を裏切ったあんた達を・・・帝国が信用するわけないでしょう?」
カーンを見上げて睨み付けるが、言葉にはその身を案じる優しさがあった。
「我らが優秀だと分からせればいいだけの事だ。帝国は実力主義、使える手駒だと認めさせればいい。少なくとも、このままロンズデールにいても未来はない」
「・・・はぁ・・・ふぅ・・・・・やっぱり分からず屋ね。このまま話しても平行線という事は分かったわ」
呼吸を整えると、リンジーはゆっくりと立ち上がり、カーンの目を正面から見据えた。
向かい合うと180センチのカーンの方が、リンジーより2~3センチは高そうに見えるが、それほど大きな差ではない。
「ふん・・・これだけ言っても分からないのなら、しかたないな。リンジー・・・残念だよ」
大剣を両手で握り直し高々と掲げると、カーンの体から突き刺すような殺気が放たれた。
それは、次の一撃がリンジーの命を奪う最後の一撃であると告げるものだった。
剣で叩き潰してもよし、躱されても反響の剣の力で脳を破壊するという二段構えである。
剣は躱せても、音から身を護る方法はない。
手で耳を塞ぐ程度で対抗できる程、軽い攻撃だとは到底思えない。
「・・・ふぅ・・・・・しかたないわね。私も勝つためにできる事をするわ」
リンジーは深く息を吸って吐くと、両手の人差し指を立て、肘を曲げて耳の高さで合わせた。
「・・・リンジー、貴様・・・何を、する気だ?」
何かを察したカーンが、身を乗り出したその時・・・・・!
リンジーは立てた左右の指を、自分の耳の穴に向けて突き刺した。
両手の人差し指が信じられない程に深く刺さり、確認するまでもなく鼓膜を貫いている事が分かる。
「し、信じられん・・・こ、ここまでするのか?」
口を動かしているのは見て分かるが、もはやカーンの問いに答えるすべをリンジーは持っていなかった。
強く突き刺さした両手の指を、今度は強く引き抜いた。
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「・・・聞こえ、ない、けど・・・これが、覚悟って、もの・・・よ」
右足を少し後ろに引くと、左手を胸の高さに、右手は腰の位置に構えた。
さぁ・・・かかってきなさい!カーン!
腰まであるリンジーの長い髪の先に付けられた、二つの玉、念操玉が浮かび上がる。
左右の耳から血を流し、耐えがたい激痛に襲われながらも、リンジーの気力は高まっていった。
今こそ決着をつける時よ!私の全身全霊を受けてみなさい!カーン!
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