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639 氷と風の妨げ
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「ぐッ・・・!」
バルデスの腹を狙ったウラジミールの短剣による突きを、後ろに飛び退いて躱したバルデスだが、その直後に腹部に強烈な衝撃を受けて、受け身すら取る事ができずに吹き飛ばされた。
「・・・お前何者だ?魔法使いとは思えん程に反応が良い」
ウラジミールは右手に持つ短剣と、吹き飛ばしたバルデスを交互に見る。
恵まれた体躯、そして生まれ持った身体能力に甘える事なく、日々鍛錬を積んでいるウラジミールは、ロンズデール屈指の実力者だった。
そのウラジミールの攻撃を、魔法使いのバルデスがここまで一度も直撃を許していない。
それが不思議でしかたなかった。
「・・・はぁ、はぁ・・・その短剣で、何を飛ばしている?突きは躱したのに、腹を抉られたかと思った・・・」
「・・・ほぅ、もうそこに気が付いたか?大した洞察力だな?だが、答えを教えると思うか?自分で考えてみろ」
ウラジミールの質問には答えず、バルデスは話しの矛先をウラジミールの短剣に向けた。
まだウラジミールの武器と、身を護っているコートの能力が分かっていない。
そんな状況で、自分の手の内を探られる事は避けたかった。
「正体を語る気はなさそうだな?まぁ、お前が何者だろうと構わん。どうせ死ぬのだからな。貴様ら侵入者によってクルーズ船は潰されたのだ。その責任はとってもらうぞ。さらし首にしてやる」
ウラジミールは肘を軽く曲げて右手を前に出し、牽制するように剣先をバルデスに向けた。
地氷走りが効かんとはな、かなり強い防御力だ。
あのハゲ、確か・・・ララとか言っていたな?
あのハゲは触れた物の動きを止める魔道具で、私の刺氷弾を止めたが、こいつも似たような魔道具かもしれんな。
ならば・・・・・
「貴様も、かき混ぜてやろう」
バルデスは右手に魔力を集中させた。外側から手の平へ、円を描くように風が渦巻きだす。
圧縮された風は手の平に収まる程の球状になり、風の球は膨大な力を解放させようと、手の中でグルグルと暴れ回る。
・・・あのハゲと同じ魔道具ならば、これは防げないだろ?
「ウラァァァーーーッツ!」
短剣を握る右手を前に出したまま、ウラジミールは床を強く蹴りバルデスに突っ込んだ。
正面からきたか!
よかろう、受けて立つ!
風の中級魔法・・・・・
「サイクロン・プレッシャーッツ!」
超高密度に圧縮された荒れ狂う風の球。
バルデスは一歩前に足を踏み出すと、手の平から叩きつけるように風を解き放ち、ウラジミールの突きに正面からぶつけた。
「え、なに、この氷?」
ドアを開けて部屋を出たシャノンが目にしたものは、通路を塞ぐように床から天井まで伸びる幾つもの氷の柱だった。凍てつく冷気が漂って来て、肌を震わせる。
「こいつは・・・硬いな、シャノン、火魔法で消せるか?」
一歩後ろに立っていたレイチェルだが、氷の柱を見て前に出る。
そっと手を触れてみて強度を確認すると、打撃での破壊は困難とみてシャノンに顔を向けた。
「もちろんよ、ちょっと下がってて・・・」
両手を広げ、手の平に炎の魔力を集める。
燃え盛る炎が天井へ向かい立ち昇る。
ウラジミールが誰と戦っているか、確認できたわけではない。
だが、ラジミールと戦う可能性のある黒魔法使いは、自分以外ではシャクール・バルデスしかいない。シャノンもレイチェルも全員がその考えに至った。
ならば、助けに行かなくてはならない!
「双炎砲!」
両手の平から撃ち放たれた燃え盛る炎は、目の前の氷の柱などものともせずに、瞬く間に蒸発させていった。溶けた氷が水となって床を濡らし、蒸気となり消えていく。
「あ、みんな!あれ見て!」
氷が溶けた先で目に映ったものは、2メートルの巨体を誇るウラジミールと対峙する、銀髪の魔法使いだった。
質の良いシャツは見る影もなくボラボロになっていて、いつも余裕を見せていた顔には疲労が色濃く映っている。何があったのかレイチェル達には知るすべはないが、ここにたどり着くまでに相当過酷な道を来た事は見て取れた。
「シャクール!この氷はやはりあいつか!」
「待って、なにかやるみたいよ!」
道を防ぐ障害物が無くなり、駆けだそうとするレイチェルをリンジーが肩を掴んで止めた。
その直後、バルデスとウラジミールを中心に、台風を思わせる程の暴力的な風が発散し、レイチェル達をも巻き込んで船を大きく揺らした。
船内通路は幅も高さも十分に余裕のある作りだが、それでも荒れ狂う風にを抑え静めるには足りなく、風や天井にはヒビが入り出した。
「くっ!な、なによこの風は!?」
「サイクロン・プレッシャーだ!腰を低くして飛ばされないようにするんだ!私が風で盾を作る!」
シャノンは風魔法で自分達を覆うように風の盾を張り巡らせた。
サイクロン・プレッシャーの力を押し返すのではなく、流れに逆らわず同調させてゆるやかに受け流す。シャノンの魔力操作のセンスもあるが、魔法の訓練の賜物の技である。
「レイチェル!シャノン!風が弱まったらタイミングを見て飛び出すわよ!」
「分かった!シャノン、私が盾になる!後ろに付いて来い!」
「レイチェル、頼りにしてるからね!」
そしてサイクロン・プレッシャーの余波が治まると、シャノンは風の盾を解き、三人は一斉に駆けだした。
バルデスの腹を狙ったウラジミールの短剣による突きを、後ろに飛び退いて躱したバルデスだが、その直後に腹部に強烈な衝撃を受けて、受け身すら取る事ができずに吹き飛ばされた。
「・・・お前何者だ?魔法使いとは思えん程に反応が良い」
ウラジミールは右手に持つ短剣と、吹き飛ばしたバルデスを交互に見る。
恵まれた体躯、そして生まれ持った身体能力に甘える事なく、日々鍛錬を積んでいるウラジミールは、ロンズデール屈指の実力者だった。
そのウラジミールの攻撃を、魔法使いのバルデスがここまで一度も直撃を許していない。
それが不思議でしかたなかった。
「・・・はぁ、はぁ・・・その短剣で、何を飛ばしている?突きは躱したのに、腹を抉られたかと思った・・・」
「・・・ほぅ、もうそこに気が付いたか?大した洞察力だな?だが、答えを教えると思うか?自分で考えてみろ」
ウラジミールの質問には答えず、バルデスは話しの矛先をウラジミールの短剣に向けた。
まだウラジミールの武器と、身を護っているコートの能力が分かっていない。
そんな状況で、自分の手の内を探られる事は避けたかった。
「正体を語る気はなさそうだな?まぁ、お前が何者だろうと構わん。どうせ死ぬのだからな。貴様ら侵入者によってクルーズ船は潰されたのだ。その責任はとってもらうぞ。さらし首にしてやる」
ウラジミールは肘を軽く曲げて右手を前に出し、牽制するように剣先をバルデスに向けた。
地氷走りが効かんとはな、かなり強い防御力だ。
あのハゲ、確か・・・ララとか言っていたな?
あのハゲは触れた物の動きを止める魔道具で、私の刺氷弾を止めたが、こいつも似たような魔道具かもしれんな。
ならば・・・・・
「貴様も、かき混ぜてやろう」
バルデスは右手に魔力を集中させた。外側から手の平へ、円を描くように風が渦巻きだす。
圧縮された風は手の平に収まる程の球状になり、風の球は膨大な力を解放させようと、手の中でグルグルと暴れ回る。
・・・あのハゲと同じ魔道具ならば、これは防げないだろ?
「ウラァァァーーーッツ!」
短剣を握る右手を前に出したまま、ウラジミールは床を強く蹴りバルデスに突っ込んだ。
正面からきたか!
よかろう、受けて立つ!
風の中級魔法・・・・・
「サイクロン・プレッシャーッツ!」
超高密度に圧縮された荒れ狂う風の球。
バルデスは一歩前に足を踏み出すと、手の平から叩きつけるように風を解き放ち、ウラジミールの突きに正面からぶつけた。
「え、なに、この氷?」
ドアを開けて部屋を出たシャノンが目にしたものは、通路を塞ぐように床から天井まで伸びる幾つもの氷の柱だった。凍てつく冷気が漂って来て、肌を震わせる。
「こいつは・・・硬いな、シャノン、火魔法で消せるか?」
一歩後ろに立っていたレイチェルだが、氷の柱を見て前に出る。
そっと手を触れてみて強度を確認すると、打撃での破壊は困難とみてシャノンに顔を向けた。
「もちろんよ、ちょっと下がってて・・・」
両手を広げ、手の平に炎の魔力を集める。
燃え盛る炎が天井へ向かい立ち昇る。
ウラジミールが誰と戦っているか、確認できたわけではない。
だが、ラジミールと戦う可能性のある黒魔法使いは、自分以外ではシャクール・バルデスしかいない。シャノンもレイチェルも全員がその考えに至った。
ならば、助けに行かなくてはならない!
「双炎砲!」
両手の平から撃ち放たれた燃え盛る炎は、目の前の氷の柱などものともせずに、瞬く間に蒸発させていった。溶けた氷が水となって床を濡らし、蒸気となり消えていく。
「あ、みんな!あれ見て!」
氷が溶けた先で目に映ったものは、2メートルの巨体を誇るウラジミールと対峙する、銀髪の魔法使いだった。
質の良いシャツは見る影もなくボラボロになっていて、いつも余裕を見せていた顔には疲労が色濃く映っている。何があったのかレイチェル達には知るすべはないが、ここにたどり着くまでに相当過酷な道を来た事は見て取れた。
「シャクール!この氷はやはりあいつか!」
「待って、なにかやるみたいよ!」
道を防ぐ障害物が無くなり、駆けだそうとするレイチェルをリンジーが肩を掴んで止めた。
その直後、バルデスとウラジミールを中心に、台風を思わせる程の暴力的な風が発散し、レイチェル達をも巻き込んで船を大きく揺らした。
船内通路は幅も高さも十分に余裕のある作りだが、それでも荒れ狂う風にを抑え静めるには足りなく、風や天井にはヒビが入り出した。
「くっ!な、なによこの風は!?」
「サイクロン・プレッシャーだ!腰を低くして飛ばされないようにするんだ!私が風で盾を作る!」
シャノンは風魔法で自分達を覆うように風の盾を張り巡らせた。
サイクロン・プレッシャーの力を押し返すのではなく、流れに逆らわず同調させてゆるやかに受け流す。シャノンの魔力操作のセンスもあるが、魔法の訓練の賜物の技である。
「レイチェル!シャノン!風が弱まったらタイミングを見て飛び出すわよ!」
「分かった!シャノン、私が盾になる!後ろに付いて来い!」
「レイチェル、頼りにしてるからね!」
そしてサイクロン・プレッシャーの余波が治まると、シャノンは風の盾を解き、三人は一斉に駆けだした。
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