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634 血を補う薬
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「・・・どうだ?」
「・・・傷は治しました。ガラハドさんは大丈夫です。ですがアラタさんは・・・あまりに血を多く流しているようです。その上この冷たい水に浸かっていたせいで、身体が冷え切っています。このままでは危険です」
まだ浸水していない最上階まで二人を運んだバルデスとサリーは、気を失っているアラタとガラハドを寝かせて治療を行っていた。
「そうか・・・ふむ、私の火魔法で暖めているが、それでも厳しいか?」
「はい。確かに服も渇きましたし、身体も温まってきてはいるんです。ですがそれは表面だけです。血が足りないのです。このままでは・・・」
サリーは、アラタとガラハドの周りを囲むようにして燃えている、火の玉を見つめながら答えた。
水の中に浮かんでいる二人を見つけた時、最初は死んでいるかと思った。
それだけ血の気の失せた顔をしていたのだ。しかし、弱々しいながらも呼吸をしている事に気付き、バルデスとサリーは二人をここまで運び、体を温め傷を治療をしていた。
「そうか・・・では、アラタを助けるには、血が必要という事なのだな?・・・しかし血と言っても、どうしたものか・・・」
「充血剤(じゅうけつざい)があれば助けられます。失われた血液を補う薬です。戦時中でもなければあまり需要がない物ですが、これだけ大きな船です。万一の備えとして置いてある可能性は高いと思います」
フロア全体を見回し、サリーは確信したように言葉を発した。
ここは転覆の前の一階。一般庶民が使う三等室がある場所であり、船の備品なども保管してある部屋がある。怪我人が出た場合の治療室もあり、サリーはそこに目を付けた。
「・・・あそこですね。探してみましょう」
「分かった。二人はここに寝かせておこう。まだここまでは水は来ていないし、目を離しても問題なかろう」
下の階からここまで、アラタとガラハドを連れて来たのは、バルデスの風魔法である。
意識を失いグッタリしている二人は物と変わらず、運ぶ事自体には苦労はなかった。
だが物を探すのに、意識の無い二人を連れて行っても邪魔になるだけである。
サリーもそれに同意見だったため、はい、と二つ返事頷き、二人で治療室へと足を進めた。
ひっくり返ったベット。破れたカーテン。倒れた薬棚。割れて飛び散ったガラスの破片。
治療室の中は、一言で言えばメチャクチャだった。
「・・・これは骨が折れるな。サリーよ、私は充血剤がどんな形をしているか分からん、何を見て判断すればいい?」
足の踏み場にも困る程の荒れように、バルデスは肩をすくめる。
「はい。充血剤は10センチ程度の細い筒に入っている赤い液体です。それを飲ませればいいんです」
「そうか・・・あるといいな。しかし、この状態で薬は大丈夫なのか?」
「おそらく大丈夫です。充血剤のような需要が少ない薬は、希少とも言えます。ですから落としても割れないように、筒に鉄が使われている事が多いんです。棚が倒れたくらいでは割れる事はないでしょう」
サリーの説明にバルデスは納得したように頷くと、では探すか、と言って室内に足を踏み入れた。
薬があるとしたらこの辺りだろうと、倒れた薬棚を風魔法で持ち上げてどかすと、巻き散らかされた軟膏やら錠剤、素人には用途が不明の薬らしき物がごちゃまぜになっていた。
「・・・赤い液体の筒か、特徴があるのは助かるな。これがありふれた白い粉薬だったら、私は探すのを辞めたかもしれん」
「バルデス様、冗談でもそんな事を言ってはいけませんよ。カチュアさんが悲しみます」
「む、確かにそれもそうだな・・・失言だった」
「素直なのはバルデス様の美点です。ところで、そちらには無さそうですか?」
「うむ、こっちには・・・ないな」
「こちらの棚にもありません。絶対どこかにあると思うんですが・・・あ、バルデス様、さっきどかしたそこの棚、下の引き出しが鍵付きですね。開けられますか?」
サリーの視線の先を追って、バルデスはさっき風魔法でどかした棚を見た。
確かに下の引き出しには鍵穴があり、そこだけ閉まったままである。
「・・・ふむ、開けてみるか」
指先に風の魔力を集め、最小限の力でウインドカッターを放つ。
「どれ・・・よし、狙い通り鍵だけ切れた。サリー、開いたぞ」
風の刃で切られた引き出しの鍵穴から、小さく金属が割れる音がした。
「さすがです。バルデス様・・・私にも、見せてください。えっと・・・あ、これですね。やっぱりありました」
他の薬よりも上部そうな箱に入っているそれを取り、サリーは中身を確認して安堵の息をもらした。
「良かった。これでアラタさんは助かりますよ」
「そこで何をしている?」
突然背後からかけられた声い、バルデスとサリーが振り返る。
部屋の出入口に立ち、青い双眸でこちらを鋭く睨んでいるその男は、この大型客船ギルバート・メンドーサ号の船長を務める、ウラジミール・セルヒコだった。
「・・・傷は治しました。ガラハドさんは大丈夫です。ですがアラタさんは・・・あまりに血を多く流しているようです。その上この冷たい水に浸かっていたせいで、身体が冷え切っています。このままでは危険です」
まだ浸水していない最上階まで二人を運んだバルデスとサリーは、気を失っているアラタとガラハドを寝かせて治療を行っていた。
「そうか・・・ふむ、私の火魔法で暖めているが、それでも厳しいか?」
「はい。確かに服も渇きましたし、身体も温まってきてはいるんです。ですがそれは表面だけです。血が足りないのです。このままでは・・・」
サリーは、アラタとガラハドの周りを囲むようにして燃えている、火の玉を見つめながら答えた。
水の中に浮かんでいる二人を見つけた時、最初は死んでいるかと思った。
それだけ血の気の失せた顔をしていたのだ。しかし、弱々しいながらも呼吸をしている事に気付き、バルデスとサリーは二人をここまで運び、体を温め傷を治療をしていた。
「そうか・・・では、アラタを助けるには、血が必要という事なのだな?・・・しかし血と言っても、どうしたものか・・・」
「充血剤(じゅうけつざい)があれば助けられます。失われた血液を補う薬です。戦時中でもなければあまり需要がない物ですが、これだけ大きな船です。万一の備えとして置いてある可能性は高いと思います」
フロア全体を見回し、サリーは確信したように言葉を発した。
ここは転覆の前の一階。一般庶民が使う三等室がある場所であり、船の備品なども保管してある部屋がある。怪我人が出た場合の治療室もあり、サリーはそこに目を付けた。
「・・・あそこですね。探してみましょう」
「分かった。二人はここに寝かせておこう。まだここまでは水は来ていないし、目を離しても問題なかろう」
下の階からここまで、アラタとガラハドを連れて来たのは、バルデスの風魔法である。
意識を失いグッタリしている二人は物と変わらず、運ぶ事自体には苦労はなかった。
だが物を探すのに、意識の無い二人を連れて行っても邪魔になるだけである。
サリーもそれに同意見だったため、はい、と二つ返事頷き、二人で治療室へと足を進めた。
ひっくり返ったベット。破れたカーテン。倒れた薬棚。割れて飛び散ったガラスの破片。
治療室の中は、一言で言えばメチャクチャだった。
「・・・これは骨が折れるな。サリーよ、私は充血剤がどんな形をしているか分からん、何を見て判断すればいい?」
足の踏み場にも困る程の荒れように、バルデスは肩をすくめる。
「はい。充血剤は10センチ程度の細い筒に入っている赤い液体です。それを飲ませればいいんです」
「そうか・・・あるといいな。しかし、この状態で薬は大丈夫なのか?」
「おそらく大丈夫です。充血剤のような需要が少ない薬は、希少とも言えます。ですから落としても割れないように、筒に鉄が使われている事が多いんです。棚が倒れたくらいでは割れる事はないでしょう」
サリーの説明にバルデスは納得したように頷くと、では探すか、と言って室内に足を踏み入れた。
薬があるとしたらこの辺りだろうと、倒れた薬棚を風魔法で持ち上げてどかすと、巻き散らかされた軟膏やら錠剤、素人には用途が不明の薬らしき物がごちゃまぜになっていた。
「・・・赤い液体の筒か、特徴があるのは助かるな。これがありふれた白い粉薬だったら、私は探すのを辞めたかもしれん」
「バルデス様、冗談でもそんな事を言ってはいけませんよ。カチュアさんが悲しみます」
「む、確かにそれもそうだな・・・失言だった」
「素直なのはバルデス様の美点です。ところで、そちらには無さそうですか?」
「うむ、こっちには・・・ないな」
「こちらの棚にもありません。絶対どこかにあると思うんですが・・・あ、バルデス様、さっきどかしたそこの棚、下の引き出しが鍵付きですね。開けられますか?」
サリーの視線の先を追って、バルデスはさっき風魔法でどかした棚を見た。
確かに下の引き出しには鍵穴があり、そこだけ閉まったままである。
「・・・ふむ、開けてみるか」
指先に風の魔力を集め、最小限の力でウインドカッターを放つ。
「どれ・・・よし、狙い通り鍵だけ切れた。サリー、開いたぞ」
風の刃で切られた引き出しの鍵穴から、小さく金属が割れる音がした。
「さすがです。バルデス様・・・私にも、見せてください。えっと・・・あ、これですね。やっぱりありました」
他の薬よりも上部そうな箱に入っているそれを取り、サリーは中身を確認して安堵の息をもらした。
「良かった。これでアラタさんは助かりますよ」
「そこで何をしている?」
突然背後からかけられた声い、バルデスとサリーが振り返る。
部屋の出入口に立ち、青い双眸でこちらを鋭く睨んでいるその男は、この大型客船ギルバート・メンドーサ号の船長を務める、ウラジミール・セルヒコだった。
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