634 / 1,366
633 水の追跡
しおりを挟む
「う・・・うぅ・・・こ、の・・・ララ、が・・・・・」
着用者の生命の危機には、その傷を癒す魔道具、命の護布。
バルデスの推察通り、命の護布は使用回数の上限に達し、ララを癒す事はなかった。
すでに成人男性の胸程の高さまで満ちた水。
水面に力なく浮かんでいるララの右腕と左足は、バルデスの風魔法、サイクロン・プレッシャーによって、関節が本来とは逆方向に曲げられていた。
容赦なく天井や壁に叩きつけられ、水の冷たさで覚醒したララだが、満足に体を動かす事はできず、ボソボソと恨み言だけを口にしていた。
ゆ・・・許せん・・・
このララに何たる事を・・・
許せませんが、今回はもう動けそうにありません。
この傷を癒したら、必ず後悔させてあげましょう・・・・・
このララに止めを刺さなかっ・・・・・!?
「うぐおぁぁぁぁーーーーーッツ!」
突然足に感じた激痛は、ララがこれまで味わった事のない種類のものだった。
剣とも槍とも違うそれは、ララの両腿を上下から突き刺すと、信じられない程の強い力でララの体を右に左に、上に下に揺さぶり始めた。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーッツ!」
暗く狭く、水が溢れる通路にララの悲鳴が響き渡る。
こ、これは・・・ち、違う!
剣でも、槍でもない・・・ま、まさか・・・・!?
振り返ったララの目が映したもの、それは自分の足に噛みつく頬の黒い鮫だった。
「う・・・ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーッツ!」
ララは必死に抵抗した。
腰に差していたナイフを抜き取り、鮫の顔を何度も突き刺した。
しかしララの攻撃もむなしく、ララが鮫を仕留めるよりも早く、鮫の牙はララの腹を食い破り、胸を抉った。それが致命傷となった。
ララは口からドロリとした血を吐き出すと、体をビクリと震わせて絶命した。
ララの抵抗が無くなると、最初に噛みついた頬黒鮫が胸から下を嚙み千切り、残った部分を集まった槍鮫達が齧り取っていった。
血と肉が鮫達を興奮させる。
・・・・・この奥にまだ獲物がいる。
ララを倒し、先へ進んだバルデスとサリー。
負傷しているバルデスの血の匂いを嗅ぎ取った鮫達は、更なる獲物を求めて静かに追跡をする。
結局、この階でバルデスとサリーが鮫に掴まる事はなかった。
だが、船内の水かさはどんどん増していく。
バルデスとサリーが上の階に逃れたとしても、船内にいる限り、追いかけてくる水から逃れる事はできない。いずれは追いつかれる運命である。
鮫はゆっくりとその時を待つ。
逃げ場を無くした獲物を、恐怖に怯える獲物を追い詰め、牙を突き立てるその時を・・・・・
「・・・バルデス様、お体はいかがですか?」
「うむ、ずいぶん楽になった。さすがだサリー、素晴らしいヒールだ」
三階に逃れたバルデスとサリーは、まだ水がきていない事と、周囲に敵がいない状況を見て、ここで治療を済ませようと決め、腰を下ろしていた。
「右目はどうでしょう?」
「・・・うむ、痛みは引いた。だが、視力はずいぶん弱いな。自分の手の平がブレて見える。これは一時的なものか?」
顔からいくから手を離して、左目は瞑り右目だけで見つめながら質問に答える。
「私も、潰れた目を治療した事は初めてですので、言い切る事はできません。ですが、一時的なものかと思います。目は完璧に治しましが、傷の回復に視力が追いついていないのだと思います。一度は潰れていたのですから、失われた視力の回復には時間がかかるのでしょう」
サリーの見解を聞きながら、バルデスは自分の右目に手を当てた。
見えないわけではないが、まともに見えるのは数十センチ程度の距離で、それ以上はぼやけて見える。
サリーの説明の通りならば、徐々に元のように不自由なく見えるようになるだろう。
「・・・そうか、まぁしかたあるまい。ならば気長に待つとしよう」
「申し訳ありません。私の魔力がもう少し強ければ、もっと完璧に・・・」
「何を言う。サリーのヒールは見事なものだぞ。王宮仕えの白魔法使いでも、一人で眼球を治せる者がどれだけいるか・・・ん、この気は?」
バルデスは何かを察知し、途中で言葉を止める。
サリーもまたバルデスの様子から、ただ事ならぬものを感じ取った。
「・・・サリー」
「はい、ここからは離れていますが、同じフロアにいますね。どうされますか?」
二人が感じ取ったものは、ぶつかり合う戦いの気配。
空気が震え、足元からは振動が伝わってくる。
「・・・この気は知っている。アラタの光だ・・・どうやら、敵と出会ったしまったようだな」
「はい。バルデス様、助けに行きますか?」
判断を仰ぐサリーに、バルデスは自分の体をじっと見て答えた。l
「・・・あぁ、行こう。アラタの光の力は強い。だが、この相手も同じくらい強い・・・」
「はい。では参りましょう」
三階に上がった二人だが、バルデスはアラタが戦っている事を察し、サリーと共に加勢に向かった。
そう、この時アラタは魔道剣士四人衆の、アロル・ヘイモンと戦っていた。
現場に辿りついた時、バルデスの目に入ってきたのは、水中に浮かぶアラタとヘイモンの姿だった。
着用者の生命の危機には、その傷を癒す魔道具、命の護布。
バルデスの推察通り、命の護布は使用回数の上限に達し、ララを癒す事はなかった。
すでに成人男性の胸程の高さまで満ちた水。
水面に力なく浮かんでいるララの右腕と左足は、バルデスの風魔法、サイクロン・プレッシャーによって、関節が本来とは逆方向に曲げられていた。
容赦なく天井や壁に叩きつけられ、水の冷たさで覚醒したララだが、満足に体を動かす事はできず、ボソボソと恨み言だけを口にしていた。
ゆ・・・許せん・・・
このララに何たる事を・・・
許せませんが、今回はもう動けそうにありません。
この傷を癒したら、必ず後悔させてあげましょう・・・・・
このララに止めを刺さなかっ・・・・・!?
「うぐおぁぁぁぁーーーーーッツ!」
突然足に感じた激痛は、ララがこれまで味わった事のない種類のものだった。
剣とも槍とも違うそれは、ララの両腿を上下から突き刺すと、信じられない程の強い力でララの体を右に左に、上に下に揺さぶり始めた。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーッツ!」
暗く狭く、水が溢れる通路にララの悲鳴が響き渡る。
こ、これは・・・ち、違う!
剣でも、槍でもない・・・ま、まさか・・・・!?
振り返ったララの目が映したもの、それは自分の足に噛みつく頬の黒い鮫だった。
「う・・・ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーッツ!」
ララは必死に抵抗した。
腰に差していたナイフを抜き取り、鮫の顔を何度も突き刺した。
しかしララの攻撃もむなしく、ララが鮫を仕留めるよりも早く、鮫の牙はララの腹を食い破り、胸を抉った。それが致命傷となった。
ララは口からドロリとした血を吐き出すと、体をビクリと震わせて絶命した。
ララの抵抗が無くなると、最初に噛みついた頬黒鮫が胸から下を嚙み千切り、残った部分を集まった槍鮫達が齧り取っていった。
血と肉が鮫達を興奮させる。
・・・・・この奥にまだ獲物がいる。
ララを倒し、先へ進んだバルデスとサリー。
負傷しているバルデスの血の匂いを嗅ぎ取った鮫達は、更なる獲物を求めて静かに追跡をする。
結局、この階でバルデスとサリーが鮫に掴まる事はなかった。
だが、船内の水かさはどんどん増していく。
バルデスとサリーが上の階に逃れたとしても、船内にいる限り、追いかけてくる水から逃れる事はできない。いずれは追いつかれる運命である。
鮫はゆっくりとその時を待つ。
逃げ場を無くした獲物を、恐怖に怯える獲物を追い詰め、牙を突き立てるその時を・・・・・
「・・・バルデス様、お体はいかがですか?」
「うむ、ずいぶん楽になった。さすがだサリー、素晴らしいヒールだ」
三階に逃れたバルデスとサリーは、まだ水がきていない事と、周囲に敵がいない状況を見て、ここで治療を済ませようと決め、腰を下ろしていた。
「右目はどうでしょう?」
「・・・うむ、痛みは引いた。だが、視力はずいぶん弱いな。自分の手の平がブレて見える。これは一時的なものか?」
顔からいくから手を離して、左目は瞑り右目だけで見つめながら質問に答える。
「私も、潰れた目を治療した事は初めてですので、言い切る事はできません。ですが、一時的なものかと思います。目は完璧に治しましが、傷の回復に視力が追いついていないのだと思います。一度は潰れていたのですから、失われた視力の回復には時間がかかるのでしょう」
サリーの見解を聞きながら、バルデスは自分の右目に手を当てた。
見えないわけではないが、まともに見えるのは数十センチ程度の距離で、それ以上はぼやけて見える。
サリーの説明の通りならば、徐々に元のように不自由なく見えるようになるだろう。
「・・・そうか、まぁしかたあるまい。ならば気長に待つとしよう」
「申し訳ありません。私の魔力がもう少し強ければ、もっと完璧に・・・」
「何を言う。サリーのヒールは見事なものだぞ。王宮仕えの白魔法使いでも、一人で眼球を治せる者がどれだけいるか・・・ん、この気は?」
バルデスは何かを察知し、途中で言葉を止める。
サリーもまたバルデスの様子から、ただ事ならぬものを感じ取った。
「・・・サリー」
「はい、ここからは離れていますが、同じフロアにいますね。どうされますか?」
二人が感じ取ったものは、ぶつかり合う戦いの気配。
空気が震え、足元からは振動が伝わってくる。
「・・・この気は知っている。アラタの光だ・・・どうやら、敵と出会ったしまったようだな」
「はい。バルデス様、助けに行きますか?」
判断を仰ぐサリーに、バルデスは自分の体をじっと見て答えた。l
「・・・あぁ、行こう。アラタの光の力は強い。だが、この相手も同じくらい強い・・・」
「はい。では参りましょう」
三階に上がった二人だが、バルデスはアラタが戦っている事を察し、サリーと共に加勢に向かった。
そう、この時アラタは魔道剣士四人衆の、アロル・ヘイモンと戦っていた。
現場に辿りついた時、バルデスの目に入ってきたのは、水中に浮かぶアラタとヘイモンの姿だった。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅 落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語
さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚
〇書籍化決定しました!!
竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。
十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。
特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。
レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。
手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
黒の創造召喚師
幾威空
ファンタジー
※2021/04/12 お気に入り登録数5,000を達成しました!ありがとうございます!
※2021/02/28 続編の連載を開始しました。
■あらすじ■
佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡してしまう。しかも、神様の「手違い」によって。
そんな継那は神様から転生の権利を得、地球とは異なる異世界で第二の人生を歩む。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる