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631 バルデス 対 ララ
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「この、ララを・・・この・・・ララを・・・ゆる、しません・・・許しません・・・」
うわ言のように、一人ぶつぶつと口を動かしているララは、不確かな足取りで、一歩一歩バルデスに近づいて来る。
「ほぅ・・・貴様もずいぶん傷だらけではないか。ここまで苦労して上がってきたんだな」
裂傷、切り傷、打撲傷、そしてずぶ濡れのその姿は、押し寄せる水から逃げて来た事を伺わせた。
虚ろなその表情は、数刻前に戦った時とはまるで別人のようだった。
「・・・ここももう危ない。貴様にかまっている時間はないのだよ。せっかく来てくれて悪いが、退場してもらおうか」
薄暗い通路には二人を阻む障害物も無い。しかし少しずつ浸水は進み、足元を濡らし始めていた。
ララの姿がハッキリと視認できる程に近くなり、バルデスは右手の人差し指を突きつけるように向けた。
「これでは雷は使えんが、まぁ貴様程度なら雷無しでも問題ない」
指先に集まった魔力が空気を凍てつかせる。
氷の初級魔法、刺氷弾
音も無く放たれる鋭く尖った氷の塊は、一直線に突き進み、そしてララの額を撃ち抜いた・・・かに見えた。
「バルデス様!」
「・・・サリーよ、まだだ。魔道具を駆使して戦うから、魔道剣士だったな?目くらましに、命の護布、そして今度はなんだ?私の刺氷弾を空中で止めるなんて芸当、普通できるものではないぞ」
ララを刺氷弾の一発で仕留めたと見たサリーが、歓喜の声を上げるが、バルデスは前を向いたまま首を横に振って否定した。
その言葉にサリーも視線を通路に戻し、バルデスよりも数メートル前に立つ長身の男を見る。
「こ、これは・・・」
ララは倒れていなかった。
額に突き刺さったかに見えた刺氷弾は、皮膚を切る寸前でピタリと止まり、そのまま空中で制止している。正確には刺氷弾の切っ先が触れてはいるのだが、言葉通り触れているだけであり、1ミリも刺さってはいない。
「・・・ふっふっふ、あなたの魔法なんて・・・このララには・・・このララには、このララには通用しませんよぉぉぉーーー!」
額の前で止まっている氷を掴み取ると、そのまま床に叩きつけて感情を爆発させた。
それまでまるで力のない歩き方で虚ろな表情だったララが、ハッキリとバルデスを意識し、怒声を上げて飛び掛かって来た。
・・・見たままで考えれば物体を止める魔道具。形ある物は通用しないと考えていいだろう。
「ならばこれはどうだ?」
両肩を掴みに来るララの、がら空きの胴体に右手の平を向ける。
外側から手の平へ、円を描くように風が渦巻き集中する。
圧縮された風は手の平に収まる程度の球状になり、風の球は膨大な力を解放させようと、手の中でグルグルと暴れ回っている。
「受けて見ろ。サイクロン・プレッシャー」
バルデスの手から離れた風の球は、まるで殻を破るかのようにその羽を広げると、圧縮された膨大な力を解き放ち、一瞬にしてララの体を飲み込んだ。
この時、ララはバルデスの予想した通り、自分の体に触れた物を止める魔道具を使用していた。
しかし、その効果はあくまで物を止めるものであり、実体の無い物、つまり手で掴む事のできない風にはなんの効果も無かった。
超高密度に圧縮された風がその力を解放する。
それによって起こる、暴力的なまでに荒れ狂う風に巻き込まれた時、何人たりとも無事ではすまない。
圧し潰され、叩きつけられ、打ち上げられ、上下の感覚など分からない程に体を投げまわされる。
その衝撃は脳が揺れるどころではない。
やがて荒れ狂う暴風が、その怒りを鎮めるかのように治まった時、長身の魔道剣士は天井の高さから重力に従い落下した。
水飛沫を上げて全身を床に打ち付けるララ。かろうじて息がある事は、呼吸による胸の動きで分かるが、あらぬ方向に曲がった手足。虚ろな表情。意識が混濁している事は一目で分かる。
「・・・大したハゲだ。私に風の中級魔法を使わせるとはな」
バルデスは残った左目で、ララが起きてこない事を見下ろしながら、感心したように呟いた。
「いいえバルデス様、恐れながらそれは違います。このハゲがすごいのではありません。バルデス様に中級魔法を使わせた魔道具がすごいのです」
バルデスの隣に立ったサリーが訂正を口にする。
「・・・なるほど、確かにその通りだ。刺氷弾が防がれたからサイクロン・プレッシャーを使ったわけだしな。うむ、ではこのハゲを褒めた言葉は撤回しよう。私は間違いを認められる男だからな」
「素晴らしいです。バルデス様は貴族の鏡ですね」
腕を組み、真剣な面持ちで発言の撤回を口にするバルデスに、サリーもまた心底真面目な口調で話し、敬意を表す一礼をした。
「・・・どうやら、今度は命の護布は発動しないようだな。私の雷、それと転覆の時にも発動したのか?いずれにしろ使用回数の上限に達したという事か。だから国王に献上しろと忠告したのに、もったいない事をする男だ」
「バルデス様、水が大分溜まってきました。そろそろ私達も行きませんと。このハゲはいかがなさいますか?」
すでに足首は水に埋まり、こうして話している間にも、水かさはどんどん増している。
「・・・放っておいても何もできんだろうが、キッチリ止めは刺しておこう。やれる時にやらんで、万一にも後ろから刺されてはたまらんからな。それにコイツはサリーに傷をつけた。見逃す理由は無い」
「・・・バルデス様」
右手を軽く上げ、風の魔力を集める。風の初級魔法ウインド・カッター。
バルデスがララの首を斬り落とそうとしたその時、突然石が割れるような大きな音がして、バルデスの右手側の壁に大きな亀裂が入った。
「なっ!?」
「バルデス様!」
バルデスとサリーが音に反応して顔を向けたその時、大量の水が壁を破壊して流れ込んで来た。
うわ言のように、一人ぶつぶつと口を動かしているララは、不確かな足取りで、一歩一歩バルデスに近づいて来る。
「ほぅ・・・貴様もずいぶん傷だらけではないか。ここまで苦労して上がってきたんだな」
裂傷、切り傷、打撲傷、そしてずぶ濡れのその姿は、押し寄せる水から逃げて来た事を伺わせた。
虚ろなその表情は、数刻前に戦った時とはまるで別人のようだった。
「・・・ここももう危ない。貴様にかまっている時間はないのだよ。せっかく来てくれて悪いが、退場してもらおうか」
薄暗い通路には二人を阻む障害物も無い。しかし少しずつ浸水は進み、足元を濡らし始めていた。
ララの姿がハッキリと視認できる程に近くなり、バルデスは右手の人差し指を突きつけるように向けた。
「これでは雷は使えんが、まぁ貴様程度なら雷無しでも問題ない」
指先に集まった魔力が空気を凍てつかせる。
氷の初級魔法、刺氷弾
音も無く放たれる鋭く尖った氷の塊は、一直線に突き進み、そしてララの額を撃ち抜いた・・・かに見えた。
「バルデス様!」
「・・・サリーよ、まだだ。魔道具を駆使して戦うから、魔道剣士だったな?目くらましに、命の護布、そして今度はなんだ?私の刺氷弾を空中で止めるなんて芸当、普通できるものではないぞ」
ララを刺氷弾の一発で仕留めたと見たサリーが、歓喜の声を上げるが、バルデスは前を向いたまま首を横に振って否定した。
その言葉にサリーも視線を通路に戻し、バルデスよりも数メートル前に立つ長身の男を見る。
「こ、これは・・・」
ララは倒れていなかった。
額に突き刺さったかに見えた刺氷弾は、皮膚を切る寸前でピタリと止まり、そのまま空中で制止している。正確には刺氷弾の切っ先が触れてはいるのだが、言葉通り触れているだけであり、1ミリも刺さってはいない。
「・・・ふっふっふ、あなたの魔法なんて・・・このララには・・・このララには、このララには通用しませんよぉぉぉーーー!」
額の前で止まっている氷を掴み取ると、そのまま床に叩きつけて感情を爆発させた。
それまでまるで力のない歩き方で虚ろな表情だったララが、ハッキリとバルデスを意識し、怒声を上げて飛び掛かって来た。
・・・見たままで考えれば物体を止める魔道具。形ある物は通用しないと考えていいだろう。
「ならばこれはどうだ?」
両肩を掴みに来るララの、がら空きの胴体に右手の平を向ける。
外側から手の平へ、円を描くように風が渦巻き集中する。
圧縮された風は手の平に収まる程度の球状になり、風の球は膨大な力を解放させようと、手の中でグルグルと暴れ回っている。
「受けて見ろ。サイクロン・プレッシャー」
バルデスの手から離れた風の球は、まるで殻を破るかのようにその羽を広げると、圧縮された膨大な力を解き放ち、一瞬にしてララの体を飲み込んだ。
この時、ララはバルデスの予想した通り、自分の体に触れた物を止める魔道具を使用していた。
しかし、その効果はあくまで物を止めるものであり、実体の無い物、つまり手で掴む事のできない風にはなんの効果も無かった。
超高密度に圧縮された風がその力を解放する。
それによって起こる、暴力的なまでに荒れ狂う風に巻き込まれた時、何人たりとも無事ではすまない。
圧し潰され、叩きつけられ、打ち上げられ、上下の感覚など分からない程に体を投げまわされる。
その衝撃は脳が揺れるどころではない。
やがて荒れ狂う暴風が、その怒りを鎮めるかのように治まった時、長身の魔道剣士は天井の高さから重力に従い落下した。
水飛沫を上げて全身を床に打ち付けるララ。かろうじて息がある事は、呼吸による胸の動きで分かるが、あらぬ方向に曲がった手足。虚ろな表情。意識が混濁している事は一目で分かる。
「・・・大したハゲだ。私に風の中級魔法を使わせるとはな」
バルデスは残った左目で、ララが起きてこない事を見下ろしながら、感心したように呟いた。
「いいえバルデス様、恐れながらそれは違います。このハゲがすごいのではありません。バルデス様に中級魔法を使わせた魔道具がすごいのです」
バルデスの隣に立ったサリーが訂正を口にする。
「・・・なるほど、確かにその通りだ。刺氷弾が防がれたからサイクロン・プレッシャーを使ったわけだしな。うむ、ではこのハゲを褒めた言葉は撤回しよう。私は間違いを認められる男だからな」
「素晴らしいです。バルデス様は貴族の鏡ですね」
腕を組み、真剣な面持ちで発言の撤回を口にするバルデスに、サリーもまた心底真面目な口調で話し、敬意を表す一礼をした。
「・・・どうやら、今度は命の護布は発動しないようだな。私の雷、それと転覆の時にも発動したのか?いずれにしろ使用回数の上限に達したという事か。だから国王に献上しろと忠告したのに、もったいない事をする男だ」
「バルデス様、水が大分溜まってきました。そろそろ私達も行きませんと。このハゲはいかがなさいますか?」
すでに足首は水に埋まり、こうして話している間にも、水かさはどんどん増している。
「・・・放っておいても何もできんだろうが、キッチリ止めは刺しておこう。やれる時にやらんで、万一にも後ろから刺されてはたまらんからな。それにコイツはサリーに傷をつけた。見逃す理由は無い」
「・・・バルデス様」
右手を軽く上げ、風の魔力を集める。風の初級魔法ウインド・カッター。
バルデスがララの首を斬り落とそうとしたその時、突然石が割れるような大きな音がして、バルデスの右手側の壁に大きな亀裂が入った。
「なっ!?」
「バルデス様!」
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