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630 復讐者
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「う・・・ん・・・」
「・・・気が付いたか?」
重い瞼を開ける。
誰かが声をかけてくれたようだけど、頭がぼんやりしていて、耳に入っても頭にまでは届かない。
夢と現の狭間のような感覚だ。
「サリー・・・私の声が聞こえるか?」
冷たいなにかが頬に触れて、反射的に脳が覚醒する。
私の頬に触れたなにかが、バルデス様の手だと認識するのに時間はかからなかった。
「バルデス様・・・」
「・・・・意識が戻って良かった・・・どこか、痛むところはないか?」
上半身を起こして、まず自分の体を確認した。
メイド服はところどころ破れているし、汚れてもいるけれど怪我はなさそうだ。
肩や首を回して手を握ってみるが、どこにも痛みは感じない。
顔をくるりと回して辺りを見る。
・・・・・薄暗い通路。
あちこちにガラス片や、割れた壺、額縁が壊れた絵画などの調度品が散らばっている。
あらためて、この船が今どういう状態なのかを思い出す。
「・・・体は、大丈夫のようで・・・バルデス、様?」
まず、聞かれた事に答えようと、隣にいるバルデス様に顔を向ける。
そこで私は初めて気が付いた。
なぜ私は怪我一つしていないのか。
あの時私は、あの高さから転落したのだ。
本来であれば、私は死んでいてもおかしくない。むしろ生きている方が奇跡だ。
それが服が破れる程度すんでいるなんて、本来ありえないのだ。
「・・・・・バルデス様・・・・わ、私のために・・・」
そのお姿を目にして、涙が溢れてきた。
「サリー・・・無事でなにより・・・だ」
左腕と左の腿には、折れた木片が突き刺ささり、右目は何か鋭利な刃物で切ったようだ。
パックリと裂けた傷口から流れ出た血で、顔の半分をベッタリと赤く染めていた。
一目見ただけで、それだけの大怪我が分かったのだ。それ以外にも裂傷や打撲も多々あるだろう。
どこか骨が折れているかもしれない。
「も、申し訳・・・ありません・・・わ、私が、私が不甲斐ないから・・・・・」
全て思い出した・・・・・
そうだ。あの時バルデス様は私を守るために、そのお体で包み込んでくださったんだ。
私が今こうして怪我一つしていないのは、全てバルデス様のおかげ・・・
そして、私が弱かったから、バルデス様にこんな大怪我を・・・・・
私は何の役にも立たない・・・
私がいなければ、バルデス様はこんな怪我をする事もなかった。
バルデス様に大怪我をさせてしまった事、そして自分の無力さがどうしようもなく悔しかった。
「そんな顔をするな。私は生きている。こんな怪我サリーが治してくれる。そうだろ?サリー」
バルデス様が残った左目で私を見つめる。
その青い瞳はいつもと変わらず、とても優しい色を浮かべている。
そして右手で私の頭を優しく撫でてくださった。
その温かさが嬉しくて、そして申し訳なかった。
「・・・はい!私にお任せください!」
今は悲しんでいられない。
一刻も早くバルデス様を治療しなければ!反省するのも後悔も後だ!
私の眼に力が入るのを見て、バルデス様は腕を下ろすと、そのまま後ろに壁にもたれかかった。
「・・・では、まずは足から頼もうか・・・フッ、これを抜くのは痛そうだ・・・」
左の腿に刺さっている木片は、形状から見ておそらく手すりの柵だろう。
バルデス様は息を止めてそれを右手で握ると、フッ!と一呼吸を発して一気に腿から引き抜いた。
その勢いで傷口からも真っ赤な血が飛び散り、私の顔にもかかるが、血を拭う時間も惜しい私は、そのまま足の傷の治療に入った。
最大で最速のヒールを!
全神経を集中して、バルデス様の足を治す。
回復の速さは、どれだけ正確に傷に魔力を行き渡らせるか。つまり魔力操作にかかっている。
魔力の高さももちろん関係はある。高い魔力持ちのヒールならば、それだけ回復量は多いからだ。
私の最大の魔力で、最速で傷口を塞ぐ!
「・・・フッ、サリーよ、良い魔力操作だ。成長・・・したな」
お言葉をかけられるけど、返事をして僅かでも集中を乱したくはない。
バルデス様も、私の気持ちを察してくださったのだろう。それ以上はお話しになる事はなく、少しでも体を休めるために目を閉じた。
「足は終わりました・・・次は腕ですね」
足の治療が終わると、バルデス様は左腕に刺さった木片を引き抜いた。
言葉には出さないけれどやはり相当痛むようで、顔は強張りお顔の汗もすごい。
私は少しでも早くバルデス様の苦痛が和らぐように、急いで腕の治療にあたった。
おそらく過去最高の速さで治療できていたと思う。
そして腕の傷口が塞がった頃、バルデス様は私の肩に手を置いて、そっと私を引き離した。
「・・・バルデス、様?」
腕の治療は今ちょうど終わったけれど、まだ目が残っている。
まだ血も止まっていないし、痛みは酷いはずだ。早くヒールをかけなければならない。
「・・・全く、あの男はよほど我々の邪魔をしたいらしいな」
「え?・・・まさか!?」
バルデス様の視線を追って後ろを振り返ると、通路の奥、数十メートル程先に何者かの姿が見えた。
それはフラフラと足元が定まらず、頼りない足取りで動いていた。
まるで亡霊のように生気のないその男は、光を失ったその目に憎しみを宿らせ、ただ一人だけに向けていた。
そう・・・自分をここまで追い込んだ憎き魔法使い・・・シャクール・バルデスを
「しつこいハゲだ。サリーよ、下がっていろ。ヤツは今度こそ私が仕留める」
ゆっくりと腰を上げるバルデス。
銀色の髪をかき上げ、残った青い左目で、こちらに向かって歩いて来る魔道剣士四人衆、エクスラルディ・ララを睨み付けた。
「・・・気が付いたか?」
重い瞼を開ける。
誰かが声をかけてくれたようだけど、頭がぼんやりしていて、耳に入っても頭にまでは届かない。
夢と現の狭間のような感覚だ。
「サリー・・・私の声が聞こえるか?」
冷たいなにかが頬に触れて、反射的に脳が覚醒する。
私の頬に触れたなにかが、バルデス様の手だと認識するのに時間はかからなかった。
「バルデス様・・・」
「・・・・意識が戻って良かった・・・どこか、痛むところはないか?」
上半身を起こして、まず自分の体を確認した。
メイド服はところどころ破れているし、汚れてもいるけれど怪我はなさそうだ。
肩や首を回して手を握ってみるが、どこにも痛みは感じない。
顔をくるりと回して辺りを見る。
・・・・・薄暗い通路。
あちこちにガラス片や、割れた壺、額縁が壊れた絵画などの調度品が散らばっている。
あらためて、この船が今どういう状態なのかを思い出す。
「・・・体は、大丈夫のようで・・・バルデス、様?」
まず、聞かれた事に答えようと、隣にいるバルデス様に顔を向ける。
そこで私は初めて気が付いた。
なぜ私は怪我一つしていないのか。
あの時私は、あの高さから転落したのだ。
本来であれば、私は死んでいてもおかしくない。むしろ生きている方が奇跡だ。
それが服が破れる程度すんでいるなんて、本来ありえないのだ。
「・・・・・バルデス様・・・・わ、私のために・・・」
そのお姿を目にして、涙が溢れてきた。
「サリー・・・無事でなにより・・・だ」
左腕と左の腿には、折れた木片が突き刺ささり、右目は何か鋭利な刃物で切ったようだ。
パックリと裂けた傷口から流れ出た血で、顔の半分をベッタリと赤く染めていた。
一目見ただけで、それだけの大怪我が分かったのだ。それ以外にも裂傷や打撲も多々あるだろう。
どこか骨が折れているかもしれない。
「も、申し訳・・・ありません・・・わ、私が、私が不甲斐ないから・・・・・」
全て思い出した・・・・・
そうだ。あの時バルデス様は私を守るために、そのお体で包み込んでくださったんだ。
私が今こうして怪我一つしていないのは、全てバルデス様のおかげ・・・
そして、私が弱かったから、バルデス様にこんな大怪我を・・・・・
私は何の役にも立たない・・・
私がいなければ、バルデス様はこんな怪我をする事もなかった。
バルデス様に大怪我をさせてしまった事、そして自分の無力さがどうしようもなく悔しかった。
「そんな顔をするな。私は生きている。こんな怪我サリーが治してくれる。そうだろ?サリー」
バルデス様が残った左目で私を見つめる。
その青い瞳はいつもと変わらず、とても優しい色を浮かべている。
そして右手で私の頭を優しく撫でてくださった。
その温かさが嬉しくて、そして申し訳なかった。
「・・・はい!私にお任せください!」
今は悲しんでいられない。
一刻も早くバルデス様を治療しなければ!反省するのも後悔も後だ!
私の眼に力が入るのを見て、バルデス様は腕を下ろすと、そのまま後ろに壁にもたれかかった。
「・・・では、まずは足から頼もうか・・・フッ、これを抜くのは痛そうだ・・・」
左の腿に刺さっている木片は、形状から見ておそらく手すりの柵だろう。
バルデス様は息を止めてそれを右手で握ると、フッ!と一呼吸を発して一気に腿から引き抜いた。
その勢いで傷口からも真っ赤な血が飛び散り、私の顔にもかかるが、血を拭う時間も惜しい私は、そのまま足の傷の治療に入った。
最大で最速のヒールを!
全神経を集中して、バルデス様の足を治す。
回復の速さは、どれだけ正確に傷に魔力を行き渡らせるか。つまり魔力操作にかかっている。
魔力の高さももちろん関係はある。高い魔力持ちのヒールならば、それだけ回復量は多いからだ。
私の最大の魔力で、最速で傷口を塞ぐ!
「・・・フッ、サリーよ、良い魔力操作だ。成長・・・したな」
お言葉をかけられるけど、返事をして僅かでも集中を乱したくはない。
バルデス様も、私の気持ちを察してくださったのだろう。それ以上はお話しになる事はなく、少しでも体を休めるために目を閉じた。
「足は終わりました・・・次は腕ですね」
足の治療が終わると、バルデス様は左腕に刺さった木片を引き抜いた。
言葉には出さないけれどやはり相当痛むようで、顔は強張りお顔の汗もすごい。
私は少しでも早くバルデス様の苦痛が和らぐように、急いで腕の治療にあたった。
おそらく過去最高の速さで治療できていたと思う。
そして腕の傷口が塞がった頃、バルデス様は私の肩に手を置いて、そっと私を引き離した。
「・・・バルデス、様?」
腕の治療は今ちょうど終わったけれど、まだ目が残っている。
まだ血も止まっていないし、痛みは酷いはずだ。早くヒールをかけなければならない。
「・・・全く、あの男はよほど我々の邪魔をしたいらしいな」
「え?・・・まさか!?」
バルデス様の視線を追って後ろを振り返ると、通路の奥、数十メートル程先に何者かの姿が見えた。
それはフラフラと足元が定まらず、頼りない足取りで動いていた。
まるで亡霊のように生気のないその男は、光を失ったその目に憎しみを宿らせ、ただ一人だけに向けていた。
そう・・・自分をここまで追い込んだ憎き魔法使い・・・シャクール・バルデスを
「しつこいハゲだ。サリーよ、下がっていろ。ヤツは今度こそ私が仕留める」
ゆっくりと腰を上げるバルデス。
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