異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
601 / 1,364

600 命と尊厳

しおりを挟む
「・・・俺以外に生存者はいないのか?」

今自分のいるフロアを歩いて見て回る。
さっきまでは自分自身が混乱していたせいか目に入らなかったが、そこかしこに大勢の人の亡骸を見つけた。

そしてそのほとんどが、おそらく落下死だという事も察せられた。

身なりの良い男性はおそらく貴族だろう。首がおかしな方向にねじ曲がって息絶えていた。

全身を強く打ち付けたのだろう。両手両足が本来曲がらない方に曲がり、口から血の泡を吐いて事切れている女性もいた。

折れたイスの足に体を貫かれて死んでいる者。
ブロンズ像に頭を打ち付けて死んでいる者。
折り重なって死んでいる者達は、落下の時に上の者が下の者を押し潰したのかもしれない。

ポタポタと頭上から落ちて来る何かに気付いて顔を上げると、上の階の手すりにダラリと体をブラ下げている、男性の指先から滴り落ちている赤い流動体だった。
微動だにしないところを見ると、どうやら絶命しているようだ。


俺もこの世界に来て、協会では投獄されて理不尽な暴力を受けたり、パスタ屋では夢の世界に入って闇の中に飛び込んだり、偽国王との戦いでは、トレバーと偽国王の命を奪う事もした。

いくつかの修羅場を超えて、精神的にも強くなったと思っている。

けれど、これだけ大勢の死体を見ると、さすがにくるものがある。
だが、目を逸らさず見なければならない。なぜなら、仲間がいるかもしれないからだ。


「・・・・・誰も、いないのか?・・・ガラハドさんも」

俺と一緒にいたガラハドさんはどうした?
ここで見つからないという事は、あの時俺とは別の場所に落ちたのか?

船が転覆したのなら、どこに投げ飛ばされていてもおかしくはない。
けど、あの人も体力型だし、体格は俺よりずっといいからそう簡単に死ぬとは思えない。
・・・・・きっと無事だろう。


「・・・おやおや?生き残りがいたんですね」

一通り見て周り、仲間が誰もいない事を確認して、他のフロアに行こうとすると、ふいに後ろから聞こえた声に足が止まった。

振り返りその人物を目にして、俺もさすがに驚いた。

中分けで整えられたシルバーグレーの髪、白いシャツに青のドット柄のネクタイ、紺色のスーツを着ているその男は、ブロートン帝国の大臣、今回のクルーズ船の主賓、ダリルパープルズだった。




「ダリル・・・パープルズ・・・」

思わず言葉が口を突いて出ると、自分の名を呼ばれた事に、ダリル・パープルズは嬉しそうに頬を緩ませた。

「おやおや、私の名前を覚えてくださったのですね。ありがとうございます。それにしても、お互い命があって良かったですね。命は一つしかありません。大事にしないと」

手を差し出して、俺より10cm以上は高く見える体を大きく使い、ダリル・パープルズは乗船前の挨拶をした時のように話し出した。

一挙手一投足が計算されているかのように映えて見える。
日本にいれば、なんちゃらコンサルタントとでも名乗って、演説だけで食っていけそうな雰囲気だ。


そしてその両脇には、二人の護衛が立っていた。

一人は腰まである長く艶のある紫色の髪と、髪と同じ紫色の瞳をした女性。リコ・ヴァリン。
近くで見るとかなり若い。20歳にもなっていないかもしれない。

深紅のマントを風になびかせ、その体には丸みのある肩当てと胸当て、肘から下の腕当て、膝から下への脛当てを身に着けている。
そしてそれらの装備も全て深紅に染められていた。

周囲を警戒しつつ、俺に対してもなにかあればいつでも対処できるよう、油断なく気を張っている。

乗船前に、リンジーさんが言っていた。
リコ・ヴァリンと戦えば生存率はゼロ。死は免れない絶対的な殺戮者だと。



「・・・ダリル様、この男、他の乗客とは少し違っているようですねぇ、この状況でも落ち着いてますし、雰囲気が・・・もしやこの男がカーンの話していた侵入者ではぁ?」

俺の注意がリコ・ヴァリンに向いていると、もう一人の護衛が話し出した。
40歳くらいだろう。落ちくぼんだ目、黒く短く縮れた髪の毛、口周りにも同様の縮れた黒い髭が生えている。背はあまり高くなく、170cm無いくらいだろう。
ダリル・パープルズの隣に立つこの男は、ラルス・ネイリー。
ディリアンの魔法の師であり、因縁の相手だ。

頭の上から足の先まで、全身をくまなく見られる感覚に気持ちの悪さを感じる。
それは単に、男に見られるからというだけではない。

このラルス・ネイリーが俺を見る視線、それはアラタにとって、一つ嫌な記憶を思い出させた。




そう・・・あれは小学生の時だった、同級生にいつも一人で誰とも話さない男子がいたんだ。

大抵はいじめの標的になりそうなものだけど、あいつはそうならなかった。
ただ誰からも無視されていた。それはなぜか・・・誰も関わりたくなかったんだろう。

時折一人で笑っているところを見る事があるが、本当に何を考えているか分からず不気味なヤツだった。

ある日の学校の帰りに、俺は川原であいつが一人で、しゃがんで何かしているのを見かけた。

いつもなら放っておくのだが、この日の俺はなぜだかあいつが何をしているのか気になって、声をかけた。

【×××君、そこでなにしてるの?】

【・・・・・】

【・・・・・ねぇ、それなに・・・え?】


後ろから覗き込んで、それがカエルのだったと理解するのに、とても長い時間がかかったように思う。

カエルは石を並べて作った台座の上で、腹を切り裂かれて内臓を取り出されていた。

そう・・・それはカエルの解剖だった。


【新君・・・僕達の生まれる前は、学校の授業でカエルの解剖をやっていたんだよ。でも今は廃止されてしまった。楽しみにしていたのに、残念でしかたないよ。でも、ちょっと考えれば問題ない事だった。自分でカエルを捕まえてやればいいだけの事なんだよ。ちょうど今終わったところなんだ、どうだい?美しいと思わない?】


そこから先の事はあまり覚えていない。
けれど、あの時・・・振り返ったあいつの顔、あいつの目は・・・生き物を、命をなんとも思っていない目だった。

あいつにとってはただの解剖実験。
しかし俺にとってはそうではない。生き物が無残に殺されて、その腸を目にしてそうとう取り乱したのだと思う。
後から聞いた話しだが、俺は家に帰って泣き喚いていたらしい。
そしてその話しが親から学校へ行き、そこでどういう話しになったのかわからないが、ほどなくしてあいつは転校した。


もうあいつと会う事はないだろう
名前も思い出せない・・・アルバムを見ればわかるだろうけど、見る事はないだろう
ただ、あの時のあいつの目だけは生涯忘れる事はない

命を、自分の探求心を満たすものとしか考えていないあの目だけは・・・・・


「ラルス・ネイリー・・・・・」

拳を握りネイリーを睨みつけた。こいつが俺を見る目は、あの時のあいつと同じ目だ。

そしてこいつが、ディリアンの人生を狂わせた張本人。
ベナビデス家で沢山の人の命をもてあそんだ。

「おやぁ?私の事もご存じなのですねぇ?乗船前に私は名乗ってませんし、あなたとは初めて会うはずですよぉ?じゃあなんで私を知っているのでしょうねぇ?それはつまり・・・・・」

ネイリーは口の両端を三日月のように持ち上げて、嬉しそうにニヤ~と笑った。


「あなたが侵入者だから知ってたという事ですよねぇ?」


「ラルス・ネイリー・・・今まで何人の命を・・・尊厳を踏みにじってきた?お前はここで俺が倒す」

ポーチから黒い革のグローブを取り出す。
これはジャレットさんとシルヴィアさんが、光の力を使わなくてもいいようにと、俺のために作ってくれた魔道具だ。

何度か拳を握り感触を確かめると、俺は左手を前に、右手は顔の横に、右足を少し後ろに引いて、左半身を前にして構えた。ボクシング特有のステップを踏み、攻撃へのリズムを作る。


「・・・見た事のない構えですねぇ?あなたに興味が出てきました。どうやって戦うのですか?好奇心が高まってきましたよぉ」

ラルス・ネイリーは、目の前の獲物を好きに調理していい喜びに歓喜していた。
ネイリーにとって、アラタは実験体であると同時に、初めて見る構えをとった新種でもある。

「あぁ、教えてやるよ・・・これがボクシングだ!」

怒りを力に変えて・・・
アラタとネイリーがぶつかり合う!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...