異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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588 クラッカー

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「国王陛下、こちらが特等船室です。クルーズ中は、この部屋でお過ごしくださいませ」

「ふむ、少し狭いが・・・まぁ、悪くないではないか」

ロンズデール国王、リゴベルト・カークランドは、船の最上階に用意された特等船室に一歩足を踏み入れると、ぐるりと首を回してその内装に目を向ける。

広さにして50平方メートル。部屋は寝室と区切られている。
シャンデリアの淡い光が部屋を照らし、足が沈みそうな程柔らかい絨毯が敷き詰められいる。
壁際には白い大型のソファが置かれ、窓から見える大海原を、思う存分くつろいで眺める事ができる。

「どれ・・・ん、おぉ!このソファはなかなか良いな!ふむ、ここで海を眺めながら一杯できるのは、国王の特権というヤツかな?はっはっは!おぉ、クラッカーも置いてある」

上機嫌に笑い声を上げる国王カークランド。

今年で55歳。
大臣のバルカルセルは、歳を重ねるにつれて恰幅の良い体になったが、国王は逆に年々やせ細っていた。
背も決して高くはなく、170cmもないだろう。こけた頬に、どこか危うい光を放つ黒い目、肩まで伸びた中分けの髪は、白いものと黒いものが入り混じっていた。
顎にたくわえられた髭は丁寧に切り揃えられている。

その後ろでは、護衛の兵士が数人、直立で姿勢を正し控えていた。


「・・・ところで、カーンはどうした?」

それまで上機嫌で、にこやかに笑いながら、窓から見える海に目を向けていた国王だったが、突然の低い声に、問いかけられた兵士は背筋が凍る思いだった。

国王は前を向いたままだった。
しかし、指先一つ動かさず、兵士が答えるのただ黙って待っている。

それだけだった。
そして兵士はそれがとても恐ろしかった。

「・・・カ・・・カーンさ、様は・・・み、見回りに、出ております」

カラカラに乾いた喉で、その言葉だけをやっと絞りだす。

「・・・・・・・・・・見回り?」

「は、はい!・・・ふ、不法、侵入者が、い、いるかも、しれないと、申してました・・・」


「なんで?」


「・・・は、はい?なんで・・・と、申しますと?」

単語だけ返してくる国王に、その言葉の意味を問い返す。
すると、それまで前だけを見ていた国王が、ぐるりと首を回し、兵士に顔を向けて来た。

まるで感情の宿らない、その能面のような表情に、兵士の体に走るものは恐怖だった。

「なんでお前達ではなく、カーン自らが見回りしなければならないのだ?」

「も、申し訳ありません!カーン様は、不法侵入する可能性のある者に、心辺りがあるようでして・・・自分が行くべきだと・・・」

蛇に睨まれた蛙・・・
国王の目を見た兵士は、金縛りにあったかのように、まるで体を動かす事ができなかった。
頬を、背中を伝う汗は冷たく、全身の対応を奪っていく。
呼吸が浅く荒くなり、まるで喉元に刃物を当てられ、命の選択を迫られているかのような気分だった。


「・・・・・・・・・・・・・・・それじゃあ、しかたないな。お前も食うか?クラッカー」


しばしの沈黙の後、国王はテーブルに乗っていたクラッカーを一枚取ると、兵士に向ける。


「い・・・いえ・・・わ、私は・・・」

「どうした?あぁ、そうか・・・このままでは味気ないか。お前は何が好きだ?やはりチーズか?私はアボガドと生ハムだ。もちろんチーズも好きだ。チーズとアボガドと生ハムの相性は最高だぞ。分かるか?分からないのならば今食べてみろ。ちょうどここにあるから、私が作ってやろう?」

国王は備え付けのテーブルの上に置いてある皿に、クラッカーを一枚乗せると、生ハムでくるみ、その上にチーズとアボガドを慎重に丁寧に乗せる。
まるで、完成寸前のトランプタワーの最後の頂を、緊張に震える手で崩さないように息を止めて乗せるように。

「・・・できた。さぁ、食ってみろ」

宝物を見てくれとせがむ子供のような笑顔だった。
喜びに満ちた表情で、今自分が作ったクラッカーを、その手でつまみ、顔の前に差し出してくる国王に、兵士は恐怖で固まってしまい、返事すらできなくなってしまった。



い、一体、国王はどうしてしまったんだ?
ふ・・・普通じゃない・・・

これは本当に国王なのか?

全てはカーンが来てからだ・・・
あの男が国王に近づくようになってから、国王は変わってしまった

今までの国王は、気弱で優柔不断なところもあったが、少なくともまともではあった。

だが、今自分の目の前にいるこの国王は、とてもまともな人間には見えない

この目は・・・この感情の無い目はなんだ?まるで底の見えない暗い穴倉のようだ
口から出て来る言葉はまるで呪いだ・・・
一言聞く度に、体が蝕まれるような、強烈な不快感を全身に感じる

恐ろしい・・・・・俺は本当に目の前の、この国王の形をした得体の知れない存在が恐ろしい


「・・・どうした?さっさと口を開けろ・・・・・なぜ食わん?」

「い、いえ・・・い、いただき・・・」

国王はソファーから立ち上がると、兵士の唇にクラッカーを押し当てた。
口を開ければそのまま押し込められるだろう。だが、兵士は国王を国王と思っていない。
国王の形をした、別の存在だと感じている。
そんな得体の知れない存在から、何かを口に入れられる事に、強い拒否感を覚えていた。

いっこうに口を開けない兵士に苛立ちを感じたのか、国王の目がスッと細められると、兵士もまた身の危険を感じ、クラッカーを食べるしかないのかと諦めかけた。


その時だった。


「あれはなんだ?」
「蝶・・・?」
「魔力を帯びてないか?」

他の兵士達のざわめきに顔を上げると、紫色の淡い光を放つ蝶が、ひらひらと室内を飛び回っていた。

「!?・・・陛下!敵からもしれません!お隠れ・・・おごっつ!?」


な、なんだ・・・!?


突然頬を掴まれ、それと同時に口の中に何かを入れられる。
舌に感じる塩気と甘み・・・


こ、これは・・・まさか!?


「どうだ?美味いだろ?」


兵士の頬を掴み、その口にクラッカーを押し込んだ国王は、底無し沼のように黒くよどんだ目で、兵士を見つめ、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。
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