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583 ラミール・カーンと魔道剣士四人衆
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トップを残しサイドを刈り上げた、黒に近いダークグレーの髪。
やや色黒で、背丈は180cm程だろう。
鼻の下には丁寧に切りそろえられた髭、顎の回りにも同様に揃えられた髭が、耳に向かって伸びている。
丸みのある肩当て、肘から手首にかけてのアームガード。胸当て。
腰から下にもしっかりと防具は付けられていて、全て銀でできている。
そして左の腰には大剣が下げられていた。
ラミール・カーン。
自らが作り出し、今では大きく勢力を伸ばしている魔道剣士隊の長である。
「ここで何をしていると聞いているんだ。ん、赤い髪の女、お前は見覚えがあるな。そうだ、以前リンジー達とここに来たな。性懲りもなくまた来るとはな。何をしに来た?」
「そのリンジーさんに会いに来ただけだよ」
「なぜだ?なぜ会いに来る必要がある?目的はなんだ?」
「友達だから」
「貴様、舐めてるのか?」
凄みながら問いかけるカーン。しかし、レイチェルは眉一つ動かさずに淡々と、最低限の言葉だけを返した。
この時期にわざわざリンジー達に会いに来るなど、帝国との事しかない。
なにか企てていると思ったカーンだが、自分の威圧にも全く怯むことなく、涼しい顔しているレイチェルに、簡単に口を割る事はないと手ごわさを感じた。
「カーン様、その女は誰ですか?ずいぶん無礼な口を利いてますが?」
カーンが大剣に手をかけたその時、カーンの後ろ、通路の陰から4人の男女が姿を現した。
「・・・ララか、この女は俺が斬る。手出し無用だ」
「命令とあらば従います。ですが、わざわざカーン様のお手を煩わせる程ではないかと。このララにお命じ下さいませ。そっ首刎ねてごらんに入れます」
ララとは、女性のような名だが、色黒で坊主頭で長身の男だった。30歳程だろう。
非常に背が高く200cmはあるように見える。手足が長く筋肉がついてはいるのだが、太くはなく縦に長く伸びている印象だ。
鎧など防具は一切身に着けていない。
そして城内とはいえ12月の寒さの中、袖の無い足首近くまで隠れる、絹のように光沢のあるゆったりとした白い一枚布を、体に巻き付けるようにして身に纏っている。
眉は無くその落ちくぼんだ眼で、レイチェルにあからさまな殺意を向けている。
「おいおいララ、抜け駆けはいけねぇな。俺が見たところ、その赤毛はけっこうな使い手だぜ?俺に譲れよ。最近骨のあるヤツがいなくてつまんねぇんだ」
軽薄な笑みを浮かべてララの肩に手をかけたのは、まるで頭にかぶっているかのように、クルクルとしたボリュームのある茶色の髪の男である。ララより少し若く見える。
ララの隣に立つと小さく見えるが、この男も180cmはあるだろう。黒い長袖シャツの上に、ポケットの多い革製のベストを着ており、茶色のカーゴパンツの腰には、手斧が下げられていた。
「プラット、大切な事はカーン様のお手を煩わせない事です。あなたがこの女に裁きを与えられるのならば、このララ、よろこんで役目を譲りましょう」
慇懃に腰を曲げ、道を譲るかのように手を差し出すララに、軽い調子の声がかけられる。
「待ちなさいよ。ララ、プラット。相手が女なら、同じ女のアタシにやらせなさいよ。アタシと戦えそうな女なんて、めったにいないんだからさー」
「おいおい、ラクエル。早い者勝ちだろ?お前には隣のガキをやるからよ。見たところ魔法使いだけど、そこそこやりそうだぞ」
ラクエルは肩まであるウェーブがかった濃い金髪を掻き揚げ、眉を寄せて露骨に顔をしかめて見せた。
「えー!なにそれー!超白けるしー。アタシは子守りー?」
おそらくはレイチェルと同じくらいの歳だろう。カーン側で明らかに一番若い。
膝まである長い赤のカーディガンに袖を通し、インナーの白のセーターは、細身の体のラインにフィットしている。七分丈の黒のパンツの腿にはベルトが巻かれており、小振りのナイフが刺し収められていた。
ラクエルはそのパッチリとした目で、ディリアンを品定めするように見やるが、顔には不満がありありと浮かんでいる。
「この!なめてんじゃねーぞ!」
ラクエルに挑発めいた言葉にディリアンが一歩前に踏み出す。
「あれ?本当にやんの?」
それを見て、ラクエルも小ばかにするように鼻で笑うと、それまで口を閉ざしていた、カーンの後ろに立つ老人の叱責が飛んだ。
「やめんか!カーン様の前でみっともない!」
70歳は過ぎているだろう。
長い白髪は頭の後ろで一本に結ばれ、膝まで届く程に伸びている。
武術の稽古でもするかのような、紺色の上下のシンプルな服装をしており、たすき掛けにした革のベルトを通して、背中には少し短めの二本の槍を挿している。
その鋭い眼光は、年齢による衰えなど感じさせないような強いプレッシャーを放ち、ラクエルを牽制していた。
「・・・チッ、ヘイモン爺はうるさいなぁ。はいはい、分かりましたよ」
ラクエルは戦いを放棄するように、片手をひらひらさせながら、一歩後ろに下がった。
「すまんなお客人、ワシの名はアロル・ヘイモン。仲間の非礼は詫びよう。どうやら他国の人のようだが、この城に何用かな?我ら魔道剣士隊は、この国を護るために知る必要があるのでな」
ヘイモンと呼ばれた老人は、ゆっくりと散歩でも楽しむかのようにレイチェルの前まで歩いてくると、少し顎を上げて人の好さそうな笑みを見せる。
おそらく150cm程度だろう。見下ろす形になったが、レイチェルは目の前の小柄な老人に対して、瞬きすら許されない程の緊張感を持った。
・・・・・強い
女である自分よりも背が低い小柄な老人だが、強いという事だけは肌で感じ取れた。
「私はレイチェル・エリオットだ。さっきもそこの男に説明したけど、私達はリンジーさんの友達でね。彼女に会いに来ただけだよ」
「ふむふむ、リンジー・ルプレクトだな。あの娘っ子の友人とな?それで、もう会えたのかね?」
「あぁ、もう会ったよ。外の空気を吸いに出ただけなんだ。部屋に戻ろうとしたところで声をかけられてね・・・あなた方は魔道剣士隊って言ってたけど、まとめ役ってとこかい?」
おそらくカーンを中心に、この四人が幹部なのだろう。
雰囲気から見当はついたが、確信を得るためにレイチェルは探りを入れた。
「その通りだ。カーン様は魔道剣士の長。そしてワシら四人が、カーン様を支える魔道剣士隊の四人衆だ。赤毛の娘っ子、部屋に戻ったらリンジー殿に伝えてくれ。ワシら魔道剣士隊、クルーズ船を必ず成功させて見せる・・・とな」
それは、来れるものなら来てみろ。
確たる実力に裏打ちされた、揺るがない自信。
言葉ではなく、ヘイモンの顔がそう告げていた。
「承知した。そう伝えよう」
受けて立つレイチェルは、そう一言だけ返した。
交わす言葉こそ穏やかなものであったが、両者の間には目には見えない激しい攻防があった。
「・・・もう行ってもいいかな?」
「うむ、足止めをしてしまったな」
しばしの時を置き、示し合わせたように両者が同時に気を解いた。
たった今までぶつかりあった相手に背を向けるのは、ある種の信用。
去り行くレイチェルとディリアンの背には、突き刺さるような視線が向けられていたが、結局最後まで攻撃を受ける事はなかった。
「ヘイモン、お前が背中を向けた相手を見逃すとはな。あの女、それほどか?」
レイチェル達の姿が見えなくなると、ラミール・カーンは傍らに立つヘイモンを見下ろした。
「はい。リンジー達と繋がりがあるという事は、十中八九、ヤツらは大臣派。クルーズ船での会合を潰しに来たのでしょう。ならばここで消しておく事が最適です。しかしあの赤毛の娘、あの若さであの領域とは・・・・・背を向けてもまるで隙がありませんでした。仕掛けたとして、こちらも無事ではすまなかったでしょう」
「そうだな。俺も機を伺ったが、背中に目でもついているのかと思う程だった。あの女が大臣派の最高戦力だろう。あんなのがいるのなら、本気でクルーズ船を潰しにくると考えた方がいいな」
ラミール・カーンと魔道剣士四人衆は、レイチェル・エリオットという強敵と対峙し、警戒以上に強者との出会いに歓喜の表情を浮かべていた。
やや色黒で、背丈は180cm程だろう。
鼻の下には丁寧に切りそろえられた髭、顎の回りにも同様に揃えられた髭が、耳に向かって伸びている。
丸みのある肩当て、肘から手首にかけてのアームガード。胸当て。
腰から下にもしっかりと防具は付けられていて、全て銀でできている。
そして左の腰には大剣が下げられていた。
ラミール・カーン。
自らが作り出し、今では大きく勢力を伸ばしている魔道剣士隊の長である。
「ここで何をしていると聞いているんだ。ん、赤い髪の女、お前は見覚えがあるな。そうだ、以前リンジー達とここに来たな。性懲りもなくまた来るとはな。何をしに来た?」
「そのリンジーさんに会いに来ただけだよ」
「なぜだ?なぜ会いに来る必要がある?目的はなんだ?」
「友達だから」
「貴様、舐めてるのか?」
凄みながら問いかけるカーン。しかし、レイチェルは眉一つ動かさずに淡々と、最低限の言葉だけを返した。
この時期にわざわざリンジー達に会いに来るなど、帝国との事しかない。
なにか企てていると思ったカーンだが、自分の威圧にも全く怯むことなく、涼しい顔しているレイチェルに、簡単に口を割る事はないと手ごわさを感じた。
「カーン様、その女は誰ですか?ずいぶん無礼な口を利いてますが?」
カーンが大剣に手をかけたその時、カーンの後ろ、通路の陰から4人の男女が姿を現した。
「・・・ララか、この女は俺が斬る。手出し無用だ」
「命令とあらば従います。ですが、わざわざカーン様のお手を煩わせる程ではないかと。このララにお命じ下さいませ。そっ首刎ねてごらんに入れます」
ララとは、女性のような名だが、色黒で坊主頭で長身の男だった。30歳程だろう。
非常に背が高く200cmはあるように見える。手足が長く筋肉がついてはいるのだが、太くはなく縦に長く伸びている印象だ。
鎧など防具は一切身に着けていない。
そして城内とはいえ12月の寒さの中、袖の無い足首近くまで隠れる、絹のように光沢のあるゆったりとした白い一枚布を、体に巻き付けるようにして身に纏っている。
眉は無くその落ちくぼんだ眼で、レイチェルにあからさまな殺意を向けている。
「おいおいララ、抜け駆けはいけねぇな。俺が見たところ、その赤毛はけっこうな使い手だぜ?俺に譲れよ。最近骨のあるヤツがいなくてつまんねぇんだ」
軽薄な笑みを浮かべてララの肩に手をかけたのは、まるで頭にかぶっているかのように、クルクルとしたボリュームのある茶色の髪の男である。ララより少し若く見える。
ララの隣に立つと小さく見えるが、この男も180cmはあるだろう。黒い長袖シャツの上に、ポケットの多い革製のベストを着ており、茶色のカーゴパンツの腰には、手斧が下げられていた。
「プラット、大切な事はカーン様のお手を煩わせない事です。あなたがこの女に裁きを与えられるのならば、このララ、よろこんで役目を譲りましょう」
慇懃に腰を曲げ、道を譲るかのように手を差し出すララに、軽い調子の声がかけられる。
「待ちなさいよ。ララ、プラット。相手が女なら、同じ女のアタシにやらせなさいよ。アタシと戦えそうな女なんて、めったにいないんだからさー」
「おいおい、ラクエル。早い者勝ちだろ?お前には隣のガキをやるからよ。見たところ魔法使いだけど、そこそこやりそうだぞ」
ラクエルは肩まであるウェーブがかった濃い金髪を掻き揚げ、眉を寄せて露骨に顔をしかめて見せた。
「えー!なにそれー!超白けるしー。アタシは子守りー?」
おそらくはレイチェルと同じくらいの歳だろう。カーン側で明らかに一番若い。
膝まである長い赤のカーディガンに袖を通し、インナーの白のセーターは、細身の体のラインにフィットしている。七分丈の黒のパンツの腿にはベルトが巻かれており、小振りのナイフが刺し収められていた。
ラクエルはそのパッチリとした目で、ディリアンを品定めするように見やるが、顔には不満がありありと浮かんでいる。
「この!なめてんじゃねーぞ!」
ラクエルに挑発めいた言葉にディリアンが一歩前に踏み出す。
「あれ?本当にやんの?」
それを見て、ラクエルも小ばかにするように鼻で笑うと、それまで口を閉ざしていた、カーンの後ろに立つ老人の叱責が飛んだ。
「やめんか!カーン様の前でみっともない!」
70歳は過ぎているだろう。
長い白髪は頭の後ろで一本に結ばれ、膝まで届く程に伸びている。
武術の稽古でもするかのような、紺色の上下のシンプルな服装をしており、たすき掛けにした革のベルトを通して、背中には少し短めの二本の槍を挿している。
その鋭い眼光は、年齢による衰えなど感じさせないような強いプレッシャーを放ち、ラクエルを牽制していた。
「・・・チッ、ヘイモン爺はうるさいなぁ。はいはい、分かりましたよ」
ラクエルは戦いを放棄するように、片手をひらひらさせながら、一歩後ろに下がった。
「すまんなお客人、ワシの名はアロル・ヘイモン。仲間の非礼は詫びよう。どうやら他国の人のようだが、この城に何用かな?我ら魔道剣士隊は、この国を護るために知る必要があるのでな」
ヘイモンと呼ばれた老人は、ゆっくりと散歩でも楽しむかのようにレイチェルの前まで歩いてくると、少し顎を上げて人の好さそうな笑みを見せる。
おそらく150cm程度だろう。見下ろす形になったが、レイチェルは目の前の小柄な老人に対して、瞬きすら許されない程の緊張感を持った。
・・・・・強い
女である自分よりも背が低い小柄な老人だが、強いという事だけは肌で感じ取れた。
「私はレイチェル・エリオットだ。さっきもそこの男に説明したけど、私達はリンジーさんの友達でね。彼女に会いに来ただけだよ」
「ふむふむ、リンジー・ルプレクトだな。あの娘っ子の友人とな?それで、もう会えたのかね?」
「あぁ、もう会ったよ。外の空気を吸いに出ただけなんだ。部屋に戻ろうとしたところで声をかけられてね・・・あなた方は魔道剣士隊って言ってたけど、まとめ役ってとこかい?」
おそらくカーンを中心に、この四人が幹部なのだろう。
雰囲気から見当はついたが、確信を得るためにレイチェルは探りを入れた。
「その通りだ。カーン様は魔道剣士の長。そしてワシら四人が、カーン様を支える魔道剣士隊の四人衆だ。赤毛の娘っ子、部屋に戻ったらリンジー殿に伝えてくれ。ワシら魔道剣士隊、クルーズ船を必ず成功させて見せる・・・とな」
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確たる実力に裏打ちされた、揺るがない自信。
言葉ではなく、ヘイモンの顔がそう告げていた。
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交わす言葉こそ穏やかなものであったが、両者の間には目には見えない激しい攻防があった。
「・・・もう行ってもいいかな?」
「うむ、足止めをしてしまったな」
しばしの時を置き、示し合わせたように両者が同時に気を解いた。
たった今までぶつかりあった相手に背を向けるのは、ある種の信用。
去り行くレイチェルとディリアンの背には、突き刺さるような視線が向けられていたが、結局最後まで攻撃を受ける事はなかった。
「ヘイモン、お前が背中を向けた相手を見逃すとはな。あの女、それほどか?」
レイチェル達の姿が見えなくなると、ラミール・カーンは傍らに立つヘイモンを見下ろした。
「はい。リンジー達と繋がりがあるという事は、十中八九、ヤツらは大臣派。クルーズ船での会合を潰しに来たのでしょう。ならばここで消しておく事が最適です。しかしあの赤毛の娘、あの若さであの領域とは・・・・・背を向けてもまるで隙がありませんでした。仕掛けたとして、こちらも無事ではすまなかったでしょう」
「そうだな。俺も機を伺ったが、背中に目でもついているのかと思う程だった。あの女が大臣派の最高戦力だろう。あんなのがいるのなら、本気でクルーズ船を潰しにくると考えた方がいいな」
ラミール・カーンと魔道剣士四人衆は、レイチェル・エリオットという強敵と対峙し、警戒以上に強者との出会いに歓喜の表情を浮かべていた。
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