異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
581 / 1,364

580 恩人へ

しおりを挟む
「・・・もういいぞ。辛い事をよくそこまで話してくれたな。ありがとう。ディリアン」

背中から右手を回して、ディリアンの右肩を抱くようにすると、ビリージョーは労わるように優しく言葉をかけた。

ジェシカという名前から、それが女性だと分かる。
そしてこのディリアンの激昂を見るからに、よほど大切な人だったとも・・・・・

「お前が話してくれたおかげで、みんなラルス・ネイリーがどんな人間か知る事ができた。ありがとう」

本当はもう少し詳しい話しを聞く必要がある。
だが、この状態のディリアンに、これ以上の話しは負担が大きいと判断し、ビリージョーは話しを止めた。

「ディリアン、私も礼を言おう。キミの話してくれた情報は、敵を知る上で非常に大きなものだった。しかし、辛い事を思い出してしまっただろう。外の空気でも吸いに行くといい」

レイチェルが許可を求めるようにバルカルセルに顔を向けると、バルカルセルもその目を見て、黙って頷いた。

ディリアンはまだ口を開く気になれないらしく、俯いて無言のまま席を立つと、そのままふらふらと力無い足取りで、扉を開けて出て行った。

「・・・みんな、話しの途中で悪いが、私も行ってくるよ。ディリアンの抱えている問題は、私達が思っている以上に深刻のようだ」

「あぁ、こっちはまかせて行ってくれ。今は一人にしない方がいいと思う」

アラタはディリアンが出て行った扉を見ながら、レイチェルに早く行くように伝えた。

「話しは進めておいてくれ。私はあとでまとまった報告を聞くとしよう。頼んだよ」

みんなの顔を見てそう告げると、レイチェルはディリアンの後を追い、足早に執務室を出て行った。




「・・・面倒見の良い娘さんだな」

バルカルセルは、テーブルに置かれた紅茶のカップを取ると、誰に言うでもなく呟いた。

「はい、レイチェルには俺も助けられました。ズバズバ言うところがありますけど、困ってる人を放っておけないんです。実は俺・・・」

自分自身も助けられた経緯、そして日本からこの異世界プライズリング大陸に来た事を話す。
初めて事情を聞く者達は、荒唐無稽としか言い様のない話しに困惑を隠せずにいた。
だが、バルカルセルは驚きはしたが、なにか思うところがあるらしく、顎をつまんで低く唸った。

「ふぅ~む・・・アラタ殿、その話し、ワシは疑わない。ニホンと言う国は初めて聞いたし、異世界だなんて突拍子もない話しだ。だが、その光の力は知っておる。だから信じられる」

「え?それって・・・どういう事ですか?」


「もう一人・・・キミと同じ光の力を持った男を、知っているという事だ」


バルカルセルはアラタの目を真っ直ぐに見て、その男の名を口にした。

「ブロートン帝国、第七師団長、デューク・サリバン。数年前、突如帝国に現れたあの男は、拳一つで今の地位を勝ち取ったそうだ・・・その拳が光輝く時、何人もかの者の前に立つことは許されない・・・帝国では、こうまで言われる程の男だ」


デューク・サリバン・・・・・
その名を耳にした瞬間、アラタは心臓が跳ね上がる程の衝撃を体に感じた。


村戸修一は、今はデューク・サリバンと名乗っていると・・・

以前、マルコス・ゴンサレスから聞いたその言葉が、思い起こされる。



村戸修一は、アラタが日本にいた時に働いていたリサイクルショップ・ウイニングの店長だった男である。
その村戸修一がアラタと同じこの世界に来ている事は、マルコス・ゴンサレスから聞いていた。
そして現在は、ブロートン帝国の皇帝、ダスドリアン・ブルーナーの最側近として仕えているという事も。

「そっ!その・・・その男は・・・ど、どんな男、なんですか・・・?」

思わず席を立つアラタ。額には汗も浮かび、両の拳を握り締め、その目には好奇心以上に、戸惑いの色が見て取れる。

「・・・・・知り合いなのかね?」

「そう・・・なのかも、しれません・・・」

ただならぬ様子のアラタに、バルカルセルは一つ息を付くと、自分の知るデューク・サリバンについて話し出した。

「・・・ワシが会ったのは、もう何年も前だがな。帝国の前皇帝、ローレンス・ライアンが崩御し、その後に皇帝の座に着いたダスドリアン・ブルーナーの祝賀会の時だ。常に皇帝の傍らに立っていて、妙に存在感のある男で気になってな、周りの者に聞いたのだ。すると、ダスドリアンが拾った素性不明の男だという。当然帝国兵から不満は出たそうだ。なんせ突如現れたどこの馬の骨とも分からん男を、突然第七師団長に任命し、さらに皇帝の側近にあてがうというのだからな。だが、その全てをデューク・サリバンは力でねじ伏せ黙らせたそうだ。当時の第七師団長も含めてな・・・」

そこで言葉を区切ると、バルカルセルは何かを確認するように、アラタの目をじっと見つめた。

「・・・なんとなくだが、キミとデューク・サリバンは似ている気がする。背格好はまるで違うが、身に纏っている空気が我々とはどこか違う・・・・・デューク・サリバンは、歳は三十代後半から四十といったところだ。背丈はキミより少し高いが、体つきはまるで違う。デューク・サリバンは全身が筋肉の鎧のようなものだった。黒髪を無造作に後ろで束ねていたな。どうだ?デューク・サリバンはキミの知っている者にいるかね?」




直感だが、やはり村戸さんだと思った。
村戸さんが10年前にこの世界に来たという、マルゴンの説明通りなら現在の年齢は合う。
身長も俺より高い。全身筋肉の鎧というのは、俺の知っている村戸さんよりずいぶん鍛えられているようだが、こっちの世界に来てからそうとう鍛えたのだろう。
坊主頭だったが、今は伸ばしているようだ。

マルゴンの話しを疑ったわけではないが、やはりデューク・サリバンは、俺の知っている村戸さんだ。

「・・・はい。デューク・サリバンは、本名を村戸修一と言って、俺の元いた世界の上司です。俺と同じく、ボクシングという拳だけの戦闘技術を使います」

「そうか・・・キミの同郷の者だったのか。それで得心がいったよ。あやつはこの世界には異質過ぎる・・・皇帝が動かなければ、デューク・サリバンも動く事はない。あやつが今回のクルーズ船に来る事はないが、キミが戦い続ければ、いずれ相まみえる事はあるだろう・・・覚悟はしておいた方がいいぞ。キミの知るデューク・サリバンが、どのような人物だったからは知らないが、今のヤツは力で全てを解決する男だからな」

大臣から告げられた覚悟という言葉は、俺と村戸さんがいずれ戦うであろう事をさしたものだ。

俺が村戸さんと・・・・・戦う。
できるのか?

村戸さんは俺の恩人だ。
俺が日本でどれだけのものをもらったか・・・村戸さんがあの時声をかけてくれなかったら、俺は弥生さんとも会えなかったし、今も中途半端で何をやっても続かない死んだような毎日を送っていたはずだ。

村戸さんがいたから今の俺がいる。

そんな恩人に対して、この拳を向ける事が俺にできるのか?


「・・・アラタ殿。デューク・サリバンは、キミにとって相当恩深い人のようだ。顔を見れば分かる。ひどく困惑しているようだが、その人を信じたい。そんな顔をしているよ」

大臣は、年を重ねた者だからこその、優しい顔を俺に向けた。
人当たりの良いその笑顔に、俺は緊張が少し和らいだ感じがした。

「・・・気持ちを整理しておきます。俺、村戸さんとはできれば戦いたくないです。けど、そうも言ってられない状況もあるでしょうから」

「そうか・・・うむ、そうしておきなさい。心構えは作っておいたほうがいい。今回あやつが来ない事はキミにとって、良かったと思うぞ」

その言葉に俺は、はい、と頷いた。

そうだ・・・俺には今護るべき大切な人がいる。居場所もある。

村戸さんには返しきれない程の恩がある。けれど、カチュアを、レイジェスのみんなを護るためだったら、俺は村戸さんとだって戦ってみせる。

戦わなければならない・・・・・

そう自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

処理中です...