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575 レイジェスへの報告
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『ウィ~ッス!悪い悪い待った?いや、事務所入ったら鏡入れた箱光ってっからさ、急いで出したんだけどよ。待たせてたら悪かったね。あ、ノンノンじゃん?どうしたの?』
間の抜けた感じで話し出すジャレットに、シャノンを始め、全員が軽い溜息をついた
「えっと、ジャレットさん、その、ノンノンての止めてくれないかな?」
『え、なんで?いいじゃん。可愛いと思うぜ俺は』
ジャレットにノンノンと渾名を付けられたシャノンが、やや引きつった顔で文句を言うが、ジャレットはまるで気にもせず、すまし顔で言葉を返す。
アラタ達がロンズデールに行くまでの数週間に、レイジェスのメンバーは、シャノンを始めリンジー達とも、写しの鏡を通じて顔合わせは済ませていたのだ。
しかし、シャノンはまさか、直接は会っておらず、数回挨拶程度の言葉を交わしただけの男に、ノンノンと呼ばれるとは、夢にも思っていなかった。
『ちょっと、ジャレット、どいてくれるかしら?私が話すわ。あなたメインレジに行ってなさい』
『え、なんだよシーちゃん、ここは責任者の俺が・・・』
『ジャレット、私氷魔法が得意なの』
『ちょっ!分かった!分かったから!』
ホログラムのような淡い光で映し出されるチャライ男の姿が、ウェーブがかった長い髪の、儚げな印象の女性に切り替わる。
レイジェスの黒魔法担当、シルヴィア・メルウィーである。
『シャノンさん、ごめんなさいね。ジャレットだと話しが進まなそうだったから、私がお話しを聞きますね』
「シルヴィアさん、すみませんね。コホン、ではまず、レイチェルさん達は無事にロンズデールに到着しました。安心してください」
担当がシルヴィアに変わり、シャノンは、ふぅ、と息を付いて、気を引き締め直すように咳払いをして話し始めた。
仲間が無事に目的地に着いた事を聞き、シルヴィアの表情に安堵の色が広がる。
「こちらに滞在中は、我々アラルコン商会が宿を提供します。宿泊代は大臣が負担してくれますので、ご安心ください。では、現在の我々の状況をお話しします」
国王派の筆頭ラミール・カーンが大海の船団と手を組み、ブロートン帝国の要人を迎えて、大型客船でのクルーズを行う事。
そしてカーンとウラジミールの二人は、そのクルーズ船で自分達の帝国での立場を確保しつつ、ロンズデールを帝国の属国として売り渡す事を企てている。
シャノン達はそのクルーズ船に乗り込み、なんとしてもその目論見を潰す事を計画している。
シャノンはそこまでをシルヴィアに伝えると、写しの鏡に映るシルヴィアを形作る淡い光は、シルヴィアの心情を表すかのように揺れ動いた。
『・・・ずいぶん危険なのね。それに、船の中で戦闘になるんじゃないかしら?大丈夫なの?』
シルヴィアの危惧している事は当然と言えば当然である。
船内で戦えば、無関係の人達も巻き込みかねない。更に戦闘になった場合、最悪船が沈む事も考えられる。
「シルヴィアさん、うん。当然の心配ですね。もちろん戦闘になる可能性がゼロとは言えません。ですが、私達も最初から戦うつもりはありません。国王さえ説得できればいいんです。帝国との話しも国王が首を縦に振らなければ流れます。それに、カーンもウラジミールも、船で戦おうとはしないでしょう。だって、自分達も危ないのですから。それに、帝国の要人や、大勢の貴族も集まるのです。彼らを危険にさらして得する事はありませんからね」
『・・・なるほど。シャノンさん、そこまで考えてらっしゃるんですね。さすがです。でも、それでしたら、船に乗る前に国王の説得はできなんですか?』
「難しいですね。最近はリンジーさん達もお目通りできないようなんです。バルカルセル大臣が話しそうとしても、帝国関係の話しになると、まともに聞いてもらえず逃げられるそうで。だから、絶対に逃げようのない海の上で決行する事にしました。それに、ちょうどいい機会だとも思ったんです。そのまま帝国の要人に、今後のロンズデールの立場を明確に伝えてやれますから。国王は何が何でも説得しますよ」
強く確かな言葉で話すシャノン。
その目をじっと見つめるシルヴィアは、やがてコクリと頷いた。
『・・・分かったわ。シャノンさん、そこまで言い切るんなら、あなたを信じます。ただ、レイチェルもアラタ君もレイジェスに必要な人材だし、大切な仲間なの。あまり無理はさせないでくださいね』
「はい。本来ロンズデールの人間だけで解決しなければならない事ですから。必ず無事にレイジェスにお返しします」
『・・・シャノンさんは強くてしっかりした方ですね』
「あははは、そんな事ないですよ。がむしゃらにやってるだけで。ただ、この国を護りたい。それだけです」
写しの鏡を通じて言葉を交わす二人の女性。その心根は互いに通じ合い、お互いに信頼を深め合う。
「・・・じゃあ、今日はこの辺で。シルヴィアさん、また会いましょう」
『あ、ちょっと待って』
ひとしきり話し、シャノンが通信終えようとすると、シルヴィアが手を前に出してシャノンを止めた。
「ん、どうしました?」
『シャノンさん、すみませんが、アラタ君に代わってもらえますか?』
「あ、いいですよ。お兄さん、ご指名だよ」
「あ、はい」
シャノンが後ろに下がり、アラタが鏡の正面に移動すると、そこには少しクセのあるオレンジ色の髪をした女の子が立っていた。
パッチリとした薄茶色の瞳、形の良い桜色の唇は、小さな微笑みを浮かべている。
「カチュア!」
『シルヴィアさんが写しの鏡使ってたから、お願いしてちょっと代わってもらったの。忙しい時にごめんね』
「いや、そんな、元気?あ、俺なに聞いてんだ?」
『あはは!アラタ君、大丈夫だよ。私は元気だから。あのね、ケイトさんにシルヴィアさんにユーリ、それにエルちゃんもね、毎日うちに来てくれるんだよ。こっちは心配しないで大丈夫だから、アラタ君はアラタ君のやるべき事を頑張ってね』
「・・・そっか、うん。みんな良い人だよな。うん、良かった。カチュア、俺頑張るな」
カチュアの笑顔にアラタも自然と顔がほころんだ。
クインズベリーを発つ時、大丈夫だと安心できていたつもりだった。
だが、心のどこかで気にはなっていた。
今、目の前にいるカチュアは、無理をしていない自然の笑顔を見せていた。
アラタのまた普段通り、自然な笑顔をカチュアに見せていた。
『アラタ君・・・私のお願いは一つだけだよ』
「うん・・・ちゃんと帰るよ」
『怪我をしないで元気にだからね?』
「う~ん・・・怪我はするかもしれない。けど、絶対元気に帰るよ」
そこは分かったって言って欲しかったな。と少しアラタを睨むカチュア。
・・・ごめん。でも、絶対に元気に帰るから
・・・うぅん、私もいじわる言っちゃった
・・・でも、約束は守るから
・・・知ってるよ。アラタ君は約束を守ってくれるもんね
・・・カチュア
・・・うん
・・・帰ったら結婚式を挙げよう
・・・うん。私、待ってるね
優しく微笑むカチュアを見て、アラタは心が温かく満たされた
間の抜けた感じで話し出すジャレットに、シャノンを始め、全員が軽い溜息をついた
「えっと、ジャレットさん、その、ノンノンての止めてくれないかな?」
『え、なんで?いいじゃん。可愛いと思うぜ俺は』
ジャレットにノンノンと渾名を付けられたシャノンが、やや引きつった顔で文句を言うが、ジャレットはまるで気にもせず、すまし顔で言葉を返す。
アラタ達がロンズデールに行くまでの数週間に、レイジェスのメンバーは、シャノンを始めリンジー達とも、写しの鏡を通じて顔合わせは済ませていたのだ。
しかし、シャノンはまさか、直接は会っておらず、数回挨拶程度の言葉を交わしただけの男に、ノンノンと呼ばれるとは、夢にも思っていなかった。
『ちょっと、ジャレット、どいてくれるかしら?私が話すわ。あなたメインレジに行ってなさい』
『え、なんだよシーちゃん、ここは責任者の俺が・・・』
『ジャレット、私氷魔法が得意なの』
『ちょっ!分かった!分かったから!』
ホログラムのような淡い光で映し出されるチャライ男の姿が、ウェーブがかった長い髪の、儚げな印象の女性に切り替わる。
レイジェスの黒魔法担当、シルヴィア・メルウィーである。
『シャノンさん、ごめんなさいね。ジャレットだと話しが進まなそうだったから、私がお話しを聞きますね』
「シルヴィアさん、すみませんね。コホン、ではまず、レイチェルさん達は無事にロンズデールに到着しました。安心してください」
担当がシルヴィアに変わり、シャノンは、ふぅ、と息を付いて、気を引き締め直すように咳払いをして話し始めた。
仲間が無事に目的地に着いた事を聞き、シルヴィアの表情に安堵の色が広がる。
「こちらに滞在中は、我々アラルコン商会が宿を提供します。宿泊代は大臣が負担してくれますので、ご安心ください。では、現在の我々の状況をお話しします」
国王派の筆頭ラミール・カーンが大海の船団と手を組み、ブロートン帝国の要人を迎えて、大型客船でのクルーズを行う事。
そしてカーンとウラジミールの二人は、そのクルーズ船で自分達の帝国での立場を確保しつつ、ロンズデールを帝国の属国として売り渡す事を企てている。
シャノン達はそのクルーズ船に乗り込み、なんとしてもその目論見を潰す事を計画している。
シャノンはそこまでをシルヴィアに伝えると、写しの鏡に映るシルヴィアを形作る淡い光は、シルヴィアの心情を表すかのように揺れ動いた。
『・・・ずいぶん危険なのね。それに、船の中で戦闘になるんじゃないかしら?大丈夫なの?』
シルヴィアの危惧している事は当然と言えば当然である。
船内で戦えば、無関係の人達も巻き込みかねない。更に戦闘になった場合、最悪船が沈む事も考えられる。
「シルヴィアさん、うん。当然の心配ですね。もちろん戦闘になる可能性がゼロとは言えません。ですが、私達も最初から戦うつもりはありません。国王さえ説得できればいいんです。帝国との話しも国王が首を縦に振らなければ流れます。それに、カーンもウラジミールも、船で戦おうとはしないでしょう。だって、自分達も危ないのですから。それに、帝国の要人や、大勢の貴族も集まるのです。彼らを危険にさらして得する事はありませんからね」
『・・・なるほど。シャノンさん、そこまで考えてらっしゃるんですね。さすがです。でも、それでしたら、船に乗る前に国王の説得はできなんですか?』
「難しいですね。最近はリンジーさん達もお目通りできないようなんです。バルカルセル大臣が話しそうとしても、帝国関係の話しになると、まともに聞いてもらえず逃げられるそうで。だから、絶対に逃げようのない海の上で決行する事にしました。それに、ちょうどいい機会だとも思ったんです。そのまま帝国の要人に、今後のロンズデールの立場を明確に伝えてやれますから。国王は何が何でも説得しますよ」
強く確かな言葉で話すシャノン。
その目をじっと見つめるシルヴィアは、やがてコクリと頷いた。
『・・・分かったわ。シャノンさん、そこまで言い切るんなら、あなたを信じます。ただ、レイチェルもアラタ君もレイジェスに必要な人材だし、大切な仲間なの。あまり無理はさせないでくださいね』
「はい。本来ロンズデールの人間だけで解決しなければならない事ですから。必ず無事にレイジェスにお返しします」
『・・・シャノンさんは強くてしっかりした方ですね』
「あははは、そんな事ないですよ。がむしゃらにやってるだけで。ただ、この国を護りたい。それだけです」
写しの鏡を通じて言葉を交わす二人の女性。その心根は互いに通じ合い、お互いに信頼を深め合う。
「・・・じゃあ、今日はこの辺で。シルヴィアさん、また会いましょう」
『あ、ちょっと待って』
ひとしきり話し、シャノンが通信終えようとすると、シルヴィアが手を前に出してシャノンを止めた。
「ん、どうしました?」
『シャノンさん、すみませんが、アラタ君に代わってもらえますか?』
「あ、いいですよ。お兄さん、ご指名だよ」
「あ、はい」
シャノンが後ろに下がり、アラタが鏡の正面に移動すると、そこには少しクセのあるオレンジ色の髪をした女の子が立っていた。
パッチリとした薄茶色の瞳、形の良い桜色の唇は、小さな微笑みを浮かべている。
「カチュア!」
『シルヴィアさんが写しの鏡使ってたから、お願いしてちょっと代わってもらったの。忙しい時にごめんね』
「いや、そんな、元気?あ、俺なに聞いてんだ?」
『あはは!アラタ君、大丈夫だよ。私は元気だから。あのね、ケイトさんにシルヴィアさんにユーリ、それにエルちゃんもね、毎日うちに来てくれるんだよ。こっちは心配しないで大丈夫だから、アラタ君はアラタ君のやるべき事を頑張ってね』
「・・・そっか、うん。みんな良い人だよな。うん、良かった。カチュア、俺頑張るな」
カチュアの笑顔にアラタも自然と顔がほころんだ。
クインズベリーを発つ時、大丈夫だと安心できていたつもりだった。
だが、心のどこかで気にはなっていた。
今、目の前にいるカチュアは、無理をしていない自然の笑顔を見せていた。
アラタのまた普段通り、自然な笑顔をカチュアに見せていた。
『アラタ君・・・私のお願いは一つだけだよ』
「うん・・・ちゃんと帰るよ」
『怪我をしないで元気にだからね?』
「う~ん・・・怪我はするかもしれない。けど、絶対元気に帰るよ」
そこは分かったって言って欲しかったな。と少しアラタを睨むカチュア。
・・・ごめん。でも、絶対に元気に帰るから
・・・うぅん、私もいじわる言っちゃった
・・・でも、約束は守るから
・・・知ってるよ。アラタ君は約束を守ってくれるもんね
・・・カチュア
・・・うん
・・・帰ったら結婚式を挙げよう
・・・うん。私、待ってるね
優しく微笑むカチュアを見て、アラタは心が温かく満たされた
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