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理太郎

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573 大海の船団とカーンの目論見

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「サリーよ、ロンズデールは本当にサメが人気なのだな」

「はい。バルデス様。ここでもサメが出るとは思いませんでした。きっとロンズデールの人々の主食はサメなのでしょう」

夕食は宿内のお食事処で食べる事になった。
個室を用意してもらったのは、今後の打合せをするためである。シャノンがいたため、予約が無くてもすんなりと話しが通った。

それぞれが席に着いて、運ばれて来る料理を見ていると、
バルデスとサリーが丸皿に乗ったサメの煮込みを見て、ほぉ~、と感心したような声を出した。


「三日連続でサメか・・・」

宿に入る前に、今日も夕食がサメだったら笑えるな、とディリアンと話したアラタだが、
いざ本当にサメの煮込みが目の前に置かれると、思わず言葉が口を突いて出た。

「おいアラタ、世話になっている身でその言い草はいただけないな。シャノンさんに謝れ」

レイチェルがジロリとアラタを睨む。

「あ、いや、ごめんなさい。不満があるわけじゃないんです。ただ、三日続けてサメを見るとは思わなくて、ちょっと驚いて・・・」

レイチェルの凄みに、アラタがあたふたと弁解をすると、シャノンは気にするなと言うように笑って見せた。

「あはは、気にしないでいいよ。そっか、サメ料理が今日で三日目だったのか。そりゃあまたサメかって思うよね?さすがにそれは私も予想できなかったよ。こっちじゃよく食べるけど、クインズベリーでは珍しいって聞いたからさ」

シャノンは笑い飛ばすが、レイチェルがすまなそうに目礼をした。

「シャノンさん、アラタがすまないね。確かに私達はサメ料理が三日目だが、種類によって味も食感もまるで違うから、美味しくいただいているよ。今日のサメはずいぶん弾力があるな。これはなんてサメだい?」

レイチェルが目の前の皿のサメに顔を向ける。

「あぁ、それ槍鮫(やりざめ)って言ってね、口が槍のように長く尖っているんだよ。弾力のある肉質が若者に好まれてるんだ。でも、槍鮫に刺されて怪我をする人は多いし、死人が出る事もある。だから捕まえる時は、特に注意しなきゃならないけどね」

「それは怖いね。しかし、刺されて怪我をするという事は、サメを捕まえる時は海に入って直接なのかい?それだとかなり危険だよね?」

「あぁ、違う違う。さすがにそれはないよ。船の上から黒魔法使いが攻撃するのさ。仕留めたところを体力型が回収するってやり方だね。でも、海に入ったところを他の槍鮫に襲われる事もあるんだ。青魔法使いが結界を張っても、それを一撃で貫通してくる攻撃力だからね。槍鮫は海の殺し屋って言われてるんだ」

シャノンの説明にレイチェルも驚いたように目を丸くした。

「すごいな・・・結界を一撃で貫くなんて、とんでもない攻撃力だぞ。まさか天衣結界もか?」

「いやいや、さすがに天衣結界は一撃では破られてないよ。けど、並みの魔法使いの結界は一撃だからね。最近じゃ天衣結界を使える魔法使いを出すのが当たり前になってるね」

レイチェルとシャノンは槍鮫の話しで盛り上がり、バルデスとサリーは槍鮫の肉に舌鼓を打っている。

「アラタ君、みんなサメに夢中だな?」

「はい。こんなにサメで盛り上がるなんて思いませんでしたよ」

アラタの隣の席では、ビリージョーもサメの煮込みに箸をつけている。
その表情と声色から、ビリージョーもこの食事の席を楽しんでいる事が伺えた。

「ディリアン、どうだ?美味いか?」

正面に座るディリアンに話しを振るビリージョー。しかしディリアンは、チラリと視線を向けて、あぁ、と一言だけ答えると、またすぐに箸を口に入れて食事を再開する。

「そうか、サメ料理が好きなのかな?昨日も一昨日も、残さず食べてたよな?」

「・・・別に、サメだからって訳じゃねぇよ。美味けりゃなんでもいいんだ」

愛想の欠片すらないディリアンだが、ビリージョーは特に気にする素振りさえ見せず、そのまま他愛のない話しを続ける。

そんなビリージョーを見て、アラタは素直に感心した。自分にはとてもこうはできないからだ。
いくらディリアンの態度が悪くても、親子程に歳が離れているという、ある種の精神的余裕。
だがそれ以上に、ビリージョーの人間性だろう。
ディリアンの態度の悪さなどまるで意に介さないビリージョーに、諦めたのか認めたのか、次第にディリアンもぽつりぽつりと、会話らしきものをするようになっていった。

ビリージョーがこの旅のリーダーに選ばれた理由が、分かると言うものだった。




「・・・さて、そろそろ本題を話そうじゃないか?シャノンさん、今日会ったあの男、ウラジミールとか言ったかな?あいつの事や、現在の国の状況を教えてくれないかい?」

食事を終えコーヒーや紅茶が運ばれてくると、レイチェルがシャノンへ話しを振った。
シャノンも話す心積もりだったのだろう。レイチェルの目を見て頷く。
それぞれの聞く準備ができた様子を見て、シャノンは話し始めた。


「さて、なにから話そうかな・・・あの演説してた男、ウラジミール・セルヒコは大海の船団の船長でね、知っての通りあたしら青の船団とは、水と油の関係なんだよ。レイチェルさんに、競合相手ってだけじゃないくらい険悪だって言われたでしょ?そうなんだよね。ただ競合してるってだけなら、別にあたしも睨んだりしないよ。けどね、大海の船団はやり方が乱暴すぎるんだよ。漁に出れば妨害されるし、海の宝石を売れば粗悪品だとイチャもんをつけられる。そんなやり方を指示しているウラジミールには辟易してるんだよ」

両手の平を上に向けて、肩をすくめて見せる。
眉間にシワが寄っているのは、大海の船団を口にするだけでも不快だという、感情の表れだろう。

「そういうのが積もりに積もってね、まぁあんな態度になっちゃうんだよね。それとクルーズの事だけど、これはリンジーさんから聞いてたんだ。レイチェルさん達が国に帰った後、ラミール・カーンが大海の船団と接触したみたいでね、そこから話しが進んだみたいだよ」

ラミール・カーン。ロンズデール国王の側近としての立場を確立させた魔道剣士。
帝国との協定を推し進め、現在の帝国優遇の体制を作り上げた男である。

「・・・ラミール・カーンか、どこでも必ずその名前が出て来るな」

コーヒーを一口飲み、レイチェルは対立する相手の名を口にした。

「そうだね。あたしもさ、レイチェルさん達が帰ってから、リンジーさんらと一緒に色々調べたんだけどね、国の重要部分にはほぼ関わってるし、大海の船団を取り入れるし、国王は操り人形同然だし、もうこの国はカーンが牛耳ってるようなもんだね。バルカルセル大臣がいなけりゃ、とっくに帝国に吸収されてるよ」

シャノンは大きく溜息を付いた。
レイチェル達が帰ってからの数週間、リンジー達とこの国の実情を調べていたが、政治の深いところを知るにあたり、ラミール・カーンが帝国にこの国を売り渡そうとしていると確信していた。
先祖代々ロンズデールで商いをしてきたアラルコン商会にとって、許し難い行為であった。


「あたしらの調べだと、クルーズ船には帝国の大臣クラスが来る。そこでカーンは自分と仲間の魔道剣士達を、ウラジミールは大海の船団を、それぞれが帝国に売り込むつもりだよ。ロンズデールを売り渡してね。そこまで話しが進んだら、大臣がいくら頑張ってももう止められない。だから、あたしら大臣派は、それなんとしても阻止しなければならない・・・・・レイチェルさん達が間に合って良かったよ」

シャノンはそこで一度言葉を区切ると、一人一人の顔を見て、ハッキリと宣言した。


「このあたし、シャノン・アラルコンも戦うわ。大海の船団のクルーズに乗り込みましょう!」
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