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563 贈り物 ②
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ミゼルさんとの話しが終わると、くいっとシャツの裾を引っ張られたので振り返る。
すると、ユーリが透明な液体の入った小さなビンを三つ差し出してきた。
「はい。これ回復薬。一番質の良い素材を使って特別に作った。でも、瞬間的に完全回復するわけじゃないから過信はしない事。回復薬はどうしても時間がかかる事を忘れないで」
「ユーリ、ありがとう。そう言えば、協会で牢屋に入れられた時、一回飲んだ事あるよ。翌日は体が軽くなって調子良い感じはしたけど、そんな感じかな?」
マルゴンとの戦いの前日、カリウスさんにおにぎりと回復薬を差し入れてもらった事を思い出した。
飲むと飲まないのは全くの別だったけど、戦いの最中に傷を全快させるような効果があるわけではない。自然回復を促進するようなものだろう。
「そう。でも、協会の物より確実に良いのを作った。だから、戦闘中に飲んでも少しは効果が得られると思う。だけど過信はしない事。分かった?」
「うん。分かったよ。ユーリ、ありがとう」
「うん」
ユーリは俺の返事に満足したように頷くと、ピンクのパーカーのポケットに両手を入れて、話しは終わったとばかりに一歩後ろに下がる。
過信するなと念を押されたけど、これはとても助かる。
いつも白魔法使いの人に、ヒールをかけてもらえるわけではない。
自分一人になった場合の事を考えれば、これは必需品だ。
「アラタ君、私からはこれ・・・できれば使わないでね」
カチュアが俺に手渡してくれた物は、白い貝殻に入った塗り薬だった。
見慣れたそれは店でもよく売れている傷薬である。
「私もね、一番良い素材を使って作ったの。ある程度の傷なら、これで治せると思う。でも、できれば使わないで欲しい。怪我しないで帰ってきてね・・・」
そう言ってカチュアは俺の手をぎゅっと握った。
心配そうに眉尻を下げて、その薄茶色の瞳で俺をじっと見つめている。
「カチュア、大丈夫だよ。これまでだってちゃんと帰ってきたじゃないか。今回も無事に帰ってくるから」
「アラタ君・・・」
「はい、そこまで」
カチュアを抱き締めようとすると、レイチェルが俺とカチュアの間に手を差し込んで、待ったをかけてきた。
「もうね・・・キミ達はもうあれだね。毎度毎度言わせてもらうが、そういうのは帰ってからにしてくれ。出発は明日だぞ?今日帰ってから好きなだけイチャつけばいい。いやね、私も嫌がらせで止めているわけじゃないんだ。ただ、むずがゆいんだよ。分かってくれるね?」
俺とカチュアを指差しながら、呆れたように言うレイチェルに、二人で頭の後ろに手を当てながら、はい、と軽く目礼で返事をする。
「本当にキミ達は仲睦まじ過ぎる。良い事だけど、こっちが照れてしまうよ」
レイチェルが肩をすくめると、リカルドが近づいて来て俺の前に立った。
「兄ちゃん」
「お、リカルド」
「頑張れよ」
「ん、お、おう」
え・・・・・終わり?
いや、図々しいのは承知だが、この流れなら、てっきりリカルドも俺になにか用意してくれているのかと思った。
しかし、どうやら何もないようだ。いや、声をかけてもらえるのは十分に嬉しいのだが、俺だったらこの流れで自分だけ何も用意してなかったら、肩身が狭くて縮こまってしまう。
こいつは心臓が強すぎる。考えようによっては、見習った方がいいのかもしれない。
「リカルド、あんたまさかそれだけ?」
ユーリが呆れたように息を付いて、リカルドに近づいた。
「あ?それだけって?」
ユーリがどういう意味で言っているかを、まるで理解できないように首を傾げるリカルド。
こいつは本当にメンタルが強すぎる。いや、鈍感と言うのか?
「だから、私達はみんなアラタに贈り物をした。けれどあんただけ何もない。そう言ってるの」
ズバリ確信をついた言葉を発するユーリに、リカルドは一瞬きょとんとした顔を見せた後、すぐに、何言ってんだコイツ、と言わんばかりに眉を寄せた。
「頑張れよって、応援したじゃん」
「・・・・・え?」
今度はユーリが目を瞬かせる。
「応援の言葉やったじゃん。な?兄ちゃん!」
「え!?お、おう、も、もらったな」
一点の曇りもない眼差しを俺に向けるリカルド。すごい圧力だ。マルゴンと睨みあった時を思い出す。
「ユーリ、いいか?大事なのは気持ちだぞ?き・も・ち!兄ちゃんの無事を願う気持ちはみんな一緒!」
「お、おい、リカルド、その辺でやめとけ」
確かにその通りなのだが、俯いているユーリの右拳がぷるぷる震えているところを見て、俺の生存本能が危険を察知した。
「だいたい金をかければいいってもんじゃねぇんだよなぁぁぁ~!心ってもんがぐファッツ!」
腰の入ったボディアッパーが、リカルドの腹にめりこんだ。
「・・・うるさい」
腹を押さえて悶絶しているリカルドに、冷たく言い放つユーリ。
こうなるって分かるだろうに、なんでリカルドは学ばないんだ?
そしてみんな、この空気をどうしていいかすごく困った感じになっている。
「・・・あ~、んじゃ、今日はこの辺で!お疲れっした!」
なんだかグダグダになってきたところで、ジャレットさんは頭をガシガシ掻いて、無理やり解散を宣言した。
すると、ユーリが透明な液体の入った小さなビンを三つ差し出してきた。
「はい。これ回復薬。一番質の良い素材を使って特別に作った。でも、瞬間的に完全回復するわけじゃないから過信はしない事。回復薬はどうしても時間がかかる事を忘れないで」
「ユーリ、ありがとう。そう言えば、協会で牢屋に入れられた時、一回飲んだ事あるよ。翌日は体が軽くなって調子良い感じはしたけど、そんな感じかな?」
マルゴンとの戦いの前日、カリウスさんにおにぎりと回復薬を差し入れてもらった事を思い出した。
飲むと飲まないのは全くの別だったけど、戦いの最中に傷を全快させるような効果があるわけではない。自然回復を促進するようなものだろう。
「そう。でも、協会の物より確実に良いのを作った。だから、戦闘中に飲んでも少しは効果が得られると思う。だけど過信はしない事。分かった?」
「うん。分かったよ。ユーリ、ありがとう」
「うん」
ユーリは俺の返事に満足したように頷くと、ピンクのパーカーのポケットに両手を入れて、話しは終わったとばかりに一歩後ろに下がる。
過信するなと念を押されたけど、これはとても助かる。
いつも白魔法使いの人に、ヒールをかけてもらえるわけではない。
自分一人になった場合の事を考えれば、これは必需品だ。
「アラタ君、私からはこれ・・・できれば使わないでね」
カチュアが俺に手渡してくれた物は、白い貝殻に入った塗り薬だった。
見慣れたそれは店でもよく売れている傷薬である。
「私もね、一番良い素材を使って作ったの。ある程度の傷なら、これで治せると思う。でも、できれば使わないで欲しい。怪我しないで帰ってきてね・・・」
そう言ってカチュアは俺の手をぎゅっと握った。
心配そうに眉尻を下げて、その薄茶色の瞳で俺をじっと見つめている。
「カチュア、大丈夫だよ。これまでだってちゃんと帰ってきたじゃないか。今回も無事に帰ってくるから」
「アラタ君・・・」
「はい、そこまで」
カチュアを抱き締めようとすると、レイチェルが俺とカチュアの間に手を差し込んで、待ったをかけてきた。
「もうね・・・キミ達はもうあれだね。毎度毎度言わせてもらうが、そういうのは帰ってからにしてくれ。出発は明日だぞ?今日帰ってから好きなだけイチャつけばいい。いやね、私も嫌がらせで止めているわけじゃないんだ。ただ、むずがゆいんだよ。分かってくれるね?」
俺とカチュアを指差しながら、呆れたように言うレイチェルに、二人で頭の後ろに手を当てながら、はい、と軽く目礼で返事をする。
「本当にキミ達は仲睦まじ過ぎる。良い事だけど、こっちが照れてしまうよ」
レイチェルが肩をすくめると、リカルドが近づいて来て俺の前に立った。
「兄ちゃん」
「お、リカルド」
「頑張れよ」
「ん、お、おう」
え・・・・・終わり?
いや、図々しいのは承知だが、この流れなら、てっきりリカルドも俺になにか用意してくれているのかと思った。
しかし、どうやら何もないようだ。いや、声をかけてもらえるのは十分に嬉しいのだが、俺だったらこの流れで自分だけ何も用意してなかったら、肩身が狭くて縮こまってしまう。
こいつは心臓が強すぎる。考えようによっては、見習った方がいいのかもしれない。
「リカルド、あんたまさかそれだけ?」
ユーリが呆れたように息を付いて、リカルドに近づいた。
「あ?それだけって?」
ユーリがどういう意味で言っているかを、まるで理解できないように首を傾げるリカルド。
こいつは本当にメンタルが強すぎる。いや、鈍感と言うのか?
「だから、私達はみんなアラタに贈り物をした。けれどあんただけ何もない。そう言ってるの」
ズバリ確信をついた言葉を発するユーリに、リカルドは一瞬きょとんとした顔を見せた後、すぐに、何言ってんだコイツ、と言わんばかりに眉を寄せた。
「頑張れよって、応援したじゃん」
「・・・・・え?」
今度はユーリが目を瞬かせる。
「応援の言葉やったじゃん。な?兄ちゃん!」
「え!?お、おう、も、もらったな」
一点の曇りもない眼差しを俺に向けるリカルド。すごい圧力だ。マルゴンと睨みあった時を思い出す。
「ユーリ、いいか?大事なのは気持ちだぞ?き・も・ち!兄ちゃんの無事を願う気持ちはみんな一緒!」
「お、おい、リカルド、その辺でやめとけ」
確かにその通りなのだが、俯いているユーリの右拳がぷるぷる震えているところを見て、俺の生存本能が危険を察知した。
「だいたい金をかければいいってもんじゃねぇんだよなぁぁぁ~!心ってもんがぐファッツ!」
腰の入ったボディアッパーが、リカルドの腹にめりこんだ。
「・・・うるさい」
腹を押さえて悶絶しているリカルドに、冷たく言い放つユーリ。
こうなるって分かるだろうに、なんでリカルドは学ばないんだ?
そしてみんな、この空気をどうしていいかすごく困った感じになっている。
「・・・あ~、んじゃ、今日はこの辺で!お疲れっした!」
なんだかグダグダになってきたところで、ジャレットさんは頭をガシガシ掻いて、無理やり解散を宣言した。
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