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553 女王との二つの話し ①

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「大きく二つの事を話してきた。まずはロンズデールとの今後の事だな。結論から言うと、クインズベリーとしてはロンズベリーの内部闘争に関わる事はできない。今回の件もリンジー達は、表向きは和平のための仲介、第三者として来た。である以上、抗議する事もしないが手を貸す事もできない。これが女王の返答だ」

「え、でも、それじゃあどうするんだ?結局ロンズデールが変わらないと、こっちも困るんじゃないのか?」

確かに話しを聞いて見ると、アンリエール様の判断は至極当然だと思う。
クリンズベリーが帝国に侵略されようとしていて、被害を受けていると言っても、わざわざロンズデールの内紛に関わる必要はない。
ロンズデールと手を組み、帝国に立ち向かうというのは、そこだけを言葉通りに見れば理想的だと思う。だが国王と大臣の考え方が正反対な上に、少数派の大臣について、クーデターに加担する事を求めたのだ。アンリエール様が却下するのは当然の事だ。

しかし、それでもこのままでは、また帝国が侵略行為をしかけてくるのは十分予想できる。
待ち構えているだけではなにも変わらないし、いずれは呑み込まれるだろう。
戦う力があるうちに、対抗手段を用意しておく必要がある。

それが、ロンズデールとの同盟だ。

少なくとも、ロンズデールの大臣、そしてリンジーさん達は戦う覚悟を決めている。
そして、ファビアナさんは妾の子とはいえ、国王の血を引いているんだ。
公には認められていないといっても、そのファビアナさんが国を変えるために立ち上がるというのなら、無視できるものでもないと思う。


「アラタ、何を考えているか分かるぞ。本当にキミは分かりやすいな。安心しろ。アンリエール様がキミの考えているような堅い考えをしていると思うか?

「え、それじゃあ・・・?」

「うん、クインズベリーとしては関わる事はできない。つまり、国が動いていると分からなければいいんだ。どういう事か分かるか?」

そこでレイチェルは言葉を区切ると、クイズでも出すかのような気安さで、俺に指先を向けた。


「・・・国として動かない分には、いい?」

「そういう事だ。今回もレイジェスを含む少数で行くぞ」

内紛であるのなら、確かに大人数である必要はない。
ロンズデールに行って、大臣やリンジーさん達と話した内容から考えると、おそらくはラミール・カーンを押さえればこちらの勝ちだ。
国王に戦闘力は無いと考えていいだろう。体力型か魔法使いか分からないが、話しに聞いた印象からは、とても戦えるとは思えない。ラミール・カーンを倒す事が、ロンズデールが元に戻る手段であり、帝国の支配から脱却する機会になるはずだ。


「ちょっと待ってくれ。レイチー、また俺達が行くのか?ついこの前戦ったばかりだぞ?店だって営業再開してから、連日大勢のお客さんが来てんだぞ?店を閉めて何日もロンズデールなんて行ってられねぇんじゃねぇか?それに正直に言えば、俺は今回、レイチーとアラやんがロンズデールに行ったのも、不満はあったんだ。緊急時なのは分かっけど、使われ過ぎだ。本業はリサイクルショップの店員なんだぜ?最近便利屋っぽくなってねぇか?」

不満を一気に口にするジャレットさん。しかしその意見はもっともだ。
偽国王との戦いの後、連日の客入りは普段の倍はある。それだけお客さんが商品を求めているという事だ。街の人の生活を考えれば、とても店を閉めれる状況ではない。それにジャレットさんは、俺達の体調も考えてくれている。

みんな反対意見を口にする事はないが、今のジャレットさんの考えに思うところもあるようで、考えるように口を閉ざしてしまった。

「うん、ジャレットの言う通りだ。私達の本業はリサイクルショップの店員だ。この店を守り、街の人の生活の役に立つ事が最優先だ。しかし、このままこの問題を放っておいては、結局私達の商売にも、街の人の生活にも悪影響しかない。私もアンリエール様もそこはしっかり考えたんだ。そういうわけでレイジェスからは、引き続き私とアラタ、そしてビリージョーさんの三人がこのまま任務にあたる事にした」


レイチェルはそこで言葉を区切ると、俺に顔を向けた。何も言って来ないが、その目を見れば分かる。
勝手に決めた事への申し訳なさもあるが、反論を許さず決定事項を告げる目だ。

それに対して、俺の返事はすぐに決まった。
昨日一日休みをもらって、ゆっくりできた事で気持ちの整理はついていた。

「・・・分かった。この件が片付くまで、俺はその任務を引き受けるよ」

「アラタ君・・・」

俺が決意を口にすると、となりに座るカチュアが寂し気に俺の名前を呼んだ。

「・・・大丈夫だよ。俺は絶対に帰って来るから、約束しただろ?」

「・・・うん、そうだね。アラタ君は、約束を守ってくれるもんね」

寂しそうに、でもそれ以上に強い信頼に満ちた瞳に、俺はもう一度約束を口にした。

「うん、絶対に帰って来るよ。カチュアを置いてどこにも行かないから」

約束だよ。
そう言って笑ってくれたカチュアを強く抱きしめた。





「・・・・・ん、コホン!キミ達さ、もうわざとだよね?狙ってるよね?何回私にツッコミを入れさせれば気がすむんだい?」

レイチェルの咳払いに、俺とカチュアは慌てて体を離した。
いや、確かについこうやってハグをしてしまう事は多いが、ねらってやっているかと言われれば、それは違う。ついだ。つい。思わず抱きしめてしまっているだけだ。

しかし、レイチェルは呆れ半分、いい加減にしろ半分の、なんとも言えない顔で俺とカチュアをジロリと睨んでいる。

大人しく二人で席について姿勢を正すと、レイチェルはまた一つ咳払いをして、話しの続きを口にした。

「え~と、じゃあ話しを続けるよ。つまり、この店からは私とアラタしか行かない。だから、残りのみんなで店の運営を頼む。店長も城が落ち着いたら顔を出すと言っていた。武器のリカルドと、防具のジャレットには負担をかける事になるが、そこはみんなでフォローしてやってくれ」

「ふ~・・・しかたねぇなぁ。分かった。こっちは任せとけ。しかしよ、ビリーさん入れて三人で足りるのか?」

「心配するな。レイジェスからは、と言っただろ?頼もしいヤツらが同行してくれる事になった」

ニヤリと不敵に笑うレイチェルに、みんなの視線が集中する。

「・・・頼もしいヤツら?騎士団か?それとも治安部隊か?」

ジャレットさんが首を傾げて問うと、レイチェルは首を横に振り、その人物の名を口にした。


「四勇士のシャクール・バルデスと、その侍女サリー・ディルトンだ」

それは、偽国王との戦いの時、ジーンとユーリが戦った者の名だった。
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