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551 二人で過ごす時間

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「そっかぁ、リンジーさんもなんとかなりそうで良かった」

「まぁ、敵対しなくてすんだのは良かったよ。俺達も一緒に戦う事になりそうだけどね・・・」

久しぶりにカチュアと二人で来た、キッチン・モロニー。
昼時はいつも混雑してるが、今日はタイミング良く、いつもの窓際のテーブル席が空いていた。

俺達が注文したのはやっぱりミート・グラタン。ここに来たらだいたいいつもこれになる。

窓から見る赤レンガの街並み、行き交う人々は、肌を刺す冷たい外気から体を護るため、暖の取れる厚地のセーターやコートに身を包んでいる。

枯れ落ちそうな樹々の赤い葉が、秋の終わりと冬の到来を告げていた。


「・・・すっかり寒くなったね」

「うん・・・こっちも雪って降るよね?」

「うん、すっごい降るよ。クインズベリーって、豪雪地帯なの。だから毎年、黒魔法使いの人が大活躍なんだよ」

「え、それってもしかして・・・火魔法で雪を溶かしてたりするの?」

大正解!と言うように、カチュアは両手を叩いて見せる。
茶色と赤の混じり糸のケーブル編みセーターが、とても温かそうだ。

「想像するとすごいな・・・黒魔法使いが、火魔法でどんどん雪を溶かしていくのかぁ・・・でも、それって水は大丈夫なの?一気に溶かすと町中びしょびしょになっちゃわない?」

「全然大丈夫だよ。蒸発するくらいの火力でやっちゃうから、地面が少し濡れるくらいかな。あ、それに吹雪いてる時は、風や雪を防ぐ結界の魔道具がすっごい売れるんだよ。使い捨てだから安くて人気があるの。ジーンとケイトさんが作ってるんだけど、他所より質が良くてすぐ売り切れちゃうんだよ」

なんでもないように、サラリと話すカチュアを見て、やはり日本とは全く違うなと思った。
日本なら除雪車が出たり、個人個人でスコップやらスノーダンプやらで、汗をかきながら雪を片づけるものだが、カチュアの反応を見ると、黒魔法使いがいればかなりあっさり終わりそうだ。

「毎年、11月の中旬くらいから降り始めるから、今年もそろそろじゃないかな。アラタ君、クリスマス楽しみだね」

「え、こっちでもクリスマスあるの?」

「うん、普通に毎年やってるよ・・・あ、そっか、アラタ君はニホンから来たんだもんね。私もこの前のジャレットさんの話しで初めて知ったんだけど、元々はヤヨイさんがニホンの文化を、この世界に持ち込んだんだもんね?私、そんな事考えた事もなかった。子供の頃から当たり前のようにクリスマスやってたよ。小太りの黒魔法使いのサンタさんが、魔法の馬トナカイに乗って空からプレゼントの雨を降らすって、想像するとすごいよね。小さい頃に見た紙芝居もおもしろかったなぁ」

「うん、そうなん・・・え?」

サンタが黒魔法使い?
トナカイが魔法の馬?
空からプレゼントの雨を降らすって?

俺は目を丸くした。


弥生さん・・・弥生さんが始めたクリスマス。日本の文化もこっちの世界で浸透してるみたいです。
でも、サンタのイメージはずいぶん違ったものになってますよ。

・・・そう言えば、ウィッカーが初めてのクリスマスの時に、サンタが空を飛ぶのは黒魔法使いで風を操るからだとか、そんな事を言ってたって聞いたな。

・・・まぁ、いいか。
すっかりそれで定着してるみたいだし、無理に日本のサンタ像で否定するのも押し付けだろう。
この世界にはこの世界のサンタができているんだから、それでいいな。

運ばれてきたミート・グラタンを食べながら、クリスマスの思い出を楽しそうに話すカチュアを見て、俺は胸が温かくなった。






「アラタ君、ミート・グラタン美味しかったね!」

「うん、やっぱりキッチン・モロニーに行ったらあれだよね」

昼食を終えると、俺とカチュアは町をブラブラと散歩した。
カチュアにどこか行きたいところはないかと聞いたけど、特にないと言うし、俺も特にないから、目的もなくブラブラと町を歩いている。

正直俺は、女の子と二人で歩いた事なんて数える程度しかない。
だから、デートしてもエスコートのしかたがよく分からない。
いや、知識としては最低限はあるつもりなんだ。

とりあえずだが、ご飯を食べて、映画にゲームにカラオケが揃っている総合施設にでも行って、あとは服でも見に行けば一日は十分に楽しめるだろう。

けれど、ここにはそんな総合施設は無い。
娯楽があまりにも少ないのだ。

だから時間を持て余してしまう。
それでも慣れている男なら、なんとでもしてしまうのだろうけど、俺はこういう時何も思いつかない。
カチュアにつまらない思いをさせてるだろうな。そんな事を考えていると、隣を歩くカチュアが俺の袖を軽く引っ張った。


「アラタ君、お花屋さんに行こう」

「あ、うん。いいよ」

こっちだよ、と言ってカチュアが案内する通りに、角を曲がり歩いて行くと、大通りに出た。
この辺りは俺も見慣れて、馴染みのある風景になっている。

もしかして。そう思った時、カチュアが手を振って声を上げた。

「パメラさーん、こんにちは」

カチュアの手を振る先には、金色の髪をポニーテールにした青いエプロン姿の女性、花屋のパメラさんが、箒を持って店先の落ち葉を集めているところだった。

「あ!カチュアちゃん!アラタ君も、こんにちはー!」

パメラさんは箒を立て掛けると、嬉しそうに手を振って迎えてくれた。

「やー、今日はどうしたの?デート?」

「はい、キッチン・モロニーでランチしてきたとこなんです」

カチュアが少し照れた感じで話すと、パメラさんは微笑ましいものを見るように、俺達に交互に目を向けた。

「仲が良くていいことね。それで、私に何か用事だった?」

小首を傾げるパメラさんに、カチュアは両手を打ち合わせた。

「はい、二人で花を育てようと思うんです。なにかオススメはありませんか?」

「え?」

聞いていなかったので、素で驚いた反応をする俺に、パメラさんも気が付いたようだ。

「・・・ふ~ん、アラタ君、いいと思うよ。一緒に暮らしてるんでしょ?夜、家に帰って二人で育てた花を見るって素敵じゃない?」

「アラタ君、どうかな?そのうち、お庭にも沢山花を植えたいって思ってるんだけど、最初は家の中でなにか育てたいの・・・その、アラタ君と一緒に」

「カチュア・・・うん!一緒に育てよう!俺もカチュアと一緒に花を育ててみたいなって思ってたんだ」

「アラタ君・・・」



「・・・・・えっと、花屋としては嬉しいんだけど、その、店の前で手を握って見つめ合わないでくれるかな?」

パメラさんが困ったように眉尻を下げているのを見て、俺とカチュアは慌てて手を離した。

「あなた達って、あんまり人目を気にしないのかな?でも、本当に仲が良いのが伝わってきて、なんか応援したくなっちゃうよ。あ、そうだ!これから育てるならオススメの花があるよ!」


ちょっと待ってて!そう言ってパメラさんは店の中に入って行くと、女性の両手に収まるくらいの、小さな植木鉢を持って来た。


「・・・ん?」
「えっと、これって・・・」

俺とカチュアは、パメラさんの持つ植木鉢を見て戸惑いを隠さずに見せた。

7~8割くらいに盛られた土の真ん中に、一本の枝が刺さっていた。
それは緑の葉も、赤い葉も、なにも付いていない枯れた枝だった。


「枯れ枝・・・ですよね?」

枝を見て、パメラさんを見る。パメラさんを見て、枝に目を戻す。

・・・何度見ても枯れ枝だ。なぜこれを自信満々で進めてくるんだ?

「あはは!大丈夫大丈夫!これね、見た人みんな同じ反応するんだよね。雪割りの桜、って言うんだけど、花が咲くととっても綺麗なんだよ」

「そうなんですか?これでどうやって花を咲かせるんですか?」

「難しくはないんだけど、ちょっと運要素があるんだよね。これ、雪で育てるの。この枝に雪をくっつけるだけ。そうすると、勝手に育っていくから。でも、雪が無いと育たないの。水じゃダメなんだよね」

なるほど、だから運要素か。
もし雪が降らなければ花は咲かない。ずいぶん変わった花だ。

「クインズベリーは雪がすごい降るからね、この国ならまず間違いなく綺麗な花を咲かせるはずだよ。春になると、ピンク色の綺麗な桜が見れるからさ。雪を付けるだけだから簡単だし、どうかな?」

ニコニコして雪割りの桜について話すパメラさんは、本当に花が好きなんだなと伝わって来た。
俺とカチュアは顔を見合わせて、これにしようとお互いの目を見てコクリと頷いた。

それから、雪を付ける以外の、取り扱いの注意点を聞いて、俺とカチュアはパメラさんの花屋を出た。



「アラタ君、今日はもう帰ろうか?このお花、部屋のどこに置くか決めようよ!」

カチュアは、紙袋に入れた植木鉢を大事そうに抱えている。

「・・・うん、そうしよっか」


気を使い過ぎたのかもしれない。

なんとか楽しませようと考えたけど、こういう事でいいんだ。
二人で自然に、気を張らないで楽にして・・・・・


「カチュア、来年の春が楽しみだね」

「うん!」

少しクセのあるオレンジ色の髪が、優しい風になびいた。
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