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550 唐揚げ

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「おう!レイチーにアラやん!帰って来た・・・ん、え!?ビリーさん?」

「よぅ、ジャレット、久しぶりだな」
 
事務所に入ると、ジャレットさんが閉店に備えて閉め作業を行っていた。
今日一日の買い取りを台帳にまとめている。買い取りは閉店一時間前で終わるので、買い取りを閉めた後はできるだけ早く帰れるように、すぐに各部門の買い取り台帳をまとめてしまうのだ。

他のみんなはまだ売り場で作業をしていたので、事務所にはジャレットさんしかいない。

カチュアもまだ仕事中だからと言って、白魔法コーナーに戻ってしまった。


俺とレイチェルが事務所に入り、最後にビリージョーさんが入ると、ジャレットさんはビリージョーさんを二度見して席を立った。

「いやいや、何年ぶりですか!?なんでアラやん達と一緒なんですか?」

「レイチェルとは3年ぶりだから・・・お前とは4年ぶりくらいか?」

「もうそんなになりますか?すみません。なかなか行けなくて」

「気にすんな。だって半日かかる距離だぜ?俺だってここに来るの何年ぶりだって話しだしな。それよりな、俺がここに来たのはよ、俺もロンズデールに一緒に行ったからなんだ」

ビリージョーさんは、これまでの経緯を簡単にまとめて説明した。

「・・・なるほど。そりゃまた、なんつうか・・・面倒くせぇ事になったんスね」

「あぁ、俺達三人は、明日城に行って報告だ。多分、俺もこの件が片付くまでは一緒に行動する事になる」

「しかし、まだ偽国王の騒動も落ち着いてねぇのに、今度はロンズデールとゴタゴタかよ・・・アラやん、レイチー、お前ら大丈夫か?疲労溜まってんだろ?」

ジャレットさんに話しを向けられる。
正直に言えば、確かに疲れは溜まっている。体力は問題ない。ヒールで完全回復できるからだ。
しかし、体の奥底・・・自覚でき難いところで、なんとなくダメージが残っている感じはある。

そして精神的な疲労はハッキリと感じている。
このところ体を酷使し過ぎたのかもしれない。

考えて見れば、この一週間で何キロ走ったのだろう?
ナック村までだって、馬車で片道7~8時間だ。そこからレフェリまで同じくらいの距離を走り、更にロンズデールの首都まで半日走る。しかもこの途中でリンジーさん達と一戦交えた。
そして帰りもこの距離を走って帰ってきたんだ。

もっと言えば、ロンズデールに行く数日前まで俺は3日も寝たきりの状態だった。
自分から付いて行くと言ったわけだが、病み上がりの体には無理が祟ったのかもしれない。


「だいじょう・・・」

そこまで言いかけて、ふと隣から感じる視線に顔を向けると、レイチェルがじっと俺を見つめていた。

「あ・・・」

そうか・・・うん、分かってる。

「・・・えっと、実はちょっと、疲れが溜まってるっぽいです」

自分の事を大事にしろ・・・そう言われていたっけな。
俺自身もそう思う。守るべき人ができたんだから、

正解だったようだ。レイチェルに視線を戻すと、それでいい、と言うように少しだけ口元を緩めていた。


「あんま無理すんなよ?アラやんは、ただでさえ無茶すんだから。疲れてんなら明日は休め。城には、レイチーとビリーさんの二人でいいんじゃねぇか?」

ジャレットさんはそう言って、レイチェルとビリージョーさんに目を向ける。

「そうだな、アラタ君は明日は休め。女王への報告は俺とレイチェルでやっておこう」

「あぁ、アラタはカチュアの唐揚げをすっぽかしたんだし、明日は詫びのデートでもしてリフレッシュしてこい」

自分だけ休んでいいのだろうかと思う反面、せっかくの二人の好意を無碍にするのも躊躇われる。
それにカチュアに寂しい思いをさせた事も気になっていたので、俺はその言葉に甘える事にした。

それから店を閉めると、ビリージョーさんはジャレットさんとミゼルさんに連れられて、クリスさんの酒場宿に行った。今日はそこで一泊する事にしたそうだ。

俺もカチュアと家に帰り、久しぶりに二人でゆっくりできた。
帰り際リカルドが、飯がどうのと言って家に来ようとしていたが、ユーリに一睨みされると、音程のズレた口笛を吹きながらそそくさと帰って行った。

本当にアイツはブレない。ブレなさ過ぎていっそ清々しいくらいだ。





「ねぇアラタ君、今日は何を食べたい?」

「ん、そうだな~・・・唐揚げかな。あ、でもなんでもいいよ。準備だってあるでしょ?」

二人で家に帰ると、キッチンに立ったカチュアに聞かれたので、なんとなくこの前食べそびれた唐揚げと言ってみた。

しかし、買い出しもあるだろうし、そんな急に都合よく用意してあるわけはないと思ったのだが、カチュアはクスクス笑い出して、意味深な目を俺に向けて来た。

「あのね、帰ってきたらきっとそう言うと思って、鶏肉冷凍しておいたの。今日は唐揚げだよ」

カチュアは俺の事はなんでもお見通しだったようだ。

「アラタ君、いっぱい食べてね」

カチュアは薄茶色の瞳を細めて微笑んだ。

その日食べた唐揚げは、今まで食べた唐揚げで一番美味しかった。
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