551 / 1,254
550 唐揚げ
しおりを挟む
「おう!レイチーにアラやん!帰って来た・・・ん、え!?ビリーさん?」
「よぅ、ジャレット、久しぶりだな」
事務所に入ると、ジャレットさんが閉店に備えて閉め作業を行っていた。
今日一日の買い取りを台帳にまとめている。買い取りは閉店一時間前で終わるので、買い取りを閉めた後はできるだけ早く帰れるように、すぐに各部門の買い取り台帳をまとめてしまうのだ。
他のみんなはまだ売り場で作業をしていたので、事務所にはジャレットさんしかいない。
カチュアもまだ仕事中だからと言って、白魔法コーナーに戻ってしまった。
俺とレイチェルが事務所に入り、最後にビリージョーさんが入ると、ジャレットさんはビリージョーさんを二度見して席を立った。
「いやいや、何年ぶりですか!?なんでアラやん達と一緒なんですか?」
「レイチェルとは3年ぶりだから・・・お前とは4年ぶりくらいか?」
「もうそんなになりますか?すみません。なかなか行けなくて」
「気にすんな。だって半日かかる距離だぜ?俺だってここに来るの何年ぶりだって話しだしな。それよりな、俺がここに来たのはよ、俺もロンズデールに一緒に行ったからなんだ」
ビリージョーさんは、これまでの経緯を簡単にまとめて説明した。
「・・・なるほど。そりゃまた、なんつうか・・・面倒くせぇ事になったんスね」
「あぁ、俺達三人は、明日城に行って報告だ。多分、俺もこの件が片付くまでは一緒に行動する事になる」
「しかし、まだ偽国王の騒動も落ち着いてねぇのに、今度はロンズデールとゴタゴタかよ・・・アラやん、レイチー、お前ら大丈夫か?疲労溜まってんだろ?」
ジャレットさんに話しを向けられる。
正直に言えば、確かに疲れは溜まっている。体力は問題ない。ヒールで完全回復できるからだ。
しかし、体の奥底・・・自覚でき難いところで、なんとなくダメージが残っている感じはある。
そして精神的な疲労はハッキリと感じている。
このところ体を酷使し過ぎたのかもしれない。
考えて見れば、この一週間で何キロ走ったのだろう?
ナック村までだって、馬車で片道7~8時間だ。そこからレフェリまで同じくらいの距離を走り、更にロンズデールの首都まで半日走る。しかもこの途中でリンジーさん達と一戦交えた。
そして帰りもこの距離を走って帰ってきたんだ。
もっと言えば、ロンズデールに行く数日前まで俺は3日も寝たきりの状態だった。
自分から付いて行くと言ったわけだが、病み上がりの体には無理が祟ったのかもしれない。
「だいじょう・・・」
そこまで言いかけて、ふと隣から感じる視線に顔を向けると、レイチェルがじっと俺を見つめていた。
「あ・・・」
そうか・・・うん、分かってる。
「・・・えっと、実はちょっと、疲れが溜まってるっぽいです」
自分の事を大事にしろ・・・そう言われていたっけな。
俺自身もそう思う。守るべき人ができたんだから、
正解だったようだ。レイチェルに視線を戻すと、それでいい、と言うように少しだけ口元を緩めていた。
「あんま無理すんなよ?アラやんは、ただでさえ無茶すんだから。疲れてんなら明日は休め。城には、レイチーとビリーさんの二人でいいんじゃねぇか?」
ジャレットさんはそう言って、レイチェルとビリージョーさんに目を向ける。
「そうだな、アラタ君は明日は休め。女王への報告は俺とレイチェルでやっておこう」
「あぁ、アラタはカチュアの唐揚げをすっぽかしたんだし、明日は詫びのデートでもしてリフレッシュしてこい」
自分だけ休んでいいのだろうかと思う反面、せっかくの二人の好意を無碍にするのも躊躇われる。
それにカチュアに寂しい思いをさせた事も気になっていたので、俺はその言葉に甘える事にした。
それから店を閉めると、ビリージョーさんはジャレットさんとミゼルさんに連れられて、クリスさんの酒場宿に行った。今日はそこで一泊する事にしたそうだ。
俺もカチュアと家に帰り、久しぶりに二人でゆっくりできた。
帰り際リカルドが、飯がどうのと言って家に来ようとしていたが、ユーリに一睨みされると、音程のズレた口笛を吹きながらそそくさと帰って行った。
本当にアイツはブレない。ブレなさ過ぎていっそ清々しいくらいだ。
「ねぇアラタ君、今日は何を食べたい?」
「ん、そうだな~・・・唐揚げかな。あ、でもなんでもいいよ。準備だってあるでしょ?」
二人で家に帰ると、キッチンに立ったカチュアに聞かれたので、なんとなくこの前食べそびれた唐揚げと言ってみた。
しかし、買い出しもあるだろうし、そんな急に都合よく用意してあるわけはないと思ったのだが、カチュアはクスクス笑い出して、意味深な目を俺に向けて来た。
「あのね、帰ってきたらきっとそう言うと思って、鶏肉冷凍しておいたの。今日は唐揚げだよ」
カチュアは俺の事はなんでもお見通しだったようだ。
「アラタ君、いっぱい食べてね」
カチュアは薄茶色の瞳を細めて微笑んだ。
その日食べた唐揚げは、今まで食べた唐揚げで一番美味しかった。
「よぅ、ジャレット、久しぶりだな」
事務所に入ると、ジャレットさんが閉店に備えて閉め作業を行っていた。
今日一日の買い取りを台帳にまとめている。買い取りは閉店一時間前で終わるので、買い取りを閉めた後はできるだけ早く帰れるように、すぐに各部門の買い取り台帳をまとめてしまうのだ。
他のみんなはまだ売り場で作業をしていたので、事務所にはジャレットさんしかいない。
カチュアもまだ仕事中だからと言って、白魔法コーナーに戻ってしまった。
俺とレイチェルが事務所に入り、最後にビリージョーさんが入ると、ジャレットさんはビリージョーさんを二度見して席を立った。
「いやいや、何年ぶりですか!?なんでアラやん達と一緒なんですか?」
「レイチェルとは3年ぶりだから・・・お前とは4年ぶりくらいか?」
「もうそんなになりますか?すみません。なかなか行けなくて」
「気にすんな。だって半日かかる距離だぜ?俺だってここに来るの何年ぶりだって話しだしな。それよりな、俺がここに来たのはよ、俺もロンズデールに一緒に行ったからなんだ」
ビリージョーさんは、これまでの経緯を簡単にまとめて説明した。
「・・・なるほど。そりゃまた、なんつうか・・・面倒くせぇ事になったんスね」
「あぁ、俺達三人は、明日城に行って報告だ。多分、俺もこの件が片付くまでは一緒に行動する事になる」
「しかし、まだ偽国王の騒動も落ち着いてねぇのに、今度はロンズデールとゴタゴタかよ・・・アラやん、レイチー、お前ら大丈夫か?疲労溜まってんだろ?」
ジャレットさんに話しを向けられる。
正直に言えば、確かに疲れは溜まっている。体力は問題ない。ヒールで完全回復できるからだ。
しかし、体の奥底・・・自覚でき難いところで、なんとなくダメージが残っている感じはある。
そして精神的な疲労はハッキリと感じている。
このところ体を酷使し過ぎたのかもしれない。
考えて見れば、この一週間で何キロ走ったのだろう?
ナック村までだって、馬車で片道7~8時間だ。そこからレフェリまで同じくらいの距離を走り、更にロンズデールの首都まで半日走る。しかもこの途中でリンジーさん達と一戦交えた。
そして帰りもこの距離を走って帰ってきたんだ。
もっと言えば、ロンズデールに行く数日前まで俺は3日も寝たきりの状態だった。
自分から付いて行くと言ったわけだが、病み上がりの体には無理が祟ったのかもしれない。
「だいじょう・・・」
そこまで言いかけて、ふと隣から感じる視線に顔を向けると、レイチェルがじっと俺を見つめていた。
「あ・・・」
そうか・・・うん、分かってる。
「・・・えっと、実はちょっと、疲れが溜まってるっぽいです」
自分の事を大事にしろ・・・そう言われていたっけな。
俺自身もそう思う。守るべき人ができたんだから、
正解だったようだ。レイチェルに視線を戻すと、それでいい、と言うように少しだけ口元を緩めていた。
「あんま無理すんなよ?アラやんは、ただでさえ無茶すんだから。疲れてんなら明日は休め。城には、レイチーとビリーさんの二人でいいんじゃねぇか?」
ジャレットさんはそう言って、レイチェルとビリージョーさんに目を向ける。
「そうだな、アラタ君は明日は休め。女王への報告は俺とレイチェルでやっておこう」
「あぁ、アラタはカチュアの唐揚げをすっぽかしたんだし、明日は詫びのデートでもしてリフレッシュしてこい」
自分だけ休んでいいのだろうかと思う反面、せっかくの二人の好意を無碍にするのも躊躇われる。
それにカチュアに寂しい思いをさせた事も気になっていたので、俺はその言葉に甘える事にした。
それから店を閉めると、ビリージョーさんはジャレットさんとミゼルさんに連れられて、クリスさんの酒場宿に行った。今日はそこで一泊する事にしたそうだ。
俺もカチュアと家に帰り、久しぶりに二人でゆっくりできた。
帰り際リカルドが、飯がどうのと言って家に来ようとしていたが、ユーリに一睨みされると、音程のズレた口笛を吹きながらそそくさと帰って行った。
本当にアイツはブレない。ブレなさ過ぎていっそ清々しいくらいだ。
「ねぇアラタ君、今日は何を食べたい?」
「ん、そうだな~・・・唐揚げかな。あ、でもなんでもいいよ。準備だってあるでしょ?」
二人で家に帰ると、キッチンに立ったカチュアに聞かれたので、なんとなくこの前食べそびれた唐揚げと言ってみた。
しかし、買い出しもあるだろうし、そんな急に都合よく用意してあるわけはないと思ったのだが、カチュアはクスクス笑い出して、意味深な目を俺に向けて来た。
「あのね、帰ってきたらきっとそう言うと思って、鶏肉冷凍しておいたの。今日は唐揚げだよ」
カチュアは俺の事はなんでもお見通しだったようだ。
「アラタ君、いっぱい食べてね」
カチュアは薄茶色の瞳を細めて微笑んだ。
その日食べた唐揚げは、今まで食べた唐揚げで一番美味しかった。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる