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548 再会を約束して

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「おはよう。丁度良い時に来たね。審査も無事に下りたから安心して」

翌日、午前10時になる少し前にアラルコン商会に行くと、シャノンさんがレジカウンターに立っていて、俺達を出迎えてくれた。

「おはようございます。今日は店に出てたんですね?」

シャノンさんはいつもレジ奥の部屋にいるから、いつも若い男性店員がレジに立っているのだが、今日はシャノンさんがレジに立っていたので、あの男性店員はどこかなと、つい辺りを見回してしまった。

「こらこら、私だって一日中奥に引きこもっているわけじゃないんだよ?今日はお兄さん達が早く来るって聞いたから、待たせないように出ていたんだよ。いつもの彼、マレスと言うんだけど、マレスには代わりに奥で仕事をしてもらってるのさ」

そう話しながら、シャノンさんはレジカウンターの下から、頑丈そうな木箱を二つ取り出した。

「はい、これが写しの鏡ね。代金は大臣からもらう事になってるから、このまま持っていっていいんだけど、一枚はうちで預かっておくよ。名目がアラルコン商会のクインズベリー進出だから、ここにないとおかしいでしょ?必要な時にはいつでも使っていいから、面倒かもしれないけどそこは我慢してね」

シャノンさんはリンジーさんとファビアナさんに顔を向けて、少しすまなさそうにそう話した。

「そんな事ないですよ。むしろ、お城で預かるよりずっといいです。人目を気にする事もないですしね。ところで、アラルコン商会のクインズベリー進出という名目なら、どなたかクインズベリーに入らなくていいんですか?」

リンジーさんの疑問に、俺達も思わず顔を見合わせた。
考えてもみなかったが、言われてみればそうだ。写しの鏡に追跡魔法がかけられている以上、クインズベリーに持って行った事は知られる。しかも審査が下りて即日にロンズデールから移動するんだ。
行動の速さに注目される事もあるだろう。誰がクインズベリーに行ったんだと、探りを入れられる可能性もある。そこまでは考えていなかった。

リンジーさんの言っている事は、このまま俺達だけでクインズベリーに行った時、アラルコン商会で対応できるのかという事だ。


「ん~、そこは難しく考えないでいいんじゃないかな?レイチェルさんが、アラルコン商会クインズベリー支店の外部役員になればいいよ」

「え?」

シャノンさんはサラリと口にしたが、これにはさすがのレイチェルも驚いたようだ。
目を丸くしている。こんなレイチェル初めて見た。

「あははは!レイチェルさんも、そんな顔するんだね?だから、アラルコン商会の外部役員だよ。私も昨日考えたんだけど、土地勘のある人が役員になって、開店まで手伝ってくれたら助かるんだよね。そうなると、レイチェルさんしかいないよね?基本的にはレイジェスを中心にやってくれてかまわないよ。開店した後は、お互いの店で商品が競合しないように相談もしたいし、足並み揃えていきたいじゃん?どうかな?」

笑いながら自分の考えを話すシャノンさんは、さすがは大商会の跡取り娘だなと感心してしまった。

「ふっ・・・あははは、シャノンさんは思い切りがいいね。私もそんな事を提案されるとは思わなかったよ。分かった。両店にとってメリットのある話しだ。やろうじゃないか」

「商売には思い切りが必要なんだよ。いやぁ、引き受けてくれて嬉しいよ。あらためて、今後とも末永くよろしくね」

すごい早さで、重大な事をトントンと話しを決めてしまったが、レイチェルとシャノンさんのやる事だ。まぁ、間違いは無いだろう。

それに、話しをまとめてみると、なにもデメリットは無さそうだ。
競合店には違いないだろうが、レイジェスはリサイクルショップ。アラルコン商会は、食料品や魔道具、衣類も置いてあるが武器に防具は無い。一部を除けば住み分けはできる。
それに、両店から融通し合う物もできれば、利益も増やしていけるのではないだろうか。

「お兄さんもよろしく頼むよ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

黒い瞳を細めて笑うシャノンさんに、俺も笑って言葉を返した。






「じゃあ、私達はもう行くよ。国に戻ったら連絡する」

アラルコン商会を出て、俺とレイチェル、ビリージョーさんの三人は、リンジーさん達に別れの挨拶をした。

「気を付けてね。もう役員名簿に名前も乗せたから、レイチェルさんは身内なんだからね」

「こっちは任せて。大臣にも話しておくから。連絡待ってるわね」

「・・・・・」


シャノンさんと、リンジーさんが挨拶を返してくれる中、ファビアナさんだけが俯いて黙っている。
いや、正確には何かを話そうと、口をもごもごさせているのだが、どうしても言葉にして出す事ができないようだ。

俺達もファビアナさんが話せるようになるまで待とうとしたが、ついにファビアナさんは帽子を掴んで、顔を隠してしまった。

「・・・ファビア・・・」
「おいおい、お嬢ちゃん。どうした?黙ってお別れか?そりゃ、寂しいじゃないか」

リンジーさんが声をかけようとすると、それより早くビリージョーさんが前に出た。
ファビアナさんの前で両膝に手を置き腰をかがめて、目の位置を同じ高さに合わせる。

「・・・・・えっと・・・その・・・」

「うん、ゆっくりでいいぞ」

帽子を少し上げて顔を出すと、大きく深呼吸をして、ファビアナさんは気持ちを声に出した。


「あ・・・ありがとう、ございました。ま、また・・・来てください・・・」

「・・・おう、約束だ!またな!」

真っ赤になって、お腹から振り絞るように声を出したファビアナさん。
また来てと言われるとは思わなかったのか、ビリージョーさんは少し目を丸くしたが、すぐに笑って返事をした。

ファビアナさんはそれが精いっぱいだったようで、またすぐに帽子を深くかぶって顔を隠してしまったが、嬉しそうにしているのはなんとなく分かった。


「・・・行くか」

挨拶も終え、レイチェルが一言そう呟いた事を合図に、俺達はリンジーさん達に手を振って背を向けた。

再会を約束して。
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