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546 大臣の手紙

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「写しの鏡ねぇ・・・あるけど、値段知ってるよね?」

「あぁ、クインズベリーでは5,000万イエンだ。ここではいくらなんだい?」

求められた品が思いもよらぬ重要品だったのだろう。シャノンさんの表情から笑みが消える。
対してレイチェルは平然と、まるでランチの値段でも確認するような気安さだ。

写しの鏡がいかに貴重で取り扱いが難しいか、レイチェルも十分承知している。
値段だってサラリと言っているが5,000万だ。費用は全て大臣が持ってくれるので心配はないとはいえ、この軽さと言うか動じなさは流石としか言えない。


俺達はサンドリーニ城で大臣と話した後、今後の連絡手段として写しの鏡が必要となり、その調達にアラルコン商会に来ている。

ガラハドさんはそのまま城に残った。俺達が来た事でカーンになにか動きがあるかもしれないから、注意しておきたいらしい。

だから今のメンツは、俺とレイチェルとビリージョーさん、リンジーさんとファビアナさんの五人である。
午前中は挨拶に来て、午後また会いに来た俺達を、シャノンさんは、あらお久しぶり、と言って笑って迎えてくれた。

そして目的が写しの鏡であると伝えると、物がものだけにレジ奥の従業員用の部屋に通してくれたのだ。


「うちでも同じ5,000万だよ。本当は少し安くしてあげたいけど、写しの鏡は国が関わってるから、値段が決まっててさ。あ、それと身元の確認も必要になるし、他国に持って行くとなるとけっこう面倒な手続きもあったね・・・使用目的はロンズデールとクインズベリーでの連絡手段としてでしょ?う~ん・・・審査通るかなぁ~・・・悪いようにとらないでほしいんだけど、レイジェスの店の規模で、5,000万の写しの鏡が必要か?ってなると思う。何をするつもりだって、怪しまれるだけじゃないかな?」

そう言ってシャノンさんは腕を組み、どうしたものかと首を捻る。

「・・・シャノンさん、あ、あの・・・これ・・・」

おずおずとファビアナさんがローブから取り出した、蝋で封がしてある一通の手紙だった。
大臣が、これを見せて交渉しろ、と言ってファビアナさんに渡していた手紙だ。
写しの鏡はアラルコン商会でしか買えない。だから大臣は、俺達がシャノンさんと交渉する事を知っていて、この手紙を持たせた事になる。

「ん?その蝋の印って、バルカルセル大臣の印だよね?・・・うわぁ~、なんかすっごく面倒ごとに巻き込まれそうな予感だな~」

シャノンさんはクセのある黒髪を搔き上げて、唇をへの字に曲げながら手紙を受け取った。
どうやら大臣と面識があるようだ。ロンズデールで一番の商会にして、青の船団も率いているアラルコン商会ならば当然と言えば当然かもしれない。

面倒くさそうに顔をしかめているが、どことなく面白がっているようにも見える。

コーヒーを一口飲むと、封を開けて黙って目を通し始めた。


「・・・ふ~ん、なるほどねぇ・・・だいたいの事情は分かったよ。いやさ、私も大臣派だから、ここまで教えてくれたんだろうけど・・・けっこうな事をやるつもりみたいだね」

「・・・あの、もしかして私達の事、全部書いてあるんですか?」

リンジーさんが、シャノンさんの持つ大臣の手紙を指すと、シャノンさんは読んでみろと言うように、その手紙を差し向けて来た。
リンジーさんがその手紙を受け取り広げると、俺達も横から顔を入れ内容に目を走らせる。



「・・・これは・・・シャノンさん、どうしますか?」

読み終えたリンジーさんが、遠慮がちに尋ねる。

大臣の手紙には、俺達がこの国に来てからの一連の経緯が全て書かれていた。
そしてこの国を立て直すため、行動を起こす決意をした事。
アラルコン商会の力を借りたいという事が書かれていた。


「・・・写しの鏡については、大臣の名前を使っていいと書いてあるから、審査はなんとでもなるだろうね。ただ、知ってると思うけど、写しの鏡には追跡魔法がかけられているの。国で監視してるから、どうしても鏡の場所は分かってしまうんだよね。なんでクインズベリーに?ってなるでしょ?それで国王派に怪しまれないようにするためには、それなりの理由がいる。そこで、大臣が考えたこれだけど・・・アラルコン商会がクインズベリー支店を出して、その連絡用にするためって・・・すごい事考えるよね」

リンジーさんが遠慮がちに聞いたのも無理はない。
アラルコン商会ほどの規模ならば、他国に支店を出すのもなんら不自然ではない。
むしろ、行商に来るより稼げるだろう。
しかし、これをやれば完全に巻き込むことになる。


眉間を押さえて考え込むシャノンさんに、俺は今自分が思った疑問をそのまま尋ねてみた。

「あの、今思ったんですけど、今まで支店を出す事は考えなかったんですか?行商にくるよりずっと稼げそうですけど」

「ん、あぁ・・・もちろん考えたし、会長、あぁうちの親ね、会長にも話しをした事があるんだけど、許可はおりなかったんだ。会長もできれば支店を出したかったみたいなんだけど、クインズベリー国に申請したら、却下されたんだって。アラルコン商会程の大きな店ができると、地元の小さな店に打撃がとか、なんかそんな理由だったみたいだけど・・・会長は、それもあるだろうけど国王だろうなって言ってたよ」

「それって・・・」

思わずレイチェルに顔を向けると、レイチェルも察しがついたようで、俺に顔を向けて頷いた。

「あれ、どうしたの?」

俺とレイチェルの顔色が変わった事に気付いたシャノンさんに、俺はクインズベリーでの戦いを話した。
そして、偽国王があえて国益を損ねる政策を推し進める事もしていたと話した。
クインズベリー支店が却下された理由は、おそらくこれだろう。

シャノンさんは最後まで黙って聞いてくれたが、相当な驚きだったようだ。
話しが終わると、気持ちを落ち着かせるように深く息を吸い込んで、大きく吐き出した。

「はぁ~・・・・・すっごいねぇ・・・国王が偽者で、しかも帝国の人間だった。そして闇?まったく、お兄さんそんなの戦ってよく生きてたね?」

「はい・・・我ながらそう思います」

「・・・話してくれてありがとう。みんなと話してて、なんか隠してるなって感じがあったんだけど、これでスッキリしたよ。でも、本当に私に話して良かったの?どう考えてもこれ極秘でしょ?」

シャノンさんは片眉を少し上げて、俺をじっと見つめる。
口元には笑みを浮かべているが、目は真剣そのものだ。これだけ重要な話しをしたんだ。
シャノンさんも、その真意を見極めたいのは当然だろう。

「・・・はい。だって、こっちがお願いする立場なのに、隠し事なんてできないです。それに・・・」

「・・・それに?」


「あの時、シャノンさんが石をネックレスに付けてくれたから、カチュアは毎日それを嬉しそうに付けてるんです。だから、何て言うか・・・その・・・」

自分が何を伝えたいのか、上手く言葉にできず、尻切れな感じになってしまった。
だめだな俺、そう思ってつい下を向いてしまうと、目の前にスっと手が差し出された。


「あはは、なに俯いてんのさ。お兄さん、私を信用してくれたって事でしょ?ありがとう。嬉しいよ。アラルコン商会クインズベリー支店、やってみようじゃないか!」


「あ、ありがとうございます!」

目の前に差し出された手をしっかり握ると、シャノンさんはニカっと歯を見せて笑ってくれた。
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