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544 ロンズデール大臣との面会

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「魔道剣士?初めて聞くな」

レイチェルが疑問を口にすると、リンジーさんもそう反応が来る事は予想していたようだ。
分かってると言うように、軽く頷いて説明を始めた。

「えぇ、ラミール・カーンがそう名乗ってるだけだから、知らなくて当然でしょうね。でも魔道剣士はカーンだけじゃないわ。型に捕らわれず、全く読めない戦い方をする戦闘法に感銘を受ける人もいて、少しづつ使い手が増えているのよ」

「ほぅ・・・それで、どういう戦い方なんだ?名前だけを聞くと、魔法と剣を使いそうなものだが、体力型は魔法が使えないだろ?」

ビリージョーさんが口を挟むと、リンジーさんは一言で答えた。

「剣と魔道具を駆使して戦うんです」

歩きながら話しましょう。リンジーさんはそう口にすると、促すように二階を見上げ、ゆっくりと歩き出した。


「体力型に使える魔道具が少ない事はご存じですよね。なぜなら大半の魔道具は、魔力を使用するようにできているからです。近年では、魔力の代わりに体力を削って効果を発揮する物も増えてきて、体力型にも使える魔道具が増えてきました。まだまだ足りないのが現状ですが、それでも投げるだけで爆裂弾と同レベルの爆発を起こせる物や、刺せば凍るナイフとか、使い捨てですが代償を必要としない物も作られるようになって、使い勝手は良くなってきました」

人の能力を迂闊に話すわけにはいかないので口には出さなかったが、ビリージョーさんの左目の義眼、サーモグラフィーのように温度を捉える能力は、そうとうな集中力がいると話していた。
連続して数十分も使用すれば、疲労により頭痛や眩暈に襲われるらしい。これも体力型が魔道具を使用するための代償なのだろう。


階段を上りながら、リンジーさんは丁寧な口調で説明を続けた。

「ここまで言えば、想像はつきますよね?魔道剣士とは、体力型が使えるあらゆる魔道具を使い、剣術と合わせて戦うんです。ロンズデールは戦争はしませんが、軍隊はあります。体力型も魔法使いも、日々研鑽を積んでいるんです。私は何度か、カーンが模擬戦をしているところを見た事がありますが、あれは非常に戦い難いと思いました。その上、カーン自身の純粋な戦闘力も高いんです」

「なるほど・・・気に入らないヤツだが、話しを聞く限りなかなかの手練れのようだね。しかも国王の側近で、帝国との協定を強く推してるって?」

さっき聞いた内容を確認するレイチェルに、リンジーさんは振り向かずに肯定した。

「そうです。ラミール・カーンがその筆頭とも言えるでしょう。元々ロンズデールは帝国との結びつきが強かったのですが、10年程前にカーンが国王の側近として仕えるようになってから、それが一層強くなりました。街の商店や宿での帝国優遇も、カーンが仕えるようになってから始まった事です。カーンの徹底した帝国絶対主義を見ていると、どこの国の人間だと言いたくなるくらいですよ」

最後の方はカーンに対しての呆れや苛立ちが、はっきりと声に滲み出ていた。

「私達も国王の命令に従って、帝国のために動いていましたから、カーンの事を責めるのは筋違いかもしれません。けれど、カーンの徹底ぶりは、それこそ国を切り売りしても構わないと言っているようなものです。そしてそれに待ったをかけているのが、大臣のバルカルセルなのです」


そう言ったところで足を止めたリンジーさんは、目の前の扉を指さした。

「着きました。この部屋で大臣を待ちましょう」





大臣が来たのは、俺達が応接室に入って二時間程経ってからだった。

「・・・ロンズデール国、大臣のフランシェス・バルカルセルだ。まずは此度の一件で、我が国の者がクインズベリーに大変な無礼を働いた事をお詫びさせて欲しい」

大臣は応接室に入り、俺達と顔を合わせるなり頭を下げた。
一国の大臣がである。大臣の後に続いて部屋に入って来たガラハドさんに顔を向けると、ガラハドさんは、何も言わずにこのまま受け入れてほしい。そう言うように、神妙な顔で頷いて見せた。

俺としても、このまま頭を下げさせておくわけにはいかない。
しかし今いるメンバーの中で、一国の大臣の謝罪を受け入れる判断を下せるのは、俺ではない。レイチェルか?そう思いレイチェルに目を向けた時、ビリージョーさんが一歩前に出た。


「頭をお上げください。この場で謝罪を受け入れる判断はできかねますが、大臣殿のお心は、クインズベリー女王、アンリエールにお伝え致します。申し遅れましたが、私はビリージョー・ホワイト。クインズベリーで女王の食を預かる者でございます」

促されて大臣が顔を上げると、ビリージョーさんは自分をリーダーとして紹介し、俺とレイチェルの事は、簡単に名前だけの挨拶で終わらせた。

その間レイチェルは異論を挟むことなく、ビリージョーさんに言われるままの対応をとった。
俺もそれにならったが、少し余裕が出てくると、なるほど、これでいいと思えた。

実際の関係がどうのではなく、こういう場では、年長者が仕切った方がうまくいくのだろう。

俺は22、レイチェルは19歳だ。
ビリージョーさんは35歳。そしてこの大臣は65~70歳には見える。

ビリージョーさんが若くないとは言わないが、俺達が対応するよりまとまりやすいだろう。
年齢というものは、それだけで信用になる場合もある。
それにビリージョーさんは、料理人という仕事柄、王侯貴族の相手も慣れている。まさに適任だ。




お互いの挨拶をすませると、大臣のバルカルセルは、一人掛けの黒い革張りのソファーに深く腰をかける。恰幅の良い体が、ソファーの受け入れギリギリまで沈み込む。バルカルセルの目方が相当なものだと想像できる。

年齢の割にボリュームのある真っ白の頭髪は、丁寧に後ろに撫でつけられており、シワを伸ばす張りの肌は健康的で清潔感すら感じられる。
横に広い体系のため、実際の背丈より大きくも見えるが、最初に向かい合った時、アラタの目が下を向いた事から、恐らく170cmもないだろう。

生活感のある深い青色のスーツに、白いシャツ、ネクタイの代わりに、青い金具が付いた紐を首から下げている。ループタイというヤツだろう。

青と白、国のイメージカラーでほぼ全身を固めている事から、愛国心の強さが伺える。

「・・・なるほど、女王だけでなく、貴族も虜にしてしまう料理人ですか。正直に申しまして、最初はなぜ料理人の方が使者を?と思いましたが、なるほど。緊急時だった事を考えれば、職業は些末な問題ですな。能力のある者が努めればよろしい。実際あなたは、判断能力にも長けているようにお見受けできる」

「いえいえ、私などまだまだです。諸先輩方から学ばせていただく事ばかりで」

長テーブルを挟む形で、ビリージョー、レイチェル、アラタの三人が座り。
向かい側には、ガラハド、リンジー、ファビアナが座る。
そしてその二国間を一望できる間の席に、大臣のバルカルセルが座っていた。

もっぱら話すのは、バルカルセルとビリージョーである。
時折、ガラハドが大臣の話しに補足で口添えする事はあるが、他の者は全員黙って聞いている。
そうして、十数分程の世話が終わると、いよいよ本題とばかりに、バルカルセルが声を落として話し出した。

「さて・・・リンジー、お前達の考えはガラハドから聞いている。この方達をワシに合わせたと言う事は、そういう事でいいんだな?」

「はい、私達は覚悟を決めしました。ロンズデールは今こそ変わらなければと思います」

「わ・・・私も、お、同じ気持ちです」

リンジーが即答すると、ファビアナも自分から決意を口にした。
ファビアナが自分から積極的に会話に入って来る事に、バルカルセルは驚きと同時に決心の強さも感じ取る。

「そうか。お前達がワシについてくれるのは本当にありがたい。そしてファビアナ、お主には国王の血も流れているんだ。これは大きい事だぞ。妾の子だなどと、誹謗の声を上げる者もいるが、王族の血には変わりない。その血筋の者が反帝国派につくんだ。勢力も拡大していけるだろう」

プレッシャーがかかったのか、ファビアナは返事もできずに俯いてしまう。
バルカルセルも慣れているのだろう。ことさらに気にする様子もなく、アラタ達に体を向けると、これからの話しに力が入るからか、やや前かがみになる。

「さて・・・それではそろそろ、帝国との話しをしましょうか」
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