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542 海に囲まれた城

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「ここがサンドリーニ城よ」

アラルコン商会を出てから、俺達はリンジーさんに付いてロンズデールの城へと向かった。
歩きでは距離があったので、途中で馬車を拾い20分程走り着いたのが、このサンドリーニ城だった。

海と共に生きるロンズデールらしく、青い屋根に石造りの白い外壁が、見る物に海を連想させる。
中央の本丸には4つの巨大な塔。これはクインズベリー城を知っているアラタやレイチェルには、四勇士のいた見張りの塔を思い出させた。

そして本丸は大きな塔2基と共に巨大な前壁を作っていて、後部にはさらに大きな塔2基がある。
水辺に囲まれていて、城に入るためには幅広く長い橋を渡らなければならないのだが、これが馬車で渡り切るにも2~3分はかかった事から、想像以上にかなりの距離があると分かった。


「・・・けっこう長いんですね」

さながら海に浮かず孤島の城だ。いざという時でも、逃げ道は城の正面のこの橋を渡るしかない。
いつ、誰がこの城を造ったのか分からないが、もし城に攻め込まれたらと考えなかったのだろうか?

「何百年も前、この城が建てられた時は、ここまで長くはなかったみたいよ。でも、長い年月をかけて波が土を削っていって、それに合わせてちょっとづつ橋を補強しては、長く伸ばしていったらしいの。自然の力ってすごいわね」

リンジーさんは、今渡った橋を振り返り、遠くを見るように目を細めながら説明してくれた。

とても綺麗な景色だった。
橋を中心に、左右に分かれた海が空の青を吸収し、目の覚めるような美しい青に染まっている。
太陽の光を浴びて眩い輝きを放つ青い海に、俺はすっかり目を奪われてしまった。



「アラタ、今度はカチュアを連れてきてやるんだぞ」

「うおっ!」

いきなり耳元でささやかれ、驚きに体をよじり声を上げると、なにやら意味深な目で俺を見ているレイチェルがいた。

「び、びっくりしたー・・・驚かすなよ」

「あははは、いや、なに、この美しい景色を見ながら、隣にカチュアがいない寂しさに暮れているんだろうなと思ってね」

軽く睨みながら、一つ文句を言ってやるが、レイチェルはケラケラ笑って右から左に聞き流している。

「・・・それ、服も売ってて良かったな」

「ん、あぁ、言ってみるものだよな。さすがにあのボロボロのシャツを着て、城に来るわけにはいかないからな。まぁ、正装でない時点で大差ないかもしれないが」

レイチェルの着ている黄色のジッパー式のパーカーを指すと、レイチェルは服を見せるように右腕を上げて、左手で裾を摘まんで見せた。

「黄色なんて普段着ないから、なんだか新鮮だよ。どうだ?似合ってるかい?」

「うん、いいと思うよ。似合ってる。しかし、それも魔道具ってのは驚いたよ。普通のパーカーにしか見えないけどね」

「うん、これは私も驚いたよ。まさか魔道具だとは思わなかった。着ている者の体温と、周囲の気温に合わせて快適な暖かさになる。というのは嬉しいね。コートもボロボロで捨ててしまったから、本当に助かるよ」

アラルコン商会で買った黄色のパーカーの、お腹のポケットに両手を入れると、そろそろ行こうか、と言ってレイチェルは顔を城に向けた。






「よぉ、来たか。どうだ?旅の疲れはとれたか?」

城に入ると、入り口近くで待っていたガラハドさんがすぐに近寄って来た。

「ガラハド、時間は大丈夫ですか?」

「あぁ、いつ来るか分からんかったから、大臣の都合に合わせる事にした。お前達が来たら取りついでもらう事になっている。大臣の手があくまで待つ事になるが、そこは我慢してくれ」

「大丈夫ですよ。お忙しい大臣の時間をあまり拘束できませんしね。ではガラハド、私達はどこで待っていればいいですか?」

「あぁ、二階の応接室をとって置いた。執務室の隣だ。先に行っててくれ。俺はお前達が来た事を伝えて来る。まぁ、今からなら昼を過ぎるのは確定だぞ」

一歩前に出たリンジーさんが、これからの調整をつける。
昨日はあまり時間もなかったし、どの宿に泊まるかも分からなかったから、事前に面会の時間を決められなかった事はしかたないだろう。

「さて、どんなに早くても午後になるのは間違いないみたいね。みんな、せっかくだから二階に行く前に少し城を見て行かない?案内するわ」


ガラハドさんがいなくなると、リンジーさんの案内で城内を見て回る事になった。
リンジーさんはよほどこの城が好きなようで、いかにこの城が素晴らしいかを、熱の入った調子で語りながら歩く。


クインズベリー城は豪華絢爛、それは城らしい城で、映画に出てくる中世の城そのものだった。
しかし、このロンズデールのサンドリーニ城は、アニメに出て来るファンタジーな城という印象だ。

内装は白を基調とし、広間や通路には煌びやかな調度品は見当たらない。
シャンデリアも無く、その代わりに太陽光パネルのような、いくつものガラスを張り合わせた物が天井に取り付けられていて、それが広間や通路を明るく照らしている。
リンジーさんに聞いてみると、これも魔道具であり、発光石と原理は同じらしい。

絨毯は海をイメージした青らしく、外観もそうだったが、この城に使われている色はほぼ青と白のみである。
冬場には寒々しい印象を受けそうなものだが、天井から照らされる明かりは、良く見ないと分からないが淡い黄色で、これのおかげで暖かく優しい印象になる。

「よく計算されてますね」

「そうなの、すごいでしょ!この城には余計な飾り付けは必要ないの。どこからでも見える海と、そして海を象徴するこの色だけで十分なのよ」


そう話すリンジーさんの笑顔からは、心からこの城が好きなんだと伝わって来る。
色々見て周り、俺もこの城はこのままが一番だと思った。どれだけ見ても飽きないし、観光地として開放してもいいのではないかと思うくらいだ。


「さて、こんなところかな。じゃあ、そろそろ・・・」
「リンジー・・・戻ってきていたのか」

たっぷり一時間は歩いただろう。
それでもまだ城を全部見て回れたわけではないが、11時近くなりだんだん応接室に行こうかというところで、ふいにリンジーさんに声がかけられる。




30代くらいだろうか。
黒に近いダークグレーの髪は、トップを残しサイドを刈り上げている。
やや色黒で、鼻の下には丁寧に切りそろえられた髭、顎の回りにも同様に揃えられた髭が、耳に向かって伸びていた。
身長はリンジーさんより若干高いくらいで、180㎝あるかないかくらいだろう。

装備は全て銀製だった。丸みのある肩当て、肘から手首にかけてのアームガード。胸当て。腰から下にもしっかりと防具は付けられている。

そして左腰には大降りの剣が下げられていた。
確認するまでもなく、完全に体力型だと分かる装備だ。


「・・・カーン」

あまり会いたくなかった人物なのかもしれない。

リンジーさんは沈んだ声でその名を呟いた。
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