上 下
537 / 1,277

536 ロンズデールの歴史 ①

しおりを挟む
「お察しの通り、私達はクインズベリーの情報を帝国の使い、あのミリアムに渡す事が任務でした。三国会談の席に着くとは、帝国も思っていなかったのでしょう。今回の戦いで、クインズベリーがどのくらいの被害を受けたか、新女王の印象、残った戦力など、そういうものを見て来る事が第一の目的でした」

今、俺達は国境の町レフェリから、ロンズデール首都に向かう馬車の中にいる。
リンジーさんは、俺達と戦った事で色んな事が吹っ切れたように見える。表情や言葉に力があり、その目にも確かな意思が感じられた。

「やはりそうか。それで今回の情報は、あの女に全ていってしまったんだな?」

俺の隣、リンジーさんの真向かいに座るレイチェルが、膝の上で両手を組ませながら、言葉を挟み確認する。

「・・・はい。同じ宿に泊まりましたので、私達が知り得た事は、昨晩のうちに話しました」

やや俯き加減に、申し訳なさそうに声を落とす。
けれど、すぐに顔を上げて、リンジーさんはレイチェルの目を真っ直ぐに見た。

「クインズベリーには多大なご迷惑をおかけしました。代わりにはならないかもしれませんが、私達の知る帝国の情報をお渡しします」

「・・・それはありがたいが、良いのかい?あなたはただの使者なんだろう?そんな重大な事をここで私に約束して」

レイチェルの指摘は最もだった。
リンジーさんがある程度上の立場にいる事はなんとなく分かるが、今ロンズデールと帝国は、帝国に有利な条件でだが友好関係にある。

ただでさえ今回リンジーさんが俺を助けた事で、睨まれる事になるだろうに、勝手にそんな約束をしていいのだろうか?

「かまいません。レフェリを出る時にも、全てお話しすると約束したではありませんか?それに、ロンズデールが変わるには必要な事です。私達は覚悟を決めております」

レイチェルは真意を確かめるように、じっとリンジーさんの目を見つめ、やがて右手を差し出した。

「分かった。あなたを信じよう。私達もできる限りの協力はしよう」

レイチェルがリンジーさんに向ける表情は、これまでと違い、警戒心を解いた自然な笑みだった。

「・・・はい。よろしくお願いしますね!」

初めて見るレイチェルの柔らかい表情に、少しだけ目を丸くした後、リンジーさんも笑顔でその手を握った。




「・・・元々、ロンズデールの王家は、争いを好まない温和な人間ばかりでな」

レイチェルとリンジーさんが手を握り、優しい空気が流れると、リンジーさんの隣に座るガラハドさんが口を開き話し始めた。

「歴史上、ロンズデールが一度たりとも戦争をした事がないのは有名だろ?弱腰だの、指導力が足りないだの、裏で色々言われる事は当然あった。だが、それが何百年も続けば、やがてそれが当たり前になる。国民だって血は流したくないんだ。国王が一貫して平和主義を貫き、それで国が平和に回るのならば、それが支持されるようにもなる。200年前のカエストゥスと帝国の戦争でも、ロンズデールは中立を決め込んだ。一時劣勢に立たされた帝国から支援を要請されたそうだが、頑としてその要求だけは吞まなかったそうだ。兵力はあるが、それはあくまで自国が攻め込まれた時の最終手段。他国の争いに犠牲を出すつもりは毛頭ないとな」

「へぇ、まぁ当然と言えば当然だな。わざわざ他国の争いに首を突っ込む必要はない。その判断は間違っていない。それにしても、よくそんな記録が残っていたね?あの戦争の歴史は、書物もほとんど残っていないと聞くが?」

「自分の国の、ロンズデールの歴史だぞ?戦争介入を断った経緯くらいは残っているさ。逆に言えば、それ以外は何も分からないがな。あの戦争は謎が多すぎる。帝国の公式発表も疑わしいものだ。歴史があえて隠されているとしか思えん」

そうレイチェルに言葉を返すと、ガラハドさんは眉間にシワを寄せ、難しい顔で話しを続けた。

「それでだ・・・ロンズデールはこれまでずっとそうしてきた。最後の一線で、戦争に加担する行いだけは拒み続けた。だがな、現国王の代で少し変化が起きた。俺達を見れば分かるだろ?帝国の言いなりになって、他国に間者として入り込むなんて、侵略行為に加担しているとしか言えん。ロンズデールが帝国の傀儡、言いなりと言われている事は周知の事実。現国王リゴベルト・カークランドも例にもれず温和な人間だが・・・いかんせん、心が弱すぎた」

自分の国の王を批判する言葉に驚かされたが、それだけ気持ちを固めているという事だろう。

「それが今のロンズデールだ。戦争をしない。国民に血を流させない。そのために帝国の要求を全て呑んだ結果がこれだ。こんなのは戦争をしかけているのと何も変わらん。全く持って矛盾している。リンジー、お前の言う通り、今回の一件はロンズデールが変われる最後のチャンスだろう。クインズベリーと手を取り、帝国に立ち向かうべきだ」

「ガラハド・・・はい!その通りです!」

リンジーさんとガラハドさんが、目を合わせ気持ちを確認し合う。


「・・・なるほどな。そういう事か。さっき、このお嬢ちゃんからも聞いたが、今のロンズデールの国王は優しすぎたんだな」

話しの区切りがついたところで、ビリージョーさんが口を挟んで来た。
正面に座るファビアナさんにチラリと目を向ける。俺達と合流する前に、色々と話しを聞いているようだ。

「国民に血を流させないため。戦争になるよりはマシだろう。そうしてハイハイと要求を呑んでいるうちに、それがどういう結果を招くか分からなくなっちまったんだ。このままじゃ遅かれ早かれ国が亡びるぞ」

警告するようにそう告げるビリージョーさんの言葉を受け、リンジーさんは静かに口を開き、言葉を返した。


「・・・否定できませんね。だからこそ、ここで変わらなければならないのです。ロンズデールについたら、まず大臣のバルカルセルに会っていただきます。彼は反帝国を国王に訴える数少ない人物です」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...