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533 説得と怒り

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「お嬢ちゃん、動かないでくれよ。あんたみたいな子、できれば傷つけたくないんでな」

ガラハドがレイチェルに襲い掛かり、アラタとリンジーが向き合った時、ビリージョーも自分の役割を見極め、一瞬の隙をついてファビアナの胴を抱えて飛び、他と距離を離した。

ファビアナは抵抗する事もなく、ただ俯いて目を合わせる事もなく、黙って頷いた。
抵抗するそぶりすら見せないファビアナに、ビリージョーは軽く息をついた。

「・・・お嬢ちゃん、白魔法使いか?」

ファビアナは答えるか迷ったようだったが、数秒の間を置いて頷いた。

「なるほど、攻撃用の魔道具も持っていないようだし、一人で俺に向かって来る事はないようだな」

体力型二人と行動するのなら、なにかあった時のために回復役は必要だ。
あの黒い蝶は探索系みたいだったし、このお嬢ちゃんは戦闘からは完全に切り離されていたんだろうな。
そう考えたビリージョーは、腰を落とし、ファビアナと同じ目線に立った。
なにかされるのでは?そう思い、体を強張らせたファビアナに、ビリージョーはできるだけ柔らかく言葉をかける。

「そう身構えるな。お嬢ちゃんがおかしなマネをしなけりゃ、俺も何もしやしねぇよ。なぁ、お嬢ちゃん達の事を話してくれねぇか?俺にはどうもあんたらが悪者だとは思えねぇ。さっき、あの帝国兵らしい女と一緒にいた時の顔・・・仲間って感じじゃなかったな」

「・・・・・」

口を閉ざしたままだったが、帽子を深く下げ、顔を逸らす仕草から、ビリージョーは自分の考えが的を得ていると確信を持った。


「・・・俺はビリージョー・ホワイト。元クインズベリー国の料理人だ。今はナック村で宿を営んでいる。約束しよう。全て話してくれたら、俺が力になろう。望むならキミ達をクインズベリーで保護してもいい。敵ではない。できれば味方になりたいと思っている。話してくれないか?」

ゆっくりと顔を上げたファビアナは、そこで初めてビリージョーと目を合わせた。
怯えるように、けれど助けを求めるように、涙に濡れたその紫色の瞳を見て、ビリージョーはもう一度優しく言葉をかけた。

「約束だ。俺はこれでも王侯貴族から目をかけてもらっている。キミ達の力になれると思うぞ」


臆病でいつも人の顔色ばかりを窺ってきたファビアナだからこそ、ビリージョーの言葉に嘘がない事を分かった。


「・・・わ、私達を・・・助けて・・・」


勇気を出してそう言葉を発すると、ファビアナは自分達の置かれている境遇を話し始めた。





「なかなかやるけど、この辺にしておかないかい?あんた、本気で私を殺す気はないんでしょ?」

レイチェルは右手を腰に当て、左の人差し指でガラハドを指す。
ガラハドは地面に片膝を着き、息を切らせていた。

両者のダメージの差は明らかだった。

レイチェルは最初こそ鉄の棒の一撃を受けたが、そこからは圧倒的スピードでガラハドを全く寄せ付けず、蹴り倒していた。

「足だけで・・・この俺を、ここまで・・・大した娘だ」

口内に溜まった血を吐き捨てると、ガラハドは棒を指先で回し地面に突き立て、立ち上がった。

「・・・まだやるのかい?やっても意味はないんじゃないかい?」

腕を組み、僅かに目を細めてガラハドを見る。

「まぁ・・・確かに、ちょっと痛い目に合わせて引いてもらおうと思ってたんだが・・・ここまで一方的にやられるとな、武人としての闘争心に火が付いたよ。レイチェルと言ったな?変な手心を加えて悪かった。ここからは俺も本気でやろう」

ガラハドの目付きが変わり、体中に気力が漲る事が感じられ、レイチェルも左半身を前に迎撃の構えをとった。

「全く、嫌になるね。私の戦う男は、みんなタフだ」

そう話す言葉とは裏腹に、ニヤリと笑うレイチェルを見て、ガラハドもまた笑った。





「おい、お前が悪いんだろ?リンジーさん達から手を引け」

手を伸ばせば届く距離で、アラタは帝国の軍人ミリアムを睨み付けていた。

「・・・フ・・・ハハハハハ!何を言うかと思えば・・・ハハハハハ!お前馬鹿か?はい分かりましたと言う事を聞くとでも!?」

高笑いするミリアムだったが、アラタは眉一つ動かさず、そのままミリアムを睨み続けた。


「それで、お前は誰だ?ずっと我々を見張っていたようだが、見たところ騎士ではないな。ならば治安部隊か?さしずめ新女王が送ってよこしたんだろう?全く浅はかな事だねぇ」

ミリアムの嘲りに、アラタは正面から言葉を返した。

「なにが浅はかなんだ?こうして俺はお前の前に立った。逃がすつもりはないぞ。このままクインズベリーに連れて行って、女王の前で断罪してやる」

「それが浅はかだと言っている。あたしを捕まえられるなら、捕まえてごらん!」

そう言うや否や、周囲の霧が濃度を増し、ミリアムの体が霧に隠れ、アラタの視界から消え去った。

「なにっ!?」

驚きの声を漏らし辺りを見回すと、突然アラタの背中で爆発が起こり、そのまま地面に倒された。

「ぐぁっ、くっ・・・ば、爆発魔法か!?」

振り返っても何も見えない。
ただ、驚く程に凝縮された濃霧が、アラタの視界を全て灰色に染め上げていた。


「へぇ~、鍛えれば魔法耐性は上がるけど、あたしの爆裂弾でほとんどダメージ無しか。ずいぶん頑丈なんだ?」


霧の中から聞こえるミリアムの声に、アラタは立ち上がり拳を構えた。

「あれれ?ちょっと、やる気?体力型のお前がこの霧の中でどう戦うの?あたしにはあんたはハッキリ見える。けど、あんたには見えない。それでこのあたしと戦う気?頭大丈夫なのぉ?」

ミリアムの嘲笑にアラタは何も言葉を返さなかった。
ただ、黙っていつも通り拳を構える。

その姿に、ミリアムは少しの苛立ちを見せた。

「・・・フン、まぁいいわ!だったらお望み通り殺してあげる!」


氷の黒魔法、刺氷弾。
無数の氷柱がアラタの背後から撃ち放たれた。
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