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531 リンジーの説得 ①
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「リンジーさん・・・」
顔を合わせたリンジーさんに、俺はそれ以上言葉を続けらなかった。
なんで?どうして?
それ以外頭に浮かんでこない。
リンジーさんのすぐ隣にいるこの女が、帝国の軍人なのだろう。
年齢は20代中頃。身長は165cm無いくらいに見える。
肩口で揃えられた金色の髪、前髪は左から右へと少しづつ長くなっていて、右目は半分髪に隠れるくらいだった。
金茶色の瞳は、俺を値踏みするかのように、上から下へとジロリと見回している。
薄い唇は機嫌が悪そうに、曲げられていた。
帝国の軍人という事を隠すつもりはないようで、話しに聞いていた深紅のローブを身に着けている。
深紅のローブは、200年前のカエストゥスと帝国との戦争で、帝国の幹部クラスが身に纏える火の精霊の加護を受けたローブだ。
そして、かつてレイジェスに襲撃をかけたディーロ兄弟も、同じ種類のマントを身に着けていた。
これだけで、この女が帝国の人間だと分かる。
「リンジー、こいつは?知り合いみたいだけど)
金髪の女が俺を目を俺に向けたまま、リンジーさんに関係性を問う。
「・・・クインズベリーで少し話しただけです。城へ案内してもらいました」
リンジーさんの返答に、金髪の女は、ふーん、と感情のこもらない声で唸った。
リンジーさんは、落ち着かないように、腰まで伸びた長い灰色の髪を撫でる。
首元で左右に分かれた髪の先には、宝石のように光る丸い玉がリボンで結ばれている。
「なんか、こいつは色々言いたい事あるみたいだよ?それに、状況を見るとこいつらここまで付けて来たって事でしょ?面倒だよねぇ。あたしの事もバッチリ見られちゃったしさ。リンジー、やっちゃってよ。ちょっと話しただけの関係なら、別に特別な感情もないでしょ?」
「・・・・・」
「どうしたの?早くやりなさいよ」
動かないリンジーさんに、金髪の女が少し苛立ち見せた。
俺とリンジーさんは、2~3メートル程離れた位置で、お互いに目を逸らさないで立っている。
リンジーさんはほんの少しだけ微笑んでいた。その笑みが何を意味しているか分からないが、俺を見つめるその瞳には、少しだけ悲し気な色が浮かんで見えた。
「リンジーさん・・・」
「リンジー!やれって言ったらさっさとやりない!あたしの言う事が聞けないの!?」
俺が声をかけようとすると、それにかぶせて金髪の女が怒鳴り声を上げた。
掌打(しょうだ)だった。
金髪の女が言い終わるか終わらないかで、手の平が俺の鼻先に迫っていた。
間一髪、首を後ろに捻り躱すと、そのまま地面を蹴って、大きく後方に飛び退いた。
「・・・ふぅ」
着地して、思わずため息がこぼれた。
危なかった。かなりギリギリのタイミングだった。
「リンジーさん・・・」
向き直ると、リンジーさんが小さく微笑みながら俺を見ていた。
やはり体力型か。
俺に放った右の掌打、あの鋭さは生半可なものではない。
だが、俺はこれ以上の鋭く速い拳を身を持って経験している。
マルゴン・・・
クインズベリー最強と言われたあの男の突きは、ボクシングのジャブ以上だった。
それに比べれば、見極める事は難しいものではない。
「リンジーさん、やめてください。俺はあなたと戦いたくはない」
俺の呼びかけに、リンジーさんは何も答えなかった。
ただ、微笑みをながらも悲し気な表情のまま、一度だけ軽く頭を振ると、俺に飛び掛かってきた。
「リンジーさん!」
俺が叫んでも何も効果はなく、リンジーさんを止める事はできなかった。
肩口から真っ直ぐに突いてくる右の掌打を、左手で内側から弾く。
すると左の掌打が斜め下から俺の顎を目掛けてくるので、一歩足を下げて、顎を引き紙一重でかわす。
そのまま腰を右に回し、俺の右脇腹を狙い放たれた左の蹴りを、右腕をたたんで受け止める。
鋭さは受けて分かった。だが軽い。破壊力、重さが絶対的に足りない。
頭や顎にでも喰らえば意識を刈り取られるかもしれないが、この質の打撃ではそうそう相手を倒せるものではない。
蹴りでこれならば、拳も想像がつく。
あの掌打も鋭さゆえに警戒したが、俺をノックアウトできる程の威力はないだろう。
そう思った矢先、俺の左脇腹に堅く重い何かがめり込んだ。
「うぐっ・・・ッ!」
体がくの字に折れ、肺の中の呼吸が残らず絞り出されるような苦痛に襲われる。
ここまで強烈な一撃は、マルゴンの蹴りを腹に受けた時以来だった。
「そ・・・れは・・・」
かろうじて倒れないように、足に力を入れ踏ん張り耐える。
顔を上げた俺の目に映る攻撃の正体は、リンジーさんの首元から左右に分かれ、腰まである長い髪の先に、リボンで結ばれた丸い玉だった。
顔を合わせたリンジーさんに、俺はそれ以上言葉を続けらなかった。
なんで?どうして?
それ以外頭に浮かんでこない。
リンジーさんのすぐ隣にいるこの女が、帝国の軍人なのだろう。
年齢は20代中頃。身長は165cm無いくらいに見える。
肩口で揃えられた金色の髪、前髪は左から右へと少しづつ長くなっていて、右目は半分髪に隠れるくらいだった。
金茶色の瞳は、俺を値踏みするかのように、上から下へとジロリと見回している。
薄い唇は機嫌が悪そうに、曲げられていた。
帝国の軍人という事を隠すつもりはないようで、話しに聞いていた深紅のローブを身に着けている。
深紅のローブは、200年前のカエストゥスと帝国との戦争で、帝国の幹部クラスが身に纏える火の精霊の加護を受けたローブだ。
そして、かつてレイジェスに襲撃をかけたディーロ兄弟も、同じ種類のマントを身に着けていた。
これだけで、この女が帝国の人間だと分かる。
「リンジー、こいつは?知り合いみたいだけど)
金髪の女が俺を目を俺に向けたまま、リンジーさんに関係性を問う。
「・・・クインズベリーで少し話しただけです。城へ案内してもらいました」
リンジーさんの返答に、金髪の女は、ふーん、と感情のこもらない声で唸った。
リンジーさんは、落ち着かないように、腰まで伸びた長い灰色の髪を撫でる。
首元で左右に分かれた髪の先には、宝石のように光る丸い玉がリボンで結ばれている。
「なんか、こいつは色々言いたい事あるみたいだよ?それに、状況を見るとこいつらここまで付けて来たって事でしょ?面倒だよねぇ。あたしの事もバッチリ見られちゃったしさ。リンジー、やっちゃってよ。ちょっと話しただけの関係なら、別に特別な感情もないでしょ?」
「・・・・・」
「どうしたの?早くやりなさいよ」
動かないリンジーさんに、金髪の女が少し苛立ち見せた。
俺とリンジーさんは、2~3メートル程離れた位置で、お互いに目を逸らさないで立っている。
リンジーさんはほんの少しだけ微笑んでいた。その笑みが何を意味しているか分からないが、俺を見つめるその瞳には、少しだけ悲し気な色が浮かんで見えた。
「リンジーさん・・・」
「リンジー!やれって言ったらさっさとやりない!あたしの言う事が聞けないの!?」
俺が声をかけようとすると、それにかぶせて金髪の女が怒鳴り声を上げた。
掌打(しょうだ)だった。
金髪の女が言い終わるか終わらないかで、手の平が俺の鼻先に迫っていた。
間一髪、首を後ろに捻り躱すと、そのまま地面を蹴って、大きく後方に飛び退いた。
「・・・ふぅ」
着地して、思わずため息がこぼれた。
危なかった。かなりギリギリのタイミングだった。
「リンジーさん・・・」
向き直ると、リンジーさんが小さく微笑みながら俺を見ていた。
やはり体力型か。
俺に放った右の掌打、あの鋭さは生半可なものではない。
だが、俺はこれ以上の鋭く速い拳を身を持って経験している。
マルゴン・・・
クインズベリー最強と言われたあの男の突きは、ボクシングのジャブ以上だった。
それに比べれば、見極める事は難しいものではない。
「リンジーさん、やめてください。俺はあなたと戦いたくはない」
俺の呼びかけに、リンジーさんは何も答えなかった。
ただ、微笑みをながらも悲し気な表情のまま、一度だけ軽く頭を振ると、俺に飛び掛かってきた。
「リンジーさん!」
俺が叫んでも何も効果はなく、リンジーさんを止める事はできなかった。
肩口から真っ直ぐに突いてくる右の掌打を、左手で内側から弾く。
すると左の掌打が斜め下から俺の顎を目掛けてくるので、一歩足を下げて、顎を引き紙一重でかわす。
そのまま腰を右に回し、俺の右脇腹を狙い放たれた左の蹴りを、右腕をたたんで受け止める。
鋭さは受けて分かった。だが軽い。破壊力、重さが絶対的に足りない。
頭や顎にでも喰らえば意識を刈り取られるかもしれないが、この質の打撃ではそうそう相手を倒せるものではない。
蹴りでこれならば、拳も想像がつく。
あの掌打も鋭さゆえに警戒したが、俺をノックアウトできる程の威力はないだろう。
そう思った矢先、俺の左脇腹に堅く重い何かがめり込んだ。
「うぐっ・・・ッ!」
体がくの字に折れ、肺の中の呼吸が残らず絞り出されるような苦痛に襲われる。
ここまで強烈な一撃は、マルゴンの蹴りを腹に受けた時以来だった。
「そ・・・れは・・・」
かろうじて倒れないように、足に力を入れ踏ん張り耐える。
顔を上げた俺の目に映る攻撃の正体は、リンジーさんの首元から左右に分かれ、腰まである長い髪の先に、リボンで結ばれた丸い玉だった。
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