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521 ロンズデールからの使者 ⑥

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「この度は急な面会にも応じていただき、心より感謝申し上げます。女王陛下」

玉座の間。
赤い絨毯に片膝を着き、数段上の玉座に腰を掛けるアンリエール女王に、リンジーさんが言葉を発した。
その両脇には、ガラハドさんとファビアナさんも同じ姿勢で頭を下げている。

「遠路ご苦労でした。顔をお上げ下さい」

アンリエール女王の言葉で、リンジーさん、ガラハドさん、ファビアナさんが顔を上げた。
俺とレイチェルは、リンジーさん達が玉座の間に入ってから、端に寄って離れた。

玉座の間では、ロンズデールの使者三人を、両側から挟むようにしてシルバー騎士が立っており、もしなにか不測の事態が起きてもすぐさま対応できるよう、目を光らせている。

そしてアンリエール女王の左隣には、護衛のリーザ・アコスタが大剣を背に、油断のない目をロンズデールの三人に向けている。
右隣には、護衛で青魔法使いのローザ・アコスタが、万一攻撃をしかけられた場合に備え、いつでも結界を張れるように、周囲に気を張り警戒をあらわにしていた。

リーザとは共闘して偽国王と戦った事があり、元気そうだなと目を向けていると、リーザも俺の視線に気づいたのかチラリと目を向けて来た。
目が合うとほんの少しだが、口元に笑みが浮かんだように見えた。


「レイチェル、店長はいないのか?」

こういう場にはいるものだと思ったが、姿が見当たらないので前を向いたまま小声で話しかける。

「あぁ、私も気になったが・・・多分、ロンズデールの人間がいるからだろう。帝国との繋がりがあるだろ?これまで聞いた話しから考えると、帝国に自分の存在を隠しておきたいからではないかと思う」

レイチェルも前を向いたまま、俺にだけ聞こえる程度の声で、自分の推測を伝えてきた。

なるほど・・・確かに店長はブロートン帝国を倒す事を考えている。
そして店長がこれまで、レイチェル達にもあれだけ素性を隠してきたという事を考えれば、敵となるブロートン帝国と繋がりのあるロンズデールの要人の前には、姿を見せたくないのだろう。

「さて、ロンズデールの皆さん、リゴベルト・カークランド国王からの書状を拝見させていただきました。結論から申し上げましょう。この要求には応じる事はできません。お引き取り下さい」

突然のアンリエール女王の鋭く突き放す声に、その場全体が凍り付いた。

護衛のリーザとローザも臨戦態勢に入り、シルバー騎士達も不穏な空気にいつでも剣をぬけるように身構えたが、アンリエール女王は手を横に出してそれを制した。

「・・・女王陛下・・・今回は危機を退ける事ができました。ですが、これだけの損害を被っているのです。どうか御一考いただけないでしょうか?」

少し目を伏せた後、リンジーさんは言葉を選ぶように話した。
書状の内容が分からないから判断が難しいが、どうやら今回の偽国王との戦いに関わる話しのようだ。

暗に次はどうなるか分からない、と聞こえるあたりがかなり際どい。
無礼だと糾弾されても文句の言えないラインだ。

「・・・ロンズデールとの会談はいいでしょう。ですが、そこに帝国を交えての三国会談は受けれません。諸々細かい条件が書いてありますが、要約すると今回の帝国との一件は、ロンズデールが間に入るから無かったことにしてほしい。そういう事ですね?なぜロンズデールがそこまでするのです?全くの無関係でしょうに?」

アンリエール女王は書状を眺めながら、全員に聞かせるように言葉を続けた。

「ロンズデールが帝国と、距離の近いお付き合いをしている事は知っております。しかし、無かったことにできると思いますか?」

「カークランド国王は、クリンズベリー国を心配しておりました。民が血を流す事など無ければと・・・ご存知の通り、ロンズデールは平和主義です。軍はありますが使われた事はありません。王は多少理不尽な要求だとしても、戦争によって国民に血を流させるくらいなら、不自由を選ぶ方です」

「それを我が国が模倣する事はありません。お心遣いだけ受けとっておきましょう」

話しは終わったとばかりに、言葉をまとめたアンリエール女王を見て、リンジーさん達は了承の言葉を口にし、踵を返した。


「カークランド王に、よろしくお伝えください。承諾はできないが、我が国をお考えいただいた事には心から感謝していると」

玉座の間を出ようとした三人の背に向けて、アンリエール女王はこれまでとは打って変わり、優しさのこもった声をかけた。





「レイチェル・・・王宮仕えでないあなたに頼むのは、心苦しいのですが・・・」

三人が玉座の間を出ると、アンリエール様がレイチェルに顔を向け、すまなさそうに声を落として話しかけた。

「はい、承知しております。国境まであの三人の後を付けます」

レイチェルは右手を胸に当てて一礼をした。

「感謝します。私が即位した以上、リーザとローザは簡単にはここを離れられません。それに城がこの状況では、騎士団も動かせませんので。それにあの三人は私が見たところ、かなりの手練れです。気付かれずに後を付けられる程の実力者となると、あなたしかいませんので」

王妃様の意をくみ取り、言葉を返したレイチェルに、アンリエール女王は安堵の表情を浮かべた。

「レイチェル、一人で大丈夫か?いや、レイチェルの力を疑うわけじゃないけど・・・」

体力型のガラハドさんは実力が分かりやすかった。
自分の力を隠そうともしておらず、かなりの力を持っているのは一目で感じ取れた。

しかし、魔法使いのファビアナさんは黒、青、白、どの系統か分からないし、リンジーさんはおそらく体力型だと思うけど、ハッキリとはしていない。

何も無ければそれでいい。しかし、レイチェル一人で行かせてもし戦闘になった場合、三対一では・・・

「ふむ、アラタが私の心配をするようになるとはな・・・」

「え、いや、レイチェルなら大丈夫だと思うけど・・・」

慌てて弁解しようとすると、レイチェルは、フッと笑って俺の胸を指で突いた。

「まぁ、キミの言いたい事は分かる。だが、それを言うのであればキミが来るしかないぞ?今、アンリエール様が述べた条件で、私以外に該当するのはキミだけだ。今夜はカチュアのから揚げが食べられないが、いいのかい?」

レイチェルは俺の覚悟を見極めるように、その赤い瞳で俺の目をじっと見つめてくる。

冗談めかした言葉を使ってきたが、戦闘になる可能性がある以上、これはかなり危険な任務なのだろう。だが、それは今更だ。

「あぁ、俺も連れて行ってくれ。ここでレイチェルを一人で行かせたら、それこそカチュアに怒られちゃうよ」

「そうか・・・よし、それなら一緒に来てくれ。何日かかるか分からないが、帰ったらカチュアには私も謝ろう。アンリエール様、アラタも同行させてよろしいですか?」

「それはもちろん心強いし有難いのですが、アラタさんは本当に大丈夫ですか?つい先日まで寝込んでいたと聞いてます。あれほどの戦いだったのですから、お体はまだ完全ではないのではないですか?」

俺の体を気遣ってくださるアンリエール様に、俺は笑って答えた。

「大丈夫です!こう見えて頑丈なんですよ。任せてください」

「・・・無理はしないでくださいね。危ないと思ったら迷わず撤退してください」

まだ少し心配そうな声色だったけど、アンリエール様に許可をもらい、俺とレイチェルは玉座の間を出て、ロンズデールの三人を追った。
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