異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
516 / 1,366

515 黒幕の名

しおりを挟む
「・・・えっと・・・」

ヤヨイさんを知ってますよね?
この問いかけに対し、俺は店長さんがすんなり知っていると認めるとは思っていなかった。

店長さんは嘘をつかない。はぐらかす事もしない。そう聞いていた。
言えない事は言えないと答える。
だからおそらく、言えないと答える。そう考えていたのだが、予想に反してあっさりと返事が来た事には驚かされた。

「・・・あぁ、無理に話そうとしなくていい。聞きたい事は聞けたけど、そこから先、何を話せばいいか分からなくなってるんだろ?俺が話すから、それを聞いてくれ。ただし、俺はまだ全てを話す事はできない。だから、これから俺が話す事が今言える全てであり、質問には答えられない。いいかな?」

うまく言葉を続けられない俺に、店長さんは柔らかい口調でそう話すと、俺の隣に座るレイチェルにも目を向けた。レイチェルは黙って頷き了承の意を見せる。

店長さんの隣に座るエリザ様の様子を見た。
部屋に入った時から変わらずに、落ち着いて座っている。

考えてみれば、今回の騒動で打ち合わせをした時も、エリザ様と女王になられたアンリエール様、このお二人だけは店長さんの正体も知っている様子だった。
つまり、これから店長さんが何を話しても、エリザ様はすでに知っている事と言うわけか。


「・・・まず、なぜ俺がヤヨイさんの事を知っているか。アラタ・・・俺は確かに知っている。だが、なぜ俺が知っているかは答えられない・・・・・キミがこの質問をしてきた以上、ある程度の想像は付いているんじゃないかと思う。そこで一つ頼みがあるんだが、その質問は俺にしないでくれ」

テーブルの上で両手を組み合わせ、店長さんは真剣な面持ちで俺の目を見て言葉を発した。

「・・・分かりました。私もアラタもその質問はしないと約束します」

言われた事の意味が理解できても意図が分からず、俺が返事をできずにいると、隣に座っているレイチェルが代わりに返事をしてくれた。

「うん。レイチェル、悪いが頼むよ。時がくれば話すからさ・・・・・こうして世界が動き出した以上、そう遠くないと思う。だけど、まだその時じゃないからね」

どういう意味かは分からなかったが、店長さんの目を見ると何も聞けなくなってしまう。
ここにいるけれど、ここにいないような、こちらを見ているようで、どこか遠くを見ているような・・・とても強い人のはずなのに、儚く脆い人に感じられた。


「・・・アラタ、キミは人間関係で失敗が多かったようだな。でも、今はレイジェスではうまくやれている。レイチェルから色々聞いてるよ。きっとヤヨイさんも喜んでいる・・・いつもキミの幸せを願っていたからね」

「・・・そう言ってもらえると嬉しいです。ヤヨイさんが喜んでくれてたら、俺・・・これからも頑張れますから。レイジェスでは本当に色々教えてもらってます。まだ四ヶ月程度で、全然恩返しもできてないですけど、もっと頑張りますので、これからもよろしくお願いします」

そう言って座ったまま頭を下げると、店長さんから小さな笑い声が聞こえた。

「ハハ、本当に真面目なんだね。頭を下げるのがクセになってるんじゃないのか?別にそんなにかしこまらなくていいんだぞ?俺は店長と言っても、今じゃ店はレイチェルにまかせきりだしな。キミも良い仕事をしているとレイチェルが言っていた。こちらこそよろしく頼むよ・・・さて、そろそろ本題に入ろうか」

落ち着いた声でそう区切ると、店長さんはゆっくりと話し出した。

ヤヨイさんとの思い出を。
ヤヨイさんがこの世界でどう生きて、何を残したか。
時には懐かしそうに目を細めて、そしてとても悲し気だった。

話しを聞いていて、俺はこの人、店長さんは実際にヤヨイさんと共に生きてきたと確信を持った。
この語り口は当事者でしかありえない。
つまり、レイチェルの推測は当たっていたという事になる。
しかし、それについて質問する事はできない。

自分の素性に俺とレイチェルが気付いた事を、当然店長さんも分かっている。
つまり店長さんの事情は、必ずしも誰にも気づかれてはならないものではない。そういう事になる。
けれど質問は受けられないし、いまだに話せない事があるというのは、なんらかの制限があると思った。

店長さんの語るヤヨイさんの話しは、ジャレットさんから聞いた内容とかぶるところも多々あったが、やはり当事者としての目線なのだろう。
同じ内容でも全く違った話しに聞こえ、そしてリアルがあった。
俺はあらためて、この世界でヤヨイさんが生きてきたという事実を感じた。

そして話しはブロートン帝国へと移った。



「・・・先日俺は、カエストゥスの城で闇を消してきた。と言っても完全にではない。カエストゥスにいた闇の化身は倒したが、それで国を覆う闇の瘴気を、ある程度薄められたというくらいだ。やはり、本体を倒さなければ完全に消し去る事はできないのだろうな」

「あの、店長さん、闇の化身って・・・あの偽国王みたいなのですか?」

「あぁ、その通りだ。俺は闇に呑まれた者は総じて闇の化身と呼んでいる。俺がカエストゥスで戦った闇の化身は、王子、あぁ・・・タジーム・ハメイド王子の事だが、その王子の皮を被っていた。だが、皮がとれればそれは、闇の瘴気が人の姿をしているおぞましい姿だったよ。ただ、あれは偽国王とは違い完全に黒渦の一部だった。だから自我は無かったようだが、戦いの中で戦い方を学習していた。長期戦になるとやっかいなタイプだ」

俺が戦った偽国王は、完全に闇を操っており、ハッキリとした意思も持っていた。
その事を告げると、店長さんは分かっている、というように頷いた。

「あぁ、そこまで闇の力を自在に扱えるようになったという事だ。問題は、あのレベルの使い手があと何人いるのか?そしてこれからも増えるだろうという事だ」

「え!?ちょっと待ってください!あんなのがまだいて、もっと増えるんですか!?」

驚きのあまり大声を出す俺を見て、それまで黙っていたエリザ様が言葉を発した。

「アラタさん、驚かれるのも無理はありません。ですが、バリオス様のお話しされた事は、間違いないと思われます。帝国は闇の力を制御しつつあり、そして素質のある者にその闇の力を与えているのです」

確かに偽国王は闇の力を完全に操っていた。
ならば他に同じ事ができる者が増えてもおかしくない。
しかし、たった一人であれだけの驚異を振るったのだ。それが更に何人も出て来て、勝ち目はあるのだろうか?

そして・・・

「エリザ様・・・与えるっていう事は、その闇を制御している黒幕がいるって事ですよね?」

そう問いかける俺の視線を受け、エリザ様は答えを任せるように、店長さんに顔を向けた。

そして店長さんは俺の目を見て、ハッキリと肯定の言葉を口にした。

「その通りだ。黒幕の名はベン・フィング。かつてカエストゥス国で大臣だった男だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号
ファンタジー
 とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。  気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。  しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。  そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。  ※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...