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514 対面

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公爵家については、決して軽視できる状況ではないが現状待つしかない。
だが、あと数日待って何も音沙汰がないようであれば、次は第一王子であるマルス様が直々に出向くという話しもでているそうだ。

城の中ではかなり話しが詰めてあるようなので、俺もレイチェルも特に口を挟む事はしなかった。
レイチェルは、店のみんなにその事を伝えていいかの確認を取り、マルス様が出向く日には、自分も護衛として付い行くかと提案もした。

「ありがとうレイチェル。でも大丈夫よ。レイマートとレミュー、あとシルバー騎士が数人付いて行く事で話しがまとまってるから」

「そうか・・・あぁ、そう言えばレイマート、彼、ゴールド騎士に昇格するらしいね?」

レイマートという名に、レイチェルが思い出したように訊ねた。

「えぇ、最終的には女王の判断だけど、今回レイマートの戦いを見た騎士達からの推薦が非常に多かったの。まだアルベルトとフェリックスには一歩及ばないけれど、ゴールド騎士にふさわしい実力は備わっているわ。それと、言いたい事は上の人間にも臆せず言うから、心臓の強さも一目置かれてるのよ」

最後の一言は少し冗談めかしたニュアンスだったが、エリザ様の言葉はレイマートを十分に評価しているものだった。

「そうか、レイマートはシルバー騎士の序列一位と聞いているが、彼がゴールドに上がると言うと、次はレミューか?」

「ええ、そうなるわ。シルバー騎士はレミューがまとめあげる。今回の戦いでシルバー騎士の上位実力者が数人死亡して、戦力が大きくダウンしたから、しばらく苦労すると思うけど」

「私とヴァンとフェンテスが殺した者達だな。なかなかの使い手だった。手加減できる余裕はなかった。確かに大きな損失だったか・・・」

エリザ様の言葉を受け、レイチェルは右肘を左手で抱えるように抱き、思い出すように右手の指先で顎を撫でる。

エリザ様の言い方だと、うがった見方をすればレイチェル達のせいで戦力が減ったというようにも聞こえる。だが、レイチェルの反応から見て、レイチェルは戦力がダウンするという言葉通りにしか受け取っていない。
エリザ様の性格を把握していて、誰かを貶めたりする事などないと、十分に分かっているのだ。

「しかたのない事だけど、騎士団はブロンズの底上げもしないといけないわ。レミューも今回の件で、ブロンズに対しても自分達にしてもあま過ぎたと言っていたから。治安部隊並みに厳しくしていくかもね」

「そいつはすごいな。騎士団はトップ連中は逞しいが、下はハッキリ言って根性が足らないからな。半分も残らないかもしれないぞ」

「でも確実に質は上がるわ。私はレミューの方針に賛成よ」

二人の会話を黙って聞いていると、本当に気の置けない関係と見える。
こっちがエリザ様の素なんだろう。

それから、城の事など話しながら進んで行くと、前を行くエリザ様が足を止めて、俺を見てその部屋に手を向けた。

「・・・こちらでバリオス様がお待ちです」






三人掛けのソファがテーブルを挟んで二つ。
積み重ねられた紙の山が置いてある机。よく分からないが分厚く小難しそうな書籍が並んだ棚。
いかにも執務室という部屋だった。

「店長、時間は大丈夫ですか?」

「あぁ、さっき区切りがついたところだ。昼の会議までは時間を作った」

俺とレイチェル、店長さんとエリザ様が、向かい合う形で並んで腰をかける。

「さて、あらためて自己紹介をしようか。俺がレイジェスの店長、バリオスだ。キミを歓迎しよう。よろしく頼むよ」

「サカキ・アラタです。七月の終わりにレイチェルに助けてもらって、それからレイジェスでお世話になってます。ご挨拶が遅くなってしまいすみません」

ソファから立ち上がって頭を下げると、一瞬の間を置いて店長さんが言葉を返した。

「・・・なるほど、聞いてた通り真面目だな。アラタと呼ばせてもらうよ。座ってくれ」

店長さんの第一印象は、とても落ち着いているというものだった。
面会前にレイチェルからも釘を刺されたが、店長さんの素性に関する質問はできるだけしてはいけない。
馬車の中でレイチェルは、店長さんの正体をウィッカーと考えていたが、それも聞くなと言われた。
深い事情があるのは察せられたので、俺もそれには異論はなかった。

だけど、どうしても聞きたい事が一つだけあった。
これも店長さんの素性に繋がる質問だとは思うけど、これに関してはむしろ聞かない方が不自然なので、レイチェルにも許可をもらっている。


【アラタ!ヤヨイさんは何があっても最後まで諦めなかったぞ!】


偽国王と戦った最後の最後、あの時聞こえた言葉は店長さんだったはずだ。
あの時点で俺は店長さんと話した事はなかったけど、それでも直感で分かった。

あの時、なぜ俺に向かってあの言葉が発せられたのか?

俺とヤヨイさんの繋がりは、レイジェスのメンバーは全員知っているし、店長さんも知っていて当然だ。
しかし、それは物語りの中での事だ。

あの時のあの言葉は、ヤヨイさんを直接知っていないと出てこない、気持ちと熱のこもった言葉だった。


だから俺は、これだけはどうしても聞かないといけない。


「あの、店長さん・・・いきなりなんですけど・・・ヤヨイさんの事、知ってますよね?」


俺は正面に座る、金色の長髪の男性の目を真っ直ぐに見て問いかけた。
緊張から心臓が一気に高鳴った。聞きたかった言葉を口から出した後、店長さんが口を開くまでの時間、ほんの数秒が気が遠く鳴るほど長く感じられた。

そして、俺の言葉を受け止めた店長さんは、俺から目を逸らさず、ハッキリと言葉を返してくれた。


「うん、知ってるよ」
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