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510 レイチェルの説教

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「ねぇ、アラタ君、今度シルヴィアさんとジャレットさんが、ロンズデールに旅行に行くみたいだよ」

「え?そうなの?二人だけで?」

風呂上がり、俺とカチュアはキッチンでホットミルクを飲んでいる。
寒くなってきたので、最近は二人で寝る前にホットミルクを飲むのが習慣になっていた。

「うん。一昨日聞いたの。アラタくんはお店に出てなかったから知らないよね。あのね、シルヴィアさんとジャレットさん、付き合う事になったんだって」

「うそ!?」

思わず声が大きくなった。
カチュアはそんな俺の反応が面白かったようで、クスクス笑っている。

「もー、アラタ君驚き過ぎだよ。私はそんなに意外でもなかったよ。だってピッタリじゃない?」

「う~ん、ジャレットさんとシルヴィアさんか・・・驚いたけど、まぁ二人ともしっかりしてるから、確かにお似合いかも。ジャレットさん見た目はチャラいけど・・・」

「あー、アラタ君!いけないんだ!ジャレットさんに言っちゃうよ?」

うかつな事をポロリと口にしてしまったせいで、カチュアに弱みを握られてしまった。

「え!ちょっと待って!それは困る!」

慌てる俺を見て、カチュアは口元を押さえてクスクスと笑う。

「ふふ、冗談だよ冗談。アラタ君がジャレットさんの事尊敬してるの、見てれば分かるもん。
ジャレットさんて良い先輩だよね」

「・・・カチュア~」

からかわれた事に少し睨むと、カチュアは、ごめんごめん、と笑ってみせた。

う~ん・・・最近こういうふうに、ちょっといじられる事が増えた感じがする。





「アラタ、体はもういいのか?」

翌日、出勤するとレイチェルがいた。なんだか数日会っていないだけで、すごく久しぶりな感じがする。

すっかり秋物の装いで、赤と緑のチェックのネルシャツと、インディゴのデニムを穿いている。
レイチェルは赤が似合う。そう言えば髪色と同じ赤が好きだと前に言っていたな。

「うん、おかげ様でね。もうだいぶいいよ。レイチェルは?」

「それは良かったよ。私ももうすっかり良くなったよ。それでね、さっそくだけどアラタを怒らなきゃいけないんだ。そこに座ってくれ」


レイチェルの声が低くなり、周りのみんなの会話もピタリと止まった。
視線が集まるのが分かる。

「え・・・えっと、俺、なんかした?」

レイチェルの表情はいつもと変わらない感じに見えるけど、雰囲気から本当に怒っている事が伝わってきた。


「アラタ、そこに座れ」


有無を言わさぬ迫力に、俺は黙ってイスに腰を下ろした。
一緒に出勤したカチュアは、そんな俺とレイチェルを少し心配そうに見比べると、俺の隣のイスを引いて座った。

他のみんなも黙ってそんな俺達に目を向けている。

「・・・さて、アラタ。まず私が言いたい事は、キミがまた光の力を倒れるまで使った事だ。三分という約束だったはずだ。キミの言い分を聞こう」

「あ・・・えっと・・・」

それか・・・。
確かに俺は約束の時間を越えて、限界まで光の力を使った。
約束を破った事は悪かったと思うが、あの場面ではしかたのない事だった。

そう話す俺の言葉を、レイチェルは黙って最後まで聞いてくれた。

「・・・アラタの言い分は分かった」

「・・・」

レイチェルはゆっくりと口を開いた。
俺はレイチェルの顔を見る事ができず、下を向いてしまった。
小さい頃、学校の先生に怒られた時や、バイト先でミスをした時に上司に怒られた時の事を思い出した。
心臓が嫌な高鳴りをする。

「アラタ、私はね。キミに感謝しているんだ。キミがあそこまで自分を犠牲にして戦ったから、この戦いに勝てた。アンリエール様もエリザも、みんなキミに感謝していた。一度城に来て欲しいと言っていたよ。あらためてお礼がしたいそうだ」

「え・・・あ、うん・・・いや、それは別に、俺は俺のやるべき事をやっただけで・・・みんな戦ったんだし・・・」

「だけどね、キミに感謝する気持ちと同じくらい、キミに怒っているんだ。アラタ、キミは自分を犠牲にして戦った。そういう場面だったのは分かる・・・私も戦士だからな。私との約束を破った事も、護るための戦いだからと分かる。しかたのない事だ。だけどね、キミは自分の命の優先順位が低い。私が怒っているのはそこだ」

レイチェルの指摘に、俺は顔を上げた。
目の前のレイチェルは確かに怒っている。けれど俺を見る目とその声には、それ以上に俺への思いやりがあった。

「アラタ、キミも生きるんだ。自分が死んでもいいとは決して思うな。命を懸ける戦いはある。だが、それでも最後まで自分が生きる道も探るんだ。自分が死んでもみんなを護れて良かったですませるな。キミにはカチュアがいるだろう?それに私達だって、キミが自分の命と引き換えに敵を倒したって悲しいだけだ。それを忘れるな。分かったかい?」

「・・・レイチェル・・・うん、ごめん。本当にごめん・・・俺、ちゃんと考えるよ」

それは、つい先日俺自身も思った事だった。
だけど自分でそう思う事と、人から言われるのとでは、全く感じ方が違った。

周りにいるみんなもレイチェルの話しを聞いて、うんうんと頷きながら俺を見ている。

「アラタ君・・・」

隣に座るカチュアがそっと俺の手を握ってくれた。
優しく微笑んでくれるだけで気持ちが伝わり、言葉はいらなかった。

「・・・うん、大丈夫だよ」

そう答えて、カチュアに笑みを返す。レイチェルはそんな俺とカチュアを見て、満足したように、よし、と言って頷いた。

「・・・アラタも分かってくれたようだな。じゃあこの話しはお終いだ。それじゃあ朝礼の前に、私から昨日まで城で話し合った事を伝えさせてもらうよ」

レイチェルは気を引締め直すように、一度軽く咳払いをしてみんなの顔を見まわした。
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