上 下
510 / 1,263

509 ロンズデールの事情

しおりを挟む
「ロンズデールの使者かぁ・・・帰りもみんなに話してたよね」

夜、夕飯を一緒に食べながら、俺はカチュアにあらためて今日バルクさんから聞いた事を話した。

「うん、それでさ、教えて欲しいんだけど、ロンズデールってどんな国?水産業が盛んだって事は、前にミゼルさんから聞いた事はあるんだけど、それくらいしか知らないんだ。他になにかあったら知っておきたいんだ」

野菜スープを口に入れてカチュアに話しを振ると、カチュアも水を一口飲んで、うん、と頷いてくれた。

「そうだよね。アラタ君はロンズデールの事知らなくて当然だよね。えっとね、まずロンズデールはミゼルさんの言うように、水産業が盛んで、国民の1/3は、なにかしら海に関する仕事で生計を立ててるんだって。アラタ君、この宝石覚えてる?」

そう言ってカチュアは、首から下げたネックレスを手に取って見せてくれた。

「うん。忘れるわけないじゃないか」

そう答えると、カチュアは嬉しそうに笑ってくれた。

「うん。これ、アラタ君がスーツ作った時に露店で買ってくれたんだよね・・・私の宝物だよ。あの時の女の人、ロンズデールからの行商人って言ってたよね?」

そう言われて俺も一つ思い出した。
そうだ、そう言えばあの時、これを持ってればまた会えるなんて言ってたっけ。

俺が思い出した様子を見て、カチュアも言葉を続けた。

「水色の布袋、ちゃんと取ってあるよ。二つ一緒にタンスの引き出しに入れて置いたから」

「あ、そう言えばカチュアに預けておいたよね?ごめん、忘れてた」

「大丈夫。私が覚えてるから。あ、それでね、この石も海の宝石って聞いたでしょ?ロンズデールの名産品なんだよ。ロンズデールの行商人は、干物とか、加工した海産物、そしてこの海の宝石を扱ってる人がほとんどなの」

「なるほどなぁ・・・うん、仕事関係はだいたい分かったよ。ミゼルさんから、造船業もあるって聞いてたから、本当に海に関するのがほとんどなんだね」

マカロニサラダを口に入れて、うんうんと頷く。
カチュアもオムライスを一口食べて、コップに口をつける。

「それで、ここからがアラタ君が知りたい事だと思うんだけど、ロンズデールが帝国のいいなりって言うのは、その通りだと思う。ロンズデールでは、あからさまに帝国が優遇されてるから、行ったらアラタ君もすぐ分かると思うよ」

「そうなのか?あからさまに優遇?」

カチュアの言葉をオウム返しにすると、カチュアは、うん、と頷いた。

「私ね、前に一度おじいちゃん達と、ロンズデールに行った事があるの。お昼を食べに入った食堂とか、お土産を買いに寄ったお店とか、どこでもそうだったんだけど、帝国の人間だと割引になるの。びっくりしたよ。帝国の人間かどうかは身分証で分かるんだけど、私達は通常の値段で買って、次にお会計をした帝国の人は同じ物でもずっと安いの。驚いて、お店の人にどういう事ですか?って聞いたら、あの人達は帝国の人間だからしかたないんですって言うんだもん」

「なんだそれ?そんなんじゃクインズベリーからは、誰もロンズデールに行かなくなるぞ?」

開いた口がふさがらないとは、こういう事を言うのだろう。
自分が買った物と同じ物を、帝国というだけで安くなる。
目の前でそんな事をされたら、誰だって嫌な気分になるはずだ。

「うん、やっぱりそうだよね?そういう事があるから、不満を持ってる人は多いの。でも、ロンズデールは観光地として最高なんだよね。温泉もあるし、海鮮料理はおいしいし。夏は海で泳げるし。だから結局高くても旅行に行く人が多いの」

カチュアは首を傾けて、しかたない、と言うように小さく笑った。

「そっかぁ・・・まぁ、お客が何を言っても帝国優遇が変わらないんなら、割り切るしかないって人が多いのかな。でもさ、なんでそんなに帝国を優遇してるの?」


「う~ん、これは噂なんだけどね、ロンズデールの王様ってすっごい弱腰なんだって。あと、あそこは鉄が全くとれないらしいの。だから鉄の輸入で弱みがあるって聞いた事はあるよ。クインズベリーも鉄は帝国に頼ってるところが多いけど、多少はとれるからね」

残りのオムライスを口に入れると、カチュアはご馳走様と言って、食器をまとめた。

「そう言えば、前にヴァンに聞いた事があるな。帝国は銅や鉄鉱石が盛んに取れる鉱山がいくつもあるって・・・そんで大陸一の軍事力を持ってるから強硬なんだな。なるほどなぁ・・・けど、ロンズデールの王様もそれでよく王様やってられるね?国民から突き上げ喰らわないのかな?」

俺も食事を終えて、カチュアと一緒にシンク台に食器を運ぶ。

「あのね、ロンズデールって、建国から今まで、何百年も一度も戦争した歴史がないの。完全に平和主義なんだって。だから、国民も戦おうって意識が低いみたいだよ。あ、食器ありがとう。私が洗うから置いておいて」

シンク台に食器を置くと、カチュアが食器洗いを始めたので、その間に俺はフロを沸かす事にした。

ここは井戸水なので、風呂に水を張るには何回も井戸から水を運ばなくてはならない。
仕事帰りはすぐに暗くなってしまうので、朝早起きして、朝の内に用意して夜は沸かすだけですむようにしている。
朝は俺が井戸から水を運んでいる間に、カチュアが食事の準備をして、夜はカチュアが食器洗いをしている間に俺がフロの準備をする。話し合ったりしたわけではないが、いつの間にか役割分担は出来ていた。

「・・・平和主義、かぁ・・・今の日本みたいな感じなのかな?まぁ、日本は戦争で負けたからって事情があるから、同じには考えられないけど・・・」

火種石で火を付けて風呂を沸かしながら、今は遠い日本の歴史を思い出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...