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508 四日目の勤務 ②

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「ねぇ店員さん、お城での事聞きたいんだけど。レイジェスの人も帝国の侵入者と戦ったんでしょ?一体なにがあったの?」

「えっと、確かに俺達も城に行きましたけど、あんまり詳しく話せないんです。でも侵入者は倒されましたし、当面は何もないんじゃないかと思いますよ」

「なぁ、城があんだけ壊れるって、この国大丈夫なのか?あんたら城に行ってたんだろ?詳しく聞かせてくれよ」

「いや、俺らも詳しい事は話せないんです。でも、問題は解決したので安心して生活してもらって大丈夫ですよ」

「なぁ、あんたサカキ・アラタだろ?マルゴンを八つ裂きにしたって?あんたが絡んでるんなら、ヤバイ事があったんじゃないのか?」

「いや!八つ裂きってなんですか!?俺がいたらヤバイみたいな感じで言わないでくださいよ!大丈夫ですから!」

「店員さ~ん、レジお願いしまーす 」

「あ、はい!今行きます!」

質問攻めにあって困っていると、防具コーナーのレジで、買い物のお客さんに呼ばれうまく場を離れる事ができた。

いやいや、なんだよこの人だかりは?
ジャレットさんは、昨日よりはマシだと言ってたけど・・・これで?
日本にいた時のリサイクルショップ・ウイニングで、正月の初売りをやった時を思い出した。
ちょっと通路を歩くのも大変なくらいの混雑だったけど、あれに負けてない。
しかし、あの時のお客さんは、全員が商品を見に来たお客さんだから良かった。

だけど、今ここにいるお客さんの半分は、ヤジ馬みたいなものだから正直困る。
雑な対応はできない。けれど仕事に支障はでている。シルヴィアさんが溜息をつくわけだ。

「サカキ・アラタさん、こんにちは。私の事覚えてる?」

「え?あ、花屋の・・・パメラさん!」

レジに行くと、金色の髪をポニーテールにした女性、この前カチュアの家に行く時に立ち寄った、花屋さんの店員パメラさんが立っていた。

「覚えててくれたんだ!嬉しいなぁ。あ、これお願いします」

パメラさんはレジカウンターに、発光石と、5cm程の赤い石を置いた。
発光石はその名の通り光る石だ。暗い部屋を明るくするのに使う。
5cm程の赤い石は、火種石と言って、この世界で料理や焚火をする時に使う火を起こす石だ。
俺の家もこれで火を付けている。日本の火打ち石とは違って、この石は擦れば火が付くから誰でも使える簡単な魔道具だ。

「お世話になったのに、忘れたりしませんよ。あの時は綺麗な花をありがとうございました。あ、お会計は、二つで600イエンです。えっと、シルヴィアさんのとこではお会計できなかったんですか?」

パメラさんはいつも、シルヴィアさんのいる黒魔法コーナーで、お会計をしていると言っていた事を思い出した。

「うぅん、まぁ確かに混んでたけど、今日はアラタ君とカチュアちゃんに会いたかったの。せっかく知り合えたんだから、仲良くなりたかったんだよね。さっき白魔法コーナーでカチュアちゃんとも話してきたよ。あの子良い子だね。大事にしなきゃ駄目だよ」

「そうだったんですか。俺もまた話しができて良かったです。今度、庭になにか植えようかなって考えてたので、また相談にのってください」

「花屋としてそれは嬉しいね!いつでも来てね」

そう言ってパメラさんは帰って行った。
庭に花を植えてカチュアと一緒に育ててみようかな。
そんなふうに思える、心のゆとりができた自分に驚きを感じている。
俺はこの世界で少しは成長できたのかな。自分に少しだけ自信が持てた気がする。


「はっはっは!アラタ君!今日もすごい客入りじゃないか!」

パメラさんと入れ代わりで、声をかけてきたのは、常連のバルクさんだ。
いつも豪快に笑いながら話しかけてくるので、ある種の名物的なお客さんだ。

横に広い体系で、腹がけっこう出ている。若い頃は治安部隊で働いていたから、50を過ぎた今でも体力には自信があるそうだ。
女性の胴周りくらいはありそうな、ぶっとい腕が特徴だ。

「あ、バルクさん、こんにちは」

「昨日はおらんかったが、もう出て大丈夫なのか?みんなに聞いても、ちょっと疲れてるだけと言っておったが、ワシも元は治安部隊だ。城があぁなった程の戦いだったんだろ?だいたい察しはつくぞ」

バルクさんは顎を撫でながら、俺の顔をじっと見る。
鋭い。さすが元治安部隊だ。
ごまかしたりせずに、正直に話した方がいいと思い、俺はちゃんと話す事にした。

「バルクさんには敵いませんね。はい、確かにけっこうダメージを受けて、俺、三日寝込んでたみたいなんです。あ、でもご覧の通りもう大丈夫です」

力こぶを見せて元気だとアピールと、バルクさんはツルツルの頭を叩いて、はっはっはと豪快に笑った。

「そうかそうか!いやいや、そう言うのであればなにも言わんが、まぁ無理はするなよ。そうそう、一つ言っておきたい事があったんだが、ワシら自警団がこの街の周辺の見回りをしてるのは知っとるだろ?」

「あ、はい。バルクさん、よくお仲間と見回りしてますよね。行き倒れの旅人を助けたり、賊を捕まえたり、すごい活躍されてて、みんな感謝してますよ」

バルクさんは、治安部隊での経験や人脈を生かして、自警団を作り町の周辺を見回っている。治安部隊がいるから活動が被るのでは?と最初は思ったけど、治安部隊はこの町に300人しかいない。そうすると、町の中はともかく、外までは手が回らないのだ。だからバルクさんは治安部隊の目が届かないところを見回っている。

「はっはっは、それは嬉しいな!あぁ、それでだな、実は昨日外の見回りをしている時に、ロンズデールの行商人に会ってな、品物を見せてもらいながら世話話しをしたんだよ。まぁ情報収集だな。行商人てのは大陸中を歩いているから、得られる情報が広いし信憑性も高いんだ。それでな・・・どうも近々、ロンズデールから使者が来るそうだ」

「え?・・・使者、ですか?ロンズデールから?」

急に声が真剣みを帯びたと思ったら、バルクさんは自分でふった話しにも関わらず、きな臭いものを感じているように眉をひそめた。

「あぁ、公式に発表されていないし、その行商人も使者を出すってくらいしか情報をもってなかったが、タイミング的には、今回の騒動についてしか考えられんだろう?」

「・・・そう、ですね、確かにそれしか考えられないです。でも、それって何か問題なんですか?これだけの騒ぎですから、他国まで情報が伝わってて当然でしょうし、使者を出してくるのも帝国の脅威についての協議ならむしろ歓迎すべて事では?」

そう話す俺に、バルクさんは顔をしかめて首を横に振った。

「あのなぁアラタ君、何を言っとるんだ?ロンズデールが帝国の言いなりなのは、誰でも知っとるだろ?そのロンズデールから、事が起こってまだそう日も経っていないのに、すでに使者を出すという話しが出ている。情報が伝わるのも早すぎると思ったが、どうにも臭くて気にくわんのだよ」

あまりロンズデールの話しは聞かないから忘れていた。
言われてみれば確かに、ロンズデールは帝国の言いなりだという話しを、以前聞いた事がある。
俺はここで、以前決めていた設定を使う事にした。

「すみません。バルクさんにも以前話した事があったかもしれないですけど、俺この店で働く前の記憶が無いんです。だから、そういった事情も分からなくて」

「ん!?あぁ・・・そう言えば、前にそう言っていたな?そうか、そりゃすまん事を言ったな。アラタ君はハキハキしてるし、こうして話してるととてもそんな風に見えんから忘れとった。いやぁ、すまんすまん!はっはっは!」

頭を掻いて豪快に笑いながら謝るバルクさんに、俺も、大丈夫ですと目礼軽めに応える。

嘘をついている事に罪悪感を覚えるが、やはり異世界から来たなんて突拍子もない話しをするよりは、こうして無難な嘘をついていた方がいいとは思う。
いつか、本当の事を話せたらいいな。

バルクさんは、傷薬を三つと、新しい鉄の盾を買って帰って行った。

パメラさんやバルクさんのおかげで、一時的にヤジ馬のお客から解放されたが、結局その後つかまって質問攻めにあい、閉店時には口を開く事がおっくうになっていた。
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