上 下
505 / 1,298

504 戦いの後 ①

しおりを挟む
マルコスとの話しを終え、外に出た私が目にしたものは、今まさに決着がついたその瞬間だった。

息をする事さえ忘れそうな攻防の果てに、アラタの右拳が闇を撃ち抜いた。

力無く倒れた闇の化身、偽国王はそのまま起き上がって来る事はなかった。
アラタの勝ちだ。

だが、勝利の余韻に浸る事も、喜びに声を上げる事もできない。

「アラタ!」

腹を斬り裂かれ、左腕が肘から絶たれた。今すぐに治癒しなければ死んでしまう!
駆け出そうとしたが、私が一歩踏み出した時には、すでに店長がアラタの体を支えていた。





・・・駄目だ、もう限界だ。
最後の一発、全てを振りしぼった右拳で、偽国王の顎を撃ち抜いた瞬間、体中の力が全て無くなくなっていく感覚を覚えた。
踏みとどまろうとしても、まるで自分の足ではないように指の一本さえ動かせない。

重い瞼が閉じようとする。
薄れゆく意識の狭間で俺の目に映ったものは、闇となった偽国王の体が、まるで蒸発するかのように煙を上げ、風に乗って消えていくところだった。

相打ちか。
けど、これでみんな助かる・・・それでいい・・・・・



「・・・よく戦った・・・」

誰かに背中を受け止められ、体が優しい温かさに包まれていく。

「自分のためだけにここまで戦う事はできない。キミはここで大切なものを見つけたんだな」

痛みが和らぎ、それと同時にあらがえない眠気に襲われていく。

「何も考えずに今は休め・・・・・」

耳に届いたその言葉を最後に、俺の意識は途切れた。




「店長!」

私が駆け付けると、店長はアラタにヒールをかけながら、私に言葉をかけてくれた。

「レイチェル、彼は大丈夫だ。腹の傷は塞いだ。左腕ももうすぐ繋がる」

致命傷だったはずだが、店長は顔色一つ変えずにアラタを治癒した。
切断された腕をたった一人で、しかもこれほどの速さで治癒するなんて・・・本職のカチュアとユーリをはるかに上回っている。
本当に、この桁違いの魔力はいったいどこから・・・・・

「・・・よし、これでいい」

店長はアラタを抱きかかえて立ち上がった。
アラタの左腕は傷一つ残らず、綺麗に繋がっていた。切断された事実など存在しなかったかと思えてしまう程だった。

「・・・カチュアが見てなくて良かった」

ほっと息を付くと、店長が不思議そうに少しだけ首を傾げた。

「なんの事だ?」

「あ、実は・・・」

私がアラタとカチュアの関係を説明すると、店長は驚きながらも興味深そうに何度も頷いた。

「それは驚いたな・・・そうか、あのカチュアが・・・」

「はい。ですから、血まみれのアラタを見せたくなかったんです。あんな姿をカチュアが見たら・・・」

アラタが協会に連れて行かれた時の、泣き崩れたカチュアの様子を思い出した。
あの時よりカチュアは精神的に強くなった。
けれど、やはりこんな姿を見たらショックは計り知れない。

「店長がいて良かったです・・・」

アラタの顔についた血を袖で拭いながら、そう口にする私に店長は優しく微笑んでくれた。




「おーい、レイチェルー!・・・え!?店長!?」

「うそ!?うぉっ!店長じゃん!」

近づいてくる足音に振り返ると、ケイトにリカルド、ジーン、ユーリ、そしてカチュアを背負ったミゼルが走って来た。

「みんな、久しぶりだな。遅くなってすまない。元気そうでなによりだ」

「店長、お久しぶりです。アラタ・・・」

「ジーン、大丈夫だ。力を使い果たして眠っているが怪我は治した」

店長が抱きかかえるアラタを見て、ジーンが心配そうに目を向けると、店長は安心させるように微笑んだ。
その言葉に、ジーンがほっとして表情をくずすと、店長はみんなに目を向けた。


「この国の闇は倒した。みんな、本当に頑張ったね」

その一言に、みんなの表情が明るくなる。

「店長・・・アタシ勝ったよ。四勇士を殴り倒した」
「ユーリ、ほどほどにな。キミは白魔法使いだぞ」

店長に頭を撫でられ、見た事のない笑顔を見せるユーリ。

「店長おっせぇよ。みんな心配してたぜ」
「ははは、ごめんごめん。でも、リカルドが頑張ってくれて助かったよ」

まぁよ!と言ってリカルドは特気な顔をして見せた。

「店長、お帰りなさい。いやぁ、疲れた疲れた。参りましたよ」
「ミゼル、苦労をかけたね。ありがとう」

肩をすくめるミゼルに、店長も笑って答えた。

「ミゼル、ジャレットとシルヴィアは?」

「まだ塔から戻って来てません。でも、大障壁が消えたって事は、目的を遂げたって事でしょうから、今は体を休めてるんじゃないですかね?」

「・・・そうだな。シルヴィアの魔力は感じるから、大丈夫だろう・・・カチュアは、よく寝てるようだな?」

ミゼルの背で眠るカチュアに目をやると、ミゼルは、しかたないというように笑ってみせた。

「はい。ずいぶん魔力を使ったみたいでして。女の子をそこら辺に寝かせるわけにはいかないですから、体格的に俺がおぶってます」

店長はカチュアの顔を見た後、そのまま自分が抱きかかえているアラタに視線を移した。




ヤヨイさん、この戦いを見て分かりました
彼は・・・アラタはこの世界で護るべき大切な人を見つけたようです

だから安心してください・・・彼は、今きっと幸せですよ・・・


頬にあたる風はカエストゥスの風とは違う・・・けれど俺は懐かしいあの時を思い出す

もう戻れないあの時を・・・・・

幸せだったあの日々を・・・・・


「・・・・・さぁ、行こうか、まずは王妃様と話そう・・・・・」


少しだけ目を瞑り、俺は空を見上げた

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

処理中です...