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501 それぞれの役割

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今のはKОパンチの手ごたえだった。
大陸の果てまで吹っ飛ばす勢いで食らわした一撃に、偽国王の体は闇の瘴気をまき散らしながら、部屋の外まで飛ばし出された。

だが、拳に手ごたえを感じると同時に、俺はいつの間にか腹に巻き付いた闇の触手に引っ張られ、
偽国王と共に部屋から外へと引っ張り出された。

「なにッツ!?」

「バカがッツ!油断したな!闇ならばどこでも操れるのを忘れたか!」

「くッツ!」

俺の腹に巻き付いた闇の触手は、いつの間にか偽国王の体に繋がっていた。

部屋中に充満している闇は、言わば全てが結び繋がっている。
そう考えれば俺の腹を掴む闇、それを自分と結びつける事に距離は関係ないという事か!


三階から外へ出された俺は、落下しながらも、目の前にいる偽国王と睨み合う形になった。
正確な高さは分からないが、ここから地上まで数十メートはあるだろう。
問題は、この高さから落ちて俺が耐えきれるかだ。


「死ねぇぇぇーーーッツ!」

闇の触手を操り、俺の体を自分の下に持って来ると、両腕を掴み押さえる。
このまま俺を地面に叩きつけるつもりだ!

「人を超越した俺はこの程度では死なん!だが貴様はどうかなぁぁーッツ!」

威勢よく大声でわめいているが、顔の左半分、特に頬と左目の辺りは深く抉れており、白い蒸気が絶え間なく吹き出ている。
態度に出さないのは大したものだが、さっきの俺の一撃は、やはり相当なダメージを与えていたようだ。
しかし、それでもこいつは闇の瘴気で護られている。
このまま地上に激突した場合、こいつはほとんどダメージを被らず。俺だけが致命傷を負う可能性は十分にあった。

「オラァァァーーーーーッツ!」

俺は足に光の力を集めて両膝を曲げると、反動を付け、両足を揃えて偽国王の腹に叩き込んだ!

「ぐぁっつ!」

俺の両腕を掴んでいた偽国王の手が緩む!
その機に偽国王の首に腕を巻き付け、体を入れ替えた!

「ぐッツ!オォォォォォーーーーーッツ!」

自分の体を下にされ、偽国王は俺の腕から首を抜こうともがくが、俺も全力で押さえつける!

「させるかぁッツ!」

地面が視界いっぱいに広がったその時、俺は全身を纏う光に全力を注ぎこんだ。
偽国王はこのまま地面に叩きつけるが、俺も自分の身を守らねばならない!

ぶつかる!

覚悟を決めた瞬間、凄まじい衝撃が全身を襲い目の前が真っ暗になった。

濛々と上がる土煙がアラタと偽国王を隠した。






「アラタさん!」

闇に引っ張られアラタの姿が消え落ちた時、エリザベートは声を上げローザの結界から飛び出そうとした。

「エリザ様!出てはいけません!」

慌ててローザがエリザの手を掴む。
壁が破壊され、偽国王が外へ出されたと言っても、室内にはまだまだ闇の瘴気が立ち籠っている。
触れるだけで体に負担のかかる瘴気の中に、エリザベートを出す訳にはいかなかった。

「ローザ・・・ですがあれでは!」

「・・・エリザ・・・落ち着き、なさい」

取り乱すエリザベートに、たしなめるように声をかけたのは、母である王妃アンリエールだった。

「お母様!」

体を起こすが、少し辛そうに額に手をあてている。

「お母様、大丈夫なのですか!?」

エリザベートが駆け寄ると、アンリエールは微笑んでエリザベートの頭に手を乗せた。

「エリザ・・・なにがあったか分かりませんが、落ち着きなさい。ローザ、状況を教えてください」

「アンリエール様、ご無事でなによりです」

顔を向けられたローザは、返事をして頭を下げると、アンリエールが起きるまでにあった事を説明した。


「・・・そうでしたか。ローザ、苦労をかけました。レイマートもレミューも私のために追って来てくださったのですね・・・」

話しを聞き終えたアンリエールは、ゆっくりと立ち上がった。

「お母様、まだ起きては・・・」

「皆が命を懸けているのに、私だけ寝ていられません。レイマート、レミュー、リーザに早くヒールをかけなければ。エリザ、アラタさんももちろん心配です。ですが、目の前で倒れている彼らにも、目を向けなければなりませんよ」

諭すようにかけられた言葉に、エリザベートはハッとしてリーザ達に目を向けた。

リーザもレイマートもレミューも、まだ息はあるが倒れ伏し、意識を失っているようだ。

「私がヒールをかけます。ローザ、結界を張ったままついて来てくれませんか?」

ローザが、もちろんです、と頷くとエリザベートも声を上げた。

「お母様!私もご一緒します!」

その言葉に、アンリエールも優しく微笑んだ。



「アンリエール様、お久しぶりです」

「バリオス様・・・お久しぶりですね」

話しの区切りがついたところで、バイオスが近づき声をかける。
その腕には眠っているマルスが抱かれ、隣には第二王子のオスカーが付いていた。

「マルス様が闇に蝕まれそうになってましたので、浄化しておきました。闇は全て取り除いたのでもう心配はありません。オスカー様もこの通りご無事です」

「母様!」

バリオスの隣に立っていたオスカーが、母の姿を見て抱き着いた。

「あぁ・・・オスカー・・・無事で良かった」

「母様・・・ごめんなさい!僕は・・・僕は母様の言葉を信じないで・・・母様をこんな目に!」

「いいのです・・・オスカー、あなたとマルスが無事でいてくれただけで、母はそれだけでいいのです」

アンリエールがオスカーを抱きしめ返す。

「オスカー兄様、ご無事でなによりです」

その様子を見ていたエリザベートが、後ろからそっと声をかける。

「・・・エリザ・・・エリザにも、大変な苦労をかけた。本当なら、僕と兄様がしっかりしなければならないのに・・・」

罪の意識に苛まれ、正面からエリザベートの顔を見れず俯くオスカーの手を、エリザベートの手が包み込んだ。

「オスカー兄様・・・まだ終わってません。まず私と母様でリーザ達を治癒します。黒魔法使いのオスカー兄様は、騎士団への指示をお願いします」

エリザベートの指示に、オスカーは、分かった、と答え頷いた。

「では、俺もオスカー様とご一緒しましょう。マルス様を早く安全な場所に移したいし、ブロンズ騎士や、序列の低いシルバーはこの闇にあてられ動けなくなっているから、結界は必要でしょう。ローザ、まだ魔力は持つか?」

そこでバリオスに言葉をかけられたローザは、額の汗を拭い頷いた。

「はい、大丈夫です。任せてください」

「・・・無理をするな」

バリオスはローザの目をじっと見つめる。
言葉こそハッキリとしているが、額から流れる大量の汗と、その瞳に映る疲労感は隠し切れない。

バリオスは抱いているマルスを右腕一つで抱き直し、左手をローザの肩に置いた。

「え、師匠・・・」

「ローザは昔からギリギリまで頑張るところがある。でも、辛い時は辛いと言っていいんだよ?ローザが倒れたら悲しむ人がいるのを忘れちゃいけない」

バリオスの手が青く光り、まるで空のコップに並々と水が注がれるように、ローザの体内に魔力が流れこんで来た。

同じ系統であれば、魔力を分け与える事は可能である。

白、青、黒、三系統全ての魔法を使いこなせるバリオスは、全ての魔法使いに魔力を分ける事ができる唯一無二の存在だった。

「・・・よし、これで大丈夫だ。ローザ、ここは任せるよ」

「はい!ありがとうございます!師匠もお気を付けて」

顔色の良くなったローザを見て、バリオスはニコリと笑うと、オスカーと共に騎士団の元へと足を進めた。


「・・・素敵な方ですね」

「はい、本当に・・・」

普段口数が少ないローザが、こんなにハッキリと大きな声で話す事にも驚いたが、少し赤く染まった頬を見て、エリザベートはローザの胸の内に秘めた想いに気が付いた。


「さぁ、エリザ、ローザ、治癒を始めますわよ」

そしてアンリエールに声を掛けられ、エリザベートはヒールを、ローザは瘴気から皆を護るための結界を。それぞれがやるべき事を始めた。
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