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499 潜伏
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クインズベリー城の三階の一角が、凄まじい爆発音を立てて破壊され、ガラス片や砕けた壁石が外へと吹き飛ばされた。
「ユーリ、危ない!」
頭上から降り注ぐ落下物に、ジーンはユーリの肩を掴み引き寄せると、手を掲げ結界を張った。
「・・・驚いた。ジーン、ありがと」
「いや、それよりユーリ、あれを見てくれ」
眉を寄せ、たった今爆発した場所を指す。
「・・・ジーン、なにアレ?」
「・・・一度見た事がある。あれは、闇だ」
三階の爆発した場所から上がるそれは、一見すると黒煙かと思った。
しかしすぐに違うと分かった。
それは不規則に漂いながらも、まるで意思をもっているかのように周囲の空気さえ蝕んでいた。
そして数十メートル離れている地上のジーンとユーリでさえ、思わず身を固くする程の凶悪な闇の瘴気だったのだ。
「おーい!ジーン!ユーリ!」
二人で塔を見上げていると、聞き慣れた声に呼ばれ顔を向ける。
東から歩いて来るリカルドの姿が見えた。
「リカルド!」
駆け寄ると、リカルドは周囲を見回して独り言のように呟いた。
「んだよ、ジーンとユーリだけか?」
「うん、僕達が一番だったようだ。みんな戻ってこないから心配したよ。カチュアは・・・寝てる?」
「あぁ、全く信じられねぇぜ。敵にまでヒールかけやがんだからよ。そんで自分は魔力切れで眠っちまったんだぜ?面倒くせぇよ」
リカルドに背負われているカチュアを見て、一瞬最悪の事態が頭をよぎったが、顔を見て眠っている事が分かり安堵に胸をなでおろした。
「・・・リカルド、口悪すぎ」
ユーリが注意をするが、その表情も口調も呆れた感じはあるが、怒ってはいなかった。
ここまでカチュアをおぶって来たのだ。
憎まれ口を叩いても、本心でないのは分かる。
「ん、おい・・・あれ、ケイトとミゼルじゃね?」
カチュアを下ろしたリカルドが、ジーン達の後ろに見える人影に気付き目を向けると、ジーンとユーリも振り返った。
明るめのベージュの髪、気の強そうな切れ長の目、深い青の生地にダークブラウンのパイピングをあしらったローブを着ているのはケイト。
ボサボサの頭に無精髭、黒いローブを着ているのはミゼル。
二人とも、足取りは重くかなり疲弊している事が見て取れた。
「よぉ・・・みんな無事か?」
ジーン達の前までくると、ミゼルが軽く右手を挙げて言葉をかけて来た。
「いや、まだシルヴィアとジャレットが来ていない。城を覆っていた結界は解けたから、目的を果たしたのは間違いないけど・・・」
ジーンは自分に言い聞かせるように声を出し、ジャレットとシルヴィアが向かった南東の方角にある塔に顔を向けた。
「ジーン、大丈夫よ。あの二人だもん。疲れて休んでるんじゃない?」
「・・・うん、そうだね・・・ん?ケイト、顔色が悪そうだけど?」
心配し過ぎないようにと、ケイトがあえて出した明るい声に、ジーンも頷いた。
だが、やや血の気の薄いケイトの顔色を見て、ジーンは眉を潜めた。
「あぁ、その・・・刺されちゃってね。傷はもう・・・わっ!」
「刺された!?ケイト!どこ!?大丈夫なのか!?」
刺されたという言葉に、ジーンはケイトの両肩を掴み、ケイトでさえ見た事がないほどの取り乱した様子でまくし立てて来た。
「え、その、ジーン、ねぇ、ちょっと!大丈夫だから!ヒールしてもらったから大丈夫だから!」
あまりに切羽詰まった表情のジーンに、ケイトが声を大にして訴えると、そこでようやくジーンも我に返ってケイトから手を離した。
「あ・・・ごめん。つい・・・」
「・・・びっくりしたなぁ・・・大丈夫じゃなかったら、歩いて帰って来れないでしょ?刺されたけど、もう傷は塞がってるし、痛みも無いから大丈夫だよ。ただ、血をけっこう流しちゃって、それであんまり力入らないけどね」
「ケイト・・・無事で良かった」
少しだけ笑って、指先で頬を掻くケイトをジーンは抱きしめた。
「え!?ちょっ、ジーン!?」
驚きの声を出すケイトだが、ジーンは何も言わずに抱きしめ続けた。
「・・・ジーン、心配かけてごめんね」
ケイトもジーンの背中に手を回し、優しく言葉をかけた。
「おいおい、いつまでイチャついてん・・・うぐっ!」
抱き合う二人を見て、リカルドが呆れたような声で言葉をかけようとすると、ユーリの左拳がリカルドの右わき腹にめり込んだ。
「ぐはぁっ・・・はぁ、はぁ・・・ユ、ユーリ、て、てめぇ・・・」
「リカルド、何回言ったら分かるの?空気読もうよ?馬鹿なの?カチュアおぶってきたから、ちょっとだけ見直したのに、やっぱりマイナス100点」
「おいおい、ユーリ、リカルドも悪気はないんだから、そのくらいでな」
見かねたミゼルが間に入ると、ユーリは腕を組んで、フン、と顔を背けた。
「なぁ、ところでさっき爆発音が聞こえたんだが・・・アレだよな?」
話しを変える様にミゼルが城の三階、さっき爆発があった場所に顔を向ける。
「・・・うん、そう。ジーンが言うには、アレは闇。ちょっと近づきたくない」
数十メートル上空で、吹き抜けになった部屋から溢れ出る闇の瘴気を見上げ、ユーリはやや緊張した声で答えた。
ミゼルも、そうだな、と短く言葉を返しただけで、それ以上は何も話す事ができなかった。
「・・・いま、アラタが戦っているんだ・・・あの闇と。信じて待とう」
いつの間にか後ろに来たジーンが、そう声をかけて来る。
隣に立つケイトも、三階を見上げている。
ミゼルもユーリも、その言葉に耳を傾けると、黙って頷いた。
駆け付けたい気持ちでいっぱいだが、体力も魔力もほぼ使い果たした自分達にできる事はもう無い。
それどころか足を引っ張る事になってしまいかねない。
自分達は、闇に対抗する力を持つアラタに全てをかけた。
ジーンもユーリも、そこにいる全員が、アラタの勝利を信じ願った。
「はぁっ!・・・はぁっ!・・・ぜぇ・・・どうだ・・・?」
ギリギリだったが、俺の光は偽国王の闇の波動を押し返し、光は目の前の闇全てを吹き飛ばした。
その威力は後ろの壁や天井も破壊し、城の一角はもはや崩壊寸前で、濛々と煙が立ち込めていた。
「・・・マジかよ?」
目を疑いたくなった。
手ごたえはあった。それはここまで城を破壊する程の一撃を食らわせた事からも明らかだ。
だが、これは・・・目の前のこれは、なんだ?
「・・・やってくれたなぁ・・・」
「てめぇ・・・どうなってんだ?」
俺は確かに闇の波動を押し返し、身に纏った光をそのままぶちかました。
偽国王の放つ闇の瘴気を打ち消し、その体を吹き飛ばした。
大ダメージを与えたはずだ。
それがなぜ・・・なぜここまで・・・巨大化しているんだ!?
弱体化するどころか、ますます膨れ上がった闇の瘴気は、吹き抜けになった部屋から外へと漏れ出しても、まだまだ底を見せる事なく、陽の光さえもさえぎり闇を広げて空を暗く染めていった。
すでに全身は真っ黒の闇に染まり、人間だった頃の面影も無い。
だが、その怒りと殺意に満ちた黒い瞳が、俺に向けられている事は分かった。
「・・・お前・・・本当に人間か?」
俺はここで一つ仮説を立てた。
コイツは闇の力を増すたびに、その姿をどんどん変えている。
闇の瘴気をその身に取り込み、人の皮を捨て、力を増大させていっている。
そして今偽国王は、人間だった頃の面影など一切なくなり、もはや闇そのものといっていい程の存在へと変貌してしまった。
つまり、闇の力を引き出す代償に、人である事を捨てているのではないか?
それはもはや、人に戻る事もできないのではないだろうか?
「・・・人間か?そんな矮小なものと一緒にしないでもらおうか。今の俺は人間を超越した存在だ」
その力を示すかのように、闇の瘴気が膨れ上がり、アラタへとプレッシャーをかけてくる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息が上がる・・・体がだるい・・・レイチェルと約束した3分を超えて光の力を使ったが、オーバーした分もそろそろ限界のようだ。
今の一撃でもかなりの力を消費した・・・もう残り時間は少ない
「キツそうだなぁ?そのうっとうしい光の力も、そろそろ時間切れか?」
「はぁ・・・はぁ・・・お前だけは倒す」
「そのざまでよくほざける・・・!?」
偽国王が殺意を込めた闇を俺に向けたその時、煙に身を隠し潜んでいたリーザが飛び出し、闘気を纏ったその大剣を偽国王の頭に叩き込んだ。
「ユーリ、危ない!」
頭上から降り注ぐ落下物に、ジーンはユーリの肩を掴み引き寄せると、手を掲げ結界を張った。
「・・・驚いた。ジーン、ありがと」
「いや、それよりユーリ、あれを見てくれ」
眉を寄せ、たった今爆発した場所を指す。
「・・・ジーン、なにアレ?」
「・・・一度見た事がある。あれは、闇だ」
三階の爆発した場所から上がるそれは、一見すると黒煙かと思った。
しかしすぐに違うと分かった。
それは不規則に漂いながらも、まるで意思をもっているかのように周囲の空気さえ蝕んでいた。
そして数十メートル離れている地上のジーンとユーリでさえ、思わず身を固くする程の凶悪な闇の瘴気だったのだ。
「おーい!ジーン!ユーリ!」
二人で塔を見上げていると、聞き慣れた声に呼ばれ顔を向ける。
東から歩いて来るリカルドの姿が見えた。
「リカルド!」
駆け寄ると、リカルドは周囲を見回して独り言のように呟いた。
「んだよ、ジーンとユーリだけか?」
「うん、僕達が一番だったようだ。みんな戻ってこないから心配したよ。カチュアは・・・寝てる?」
「あぁ、全く信じられねぇぜ。敵にまでヒールかけやがんだからよ。そんで自分は魔力切れで眠っちまったんだぜ?面倒くせぇよ」
リカルドに背負われているカチュアを見て、一瞬最悪の事態が頭をよぎったが、顔を見て眠っている事が分かり安堵に胸をなでおろした。
「・・・リカルド、口悪すぎ」
ユーリが注意をするが、その表情も口調も呆れた感じはあるが、怒ってはいなかった。
ここまでカチュアをおぶって来たのだ。
憎まれ口を叩いても、本心でないのは分かる。
「ん、おい・・・あれ、ケイトとミゼルじゃね?」
カチュアを下ろしたリカルドが、ジーン達の後ろに見える人影に気付き目を向けると、ジーンとユーリも振り返った。
明るめのベージュの髪、気の強そうな切れ長の目、深い青の生地にダークブラウンのパイピングをあしらったローブを着ているのはケイト。
ボサボサの頭に無精髭、黒いローブを着ているのはミゼル。
二人とも、足取りは重くかなり疲弊している事が見て取れた。
「よぉ・・・みんな無事か?」
ジーン達の前までくると、ミゼルが軽く右手を挙げて言葉をかけて来た。
「いや、まだシルヴィアとジャレットが来ていない。城を覆っていた結界は解けたから、目的を果たしたのは間違いないけど・・・」
ジーンは自分に言い聞かせるように声を出し、ジャレットとシルヴィアが向かった南東の方角にある塔に顔を向けた。
「ジーン、大丈夫よ。あの二人だもん。疲れて休んでるんじゃない?」
「・・・うん、そうだね・・・ん?ケイト、顔色が悪そうだけど?」
心配し過ぎないようにと、ケイトがあえて出した明るい声に、ジーンも頷いた。
だが、やや血の気の薄いケイトの顔色を見て、ジーンは眉を潜めた。
「あぁ、その・・・刺されちゃってね。傷はもう・・・わっ!」
「刺された!?ケイト!どこ!?大丈夫なのか!?」
刺されたという言葉に、ジーンはケイトの両肩を掴み、ケイトでさえ見た事がないほどの取り乱した様子でまくし立てて来た。
「え、その、ジーン、ねぇ、ちょっと!大丈夫だから!ヒールしてもらったから大丈夫だから!」
あまりに切羽詰まった表情のジーンに、ケイトが声を大にして訴えると、そこでようやくジーンも我に返ってケイトから手を離した。
「あ・・・ごめん。つい・・・」
「・・・びっくりしたなぁ・・・大丈夫じゃなかったら、歩いて帰って来れないでしょ?刺されたけど、もう傷は塞がってるし、痛みも無いから大丈夫だよ。ただ、血をけっこう流しちゃって、それであんまり力入らないけどね」
「ケイト・・・無事で良かった」
少しだけ笑って、指先で頬を掻くケイトをジーンは抱きしめた。
「え!?ちょっ、ジーン!?」
驚きの声を出すケイトだが、ジーンは何も言わずに抱きしめ続けた。
「・・・ジーン、心配かけてごめんね」
ケイトもジーンの背中に手を回し、優しく言葉をかけた。
「おいおい、いつまでイチャついてん・・・うぐっ!」
抱き合う二人を見て、リカルドが呆れたような声で言葉をかけようとすると、ユーリの左拳がリカルドの右わき腹にめり込んだ。
「ぐはぁっ・・・はぁ、はぁ・・・ユ、ユーリ、て、てめぇ・・・」
「リカルド、何回言ったら分かるの?空気読もうよ?馬鹿なの?カチュアおぶってきたから、ちょっとだけ見直したのに、やっぱりマイナス100点」
「おいおい、ユーリ、リカルドも悪気はないんだから、そのくらいでな」
見かねたミゼルが間に入ると、ユーリは腕を組んで、フン、と顔を背けた。
「なぁ、ところでさっき爆発音が聞こえたんだが・・・アレだよな?」
話しを変える様にミゼルが城の三階、さっき爆発があった場所に顔を向ける。
「・・・うん、そう。ジーンが言うには、アレは闇。ちょっと近づきたくない」
数十メートル上空で、吹き抜けになった部屋から溢れ出る闇の瘴気を見上げ、ユーリはやや緊張した声で答えた。
ミゼルも、そうだな、と短く言葉を返しただけで、それ以上は何も話す事ができなかった。
「・・・いま、アラタが戦っているんだ・・・あの闇と。信じて待とう」
いつの間にか後ろに来たジーンが、そう声をかけて来る。
隣に立つケイトも、三階を見上げている。
ミゼルもユーリも、その言葉に耳を傾けると、黙って頷いた。
駆け付けたい気持ちでいっぱいだが、体力も魔力もほぼ使い果たした自分達にできる事はもう無い。
それどころか足を引っ張る事になってしまいかねない。
自分達は、闇に対抗する力を持つアラタに全てをかけた。
ジーンもユーリも、そこにいる全員が、アラタの勝利を信じ願った。
「はぁっ!・・・はぁっ!・・・ぜぇ・・・どうだ・・・?」
ギリギリだったが、俺の光は偽国王の闇の波動を押し返し、光は目の前の闇全てを吹き飛ばした。
その威力は後ろの壁や天井も破壊し、城の一角はもはや崩壊寸前で、濛々と煙が立ち込めていた。
「・・・マジかよ?」
目を疑いたくなった。
手ごたえはあった。それはここまで城を破壊する程の一撃を食らわせた事からも明らかだ。
だが、これは・・・目の前のこれは、なんだ?
「・・・やってくれたなぁ・・・」
「てめぇ・・・どうなってんだ?」
俺は確かに闇の波動を押し返し、身に纏った光をそのままぶちかました。
偽国王の放つ闇の瘴気を打ち消し、その体を吹き飛ばした。
大ダメージを与えたはずだ。
それがなぜ・・・なぜここまで・・・巨大化しているんだ!?
弱体化するどころか、ますます膨れ上がった闇の瘴気は、吹き抜けになった部屋から外へと漏れ出しても、まだまだ底を見せる事なく、陽の光さえもさえぎり闇を広げて空を暗く染めていった。
すでに全身は真っ黒の闇に染まり、人間だった頃の面影も無い。
だが、その怒りと殺意に満ちた黒い瞳が、俺に向けられている事は分かった。
「・・・お前・・・本当に人間か?」
俺はここで一つ仮説を立てた。
コイツは闇の力を増すたびに、その姿をどんどん変えている。
闇の瘴気をその身に取り込み、人の皮を捨て、力を増大させていっている。
そして今偽国王は、人間だった頃の面影など一切なくなり、もはや闇そのものといっていい程の存在へと変貌してしまった。
つまり、闇の力を引き出す代償に、人である事を捨てているのではないか?
それはもはや、人に戻る事もできないのではないだろうか?
「・・・人間か?そんな矮小なものと一緒にしないでもらおうか。今の俺は人間を超越した存在だ」
その力を示すかのように、闇の瘴気が膨れ上がり、アラタへとプレッシャーをかけてくる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息が上がる・・・体がだるい・・・レイチェルと約束した3分を超えて光の力を使ったが、オーバーした分もそろそろ限界のようだ。
今の一撃でもかなりの力を消費した・・・もう残り時間は少ない
「キツそうだなぁ?そのうっとうしい光の力も、そろそろ時間切れか?」
「はぁ・・・はぁ・・・お前だけは倒す」
「そのざまでよくほざける・・・!?」
偽国王が殺意を込めた闇を俺に向けたその時、煙に身を隠し潜んでいたリーザが飛び出し、闘気を纏ったその大剣を偽国王の頭に叩き込んだ。
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