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493 覚悟の特攻

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身長は170cm程度、年齢は30代前半くらいだろうか。
変身が解けた事で、それまでの筋肉質な体格が一回り小さくなり、平均的な魔法使いらしい体付きへと変わっていた。
暗めの茶色の髪、真っ赤に充血した目はリーザを睨み付けていたが、口元には余裕を見せるように不敵な笑みが浮かんでいた。

「・・・フッ、ハハハハハハ!無駄だ!光の力を持たないお前が、この俺に傷を付けれるはずがなかろう!」

リーザの右の蹴りは、確かに偽国王の顔面を捉えていた。
だが、左頬にめり込んだリーザの右足は、偽国王の顔をそれ以上蹴り抜く事ができずに止められていた。

「ちっ!」

偽国王の左手がリーザの右足に伸びるのを見て、リーザは左足で偽国王の右肩を蹴り付け、その反動を利用し偽国王から体を離した。

「・・・闇、か・・・話しには聞いてたけどね・・・」

数メートルの距離を取り着地したリーザは、偽国王の顔の感触を確かめるように、その右足を撫でた。
偽国王の顔にめり込んだリーザの右足だったが、偽国王の顔は闇によって黒く変色しており、リーザはまるで大木でも蹴り付けたような、堅く重い感触に眉を潜めた。

「いい動きだ。簡単には捉えられんな」

「お前、ブロートン帝国の青魔法使いなんだって?」

イスに座ったまま薄ら笑いを浮かべる偽国王に、リーザが顎を向けて問いかける。
これまでに集めた情報、推測も入っているが確信に近いものを持った考えだった。

「その通りだ」

「へぇ・・・あっさり認めるんだな?」

偽国王がすんなりと認めた事はリーザの予想を少し裏切った。
こちらの様子から、確信を持っている事は察しただろう。だが、認めるにしても多少ははぐらかしてくるとは思ったからだ。

「ここまでの騒ぎになってるんだ。もう隠す必要もないだろう・・・俺はマウリシオ・ミラー。ブロートン帝国の青魔法使いだ」

「・・・ミラー?」

目の前でイスに座っている男の名に、リーザは引っかかりを感じ聞き返した。


「・・・ジャキル・ミラー・・・200年前のカエストゥスとの戦争、皇帝の護衛に付いていた魔法使いだ・・・お前は、その子孫という事か?」


リーザの問いに答えたのは、目の前のミラーではなく、後ろから来たアラタだった。

「・・・どこで知った?・・・バッタ以降の歴史を知っている者は、ごく限られているのだがな」

それまで余裕を見せていたマウリシオ・ミラーだったが、アラタの言葉に笑みが消えると、その赤く充血した目をリザーからアラタへ移し、隠された歴史を知るその男の姿を焼きつけるかのように凝視する。

「アラタ、私が撹乱するから、なんとか隙をついてくれ」

「分かった。この闇の瘴気に触れている限り、ヤツの意思一つで掴まれる。だから、絶えず動き続けてくれ」

リーザは前を向いたまま、黙って頷いた。

アラタは自分自身が捕まった経験から、この闇との戦い方を一つ学んでいた・
偽国王マウリシオの体から伸びる闇の触手、そして闇の波動だけが敵の攻撃手段ではない。
この部屋に満ちている闇の瘴気すべてが、いつでも自分達を捕まえる事ができる網なのだ。


自分の質問に答えないアラタに、マウリシオは少しの苛立ちを見せた。

「・・・ちっ、おしゃべりは終わりだ」

マウリシオの視線が二人を捉え、アラタとリーザの周りの瘴気がうごめいた。
己の体を掴もうとする闇の瘴気の動きを察し、アラタは左へ、リーザは右へと分かれ同時に飛んだ。

「この部屋の全てが俺の手だ!躱しきれるかな!?」

体力型のアラタとリーザの動きを、マウリシオは目に映す事はできても、闇で掴む程には捉えきれていなかった。
だが、この部屋に満ちる瘴気は、全て自在に動かせるマウリシオに焦りはなかった。
一瞬でも動きを止めて、視界で捉えればそれで捕縛できる。
いかに速かろうと、闇の触手を躱しながら、止まらずに動き続けられるわけがない!

マウリシオの体から発する闇が、その強さを見せつけるかのように、より深く黒くその色を濃くしていく。



もうあまり時間が無い・・・・・
闇の触手を引き千切った感覚から考えれば、俺の光は十分こいつに通用する。
ならば、リーザを信じてその時を待つだけだ。

アラタはマウリシオの体から鋭く伸びて来る闇の触手を躱しつつ、反撃の機会を狙っていた。
反対側に走ったリーザも、大剣を取る事ができず、またマウリシオが警戒を強めたからか、最初のように簡単に懐に入る事ができず攻めあぐねいていた。

リーザの身体能力の高さは見て分かるが、偽国王の体全体を覆うあの闇には、リーザも攻撃を通す事は難しいだろう。
最初の蹴りが通用しなかった事で、素手ではマウリシオに通用しないとリーザも判断していた。
だが、それでも攻撃を当てる事ができれば、僅かでも動きを止められる。
そこをアラタに繋ぎたかったが、現状はその身を囮に逃げ続けて、注意を引き付ける事しか手段がなかった。

「ちぃっ!」

間一髪、振り下ろされた闇の触手を後ろに飛びかわしたが、下がった先にあった石に足をぶつけ、リーザは大きく体勢を崩した。

「ハッ!間抜けが!ここでそれか!」

マウリシオがその視界でリーザを完全に捉えると、リーザの周囲の闇が蠢き、両手、両足、そしてその体を掴み締め付けた。

「ぐぁっ!」

全身の自由を奪われ、キツく体を締め上げられたリーザは、苦し気に顔を歪め声を漏らした。

「ふん!貴様はそこで大人しくしていろ!」

リーザにそう言い放つと、マウリシオは左側に首向けた。
その視線の先には、自分に向かって飛び掛かって来るアラタの姿があった。

「馬鹿が!こっちの女を捕まえれば、その間に貴様が向かって来る事くらい読めるに決まってるだろう!」

そう。リーザが体勢を崩した時、それは自らを犠牲にした罠だとマウリシオは見抜いていた。
リーザにはマウリシオにダメージを与えるすべが無い。ならば必然的に光の力を持つアラタが決め役になるしかない。
そう年頭に置いたマウリシオは、リーザを攻めつつも、アラタへの注意を外す事はなかった。

そしてリーザを捉えた瞬間、案の定アラタはマウリシオへ向かい、一直線に飛びかかってきた。

「ウォォォォォォーーーーーッツ!」

「死ねェェェェェーーーーーッツ!」

行動を全て読んでいたマウリシオは、すでに右手に闇の力を集中させていた。
そして莫大な力を秘めたその闇を、アラタへと向け撃ち放った!

これ以上ないというタイミング、アラタも右手を振りかぶっており、攻撃の体勢に入っていた。
避ける事は不可能!

だが、読んでいたのはマウリシオだけではなかった。

「光よッツ!」

マウリシオが自分の動きを読んでくる。
アラタは読まれている事を前提とした、覚悟を決めての特攻だった。

そう、闇の波動を受ける事を覚悟しての特攻。


以前、パスタ屋でジェロムの父の夢の世界に入った時、アラタは闇の中に飛び込んだ経験がある。
それはとても深く暗く、人が触れていいものではなかった。
だが、光を纏ったアラタはその闇にも負けず、ジェロムの父を救い出す事に成功した。

光の強さとは心の強さ。

アラタの覚悟が光をより強く輝かせ、マウリシオの闇の波動をかき消した。

「なにィィィッツ!?そ、そんな馬鹿なァァァッツ!」

「オラァッツ!」

アラタの右フックが、偽国王マウリシオの顔面を捉え撃ち抜いた。
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