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486 闇に捕らわれた男
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「エリザ様!止まってください!」
三階、国王の寝室を目指し通路を走っていたアラタとエリザベート。
前を行くアラタが、突然鋭い声を出して、左手を横に出し後ろを走るエリザベートの足を止めた。
「・・・アラタさん、どうしま・・・え?」
エリザベートはアラタの背中から、前の様子を伺うように顔を出し、そこで絶句した。
国王の寝室のすぐ手前に、まるでそこだけ床が抜けたのかと思える程、大きな穴が空いていた。
「・・・この大穴、戦闘があったのかもしれません。目に見える範囲には敵の姿はありませんが、気を付けてください」
穴の下に目を向けると、真下の二階にも同じ規模の穴が空いている事が確認できた。
「・・・アラタさん、穴の周りに散らばっている石の量を見ると、これは下から上へ向けて、空けられた穴ではないでしょうか?」
アラタの隣で腰を下ろし、観察するように穴を眺めていたエリザベートが、その周囲に散らばる大小様々な石を見て、その考えを口にした。
「・・・なるほど、確かに上から下へだと、ほとんどの石は下に落ちてますよね」
「はい。それと、二階も同じような状態ですね。現状だけ見ると、一階から爆発魔法で、天井を撃ち抜いたのかもしれません」
エリザベートの推測は概ね当たっていた。
大穴は、トレバーがアンリエールを連れて行く時に、闇の波動を撃った事でできたものである。
トレバーが闇に呑まれた事を知らないエリザベートは、原因を爆発魔法と考えたが、それはしかたのない事であった。
「そうですね・・・これは魔法でないと無理だと思います。でも、そう考えると、一階で何者かが、三階まで通じる穴を空けたという事ですよね?いったいなにが目的でそんな事を?」
「・・・分かりません。戦いの中で、ここに撃つしかない状況だったかもしれませんし、見たままの答え・・・一階から三階へ移動するために空けたのかもしれません」
エリザベートの考えを聞き、アラタは眉を潜めた。
「・・・なかなか、大胆な行動をするヤツみたいですね。何者か分かりませんが、敵側でしょうか?」
「・・・探ってみます」
アラタの問いかけに、エリザベートは目を閉じて、穴に向けて手を伸ばした。
魔法使いであるエリザベートは、魔力感知に優れており、魔力の残り香から相手を調べようと試みた。
「・・うっ、こ、これは!」
「エリザ様!?」
びくりと体をこわばらせ、声を震わせるその様子を見て、アラタも緊張した声を上げる。
「はぁ・・・はぁ・・・だ、大丈夫です・・・何者かは分かりませんが、これは・・・この大穴からは闇を感じます・・・」
胸に手をあて、乱れた呼吸を落ち着かせようとしながら、エリザベートはたった今自分が感じたものを言葉にした。
「闇・・・ですか?」
「はい、闇です・・・この大穴は魔法ではなく、闇の力で空けられたものです。私も、バリオス様からの話しで聞いていましたが・・・まさか、これほどおぞましいものだなんて・・・」
そう話すエリザベートの目は拒絶と嫌悪に満ち、唇は恐怖で震えていた。
「・・・では、この穴を空けたのは、俺達の仲間ではないですね。敵側に闇の力を使う者がいる。そういう事ですね」
その問いにエリザベートは小さく頷いた。
「・・・はい。そして、私はこの闇の主を知っている・・・そう思うのです」
エリザベートの悲し気な後ろ姿に、アラタは声をかける事が躊躇われた。
だが、偽国王は目の前である。
ここで立ち止まっているわけにはいかない。
「・・・エリザ様、行きましょう」
「・・・はい、お時間をとらせてしまいましたね」
立ち上がり、アラタに顔を向けたエリザベートは、声の震えも治まり普段通りの表情に戻っていた。
「・・・強いですね」
エリザベートは目を伏せて、軽く頭を振った。
「私は強くなんてありません。本当は、今だって怖くて逃げだしたいんです・・・でも、みんながここまで連れて来てくれました。本当に命を懸けて・・・私がやらなきゃいけないんです」
「やっぱり、強いですよ」
そう言って二人は顔を見合わせて少しだけ笑う。
そして二人は穴を避けながら、残った足場を進み、国王の寝室の前に立った。
「俺が開けます」
前を向いたままそう小さく話す。エリザベートは黙って頷くと、体一つ分程アラタの後ろに下がった。
それ以上後ろに下がれば、大穴に落ちるくらいのギリギリの距離である。
寝室のドアノブに手をかけたところで、アラタの身に悪寒が走る。
それが直感なのか、アラタの持つ光の力なのか、それは分からない。
だが、アラタは言葉を発する間さえ惜しみ、振り返りざまにエリザベートを抱きかかえ、通路脇へと飛んだ。
アラタの判断がほんの一瞬でも遅れていれば、二人とも死んでいただろう。
アラタが脇へ飛んだその直後、一瞬前までアラタとエリザベートが立っていた場所が、寝室内から放たれた闇の波動によって爆音と共に撃ち抜かれた。
「きゃあ!」
「くっ!」
大穴を飛び越え、残っている足場へと着地すると、襲って来る爆風から腰を低くし身を護る。
危なかった・・・
今のは魔法じゃない。これがエリザ様の言っていた闇の力か?
凄まじい威力だった。
光を身に纏っていない状態で、まともに受けていれば死んでいた。
それは今の波動を見ただけで分かった。
緊張から、アラタの胸を打つ鼓動が早く高くなる。
頬を一筋の汗が伝い・・・
「アラタ様、ありがとうございます」
エリザベートの声にアラタは我に返った。
「大丈夫ですよ。今の攻撃を察知できたあなたなら、闇に負けるはずがありません。あなたには、シンジョウ・ヤヨイさんと同じ、光の力があるのですから」
「・・・エリザ様」
気丈に振舞っているが、やはり死に直面した恐怖はあるのだろう。
その手は小刻みに震えていた。
しかし、アラタを勇気づけるために、その青い瞳で真っすぐにアラタを見て、言葉を発している。
アラタの心に届く言葉を・・・・・
「ありがとうございます。そうですね、俺には弥生さんと同じ力がある・・・だったら、負けるはずがない。絶対に勝ってみせます!」
「・・・勝ってみせる、だぁ?・・・ふははははは!この俺に勝つだとぉ?」
地の底から響いてくるような、低く凄みのある声が聞こえ、それとともに寝室から闇の瘴気が滲み出る。
「・・・あ、あなた・・・まさか・・・」
それは人の形をしているが、人ならざる者だった。
かろうじて顔の右半分に残った人の皮がエリザベートに、その闇の集合体が何者かを教える。
「エリザベートぉ~、やっと会えたなぁ~、見ろ!俺は素晴らしい力を手に入れたぞぉぉぉー!」
「トレバー!トレバーなのですか!?」
驚愕の表情で叫ぶエリザベート。
かろうじて残った生身の右目が黒く染まり、トレバーはニヤリと笑った。
三階、国王の寝室を目指し通路を走っていたアラタとエリザベート。
前を行くアラタが、突然鋭い声を出して、左手を横に出し後ろを走るエリザベートの足を止めた。
「・・・アラタさん、どうしま・・・え?」
エリザベートはアラタの背中から、前の様子を伺うように顔を出し、そこで絶句した。
国王の寝室のすぐ手前に、まるでそこだけ床が抜けたのかと思える程、大きな穴が空いていた。
「・・・この大穴、戦闘があったのかもしれません。目に見える範囲には敵の姿はありませんが、気を付けてください」
穴の下に目を向けると、真下の二階にも同じ規模の穴が空いている事が確認できた。
「・・・アラタさん、穴の周りに散らばっている石の量を見ると、これは下から上へ向けて、空けられた穴ではないでしょうか?」
アラタの隣で腰を下ろし、観察するように穴を眺めていたエリザベートが、その周囲に散らばる大小様々な石を見て、その考えを口にした。
「・・・なるほど、確かに上から下へだと、ほとんどの石は下に落ちてますよね」
「はい。それと、二階も同じような状態ですね。現状だけ見ると、一階から爆発魔法で、天井を撃ち抜いたのかもしれません」
エリザベートの推測は概ね当たっていた。
大穴は、トレバーがアンリエールを連れて行く時に、闇の波動を撃った事でできたものである。
トレバーが闇に呑まれた事を知らないエリザベートは、原因を爆発魔法と考えたが、それはしかたのない事であった。
「そうですね・・・これは魔法でないと無理だと思います。でも、そう考えると、一階で何者かが、三階まで通じる穴を空けたという事ですよね?いったいなにが目的でそんな事を?」
「・・・分かりません。戦いの中で、ここに撃つしかない状況だったかもしれませんし、見たままの答え・・・一階から三階へ移動するために空けたのかもしれません」
エリザベートの考えを聞き、アラタは眉を潜めた。
「・・・なかなか、大胆な行動をするヤツみたいですね。何者か分かりませんが、敵側でしょうか?」
「・・・探ってみます」
アラタの問いかけに、エリザベートは目を閉じて、穴に向けて手を伸ばした。
魔法使いであるエリザベートは、魔力感知に優れており、魔力の残り香から相手を調べようと試みた。
「・・うっ、こ、これは!」
「エリザ様!?」
びくりと体をこわばらせ、声を震わせるその様子を見て、アラタも緊張した声を上げる。
「はぁ・・・はぁ・・・だ、大丈夫です・・・何者かは分かりませんが、これは・・・この大穴からは闇を感じます・・・」
胸に手をあて、乱れた呼吸を落ち着かせようとしながら、エリザベートはたった今自分が感じたものを言葉にした。
「闇・・・ですか?」
「はい、闇です・・・この大穴は魔法ではなく、闇の力で空けられたものです。私も、バリオス様からの話しで聞いていましたが・・・まさか、これほどおぞましいものだなんて・・・」
そう話すエリザベートの目は拒絶と嫌悪に満ち、唇は恐怖で震えていた。
「・・・では、この穴を空けたのは、俺達の仲間ではないですね。敵側に闇の力を使う者がいる。そういう事ですね」
その問いにエリザベートは小さく頷いた。
「・・・はい。そして、私はこの闇の主を知っている・・・そう思うのです」
エリザベートの悲し気な後ろ姿に、アラタは声をかける事が躊躇われた。
だが、偽国王は目の前である。
ここで立ち止まっているわけにはいかない。
「・・・エリザ様、行きましょう」
「・・・はい、お時間をとらせてしまいましたね」
立ち上がり、アラタに顔を向けたエリザベートは、声の震えも治まり普段通りの表情に戻っていた。
「・・・強いですね」
エリザベートは目を伏せて、軽く頭を振った。
「私は強くなんてありません。本当は、今だって怖くて逃げだしたいんです・・・でも、みんながここまで連れて来てくれました。本当に命を懸けて・・・私がやらなきゃいけないんです」
「やっぱり、強いですよ」
そう言って二人は顔を見合わせて少しだけ笑う。
そして二人は穴を避けながら、残った足場を進み、国王の寝室の前に立った。
「俺が開けます」
前を向いたままそう小さく話す。エリザベートは黙って頷くと、体一つ分程アラタの後ろに下がった。
それ以上後ろに下がれば、大穴に落ちるくらいのギリギリの距離である。
寝室のドアノブに手をかけたところで、アラタの身に悪寒が走る。
それが直感なのか、アラタの持つ光の力なのか、それは分からない。
だが、アラタは言葉を発する間さえ惜しみ、振り返りざまにエリザベートを抱きかかえ、通路脇へと飛んだ。
アラタの判断がほんの一瞬でも遅れていれば、二人とも死んでいただろう。
アラタが脇へ飛んだその直後、一瞬前までアラタとエリザベートが立っていた場所が、寝室内から放たれた闇の波動によって爆音と共に撃ち抜かれた。
「きゃあ!」
「くっ!」
大穴を飛び越え、残っている足場へと着地すると、襲って来る爆風から腰を低くし身を護る。
危なかった・・・
今のは魔法じゃない。これがエリザ様の言っていた闇の力か?
凄まじい威力だった。
光を身に纏っていない状態で、まともに受けていれば死んでいた。
それは今の波動を見ただけで分かった。
緊張から、アラタの胸を打つ鼓動が早く高くなる。
頬を一筋の汗が伝い・・・
「アラタ様、ありがとうございます」
エリザベートの声にアラタは我に返った。
「大丈夫ですよ。今の攻撃を察知できたあなたなら、闇に負けるはずがありません。あなたには、シンジョウ・ヤヨイさんと同じ、光の力があるのですから」
「・・・エリザ様」
気丈に振舞っているが、やはり死に直面した恐怖はあるのだろう。
その手は小刻みに震えていた。
しかし、アラタを勇気づけるために、その青い瞳で真っすぐにアラタを見て、言葉を発している。
アラタの心に届く言葉を・・・・・
「ありがとうございます。そうですね、俺には弥生さんと同じ力がある・・・だったら、負けるはずがない。絶対に勝ってみせます!」
「・・・勝ってみせる、だぁ?・・・ふははははは!この俺に勝つだとぉ?」
地の底から響いてくるような、低く凄みのある声が聞こえ、それとともに寝室から闇の瘴気が滲み出る。
「・・・あ、あなた・・・まさか・・・」
それは人の形をしているが、人ならざる者だった。
かろうじて顔の右半分に残った人の皮がエリザベートに、その闇の集合体が何者かを教える。
「エリザベートぉ~、やっと会えたなぁ~、見ろ!俺は素晴らしい力を手に入れたぞぉぉぉー!」
「トレバー!トレバーなのですか!?」
驚愕の表情で叫ぶエリザベート。
かろうじて残った生身の右目が黒く染まり、トレバーはニヤリと笑った。
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