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482 共闘

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「・・・ほぅ、この瘴気・・・そうか、トレバーだな。やっとこちら側に来たか」

三階の寝室で、国王イザード・アレクサンダーⅡ世は、突如一階で発生した巨大な闇の瘴気を感じ取った。

「トレバーめ、ギリギリまで追い込まれてやっと覚醒したか。ゴールドに取り立て、エリザベートとの婚約もチラつかせたが、なかなか覚醒せんから見込み違いかと思ったが、どうやら一番は自分のプライドだったようだな・・・」

口元に笑みを浮かべると、今朝方、王妃アンリエールと、その護衛で青魔法使いのローザと一戦交えた時の事を思い起こす。

「・・・少し危なかったな。アンリエールはもはや完全に俺を偽者だと見抜いている。あのビンの液体は、おそらく真実の花から作られた薬だろう。そう言えば、セインソルボ山に生体調査で2人入ったという話しも聞いたが、アンリエールの手の者だったか・・・入山許可を出したのは、帝国の重鎮連中の誰かだろうが余計な事をする。結果、こうして足を引っ張る事になると考えられんのか?」

偽国王は、王妃アンリエールが真実の花の薬を用意している事までは掴めなかったが、自分の周囲を探り、外部に助力を求めている事は把握していた。

そして今日、王妃が行動に出ると知った偽国王は、返り討ちにしようと寝室で待ち構えていたのである。

「・・・まんまと逃げられたが、トレバーが覚醒したのであれば、もはやどうにもなるまい。ヤツの闇はそうたやすくは消せんぞ。恨みが憎しみが深ければ深い程に闇は強くなる。ふっふっふ、さぁ、どうするアンリエール」

歪な笑いを漏らす偽国王。
その体からは、トレバー以上の闇があふれ出ていた。






「どうしたレイマート?それで終わりか?」

「てめぇ・・・いったいなんだその体は?」

トレバーの体は、肩も腕も胸も腹も、体中いたるところを斬り刻まれている。
だが、その傷口からは赤い血だけでなく、黒い瘴気も吹き出していた。

「ふはははは!頭が実にスッキリしていてなぁ!体も軽くて調子がいい!しかも貴様にいくら斬られても何も感じないんだよ!俺は無敵になったんだ!」

「ちっ、本当の化け物になったようだな・・・だが!」

声高らかに笑い声を上げるトレバーに、レイマートは飛び掛かった。
右手に持った剣を、左脇の下から右上へ斜めに斬り上げる。

「なにっ!?」

「ふははははは!どうしたレイマート?剣が止まって見えるぞ?」

信じられない光景だった。
その体を斬り飛ばそうと放ったレイマートの剣を、トレバーは素手で掴み止めた。
そしてそのまま剣ごとレイマートの体を振り回し、力任せに投げ飛ばした。

「ちぃッツ!」

レイマートは空中で体を左手を床に着いて着地する。
追撃に備え、すぐに顔を上げてトレバーを見るが、トレバーはニヤニヤとあざ笑うような笑みを浮かべレイマートを見ていた。

「ふははははは!レイマートよ、どんな気分だ?お前はさっきまでオレより強かった。だが今はもうお前の剣は俺に全く通用しない。下に見ていた相手に一瞬で上回れる気分はどうだ!?」

すでにレイマートが斬った傷も、黒い瘴気が埋めるように回復させていった。
剣を素手で掴む常識外の力、回復能力、今のトレバーはレイマートの想像を絶する怪物となっていた。

「・・・その黒い瘴気・・・それがてめぇの力の源だな。いったいてめぇ何をした?」

「・・・さぁな、俺も知らねぇよ。だが、俺の怒りに応えてくれるように、体になにかが入り込んだ。そして今は妙にスッキリした気分だぜ。さぁレイマート、おじゃべりはもう終わりだ。俺をコケにした貴様にふさわしい最後をくれてやる!」

レイマートに向けた右手の皮膚が、瘴気によって黒く色を変えていく。


なにか来る!
レイマートが剣を構えると同時に、トレバーの右手から闇の波動が放たれた。

「ッ!?」

これは・・・ヤバイ!
瞬時にそう判断したレイマートは右に跳んで回避するが、わずかにかすめたその青い髪が、蒸発するように消えていった。

「なんだコレは!?」

凄まじい熱量だ!
防御できる類の攻撃じゃねぇ!躱すしかない!

「どうしたレイマート!逃げているだけかぁ!?」

レイマートの動きを完全に捉えているトレバーは、矢継ぎ早に闇の波動を撃ち、レイマートを追い詰めていった。

「そろそろ終わりにしようぜ!沸騰した湯で茹でられる蛙のようにぐつぐつになって死ぬがいい!」

右手だけでなく、左手も闇の瘴気で黒く染め両手を重ねると、これまでで最大の大きさの闇の波動が撃ち放たれた。


「くっ!」

レイマートの体を軽く呑み込む程に大きな闇の波動。

壁際に追い込まれた自分の立ち位置、闇の波動の大きさ、爆発の衝撃、その全てを瞬時に理解し判断したレイマートの結論は、逃げられない・・・・・


駄目だ・・・これは防ぎきれない・・・
レミュー、すまん・・・

両腕を盾に防御の体勢をとるが、この闇の波動を受けてとても無事でいられる自身はなかった。

しかし闇の波動はレイマートにぶつかる直前で爆発し、周囲の空気を震わせ爆音を鳴り響かせた。
突如目の前に現れた、青い光を放つそれは結界。

「・・・これは」

「レイマート、トレバーの波動は私が防ぎます」

レイマートの前に立ち、結界を張ったその青魔法使いの、長いダークブラウンの髪が爆風になびく。

「・・・ローザ」

「私とあなたでこいつを倒します。レイマート、時間は私が稼ぎます。アレを使いなさい」

振り返ったローザは、その髪と同じダークブラウンの瞳で、強い意思を持ちレイマートを見る。

「・・・知っていたのか?だが、いくらお前でも結界が持つのか?」

「私を信じなさい。私もバリオスの弟子です。闇との戦い方は受け継いでます」

レイマートはそのローザの瞳から確固たる信念を感じ取った。
そして大技を使う覚悟を決める。

「・・・分かった。お前を信じよう」

レイマートは剣を床に突き刺すと、左手で右手首を握り、意識を集中し呼吸を整え始めた。
やがてその体から静かに、しかし力強い闘気が溢れだしレイマートの体が輝き始める。


そうですレイマート。
あなたのその技なら、このトレバーにも通用するでしょう。


「ふはははははーーーッツ!どうしたどうした!」

闇の波動が次々と撃ち込まれる。
その威力は一撃一撃が結界を破壊しかねない程だったが、ローザは全魔力を放出し結界を維持し続ける。

レイマート、私はあなたの準備ができるまで、この命に代えても結界を持たせます!

ローザ・アコスタの意地が魔力を高め、結界を光らせた。
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