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472 信頼と意地

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ほう!この炎燃焦身を目にして、真正面からぶつかってきますか?
素晴らしい!実に素晴らしい!
これがゴールド騎士の矜持ですね!
フェリックス・ダラキアン!あなたの全身全霊しかと受け止めましょう!
そして思い知りなさい!
このマルコス・ゴンサレスと言う山の高さを!

「フハハハハハハハァァァァァーーーッツ!」

マルコスは笑った。
炎燃焦身(ほむらねんしょうしん)による全力の特攻、それは火山の噴火のようなものである。
それに対しフェリックスは、逃げる素振りも見せずに真正面から向かって来た。


腕を引き肩口から剣を水平にする構えは刺突。
その剣先はマルコスの顔の中心、目と目の間に狙いを付けている。

フェリックスの身体から放たれる闘気は、マルコスに勝るとも劣らない。
そして虹色の光の集合体と言ってもいい七色の剣からは、その一撃が想像をはるかに超える強大な力を秘めている事が一目で感じ取れる。



マルコス、これほどの力を持っているとは、想像以上だったよ。
けれど僕には精霊が付いている。

幻想の剣の力を限界まで引き出させたお前の力には感服させられるが、最後に勝つのは僕だ。

僕の全てを込めたこの一撃・・・受けれるものなら受けて見ろ!
ゴールド騎士がどれほどのものかを教えてやる!


マルコスとフェリックス、両者の渾身の一撃がぶつかった。





耳をつんざく爆音が城中に響き渡る。

爆風どころではない。体力型のアラタでさえ、足腰に力を入れてふんばらなければ吹き飛ばされる程の強烈な衝撃を体にぶつけられる。

そしてアラタの腕の中では、エリザベートが身を縮めていた。

マルコスとフェリックスがぶつかる直前、アラタは両者の衝突から発生するエネルギーの凄まじさに気付き、咄嗟にエリザベートを抱き寄せ身を挺して護っていた。

体力型の自分でさえ、これだけ力を入れなければ耐えれないのだから、魔法使いのエリザベートがこの衝撃波をまともに浴びれば、危なかった事は言うまでもない。

これほどの力のぶつかり合いを、果たしてどちらが制したのか?
勝った方も無事ではすまない。


互いに一歩も譲る事なくせめぎ合った巨大な力と力。

マルコスの炎燃焦身は広間を焼き払う程に強く燃え上がり、フェリックスの闘気もまた、周囲全てを吹き飛ばす程に強い力を発していた。



・・・そしてその時は訪れた


拮抗しせめぎあっていた力の均衡が、僅かに傾いた。

そしてその僅かが全てだった。


傾き崩れた力は吞み込まれ、もう一つの巨大な力と共に、その身に全てをぶつけられる事になる。

そう、炎燃焦身がフェリックスの闘気も虹も打ち破り、そのまま全てをフェリックスに叩きこんだ。

城が崩壊したのではと思える程の大爆音とともに、フェリックスは物凄い勢いで吹き飛ばされ、壁を突き破り城の外に投げ出された。





「・・・す、すげぇ・・・!」

決着を見たアラタは、思わず大声を出しそうになったが、すぐに頭を切り替えた。

今は勝利を喜ぶ時でも讃える時でもない、マルコスがフェリックスを倒した今、アラタがすべきことは、一刻も早く階段を上る事だ。

「アラタさん!」

行動に移したのはエリザベートの方が早かった。
アラタの手を取り、引っ張るように走り出している。
一歩遅れたが、アラタも足を動かしエリザベートに並ぶと、そのまま階段を駆け上がった。

階段中腹で一度だけ、一階のマルコスに目を向けた。

立ち尽くしたまま、動く気配はなかった。
いや、動きたくても動けないと言った方が正しいのかもしれない。

炎燃焦身はすでに解いているようだが、まだ全身から汗が蒸気のように立ち昇り、呼吸が酷く乱れている事が分かる。

あれだけの力のぶつかり合いだったのだ。
マルコス・ゴンサレスといえども、全てを出し尽くさなければ勝てなかったのだろう。

今立っている事が、勝者としてのマルコスの意地なのだろう。


マルコスは約束通り道を切り開いた。
ならば今度は自分がそれに応える番だ!

アラタの胸になにかが宿った。
それは闘志か、それとも・・・・・


ただ、今のアラタは過去のマルコスとの因縁などまるで頭に無く、命を懸けたマルコスの戦いに報いたい。

そしてヴァン、フェンテス、自分の力を温存させるために、あそこまで戦い抜いた二人の友に応えたい。

それだけを強く感じていた。
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