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理太郎

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465 レイチェル 対 騎士団

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「・・・速い」

俺はエリザ様の前に立ちながら、目の前で繰り広げられている戦いに目を奪われていた。
いや、戦いというには一方的過ぎるだろう。

レイチェルはあまりに圧倒的だった。その速さを誰も捉える事ができない。
そして正確無比の攻撃で、次々と敵を無力化させている。

騎士団はプレートメイルを着込んでいるが、左右のナイフで易々と、それこそまるで紙でも切るかのように、アッサリと斬り裂いていくのだ。

話しに聞いていたけれど、あれがレイチェルの連双斬という技か。
一撃目は傷を付ける事を目的として、二撃目でその傷に引っ掛けてより強い力で斬り裂く。
マルゴンの装甲も斬ったというし、あの技の前では鎧なんて意味をなさないのだろう。

レイチェルに向かった全ての騎士が、手首を斬られていた。
真っ赤な血が噴き出し、誰もがその場でうずくまり、悲鳴を上げている。





「急いでヒールをかけてもらうんだね!ぼやぼやしてると出血で死ぬよ!」

手首を押さえ叫び声をあげる騎士達に向かって、私は声を張り上げた。
これで30人。三人で分ければ私の分は、ほぼ片づけたかな。

こいつらは偽国王の命令に従っているだけだ。
殺さずにすむなら殺したくはない。すぐに王宮の白魔法使いの元に駆けこめば、まぁなんとかなるだろう。

ヴァンやフェンテスに目を向けると、あの二人もさすがだ。

フェンテスはカウンターで仕留めていた。
斬りかかって来る騎士の剣を躱すと、左手で騎士の腕を押さえ、右手のナイフで鎧の隙間を狙って刺し貫いている。ほとんど首を狙っているから、フェンテスの通り過ぎた後には死体の山が出来上がっていた。

ヴァンは自分から攻撃を仕掛けていた。
ヴァンは体術をメインにしており、ナイフは止めにのみ使っていた。

足を払い転ばせると、兜を蹴り上げて飛ばして喉を切り裂く。
腕を捻り上げると、脇の下にナイフを差し込む。

私は連双斬を使っているから、この程度の装甲はものともしないが、刃こぼれを考えれば、ヴァンの戦い方は正しいと言えるだろう。

やはり治安部隊だな。二人とも容赦が無い。
まぁ、戦いってのはそれが普通なんだけどな。私が甘いだけか。


さて、向こうもそろそろ終わりそうだ。
私はそろそろこいつの相手をしてやろう。
さっきから、じっと私を見つめているこの騎士の相手を・・・・・



「悪いね、待たせちゃったかな?」

「いや・・・貴様の技、じっくりと見せてもらった。さっきの気合といい、噂に違わぬ実力者のようだな」

そう話しながら、その騎士は兜を脱いだ。
短く刈り込んだ金色の髪、私を射貫くように真っ直ぐに見る強い目、少し太い唇はキツク結ばれている。

「おや、せっかくの兜を脱いでいいのかい?弱点になるよ」

「兜は視界が制限される。それで勝てる相手ではないからな」

私より一回りも二回りも大きな体をしているその騎士は、切っ先を私に向けて両手で剣を持ち構える。

「シルバー騎士、エリック・サルダールだ」

「私はレイチェル・エリオット・・・相手になろう」

エリックの体から気が放たれ、体を押されるような強い圧力をぶつけられる。

騎士団のブロンズはハッキリ言って有象無象だ。ステータスのために入った坊ちゃんばかりだからな。

だが、シルバーからは違う。隊を率いる立場にもなるのだから、それなりの実力が求められる。
シルバーにもピンからキリまでいるだろうが、これだけのプレッシャーを放ってくるこの男は、間違いなく上位の実力者だ。


私は右半身を前に、右手のナイフを順手に、左手のナイフを逆手にして構えた。

ピリピリとした心地良い緊張感が、私の精神を高ぶらせる。


フッ、と短く息をはいて、私は数メートルの距離を一蹴りで詰めた。

こいつもプレートメイルだ。私のナイフを通すには連双斬しかない。


先手は私の右のナイフだ。
剣を構えるエリックの手首を狙い右から左へ振るうが、エリックは左手を離し、私の右手首を払うように拳で打った。

エリックの視線は確実に私を捉えている。
私のスピードに着いて来ている。

右手を払われた私が、左足でエリックの右膝を狙い蹴り出そうとした瞬間、エリックが体ごとつっこむように、右手一本で真っすぐに突きを放って来た。

私の左足が浮いた瞬間を狙っての突きだった。よく見ている。

地に着いているのは右足一本。左の下段蹴りのモーションに入っているため、ここから左右に飛んで回避する事はできない。しかもエリックは体当たりで突いて来ている。
突きを躱したとしても掴まれてしまえば、体格で大きく勝るエリックにはパワー負けして組み伏せられてしまうだろう。

「もらったぁぁぁぁーーーッツ!」

勝利を確信したエリックの叫びと共に、私の両目の間にエリックの突きが刺さる・・・かと思えた。

私は背を思い切りのけ反らせた。
右足一本で体を支え、重心はぶらさず直角に近いくらいに背を倒した。

この避け方は予想外だったようだ。
エリックの表情に一瞬だが驚きが浮かび、突きを振り切って腕が伸びる。

本来は躱される事を想定して、次の行動によどみなく移せるように、腕は肘が伸び切らない程度で止めるつもりだったのだろう。
だが、想定外の回避に驚き、肩まで真っすぐに腕を振り切ってしまった。

このミスで、エリックが用意していた次の行動に入るまでに、一手遅れがでる。

そして私には、その一手で十分だった。

背中に反動を付けて体を起こす、そして私の顔の前にはエリックの顔がある。

私はエリックの鼻っ面目掛けて、思い切り額をぶつけた。


「ぶっ!ぐぶぁあぐぁーーーっつ!」

鼻の骨の砕ける嫌な感触が額から全身に伝わってくる。
エリックの鼻からは粘着性のある真っ赤な血が噴き出て、私の髪にべたりと付く。

これで剣を手放さないのは、さすがシルバー騎士といったところだろう。
だが、僅かな時間でも痛みに両目をつむってしまうのは、戦場では致命的だ。

「うっ・・・・・!」

左のナイフを振るいエリックの喉を斬り裂くと、エリックは短く声を漏らした。
一文字に斬り裂かれた喉から、噴水のように真っ赤な血が飛び散り赤い雨を降らせる。


「み・・・ごと・・・だ・・・・・」

その言葉を残し、エリックは私の前に倒れ伏した。


「シルバー騎士の矜持、見せてもらった・・・お前の名は忘れない」


勝負は一瞬だった。だが、この男は私の動きを目で追い対処した。
結果だけを見れば無傷の私は、楽に勝てたように見えるかもしれない。
だが、高度な駆け引きを要求される際どい勝利だった。



「なかなかやるねぇ、レイチェル・エリオット」

両手を打ち合わせる渇いた音が頭上から聞こえる。

顔を上げると、二階へと続く階段から、金色の鎧を見に付けた二人の騎士が姿を現した。


「・・・出たか、ゴールド騎士」

フェリックス・ダラキアン。

アルベルト・ジョシュア。

騎士の頂点、二人のゴールド騎士が、二階から私を見下ろして口を開いた。
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