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463 南東の塔 決着

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「ジャレット、大丈夫?」

うつぶせに倒れているジャレットの脇に腰を下ろし、顔を覗き込むように話しかける。

「う・・・うぅ・・・シ、シーちゃん・・・け、怪我は、ねぇか?」

どうやら意識はあるようだ。安心してほっと息を付く。
第一声が私の心配?自分がどんな状態か分かっているのだろうか?

でも、最初に私を心配してくれた事に、嬉しさを感じている自分もいる。

「私は大丈夫よ・・・ジャレットのおかげよ。ありがとう・・・ちゃんと約束護ってくれたわね」

「そ、そうか・・・よかった・・・ん?約束って、なん、だ?」

そうよね。聞き流しててもしかたないか。

「店で、誰と誰がペアを組むか決めた時、私ジャレットに言ったわよ?ちゃんと護ってねって。覚えてないかしら?」

ジャレットは、まだ体を動かせそうにないようで、うつぶせのまま顔だけ私に向けて、眉を寄せた。

「・・・言われてみれば、シーちゃんそんな事言ってたような・・・まぁ、結果的に護れたんなら、それでいいわな」

そう言ってジャレットは歯を見せて笑った。

本当にこの人は・・・・・

「・・・ジャレット、まだ起きれない?」

「う、ん・・・ふぅ・・・うぐッ!」

「ど、どうしたの!?」

ジャレットは体を起こそうとしたけれど、急にお腹を押さえてまた倒れこんだ。

「う・・・ぐぅぅ・・・い、痛ぇ・・・あの野郎に、一発もらって、る、からよ・・・」

キツく目を瞑り、息苦しそうに顔をしかめているところを見ると、相当痛むのだろう。

「だ、大丈夫なの!?」

そんな状態で、あれほどの攻撃をしかけていたのかと驚くと、ジャレットはやたら白い歯を見せて、ニヤリと笑って見せた。

「だ・・・だって、よ・・・シーちゃん、護らなきゃって・・・・俺が、護らねぇ、と・・・」

「ジャレット・・・・・」



ジャレットは体の感覚を確かめるように、ゆっくりと肘を着いて、まず上半身を起こし、そのまま膝を立たせて、なんとか体を起こして壁にもたれかかった。

「・・・ふぅ~・・・しんどい、ぜ・・・駄目だな、これ、多分・・・アバラ何本かイッてるわ・・・・・もう、動けそうにねぇ・・・シーちゃん、悪い、けど・・・一人で、帰ってくれ」

ジャレットは荒い息を抑えるようにしながら、ゆっくりと一言一言口にした。

「なに言ってるのよ、ジャレットを一人で置いていくなんてできないわ。はい、これ飲んで」

蓋を開けて、透明な液体の入った小瓶を渡す。

「お、それ・・・回復薬、じゃん・・・悪い、助かる」

全く、私が持って来てなかったらどうしてたのかしら?
この人、大事な時にこういうところ抜けてるのよね。

落とさないように、ジャレットの手に私も手を添えて、少しづつ飲ませる。
飲み終えるとジャレットは、また一つ息をついて、壁に背中を預けた。
全身の力を抜いているようで、とてもリラックスしているように見える。


「・・・シーちゃん、ありがとな・・・・・」

「・・・なに言ってるのよ。私こそ、ありがとう。ジャレット・・・」

ジャレットの隣に座り体を預ける。
それ以上話しをしないまま座っていると、やがて隣からスー、スー、と音が聞こえ始めた。

「・・・あら、ジャレット・・・寝ちゃったのかしら?」

無理もない。
体力を使いきって、あれだけの怪我をしたのだ。
今は少しでも休んで体力を回復させたいと体が判断したのだろう。

まるで少年のような寝顔のジャレットを見て、私はクスリと笑った。

「・・・意外と可愛い顔してるのね」




ジャレットが寝てしばらく待ってから、私は竜氷縛の一部、レオを封じている部分を魔力操作で砕いた。

氷漬けにされていた四勇士、レオ・アフマダリエフが支えを無くした人形が机から落ちる様に、
天井程の高さから無防備に床へと落下した。

受け身を取る事も、体をかばう事もなく、勢いそのままに全身を床に打ちつけた事から、確認しなくても絶命している事は分かる。


私はジャレットを起こさないように立ち上がると、倒れているレオへ近づいた。

「・・・うん、やっぱり死んでいるわね」

自分の魔法の中に封じていたから、生命反応でとっくに死んでいた事は分かったけれど、この男の身体能力の高さを考えて、用心のため長めに封じておいたのだ。

レオの体は完全に凍り付いており、生命活動は考えられない。
口元に手もかざしてみるが呼吸はしていない。鎧の胸のパーツを外して心音も確認してが、反応は無かった。

レオ・アフマダリエフは完全に死んでいる。

確認して私は心から安堵した。
臆病なくらい確認したが、正直私はこの男が怖かった。あれほど死が目の前に迫った事は初めてだった。

勝てたのは運が良かった。
そういう性格なのだろうが、この男は受けに回る事が多かった。
敵の攻撃を見極めてから、反撃するというスタイルなのかもしれない。
だから私達は攻撃の機会を多く作れて、レオが全てを出してくる前に仕留める事ができた。

長期戦になっていたり、最初から攻め込まれていれば勝ち目は無かったと思う。


「本当に、よく勝てたと思うわ・・・じゃあ、探らせてもらうわね」

ジャレットの攻撃で相当痛んでいたようだ。
レオの鎧は所々ひび割れ、ヘコんでいてボロボロだったので、私の力でも簡単に外す事ができた。

「・・・あ、これかしら?」

鎧の内側に、まるでコレを入れるためだけのような物入れが付いていて、十数センチ程の銀のプレートが入っていた。
おそらくこれが魔道具 大障壁だろう。


「じゃあ、早いとこ壊しましょうか・・・ふぅ、魔力回復促進薬を飲んでても、今回はキツイわね」

私は床に大障壁を置くと、それに向かって爆裂弾を撃った。
銀のプレートが砕けるのを見て、私は壁の覗き穴からクインズベリー城を見た。


「・・・薄くなってる?・・・あ、消えた!」

クインズベリー城を覆っていた大障壁が消えた。
つまり、他三つの塔に行ったみんなも、大障壁を破壊する事に成功したんだ!


アラタ君やレイチェルの姿は確認できなかった。
死角になっていて、ここからでは見えない。けど、結界が消えたと同時に城内に入っているはず。

・・・・・私はこれからについて少し考えた。

少しづつ回復はしてきているけれど、私にはもう戦える程の魔力は残っていない。

ジャレットも、このまま寝ていれば動ける程度には回復するだろうけど、もう戦闘は不可能だ。

つまり、私達にできる事はもうない。


「・・・できれば一緒に戦いたいけど、今の私達じゃ足手まといね・・・」

私はジャレットの隣に腰を下ろした。
ジャレットはまだ当分起きそうにない。

「・・・二人でここで休みましょうか・・・あら?」

私が壁に背中を預けたからだろうか?あまり強くあたったつもりはなかったけれど、ジャレットの体が傾いて、私にのしかかって来る。

「ちょ、ちょっと・・・ジャレット!もう、しかたないわね!」

ジャレットの背中を抑えて、そのまま私の膝の上に頭が乗るように寝かせてあげた。
これまでジャレットは起きる気配がない。よほど疲れているのだろう。


「・・・ねぇ、ジャレット、起きないの?」

返事が無い。寝たふりもしていないようだし、しばらく目を覚まさないだろう。

頬をつついてみる。

自慢の髪をいじってみる(アラタ君が言うには、ロングウルフという髪型らしい)

ジャレットが起きないのをいい事にいじりまくっていると、さすがに目が覚めたようだ。


「シ、シーちゃん?なにしてんの?」

「あら、起こしちゃったかしら?ジャレットをいじってたのよ」

「いや、なんで?」

「え?だって・・・可愛いじゃない?」

「えぇ?な、なに言ってんの!?男に可愛いって!?カッコイイの間違いだろ!?」

「ねぇ、ジャレット、この戦いが終わったら休みを取って、一緒にどこかに行きましょう」

「え?・・・あぁ!?いきなりなに言ってんの?」

「ロンズデールなんかいいわね。私一度行ってみたかったのよ。あそこお魚が美味しくて、温泉もあるんですって。寒い時期には最高よね」

「シーちゃん?ちょっと、俺の話し聞いてる?」

「一週間くらい欲しいけど、みんなのシフトも考えなきゃだから、現実的には3~4日ってとこかしらね?まぁ、それでもいいわよね?楽しみだわ」

「・・・シーちゃん、俺の予定とか・・・その、色々と・・・」

「・・・あら?ジャレットは、私一人で行けって言うのかしら?そんな寂しい事言わないわよね?」


「・・・いや、みんな・・・・・あぁ~、はい!分かった分かった!一緒に行こうぜ!ったく、シーちゃん本気か?店で一番モテるくせに俺かよ?」


ジャレットは観念したように、頭をボリボリ掻いて口を曲げている。

「失礼ね、私じゃ不満なの?」

「いや、どう聞いたらそうなんだよ?逆だって。俺でいいのかよ?」

「あら、ジャレットったら、高根の花だって事は分かってたのね?」

「・・・・・シーちゃんよぉ~、自分でそういう事言う?」

呆れたように話すジャレットのおでこを、私は指で弾いた。


「冗談よ。ジャレット、一度しか言わないからね・・・・・大好きよ」


意表を突かれて、あたふたしているジャレットを私は笑って見ていた。



レイチェル、アラタ君、ヴァン、フェンテス・・・・・そしてエリザ様・・・・・

ごめんなさい。加勢に行きたいけれど、私達はここまでみたい・・・・・

でも、みんなの事を信じてるわ。

王妃様を助けて、偽国王を倒して、そして一緒にレイジェスに帰りましょう。


・・・・・なんだか私も疲れちゃった。

仲間達の勝利を信じて、私は目を閉じた。
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