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461 立ち上がった男
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四勇士はクインズベリー国の守護神。
数百年続くお役目の中で、受け継がれてきた力と技。
産まれ落ちた時から四勇士を継承する運命にあったレオは、一番古い記憶でさえ、先代の父から厳しく稽古を付けられているものだった。
レオの人生は全て四勇士としての責務を果たすため。それ以外の教えを受けた事はない。
「・・・ふぅ・・・」
シルヴィアの放った竜氷縛は、5メートルはある天井にまで届きそうな高さの氷の彫像となり、レオを封じ込めていた。
一つ大きく息を付いたシルヴィアは、額の汗を拭い氷の中のレオを見つめる。
全力の竜氷縛だった。
それを受けるレオも、全身に気を漲らせ全力で抵抗した。
その上で、大魔の鎧を身に着けたレオを封じた事実は、シルヴィアの魔力の高さの証明である。
例えそれがほんの一瞬だったとしても・・・・・
レオを封じた竜氷縛が揺れたかと思うと、中心に亀裂が入り、亀裂は一気に広がった。
「・・・そんな・・・」
シルヴィアの目が大きく開かれる。
渾身の竜氷縛が目の前でひび割れていく。そしてそれを茫然と見つめるしかない。
「オォォォォォォォーッツ!」
レオの雄たけびと共に、巨大な氷の彫像が内側から破壊される。それによって砕かれた氷が、シルヴィアに雨あられのように放出され襲い掛かる。
「くっ!」
とっさに火魔法、火球を放ち氷のつぶてを蒸発させていくが、全てを防ぐことはできず、腕や足に何発か被弾する事になる。
「痛ッ、つぅ・・・!」
自身で放った竜氷縛の堅さが、自分の体を傷つけた。
腕や腿をかすめた分にはさほど問題はないが、左足の脛の当たった一発は、シルヴィアが立っている事ができない程の激痛を与え、シルヴィアから機動力を奪った。
「・・・僅かな時間とはいえ、耐魔の鎧ごと俺を氷漬けにするとはな。シルヴィアと言ったな、素晴らしい魔力だ。俺以外の相手ならば、今の一撃で決着だっただろう。だが、もはやその足では動く事もままなるまい?ここまでだな」
竜氷縛を粉砕し脱出したレオは、何事もなかったかのようにシルヴィアに向かい一歩一歩距離を詰めてきた。
右手に持つメイスを、そのままシルヴィアの頭に振り下ろすつもりなのだろう。
握る手に力が入るのが見て取れる。
「・・・ジャ、ジャレット・・・」
シルヴィアは恐怖した。
これまでの人生で、嫌な経験は沢山してきた。しかし命の危機を身近に感じた事は初めてである。
目の前に立ったレオ・アフマダリエフの目を見て、生まれて初めての心から恐怖したのである。
命を奪う事に一切の躊躇いが無い。
これからシルヴィアを殺そうとしているのに、その目はまるで、机の上のゴミを払うだけような、全く感情のこもらない無機質な目だった。
そんな男を相手にする事が、これほどの恐怖だとは思わなかった。
シルヴィアに魔力はまだ残っている。
足を負傷しても抗う事は可能だったが、竜氷縛をあっさり破られた事で、この男には何をやっても通用しない。そう悟ってしまった・・・・・
「・・・ジャレット・・・・・ジャレットーッ!」
目の前でメイスを振り上げるレオに、シルヴィアが口にした言葉は、ジャレットの名だった。
一瞬後には固く重いメイスが頭に振り下ろされる。
しかし、シルヴィアは信じた。
ジャレットがきっと助けてくれると・・・信じてその名を叫んだ。
「・・・ほぅ、あの一発を受けて立ち上がれるのか?」
振り上げたメイスを、今まさに叩きつけようとして、レオはその腕を止めた。
背中を向けたままだったが、振り返らなくてもレオの目にはその姿がハッキリと見えた。
後ろで立ち上がった男の姿が・・・・・
「ゲホッ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・てめぇ・・・コラ・・・・・」
息を切らしながらも、ジャレットは立ち上がった。その目には力があり、正面からレオを睨みつけている。
「・・・お前の名も聞いておこうか。名は何と言う?」
振り返ったレオは、ジャレットの視線を受けると、その強さに敬意を表するかのように、ジャレットの名を尋ねた。
「シーちゃんになにしやがんだボケェーーーッツ!」
ジャレットはレオの問いかけを無視した。
シルヴィアの足のケガが目に入り、腹の底から声を張り上げる。
オーラブレードが銀色ではなく、金色に光輝いた。
数百年続くお役目の中で、受け継がれてきた力と技。
産まれ落ちた時から四勇士を継承する運命にあったレオは、一番古い記憶でさえ、先代の父から厳しく稽古を付けられているものだった。
レオの人生は全て四勇士としての責務を果たすため。それ以外の教えを受けた事はない。
「・・・ふぅ・・・」
シルヴィアの放った竜氷縛は、5メートルはある天井にまで届きそうな高さの氷の彫像となり、レオを封じ込めていた。
一つ大きく息を付いたシルヴィアは、額の汗を拭い氷の中のレオを見つめる。
全力の竜氷縛だった。
それを受けるレオも、全身に気を漲らせ全力で抵抗した。
その上で、大魔の鎧を身に着けたレオを封じた事実は、シルヴィアの魔力の高さの証明である。
例えそれがほんの一瞬だったとしても・・・・・
レオを封じた竜氷縛が揺れたかと思うと、中心に亀裂が入り、亀裂は一気に広がった。
「・・・そんな・・・」
シルヴィアの目が大きく開かれる。
渾身の竜氷縛が目の前でひび割れていく。そしてそれを茫然と見つめるしかない。
「オォォォォォォォーッツ!」
レオの雄たけびと共に、巨大な氷の彫像が内側から破壊される。それによって砕かれた氷が、シルヴィアに雨あられのように放出され襲い掛かる。
「くっ!」
とっさに火魔法、火球を放ち氷のつぶてを蒸発させていくが、全てを防ぐことはできず、腕や足に何発か被弾する事になる。
「痛ッ、つぅ・・・!」
自身で放った竜氷縛の堅さが、自分の体を傷つけた。
腕や腿をかすめた分にはさほど問題はないが、左足の脛の当たった一発は、シルヴィアが立っている事ができない程の激痛を与え、シルヴィアから機動力を奪った。
「・・・僅かな時間とはいえ、耐魔の鎧ごと俺を氷漬けにするとはな。シルヴィアと言ったな、素晴らしい魔力だ。俺以外の相手ならば、今の一撃で決着だっただろう。だが、もはやその足では動く事もままなるまい?ここまでだな」
竜氷縛を粉砕し脱出したレオは、何事もなかったかのようにシルヴィアに向かい一歩一歩距離を詰めてきた。
右手に持つメイスを、そのままシルヴィアの頭に振り下ろすつもりなのだろう。
握る手に力が入るのが見て取れる。
「・・・ジャ、ジャレット・・・」
シルヴィアは恐怖した。
これまでの人生で、嫌な経験は沢山してきた。しかし命の危機を身近に感じた事は初めてである。
目の前に立ったレオ・アフマダリエフの目を見て、生まれて初めての心から恐怖したのである。
命を奪う事に一切の躊躇いが無い。
これからシルヴィアを殺そうとしているのに、その目はまるで、机の上のゴミを払うだけような、全く感情のこもらない無機質な目だった。
そんな男を相手にする事が、これほどの恐怖だとは思わなかった。
シルヴィアに魔力はまだ残っている。
足を負傷しても抗う事は可能だったが、竜氷縛をあっさり破られた事で、この男には何をやっても通用しない。そう悟ってしまった・・・・・
「・・・ジャレット・・・・・ジャレットーッ!」
目の前でメイスを振り上げるレオに、シルヴィアが口にした言葉は、ジャレットの名だった。
一瞬後には固く重いメイスが頭に振り下ろされる。
しかし、シルヴィアは信じた。
ジャレットがきっと助けてくれると・・・信じてその名を叫んだ。
「・・・ほぅ、あの一発を受けて立ち上がれるのか?」
振り上げたメイスを、今まさに叩きつけようとして、レオはその腕を止めた。
背中を向けたままだったが、振り返らなくてもレオの目にはその姿がハッキリと見えた。
後ろで立ち上がった男の姿が・・・・・
「ゲホッ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・てめぇ・・・コラ・・・・・」
息を切らしながらも、ジャレットは立ち上がった。その目には力があり、正面からレオを睨みつけている。
「・・・お前の名も聞いておこうか。名は何と言う?」
振り返ったレオは、ジャレットの視線を受けると、その強さに敬意を表するかのように、ジャレットの名を尋ねた。
「シーちゃんになにしやがんだボケェーーーッツ!」
ジャレットはレオの問いかけを無視した。
シルヴィアの足のケガが目に入り、腹の底から声を張り上げる。
オーラブレードが銀色ではなく、金色に光輝いた。
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