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「す、すごい・・・」

シルヴィアは感嘆の声をもらした。

ジャレットの猛攻は、レオに反撃の隙を与えず、一方的に攻め立てていた。
レオは盾を持っていない。しかし、両腕に付けている鋼鉄の腕当て、そして右手に持つメイスで受ける事で、ジャレットの攻撃を凌いでいた。

オーラブレードでレオの装甲を斬る事はできない。
したがってジャレットの攻撃は、兜を付けていない頭部、そして二の腕と両の太腿。ここに絞られていた。

防御に徹しているレオもそれは承知の上だった。そして的が絞られている事は、護る上で非常に楽だった。
そのため反撃できずとも、レオの顔に焦りの色は無く、むしろ余裕さえ見える。


ジャレットとレオには大きなハンデがあった。
身長差は15cm以上、体重では70キロそこそこのジャレットに対し、レオは100キロを超える。
実に30キロ以上の差があった。

ジャレットとて毎日の訓練は行っているが、無限とも思える時間を塔で過ごし、一日の大半を訓練に費やしているレオと比べれば、体力面での差も明確だった。

体力型の戦いに疎いシルヴィアは、一方的に攻めるジャレットが有利と見ていた。

だが怒りに任せ、全力で飛び掛かったジャレットに対し、冷静に受けに回ったレオ。
形勢が逆転するのに、そう時間はかからなかった。





くそがッツ!全く当たらねぇ!
この野郎、でけぇ図体のくせに力だけじゃねぇ、目がとんでもなくいい。
俺の剣筋を見極めて、最小限の動きでさばいてやがる!

ジャレットがレオの頭にオーラブレードを振り下ろすと、レオはメイスを少しだけ顔の前に出して受け止める。ここでも身長差がものを言った。
自分より15cmも低いジャレットの頭部への攻撃は、レオにとってメイスを振り上げる必要はなく、少しだけ顔の前に出せばいいのだ。それだけで、頭部だけでなく、胸から上はほぼ全てカバーできる事になる。

そのまま剣を滑らせ、右からレオの左腕を狙い打ち込むが、これもパワーで大きく勝るレオにとっては、左の腕当てを少し前に出せば楽に防げるものだった。


「・・・もういい。十分だ」


レオの呟きがジャレットの耳に届き、ジャレットが言葉の意味を理解しようとした瞬間、レオの左手拳がジャレットの腹にめり込んでいた。

「カッ・・・!」

うめき声すら出せず、肺の中の空気を残らず吐き出させる程の衝撃だった。

レオがそのまま腕を振り抜くと、ジャレットは数メートル先の壁まで飛ばされ、背中を強く打ち付けられ、力なく前のめりに倒れた。



「流水の盾にオーラブレードか・・・驚かされもしたが、終わってみればあっけないものだった」

横たわるジャレットに止めを刺そうと、レオはメイスを握りしめたレオ。
だがそのメイスはジャレットには向けず、振り返りざまに、自分の後頭部を狙って放たれたシルヴィアの氷魔法、食らえば頭を貫き破壊するだろう巨大な氷柱を、叩きつけて粉砕した。


「え、そ、そんな・・・」

申し分の無いタイミングだった。
仮に外されるとしても、無傷ではありえない。
そう確信を持って放ったシルヴィアの一撃だったが、レオはまるで撃たれる事が分かっていたかのように振り返り、正確にメイスを叩きつけた。


「なぜ今の攻撃か迎撃されたか分からない。そういう顔だな」

レオはシルヴィアに向き直ると、自分の額に撒いている紐の、人の目をモチーフにした石を指差した、


「答えはこれだ。魔道具、見通しの目。これを身に付けた者は、真上でも後ろでも、視界に収める事ができる。俺の後ろをとっても、俺にはお前の姿が丸見えという事だ」


「そんな魔道具が・・・くそ!」

背中をとったつもりが、レオはシルヴィアの行動を見透かしたかのように、なんなく氷魔法を打ち落とした。
あの目がある限り不意をつく事はできない。正面から実力で立ち向かうしかない。

シルヴィアは両手の平をレオに向けて、魔力を集中させた。
冷気が集まり、部屋が気温が一段下がったように感じる程の、冷たい空気が肌を刺す。


「ほぅ・・・これ程の魔力とはな。さっき俺の腕を凍らせた時以上だ。いいだろう、正面から受けてやる。全力で来い。俺の耐魔の鎧を超えて凍らせる事ができればお前の勝ちだ。できなければ、女といえど頭から叩き潰されると思え」


少し腰を落とし、両腕を広げると、レオは体勢を整えるように大きく息を吸って吐いた。


「見くびってくれるわね?私の竜氷縛・・・受けれるものなら受けてなさい!」


シルヴィアから放たれた氷の上級魔法竜氷縛は、195cmを超すレオすら一飲みにしてしまう程の大きな顎を開けて襲い掛かった。
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