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457 シルヴィアと氷魔法
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「シルヴィアは氷魔法が得意のようだな」
「・・・・・」
私はレイジェスで働くまで、魔法の訓練をした事はなかった。
自分が黒魔法使いだという事は知っている。そして、氷魔法が得意だという事も。
私は魔力が高いらしく、鍛えれば王宮使えもできると言われた事もあったけれど、私は魔法を訓練するつもりはなかった。
「浮かない顔だね?どうしたんだ?」
何も話さない私に、店長は不思議そうな顔を向けてくる。
「・・・店長、私はこの店で魔法を練習したいわけじゃないんです。もう、いいですか?」
レイジェスで働き始めて一か月が過ぎた頃だった。仕事にも慣れてきて、ここは居心地が良いと思い始めていた。
17歳の私は、仕事をいくつか転職していた。
私は人と深く接する事が苦手で、距離感が近い人がいるとどうも馴染めないのだ。
当たり障りなく接して、プライベートでの付き合いをせず、定時が来れば帰るだけの行動をしていると、ヒソヒソと陰口をたたかれ、気まずくなって辞める。
そんな事を繰り返していた時、たまたま入ったこのお店レイジェスで、私は店長と出会った。
【このネックレスが気になってるの?】
雪の結晶をモチーフにしたシルバーのネックレスだった。
魔道具コーナーでそれをずっと見ていると、店長が話しかけて来た
【え・・・あ、はい・・・綺麗ですね】
当たり障りのない返事をすると、店長はニコリと笑って言葉を続けた。
【うん、本当に綺麗だよね。雪を見るとクリスマスって感じがして、俺も好きなんだ・・・】
クリスマス?この人は何を言ってるんだ?
そう思ったけれど、不思議と嫌な感じはしなくて、そのまま少し話しを聞いた。
仕事の無くなった私は、翌日からもなぜかレイジェスに足を運び、1週間もすると店長に働いてみないかと誘われた。
魔法の訓練をしないかと店長に声をかけられた私は、ほんの少しの気まぐれで付き合った。
閉店後に店の隣にある空き家の裏で、私は火、風、爆、氷、四つの魔法を使って見せた。
最後に氷魔法を使った後、店長は私の氷魔法を強さに関心したようだった。
けれど氷魔法を褒められて、私は嬉しくなるどころか、やはり付き合うべきではなかったと、心が沈んでしまった。
「シルヴィア・・・無理に訓練をさせるつもりはないよ。ただ、もし心になにか刺さっている物があるのなら、話してくれないか?」
「・・・店長に話したって・・・どうにもなりません!」
私は店長を睨み付けた。八つ当たりだ。
私は魔法が嫌いなわけではない。自分に高い魔力があるのなら、それを伸ばしたいとも思っている。
だけど、私には呪いがかかっている・・・魔法を使う度にあの言葉が思い起こされて、私を苦しめるのだ。
「シルヴィア・・・」
店長はいつもと変わらない、優しい顔だった。
本当に不思議な人だと思う。悲しみも辛さも、この人は全て受け入れて癒してくれる。
そう思わせるなにかがある。
私は初めて本音を、心の内を話した。
「・・・私は・・・心が冷たいんです・・・氷魔法が強くて、それで、周りのみんなが、心が冷たいから氷魔法が強いんだって・・・ずっと、ずっと・・・ずっとそう言われて・・・私、私は・・・うぅ・・・うわぁぁぁぁぁーっつ!」
いつの間にか私は店長の胸で泣きさけんでいた。
子供の頃、私は友達だと思っていた子達に、いつもそう言われてからかわれた。
今思えば、子供特有のイジリだったのかもしれない。
けれど私にとっては、その言葉は呪いとなり、大人になった今でも心に深く残っていた。
いつしか私は魔法を使う事が怖くなった。
得意な氷魔法を使えば、心が冷たいとからかわれる。
そう言われる事が怖くて、その子達と遊ぶ事はなくなった。
いつしか人を遠ざけるようになって、一人でいる事が多くなった。
・・・・・シルヴィア、キミの心はとても温かいよ
私が泣き止むまで、店長はずっと私の頭を撫でて慰めてくれた。
とても温かいものが、私の心の氷を溶かしてくれた。
あの日、店長に言われた言葉は、今も私の心の原動力となって私を支えてくれている。
「そのまま全身氷漬けになりなさい!」
より強い魔力を放ち、レオの体を固める氷をどんどん広げていく。
「・・・女、俺の体を固めるとはなかなかの魔力だ。名を聞こう」
右肩からの氷漬けはさらに広がっていき、胸と腹まで凍らせ、喉にまでかかろうとしていた。
しかし、レオは全く意に介さず、自分を凍り付かせている私の魔法に、感心した様子さえ見せていた。
「・・・シルヴィア・メルウィー」
「そうか、覚えておこう・・・すぐに死ぬとしてもな!」
言葉に力を込めると、レオは自分の体を固める氷を、気合だけで内側から粉砕した。
「ッ!」
粉砕され飛び散った氷が勢いよく私の体にぶつけられ、私はその場に倒されてしまう。
「うぅっ・・・!」
すぐに体を起こし顔を上げると、レオがメイスを振り上げるところだった。
レオは何も言わず、ただ冷たい目だけを私に向ける。
この男は、人を殺す事に一切の迷いもためらいも無い。
敵に対してどこまでも冷酷になれる男なんだ。
私は死を覚悟した。
「なに!?」
迫りくる死に目を閉じた直後、なにかが床に叩きつけられる音と、レオの驚きの声が響き私は目を開けた。
レオの振り下ろしたメイスは、大幅に狙いが逸れたように、私から外れて床に打ちつけられていた。
そして私の目の前には、ジャレットが私を護るように立っていた。
「・・・シーちゃんに何しやがんだボケェッツ!」
目の前で驚愕の表情を浮かべ、背中を丸める形になっているレオの顔に、ジャレットは握り締めた右の拳を叩きこんだ。
「・・・・・」
私はレイジェスで働くまで、魔法の訓練をした事はなかった。
自分が黒魔法使いだという事は知っている。そして、氷魔法が得意だという事も。
私は魔力が高いらしく、鍛えれば王宮使えもできると言われた事もあったけれど、私は魔法を訓練するつもりはなかった。
「浮かない顔だね?どうしたんだ?」
何も話さない私に、店長は不思議そうな顔を向けてくる。
「・・・店長、私はこの店で魔法を練習したいわけじゃないんです。もう、いいですか?」
レイジェスで働き始めて一か月が過ぎた頃だった。仕事にも慣れてきて、ここは居心地が良いと思い始めていた。
17歳の私は、仕事をいくつか転職していた。
私は人と深く接する事が苦手で、距離感が近い人がいるとどうも馴染めないのだ。
当たり障りなく接して、プライベートでの付き合いをせず、定時が来れば帰るだけの行動をしていると、ヒソヒソと陰口をたたかれ、気まずくなって辞める。
そんな事を繰り返していた時、たまたま入ったこのお店レイジェスで、私は店長と出会った。
【このネックレスが気になってるの?】
雪の結晶をモチーフにしたシルバーのネックレスだった。
魔道具コーナーでそれをずっと見ていると、店長が話しかけて来た
【え・・・あ、はい・・・綺麗ですね】
当たり障りのない返事をすると、店長はニコリと笑って言葉を続けた。
【うん、本当に綺麗だよね。雪を見るとクリスマスって感じがして、俺も好きなんだ・・・】
クリスマス?この人は何を言ってるんだ?
そう思ったけれど、不思議と嫌な感じはしなくて、そのまま少し話しを聞いた。
仕事の無くなった私は、翌日からもなぜかレイジェスに足を運び、1週間もすると店長に働いてみないかと誘われた。
魔法の訓練をしないかと店長に声をかけられた私は、ほんの少しの気まぐれで付き合った。
閉店後に店の隣にある空き家の裏で、私は火、風、爆、氷、四つの魔法を使って見せた。
最後に氷魔法を使った後、店長は私の氷魔法を強さに関心したようだった。
けれど氷魔法を褒められて、私は嬉しくなるどころか、やはり付き合うべきではなかったと、心が沈んでしまった。
「シルヴィア・・・無理に訓練をさせるつもりはないよ。ただ、もし心になにか刺さっている物があるのなら、話してくれないか?」
「・・・店長に話したって・・・どうにもなりません!」
私は店長を睨み付けた。八つ当たりだ。
私は魔法が嫌いなわけではない。自分に高い魔力があるのなら、それを伸ばしたいとも思っている。
だけど、私には呪いがかかっている・・・魔法を使う度にあの言葉が思い起こされて、私を苦しめるのだ。
「シルヴィア・・・」
店長はいつもと変わらない、優しい顔だった。
本当に不思議な人だと思う。悲しみも辛さも、この人は全て受け入れて癒してくれる。
そう思わせるなにかがある。
私は初めて本音を、心の内を話した。
「・・・私は・・・心が冷たいんです・・・氷魔法が強くて、それで、周りのみんなが、心が冷たいから氷魔法が強いんだって・・・ずっと、ずっと・・・ずっとそう言われて・・・私、私は・・・うぅ・・・うわぁぁぁぁぁーっつ!」
いつの間にか私は店長の胸で泣きさけんでいた。
子供の頃、私は友達だと思っていた子達に、いつもそう言われてからかわれた。
今思えば、子供特有のイジリだったのかもしれない。
けれど私にとっては、その言葉は呪いとなり、大人になった今でも心に深く残っていた。
いつしか私は魔法を使う事が怖くなった。
得意な氷魔法を使えば、心が冷たいとからかわれる。
そう言われる事が怖くて、その子達と遊ぶ事はなくなった。
いつしか人を遠ざけるようになって、一人でいる事が多くなった。
・・・・・シルヴィア、キミの心はとても温かいよ
私が泣き止むまで、店長はずっと私の頭を撫でて慰めてくれた。
とても温かいものが、私の心の氷を溶かしてくれた。
あの日、店長に言われた言葉は、今も私の心の原動力となって私を支えてくれている。
「そのまま全身氷漬けになりなさい!」
より強い魔力を放ち、レオの体を固める氷をどんどん広げていく。
「・・・女、俺の体を固めるとはなかなかの魔力だ。名を聞こう」
右肩からの氷漬けはさらに広がっていき、胸と腹まで凍らせ、喉にまでかかろうとしていた。
しかし、レオは全く意に介さず、自分を凍り付かせている私の魔法に、感心した様子さえ見せていた。
「・・・シルヴィア・メルウィー」
「そうか、覚えておこう・・・すぐに死ぬとしてもな!」
言葉に力を込めると、レオは自分の体を固める氷を、気合だけで内側から粉砕した。
「ッ!」
粉砕され飛び散った氷が勢いよく私の体にぶつけられ、私はその場に倒されてしまう。
「うぅっ・・・!」
すぐに体を起こし顔を上げると、レオがメイスを振り上げるところだった。
レオは何も言わず、ただ冷たい目だけを私に向ける。
この男は、人を殺す事に一切の迷いもためらいも無い。
敵に対してどこまでも冷酷になれる男なんだ。
私は死を覚悟した。
「なに!?」
迫りくる死に目を閉じた直後、なにかが床に叩きつけられる音と、レオの驚きの声が響き私は目を開けた。
レオの振り下ろしたメイスは、大幅に狙いが逸れたように、私から外れて床に打ちつけられていた。
そして私の目の前には、ジャレットが私を護るように立っていた。
「・・・シーちゃんに何しやがんだボケェッツ!」
目の前で驚愕の表情を浮かべ、背中を丸める形になっているレオの顔に、ジャレットは握り締めた右の拳を叩きこんだ。
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