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456 シルヴィアの気持ち
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重厚な鉄の扉を開けると、中は殺風景で非常に広い部屋だった。
部屋の隅に机があるのは見えるが、それだけだ。生活感はまるでなかった。
そして部屋の中央で、俺達を見据えて立っている男こそ、この塔を護る四勇士、レオ・アフマダリエフだろう。
一見すると、ただ立っているだけに見えるかもしれないが、圧倒的な存在感だった。
195cm、いやそれ以上かもしれない長身と、鎧の上からでも分かる筋骨隆々の体躯は、まさに体力型そのものと言えるものだった。
目の覚めるような金色の長い髪は後ろにまとめて結ばれており、鋭い眼光は目の前のジャレットとシルヴィアを射貫くように見据えている。
際立ったのは額に撒かれた黒く細い紐だった。
紐にはまるで人間の目をモチーフにしたような、奇妙な石が付けられており、それが額の中心に当たるようになっている。異質としか言えない物だった。
身に纏っている鎧は鋼鉄で肉厚。クインズベリー国の色でダークブラウン一色だった。
兜は付けていない。そして二の腕と太腿、そして関節部以外は全て覆われている。
総重量は100キロを軽く超えているだろう。重装兵という印象だった。
「・・・メイスか」
素材は鉄だと思うが、長さはおそらく1メートルを超えている。
レイジェスでもメイスは扱っているが、一般的なメイスは1メートル以下、70~80cmくらいが平均というところだ。だが、この男の持っているメイスは明らかに長い。
メイスの頭部は良く見える球型だったが、扱いやすさや、スピードを出したい場合は球型頭部の中を空洞にする事も多い。
しかしこの男、レオは軽々と片手で持っているが、そのメイスの中はしっかりと詰まっているのは経験上見て分かる。一撃でもくらえば甚大なダメージを受けるだろう。
「・・・俺の殺気には気付いたようだな?最低限、俺の前に立つ資格はあるようだ」
レオは普通に話しているだけなのだろうが、腹の底に響くような重い声だった。
それだけで冷たい汗が頬を伝うが、呑まれるわけにはいかない。
「・・・おい、お前は国王が偽者だって知ってんのかよ?」
返答次第では、戦わずにすむかもしれない。
俺は数メートル先に立つレオを見据え、言葉を待った。
「・・・そうか、ここまで来た貴様がそう言うのなら、やはり偽者だったという事なのだろうな」
レオは一度目を閉じ、少し考えるようなそぶりを見せた後、自分も納得したかのように僅かに頷いて口を開いた。
「あなた、知ってたの?」
シーちゃんも少し驚いたような声で、レオに問いかけた。
「確信は持っていなかったがな。しかし、あれだけ変わってしまえば疑わぬほうがおかしいだろう?ここには国賊が来ると聞いていたが・・・どうやら違うようだ。目を見れば分かる。お前らはむしろ逆だ。偽国王を倒し、この国を救う・・・そんなところか?」
レオの考察に、俺は驚きのあまりすぐに言葉を返せなかった。
だが、そこまで分かっているのなら戦いは避けられる。
「そうだ・・・俺達は偽国王を倒す!今、王妃様は城内で騎士団に追われているんだ!一国も早く助けに行かなきゃならねぇ!お前もそこまで分かっているんなら、力を貸してくれ!」
この時ジャレットは、戦いを回避できるという思い込みで、レオへの警戒がわずかに緩んでいた。
それは半ば願望。レオの返答には可能性があった。
国王が偽者で、こちらの事情も全て知っているのであれば、強敵レオ・アフマダリエフと戦わずにすむかもしれない。
ジャレットは、レオ・アフマダリエフとの戦闘を回避できるという可能性を、確信としてとらえていた。
ジャレットは自分よりはるか格上であろうレオに対して、できれば戦いたくないという気持ちが、無意識のうちに自分に都合の良い考えを作り出し、それを妄信してしまっていた。
レオの返答には確かに可能性があった・・・
しかしそれはあくまで可能性だった。
現実は、メイスを振り上げたレオがジャレットに飛び掛かかり、その頭めがけてメイスを振り下ろしていた。
レオの返事を聞いて、ジャレットが少し前のめりになっている事を感じた私は、身を護る事に集中した。
ジャレットは怒るだろうけど、レオに対して戦う前から勝てないと思っているようだった。
ハッキリ言えば、恐怖を感じているんだと思う。
この部屋に入る前、ジャレットはマルゴンに勝てないと言っていた。
そしてそれはレオに対しても同じ印象だと。
・・・なにそれ?
ねぇジャレット、あなたそんなに臆病だったかしら?
私の知ってるあなたは、俺について来いって感じで、いつも自信に満ちていたわ。
例え自分より強い相手でも、戦う前から諦めたりする人じゃない。
それとも・・・私がいるから?
あなた、私に逃げろって何度も言ったけど、私が怪我をするのを恐れているの?
だから戦わずに済ませたかったの?
・・・・・ジャレット、あなたそんなに私が信用できないの?
「・・・なに?」
レオの振り下ろしたメイスは、ジャレットの頭を打ち砕く前にその動きを止めた。
いや・・・・・止められた。
「・・・私、氷魔法が得意なの」
シルヴィアの右手から放たれた冷気は、握ったメイスから肩まで、レオの右腕を氷漬けにして固めていた。
部屋の隅に机があるのは見えるが、それだけだ。生活感はまるでなかった。
そして部屋の中央で、俺達を見据えて立っている男こそ、この塔を護る四勇士、レオ・アフマダリエフだろう。
一見すると、ただ立っているだけに見えるかもしれないが、圧倒的な存在感だった。
195cm、いやそれ以上かもしれない長身と、鎧の上からでも分かる筋骨隆々の体躯は、まさに体力型そのものと言えるものだった。
目の覚めるような金色の長い髪は後ろにまとめて結ばれており、鋭い眼光は目の前のジャレットとシルヴィアを射貫くように見据えている。
際立ったのは額に撒かれた黒く細い紐だった。
紐にはまるで人間の目をモチーフにしたような、奇妙な石が付けられており、それが額の中心に当たるようになっている。異質としか言えない物だった。
身に纏っている鎧は鋼鉄で肉厚。クインズベリー国の色でダークブラウン一色だった。
兜は付けていない。そして二の腕と太腿、そして関節部以外は全て覆われている。
総重量は100キロを軽く超えているだろう。重装兵という印象だった。
「・・・メイスか」
素材は鉄だと思うが、長さはおそらく1メートルを超えている。
レイジェスでもメイスは扱っているが、一般的なメイスは1メートル以下、70~80cmくらいが平均というところだ。だが、この男の持っているメイスは明らかに長い。
メイスの頭部は良く見える球型だったが、扱いやすさや、スピードを出したい場合は球型頭部の中を空洞にする事も多い。
しかしこの男、レオは軽々と片手で持っているが、そのメイスの中はしっかりと詰まっているのは経験上見て分かる。一撃でもくらえば甚大なダメージを受けるだろう。
「・・・俺の殺気には気付いたようだな?最低限、俺の前に立つ資格はあるようだ」
レオは普通に話しているだけなのだろうが、腹の底に響くような重い声だった。
それだけで冷たい汗が頬を伝うが、呑まれるわけにはいかない。
「・・・おい、お前は国王が偽者だって知ってんのかよ?」
返答次第では、戦わずにすむかもしれない。
俺は数メートル先に立つレオを見据え、言葉を待った。
「・・・そうか、ここまで来た貴様がそう言うのなら、やはり偽者だったという事なのだろうな」
レオは一度目を閉じ、少し考えるようなそぶりを見せた後、自分も納得したかのように僅かに頷いて口を開いた。
「あなた、知ってたの?」
シーちゃんも少し驚いたような声で、レオに問いかけた。
「確信は持っていなかったがな。しかし、あれだけ変わってしまえば疑わぬほうがおかしいだろう?ここには国賊が来ると聞いていたが・・・どうやら違うようだ。目を見れば分かる。お前らはむしろ逆だ。偽国王を倒し、この国を救う・・・そんなところか?」
レオの考察に、俺は驚きのあまりすぐに言葉を返せなかった。
だが、そこまで分かっているのなら戦いは避けられる。
「そうだ・・・俺達は偽国王を倒す!今、王妃様は城内で騎士団に追われているんだ!一国も早く助けに行かなきゃならねぇ!お前もそこまで分かっているんなら、力を貸してくれ!」
この時ジャレットは、戦いを回避できるという思い込みで、レオへの警戒がわずかに緩んでいた。
それは半ば願望。レオの返答には可能性があった。
国王が偽者で、こちらの事情も全て知っているのであれば、強敵レオ・アフマダリエフと戦わずにすむかもしれない。
ジャレットは、レオ・アフマダリエフとの戦闘を回避できるという可能性を、確信としてとらえていた。
ジャレットは自分よりはるか格上であろうレオに対して、できれば戦いたくないという気持ちが、無意識のうちに自分に都合の良い考えを作り出し、それを妄信してしまっていた。
レオの返答には確かに可能性があった・・・
しかしそれはあくまで可能性だった。
現実は、メイスを振り上げたレオがジャレットに飛び掛かかり、その頭めがけてメイスを振り下ろしていた。
レオの返事を聞いて、ジャレットが少し前のめりになっている事を感じた私は、身を護る事に集中した。
ジャレットは怒るだろうけど、レオに対して戦う前から勝てないと思っているようだった。
ハッキリ言えば、恐怖を感じているんだと思う。
この部屋に入る前、ジャレットはマルゴンに勝てないと言っていた。
そしてそれはレオに対しても同じ印象だと。
・・・なにそれ?
ねぇジャレット、あなたそんなに臆病だったかしら?
私の知ってるあなたは、俺について来いって感じで、いつも自信に満ちていたわ。
例え自分より強い相手でも、戦う前から諦めたりする人じゃない。
それとも・・・私がいるから?
あなた、私に逃げろって何度も言ったけど、私が怪我をするのを恐れているの?
だから戦わずに済ませたかったの?
・・・・・ジャレット、あなたそんなに私が信用できないの?
「・・・なに?」
レオの振り下ろしたメイスは、ジャレットの頭を打ち砕く前にその動きを止めた。
いや・・・・・止められた。
「・・・私、氷魔法が得意なの」
シルヴィアの右手から放たれた冷気は、握ったメイスから肩まで、レオの右腕を氷漬けにして固めていた。
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