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454 南西の塔 決着
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ミゼル!
あの馬鹿、クアルトを道連れに死ぬ気だ!
なんて事を・・・駄目だ!そんな事絶対に許さない!
「みんなで生きて帰るって約束したでしょーッツ!」
間に合え!
無理やり体を起こすと、お腹の傷口が開いて血が飛び出した。だけど痛みなんか気にしていられない!
アタシは右手の人差し指をミゼルに向けると、圧縮した魔力を飛ばした。
今まさに壁穴から外へ飛び出して、視界からその姿を消そうとしていたミゼルの足に、間一髪のところで飛ばした魔力がぶつかるのを見て、アタシは安堵した。
「よしっ!戻って来い!」
アタシが念じると、右手人差し指の爪が真っ白に輝き、穴から外へ落ちて行ったミゼルとクアルトが、白い光に包まれながら、糸をたどるかのように引き寄せられ戻って来た。
アタシの魔道具、引斥(いんせき)の爪
店長に作ってもらったものだ。
右手の爪に塗った白のマニキュアは引力。
この爪を通して魔力をぶつけた相手を引き寄せる事ができる。
左手の爪に塗った黒のマニキュアは斥力。
この爪を通して魔力をぶつけた相手を弾き飛ばす事ができる。
一度使用すると効果はリセットされるので、同じ相手に再び使うには、もう一度魔力をぶつけなければならない。
「・・・こ、これは・・・ケイト、お前そんな体でがはぁッツ!」
アタシに助けられた事に気が付いたところで、ミゼルを一発ひっぱたいた。
「痛ッ!・・・うぅ・・・ミ、ミゼル!何考えてんのよ!馬鹿!あんたが死んだらクリスさんはどうすんのよ!何があっても自分から死ぬなんて許さないから!」
お腹が痛い・・・けれど、叩かなければ気が済まなかった。
ミゼルは変なところで責任感が強い。
今回は、四つの塔全ての大障壁を破壊しなければ、城に入れず王妃様を助ける事ができない。
だから自分のところで躓くわけにはいかない。それと、アタシの事も考えたのかもしれない。
自分が死んでも、アタシだけでも生きて帰すって・・・かっこつけて・・・
「痛ってぇな!こ、の・・・・・」
ミゼルは頬を押さえながら、アタシに文句を言おうとしたけれど、アタシの顔を見て言葉を止めた。
「・・・・・悪かった・・・ケイトの、言う通りだ・・・」
こんな顔、見せたくなかったけど・・・ちょっとだけ泣いてしまった・・・・・
「・・・ふっ・・・ははははは!」
ふいに隣から聞こえた笑い声に顔を向けると、引き戻した時にミゼルの腕から離されて転がっていたクアルトが、上半身を起こして笑い声を上げていた。
アタシが左手の人差し指を向けて魔力を放とうとすると、足元に何かが放り投げられ、金属音を響かせた。
「・・・なに、これ?」
チラリと目を落とすと、それは十数センチ程の銀のプレートだった。
「・・・お前達の目的はこの大障壁だろ?好きにしろ」
いつの間にかクアルトの分身体は消えていた。
笑いながら話すクアルトには、もはや殺気は一欠けらも感じられなかった。
「・・・どういうつもり?」
まだ左手は下ろさない。なにかおかしな動きがあれば、いつでも斥力の爪を撃てるように身構える。
アタシの警戒を見て、クアルトは笑いを押さえ、少し真面目な顔で言葉を続けた。
「・・・お前達、国賊ではないんだろ?私利私欲のためにここまでできる男などいないだろう。つまり、国王が嘘をついているという事だ。僕の使命はこの塔を護る事、だけどお前達と国王を比べた時、本当にこの国のために行動しているのは、お前達だと思えた・・・それだけだよ」
「・・・・・そう、ならこれは破壊させてもらうから」
どこまで本音で話しているから判断できなかったけど、もうこの男から敵意は感じない。
そして、国王のところをハッキリ嘘をついていると言った事に、信用性が感じられた。
少なくともこれは取っても問題ないだろう。
アタシは足元の大障壁を掴むと、ミゼルに顔を向けた。
ミゼルはそれでアタシの意図を読み取ったようで、軽く頷いた。
ミゼルに向かって大障壁を放ると、ミゼルは軽く右手を振るって、風魔法ウインドカッターを放ち、大障壁を真っ二つに斬り裂いた。
「はぁ・・・はぁ・・・もう、駄目だ・・・これで本当に魔力ゼロ、すっからかんだ」
ミゼルはそのまま両手を広げて倒れた。
本当にギリギリの状態だったらしい。呼吸が荒く、目を開けているのもキツいのか、目を閉じてぐったりとしている。
「・・・ミゼル、ありがとう」
今回アタシは何もできなかった。それどころか足をひっぱって、本当に役に立たなかった。
ミゼルの事、これからはもう少し優しくしてやるか・・・・・
「・・・おい女、お前の名は?」
ミゼルの左腕に傷薬を塗った後、今度は自分のお腹の傷に塗ろうとすると、背中にクアルトが声をかけてきた。
「・・・ケイト・サランディ」
まだ警戒を解いた訳ではないけれど、大障壁を破壊してクインズベリー城の結界が薄くなった事が見て取れた。目的を達する事もできたし、クアルトからはもう敵意が感じられないから、アタシも会話くらいはする事にした。こいつから大障壁を投げてきたし、国王を批判した事も大きい。
「そうか・・・ならばケイト、その薬、さっきミゼルがお前に塗っていた物だな?まさか、本当にそれでその傷を塞ぐとは思わなかった。すばらしい傷薬だ。作りての有能さが伺える。だが、それで完治させようとするならば、数日はかかるぞ?」
「だからなに?・・・アタシは・・はぁ・・・はぁ・・・青魔法使い。ミゼルは黒魔法使い。ヒールは・・・・・できないから、これしか・・・ないの。それに、カチュアの・・傷薬は、この国一番よ、だから・・・アタシは・・・はぁ、はぁ・・・生きのびられた」
正直、お腹の傷はめちゃくちゃ痛い。呼吸も荒れる。
無理をしたせいで傷口は開いてまだ血が止まらない。
額から流れるベタついた嫌な汗は止まらないし、話す事も大きな負担だった。
でもこの傷薬を塗れば、時間はかかっても治癒はできる。そうするしかないのだ。
「・・・・・そうか」
「・・・そうよ、分かったら黙って・・・ちょっと、どういう・・・つもり?」
話しが終わったと思ったアタシは、ローブをまくってお腹の傷に薬を塗る続きを始めた。
すると、突然お腹に淡く温かい光があてられて、振り返るとクアルトがアタシの隣に腰を下ろして、手を伸ばしヒールをかけていた。
「・・・傷は僕が治してやろう。感謝しろ」
「だから、どういうつもりかって聞いてんだけど?」
なんでこいつがアタシにヒールをかけて治療するの?
全く理解できない行動に、アタシはクアルトの真意をストレートに問いかけた。
「さっきも言っただろう?正義はお前達にあるのではないのか?勘違いしているようだから言っておくぞ?僕達四勇士は、クインズベリー国を護る立場だ。だがそれは、国王の命令に絶対従うというものではない。四勇士はこの国、クインベリー国の民を護る事が使命なのだ。民の前に姿を見せず、日々この塔にこもっていたため、城だけを護る存在だと誤った認識を持たれるようになってしまったがな」
クアルトの言葉にアタシは衝撃を受けた。
アタシも四勇士は、城を護る事、つまり王侯貴族だけを護る存在かと思っていたからだ。
「・・・ふん、ほら・・・治ったぞ」
「え、あ・・・あり、がとう」
自分を刺した相手にお礼を言うのも変な感じだけど、この時はなぜか自然に言葉が口をついて出た。
ほんの数分でアタシのお腹の傷を治すと、クアルトは立ち上がって、今度は仰向けに倒れているミゼルの前に立ち、ゆっくりと腰を下ろしてミゼルの腹部に手を当てた。
「う・・・お、お前・・・」
「お前も治してやろう・・・・・」
戸惑いの表情を浮かべるミゼルを、クアルトのヒールが優しく包み込んだ。
この僕が、まさかあんなに取り乱されるとはな・・・情けないが精神面では敗北だ。
自分の命さえ投げ出す行為は、信念無くしてできるものではない。
この男、ミゼルにもあるのだろう。譲れないものが・・・
「動けるようになるまで、お前達の事を聞かせてくれ・・・僕も、考えねばならないようだからな」
あの馬鹿、クアルトを道連れに死ぬ気だ!
なんて事を・・・駄目だ!そんな事絶対に許さない!
「みんなで生きて帰るって約束したでしょーッツ!」
間に合え!
無理やり体を起こすと、お腹の傷口が開いて血が飛び出した。だけど痛みなんか気にしていられない!
アタシは右手の人差し指をミゼルに向けると、圧縮した魔力を飛ばした。
今まさに壁穴から外へ飛び出して、視界からその姿を消そうとしていたミゼルの足に、間一髪のところで飛ばした魔力がぶつかるのを見て、アタシは安堵した。
「よしっ!戻って来い!」
アタシが念じると、右手人差し指の爪が真っ白に輝き、穴から外へ落ちて行ったミゼルとクアルトが、白い光に包まれながら、糸をたどるかのように引き寄せられ戻って来た。
アタシの魔道具、引斥(いんせき)の爪
店長に作ってもらったものだ。
右手の爪に塗った白のマニキュアは引力。
この爪を通して魔力をぶつけた相手を引き寄せる事ができる。
左手の爪に塗った黒のマニキュアは斥力。
この爪を通して魔力をぶつけた相手を弾き飛ばす事ができる。
一度使用すると効果はリセットされるので、同じ相手に再び使うには、もう一度魔力をぶつけなければならない。
「・・・こ、これは・・・ケイト、お前そんな体でがはぁッツ!」
アタシに助けられた事に気が付いたところで、ミゼルを一発ひっぱたいた。
「痛ッ!・・・うぅ・・・ミ、ミゼル!何考えてんのよ!馬鹿!あんたが死んだらクリスさんはどうすんのよ!何があっても自分から死ぬなんて許さないから!」
お腹が痛い・・・けれど、叩かなければ気が済まなかった。
ミゼルは変なところで責任感が強い。
今回は、四つの塔全ての大障壁を破壊しなければ、城に入れず王妃様を助ける事ができない。
だから自分のところで躓くわけにはいかない。それと、アタシの事も考えたのかもしれない。
自分が死んでも、アタシだけでも生きて帰すって・・・かっこつけて・・・
「痛ってぇな!こ、の・・・・・」
ミゼルは頬を押さえながら、アタシに文句を言おうとしたけれど、アタシの顔を見て言葉を止めた。
「・・・・・悪かった・・・ケイトの、言う通りだ・・・」
こんな顔、見せたくなかったけど・・・ちょっとだけ泣いてしまった・・・・・
「・・・ふっ・・・ははははは!」
ふいに隣から聞こえた笑い声に顔を向けると、引き戻した時にミゼルの腕から離されて転がっていたクアルトが、上半身を起こして笑い声を上げていた。
アタシが左手の人差し指を向けて魔力を放とうとすると、足元に何かが放り投げられ、金属音を響かせた。
「・・・なに、これ?」
チラリと目を落とすと、それは十数センチ程の銀のプレートだった。
「・・・お前達の目的はこの大障壁だろ?好きにしろ」
いつの間にかクアルトの分身体は消えていた。
笑いながら話すクアルトには、もはや殺気は一欠けらも感じられなかった。
「・・・どういうつもり?」
まだ左手は下ろさない。なにかおかしな動きがあれば、いつでも斥力の爪を撃てるように身構える。
アタシの警戒を見て、クアルトは笑いを押さえ、少し真面目な顔で言葉を続けた。
「・・・お前達、国賊ではないんだろ?私利私欲のためにここまでできる男などいないだろう。つまり、国王が嘘をついているという事だ。僕の使命はこの塔を護る事、だけどお前達と国王を比べた時、本当にこの国のために行動しているのは、お前達だと思えた・・・それだけだよ」
「・・・・・そう、ならこれは破壊させてもらうから」
どこまで本音で話しているから判断できなかったけど、もうこの男から敵意は感じない。
そして、国王のところをハッキリ嘘をついていると言った事に、信用性が感じられた。
少なくともこれは取っても問題ないだろう。
アタシは足元の大障壁を掴むと、ミゼルに顔を向けた。
ミゼルはそれでアタシの意図を読み取ったようで、軽く頷いた。
ミゼルに向かって大障壁を放ると、ミゼルは軽く右手を振るって、風魔法ウインドカッターを放ち、大障壁を真っ二つに斬り裂いた。
「はぁ・・・はぁ・・・もう、駄目だ・・・これで本当に魔力ゼロ、すっからかんだ」
ミゼルはそのまま両手を広げて倒れた。
本当にギリギリの状態だったらしい。呼吸が荒く、目を開けているのもキツいのか、目を閉じてぐったりとしている。
「・・・ミゼル、ありがとう」
今回アタシは何もできなかった。それどころか足をひっぱって、本当に役に立たなかった。
ミゼルの事、これからはもう少し優しくしてやるか・・・・・
「・・・おい女、お前の名は?」
ミゼルの左腕に傷薬を塗った後、今度は自分のお腹の傷に塗ろうとすると、背中にクアルトが声をかけてきた。
「・・・ケイト・サランディ」
まだ警戒を解いた訳ではないけれど、大障壁を破壊してクインズベリー城の結界が薄くなった事が見て取れた。目的を達する事もできたし、クアルトからはもう敵意が感じられないから、アタシも会話くらいはする事にした。こいつから大障壁を投げてきたし、国王を批判した事も大きい。
「そうか・・・ならばケイト、その薬、さっきミゼルがお前に塗っていた物だな?まさか、本当にそれでその傷を塞ぐとは思わなかった。すばらしい傷薬だ。作りての有能さが伺える。だが、それで完治させようとするならば、数日はかかるぞ?」
「だからなに?・・・アタシは・・はぁ・・・はぁ・・・青魔法使い。ミゼルは黒魔法使い。ヒールは・・・・・できないから、これしか・・・ないの。それに、カチュアの・・傷薬は、この国一番よ、だから・・・アタシは・・・はぁ、はぁ・・・生きのびられた」
正直、お腹の傷はめちゃくちゃ痛い。呼吸も荒れる。
無理をしたせいで傷口は開いてまだ血が止まらない。
額から流れるベタついた嫌な汗は止まらないし、話す事も大きな負担だった。
でもこの傷薬を塗れば、時間はかかっても治癒はできる。そうするしかないのだ。
「・・・・・そうか」
「・・・そうよ、分かったら黙って・・・ちょっと、どういう・・・つもり?」
話しが終わったと思ったアタシは、ローブをまくってお腹の傷に薬を塗る続きを始めた。
すると、突然お腹に淡く温かい光があてられて、振り返るとクアルトがアタシの隣に腰を下ろして、手を伸ばしヒールをかけていた。
「・・・傷は僕が治してやろう。感謝しろ」
「だから、どういうつもりかって聞いてんだけど?」
なんでこいつがアタシにヒールをかけて治療するの?
全く理解できない行動に、アタシはクアルトの真意をストレートに問いかけた。
「さっきも言っただろう?正義はお前達にあるのではないのか?勘違いしているようだから言っておくぞ?僕達四勇士は、クインズベリー国を護る立場だ。だがそれは、国王の命令に絶対従うというものではない。四勇士はこの国、クインベリー国の民を護る事が使命なのだ。民の前に姿を見せず、日々この塔にこもっていたため、城だけを護る存在だと誤った認識を持たれるようになってしまったがな」
クアルトの言葉にアタシは衝撃を受けた。
アタシも四勇士は、城を護る事、つまり王侯貴族だけを護る存在かと思っていたからだ。
「・・・ふん、ほら・・・治ったぞ」
「え、あ・・・あり、がとう」
自分を刺した相手にお礼を言うのも変な感じだけど、この時はなぜか自然に言葉が口をついて出た。
ほんの数分でアタシのお腹の傷を治すと、クアルトは立ち上がって、今度は仰向けに倒れているミゼルの前に立ち、ゆっくりと腰を下ろしてミゼルの腹部に手を当てた。
「う・・・お、お前・・・」
「お前も治してやろう・・・・・」
戸惑いの表情を浮かべるミゼルを、クアルトのヒールが優しく包み込んだ。
この僕が、まさかあんなに取り乱されるとはな・・・情けないが精神面では敗北だ。
自分の命さえ投げ出す行為は、信念無くしてできるものではない。
この男、ミゼルにもあるのだろう。譲れないものが・・・
「動けるようになるまで、お前達の事を聞かせてくれ・・・僕も、考えねばならないようだからな」
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